稲嶺知事の「苦渋」の声明です。
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県民の皆様へ
〜経済振興策と基地問題のバランスある解決を図り
二十一世紀の沖縄を築いていくために〜
沖縄の将来を左右する最も大事な問題の一つである普天間飛行場の移設問題に
ついて、この場において、県民の皆様に私の決断を率直にご説明申しあげます。
私は、普天間飛行場の移設候補地を「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古
沿岸域」に決定いたしました.
県民の付託を受けた県知事として、懸案事項の解決を主体的にリードすべきだ
と考え、苦渋の選択ではありましたが、私なりの結論を申し上げ、県民の皆様の
ご理解とご協力を得たいと思います。
私の決断は、21世紀を目前にした今日、沖縄をめぐる問題を常に前向きに捉
えることやこの困難な状況をどうすればプラスに転じ、21世紀の沖縄を築いて
いくことができるか、という実行型県政の基本姿勢に立って導き出されたもので
す。
一年前のことを思い出して下さい。そのころの県内の政治経済は混迷を極め、
県民生活の基礎となる産業・経済は展望を失い、生活不安が蔓延して、誰がこの
苦境を責任を持って打開するのか、行く先が全く見えない状況にありました。普
天間飛行場移設を始めとする基地問題は行き詰まり、政府との信頼関係も完全に
瓦解し、全体的に見ると、沖縄は全く閉塞的な状況に陥っていました。そのよう
な事態を憂えて、私は、問題を打開したいとの決意を抱いて、知事選挙に出馬し
ました.
私はその際、出馬の最大の理由として「戦争の悲劇を嘆くだけでなく、繰り返
さないために、また、沖縄問題を解釈するためではなく、解決するために、そし
て、沖縄県民の夢や希望を語るだけではなく、実現するために出馬する」との基
本姿勢を掲げました。
また、選挙公約において、県民が出口の見えない閉塞感と明日への不安に直面
していることを踏まえ、「基地問題の打開と沖縄振興策の推進こそ、この閉塞状
況を打破し得る最大の政策」であると訴えました。
まず、振興策については、沖縄は目前に数多くのメニューを持っており、新た
な視点に立った「沖縄経済振興21世紀プラン」「沖縄経済新法」を策定する等、
21世紀に向けた明るい展望を示し、県民が自信を持って将来設計を描けるよう
にすること。
基地問題については、沖縄戦の悲惨な体験、戦後の米国統治を経て、今なお全
国の米軍専用施設面積の約75パーセントが集中している現状から、県民には平
和志向が根づいており、県民の意志を反映した基地の整理・縮小や日米地位協定
の見直しを求めていくこと。さらに、国際社会における安全保障、県土の有効利
用、自治体の都市計画、地主や駐留軍従業員の生活、環境保全、跡地利用や経済
振興策等を検討した上で、整合性のあるトータルプランの中で基地問題は対応す
る必要があることを明らかにしました。特に、普天間飛行場の代替施設について
は、「県民の財産となる新空港を建設させ、一定期間に限定して軍民共用とし、
当該地域には臨空型の産業振興や特別の配慮をした振興開発をセットする」こと
を訴えてきました。
幸い、多くの県民の支持を得て、当選させていただきました.私の公約が県民
の思いを汲み上げ、「解釈より解決を」という主張が、多くの県民に明確に支持
されたのです。
私は、政治や行政の経験はありませんでしたが、この一年、130万県民の立
場に立って、県民生活、あるいは県政発展のために、選挙公約を指針として懸命
に努力してきたつもりです。その過程において、沖縄県知事という職がいかに重
いものであるか、同時に、いかに困難なものであるかも、身をもって体験してき
ました。正直に言って、荷の重さに耐えかねたこともありましたが、そのたびに
私を勇気づけてくれたものは、私の訴えた政策を支持してくれた多くの県民の存
在であり、その存在を抜きに、私は県知事という重責を担い続けることはできな
かったと思います。
知事就任後、私は沖縄をめぐる苦境打開に向け、直ちに政府との関係を回復す
るために奔走し、沖縄政策協議会を再開させ、沖縄特別振興対策調整費に基づく
多くのプロジェクトの具体化や沖縄経済振興21世紀プランの策定、あるいはポ
スト三次振計への展望、九州・沖縄サミット開催の実現等沖縄の将来にとって必
要な幾多の懸案事項を訴え、それを実現して参りました。そして、何よりも県民
の間に明るさが戻り、活力がみなぎるようになりました。しかし、そのような成
果は私が目指す政策のほんの入り口にすぎず、その基盤の上に立って今後ともさ
らなる挑戦を行い、決意も新たに推進していきたいと思います。
私は県民の立場に立って、沖縄の個性を生かしつつ21世紀を切り拓くことが
大事だと考えています。そのためには県民生活の基礎となる産業・経済をより強
固なものとし、それを前提に沖縄らしい様々な活動が展開されることを願ってい
ます.
第一に、沖縄の全ての地域が産業・経済の基盤をしっかりと確立し、その上に
立って個性的な発展を目指すことが重要であり、そのための条件を整備すること
が私の使命だと考えています.沖縄経済振興21世紀プラン、ポスト三次振計、
経済新法、広大な米軍基地跡地の活用、サミットなど、今日の状況は、そのこと
を実現する大きなチャンスです。私は長く産業・経済の発展に関係してきた経済
人の一人ですが、この課題については特に強い決意を抱いています。
基地問題に関しては、政治的立場によって様々な意見があることは十分承知し
ているつもりです。それゆえ、私は前県政が普天間飛行場の危険性を日米両国政
府に訴えて、一口も早い返還を求めてきたことを支持してきました。また、全国
の米軍専用施設面積の約75パーセントが沖縄に集中する不公平な事態を少しで
も緩和し、できうる限り米軍基地を整理・縮小することが必要であるとの認識に
ついても、これを支持してきました。なぜなら、これらの願いは特定の主義主張
にとらわれない、県民多数の意見だからです。
ところが、前県政は基地問題について早体杓な打開策を見いだせないままに、
混迷の度を深めてしまいました。しかし、それをそのまま放置してしまうと、人
口が密集する市街地と隣合わせにある普天間飛行場が現状のまま固定化されてし
まい、国と協力して進めてきた諸々の沖縄振興策が放棄されかねませんでした。
私は、県民の暮らしと安全を守る責任者としての立場から、密集市街地に隣接
する普天間飛行場を早期に返還させること、そのために必要な目に見える解決策
を提示することが、知事という職に課された使命だと考えます。
同時にまた、私たち県民は、国民として日米関係の安定的な維持についても考
慮しなければなりません。日米安全保障条約は、単に日本と米国の同盟関係にと
どまらず、アジア・太平洋地域の安定や発展にも深く寄与する大切な国際関係で
あると認識しています。この点について私は、日米安全保障条約に反対する立場
や基地の即時全面撤去を主張する立場とは一線を画しており、意見を異にしてい
ます。
第二に、日米両国の信頼関係に基づいて、両政府が努力し次善の策として確認
した「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」の合意を着実に実現すること
が、基地の整理・縮小を求める県民の願いに合致すると評価します。これは復帰
後の基地変換問題に画期的な一石を投ずるものであり、外交交渉や行政努力によ
って基地問題の解決に当たることが次のステップにつながることを示しておりま
す。この認識は沖縄が当事者能力を発揮するうえでも必要なことだと考えます。
国内外を含む県外への基地移設論議は、理念としては妥当な主張のように見え
ますが、国際情勢をめぐる厳しい現実の壁に阻まれ、結果として普天間飛行場の
固定化を招きかねません。
よって、普天間飛行場を県内移設することは主体特に問題を解決することであ
り、決してベストな選択ではありませんが、目前の問題を解決するうえではより
ベターな選択であり、確実な前進だと考えます。
さらに、私は、基地問題の解決について、一貫して県民利益の観点から取り組
んできました。そのため、県内移設に際しては種々の条件をつけ、この間題をむ
しろ沖縄の振興開発につなげることが、県民生活に対して責任を負う県知事の責
務だと位置づけてきました。
第三に、普天間飛行場の代替施設を引き受ける上で県民が納得できる必要条件
が担保され、新たな代替施設は県民の側でも活用できる施設にすることが必要で
す。とりわけ、新たな負担を受け入れる移設先及び周辺地域については、十分に
配慮することが最も重要だと考えます。特に、直接の当事者となる移設先周辺の
方々のためには、社会生活基盤の整備、産業振興による雇用の場の確保、文教施
設の整備等、思い切った施策を展開し、長い日で見て地域社会の振興発展に貢献
したと理解していただけるようにする必要があると思っています。同時に、沖縄
全体の振興にどう活かすべきかという、したたかな論理も発揮しなければなりま
せん。県民の付託を受けた知事として、沖縄の経済的自立を展望しつつ、その将
来像に向けて一歩でも近づくための努力を行うことが、今、求められているので
す。
第四に、広大な返還跡地は沖縄の将来像に沿って、周辺の既存市街地も含めて
一体的整備を図ることとし、新たな都市の形成を図るプロジェクトの実施が円滑
に行われるよう国の施策を求めていくことが不可欠だと思っています。
以上の認識を何度も推敲した結果、私は、普天間飛行場を一日も早く動かすた
め、「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」に移設することが適切で
あると判断し、移設に伴う種々の必要条件が整備されることを強く訴え、関係方
面にご協力をお願いすることにいたしました。
私の決断は、沖縄が当事者能力を発揮する主役であることを内外にアピールす
るものであり、また、沖縄がみずからの意志と責任を示すことによって、基地問
題の解決に向けた新たな将来展望を切り拓くことにもつながると考えます。
昨日よりは今日、今日よりは明日、目に見える形で問題点の解決に当たりたい、
というのが私の基本姿勢です。そのような確実な前進策が、多くの県民が私に託
した県政の課題だと受けとめております。私は、県民の付託に応えるために、悩
んだすえ、決断したところであります。
11月19日に開催されました沖縄政策協議会において、政府に対し、跡地利
用促進のための新たな制度や実施体制及び北部振興等についてお願いし、また、
普天間飛行場の移設先の振興策について総合的な視点から取り組むことの必要性
や移設先及びその周辺地域の要望を踏まえた具体的な事業を着実に推進するため
の国、県、地元の一体的な仕組みが必要であると申し上げ、政府から取組方針が
示されました。
この政府の取組方針を詳細に検討しましたところ、明確な対処方針が示されて
いると判断しましたので、一連の手続きを経て、移設先の公表を行うこととした
次第です。
私が、「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」を選定した理由は、
次のとおりであります。
まず第一に、現在の普天間飛行場を縮小し、既存の米軍施設・区域内に移設す
ることにより、沖縄の米軍施設・区域の面積を確実に縮小でき、県民の希望する
基地の整理・縮小を着実に進めることが可能となります。
第二に、航空機の離発着時において、集落への騒音を軽減できること。また、
海域に飛行訓練ルートを設定することにより、移設先及び周辺地域への騒音の影
響を軽減できることになります。
第三に、当該地域は、一定規模以上の空港の立地が可能であり、空港と北部地
域を結ぶアクセス道路の確保が可能であります。軍民共用空港の設置により、新
たな航空路の開設や空港機能を活用した産業の誘致など地域経済発展の拠点を形
成することができ、移設先及び周辺地域はもとより北部地域の自立的発展と振興
につながり、ひいては県土の均衡ある発展を実現することができると考えていま
す。
また、新たな空港の整備に伴い、高規格道路の北部延伸など新たな道路を整備
することにより、空港を中心とした交通ネットワークが形成され、空港活用の利
便性の向上や地域の活性化を図ることができます。
以上が、「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」を移設候補地に選
定した理由であります。
SACO合意の実施により、基地の整理・縮小が段階的に進むとはいえ、県民
は依然として基地の過重な負担を背負わなくてはならない状況にあります。県と
しては、この案を提示するに際して、「移設にあたって整備すべき条件」として、
次の4事項について具体杓な方策が講じられるよう国に求めるものであります。
まず第一は、普天間飛行場の移設先及び周辺地域の振興、並びに跡地利用につ
いては、実施体制の整備、行財政上の措置について立法等を含め特別な対策を講
じることであります。
第二は、代替施設の建設については、必要な調査を行い、地域住民の生活に十
分配慮するとともに自然環境への影響を極力少なくすることであります。
第三は、代替施設は、民間航空機が就航できる軍民共用空港とし、将来にわた
って地域及び県民の財産となり得るものであることであります。
第四は、米軍による施設の使用については、15年の期限を設けることが、基
地の整理・縮小を求める県民感情からして必要であることであります。
また、日米地位協定に関し、日本国が裁判権を行使すべき合衆国軍隊の構成員
又は軍属たる被疑者の起訴前の拘禁、公務外の米軍人等が起こした事件・事故に
よる補償問題並びに航空機騒音及び環境保護に関する国内法の適用等について改
善を行うよう求める他、米軍基地の使用や維持・管理、米軍人・軍属との婚姻等
によって生ずるさまざまな問題についても善処されるよう求めるものであります。
普天間飛行場の移設を契機に、50年余も過重な基地負担を背負ってきた県民
に応えるため、市町村の意向を踏まえ、県民の理解と協力を得ながら、さらなる
米軍基地の計画的、段階的な整理縮小に取り組んでいくことが必要であり、特に
国へ強く要望していく考えであります。
県といたしましては、移設候補地であります名護市に特段のご理解とご協力を
得るべく努力してまいります。今後、地域の振興等について具体的にお話をうけ
たまわり、移設先及び周辺地域の振興策の策定を進め、新たな産業振興など地域
の活性化を推進する必要があると考えておりますので、名護市の方々を始め、北
部地域や県民の皆様方のご理解とご協力を頂きますようお願い申し上げます。
とりわけ、名護市民の皆様にとっては新たな負担をお願いすることになること
から、私も心を痛めているところであります。名護市民の皆様には、県民の願い
である基地の整理・縮小を図るため、ご理解いただきますよう衷心よりお願いす
るものであります。
終わりにあたり、県民の皆様に、改めて、普天間飛行場の県内移設を始めとす
る基地問題の解決に向けご協力いただきますとともに、経済振興策と基地問題の
バランスある解決を図り、21世紀の沖縄を築いていくため、ご支援とご理解を
賜りますようお願い申し上げます。
平成11年11月22日
沖縄県知事 稲嶺 恵一
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仲田博康
nakada_h@jca.apc.org