Date: Tue, 02 Nov 1999 18:36:16 +0900
From: Aoki Masahiko <btree@pop06.odn.ne.jp>
To: aml <aml@jca.ax.apc.org>, keystone M <keystone@jca.ax.apc.org>
Subject: [keystone 2037] ニッツエ、一方的核廃絶を主張
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X-Sequence: keystone 2037
Precedence: bulk
Reply-To: keystone@jca.ax.apc.org

 先の西村真悟暴言では、その下品さのみがクローズアップされて核武装論
(核の傘も含めて)の是非についての議論に発展しなかったのは残念なことだ
と思っています。
 一方アメリカではもう少し上品に、最近アメリカのPAUL H. NITZEという人
が、ニューヨークタイムスに問題提起しています。
October 28, 1999
     A Threat Mostly to Ourselves
http://www.nytimes.com/yr/mo/day/early/10289928nitz.html
 このニッツエという人は核戦略の書物には必ず登場するkey personで、アメ
リカの50年代の核戦略を規定したNSC-68文書(1950年)の起草者で、70年
代のカーター政権の核軍縮政策を批判した「チームB」の主要な理論家で、8
0年代のレーガン政権時代、ソ連との核「軍縮」交渉(SALT II)の主席代表。
 つまり半世紀にわたりアメリカの核軍拡をリードしてきた、ソ連が恐れた超
タカ派の理論家。しかし彼は今、この寄稿文の中でアメリカの一方的な核廃絶
を主張しているのです。彼はあまりに年寄りなので、生誕年も文献によって異
なりますが、90歳を超えていることは間違いない。私はこの文を見て、まず
その主張よりもニッツエが存命であることに驚きました。

 その要旨を以下にまとめました。アメリカ議会がCTBTの批准を拒否したこと
に触発されて書いたものです。
・アメリカが一方的な核廃絶をしない理由を見いだすことは難しい。核兵器は
  高くつき我々の安全保障に寄与しない。
・報復のためにも核兵器を使うのは無意味である。無辜の人を大量に殺すこと
  なしに核兵器は使えない(たとえ相手の兵器を狙ったとしても)。
・現在の通常兵器の精度を考えれば、かつて核兵器でしか破壊できないと考え
  られた目標を破壊することも可能である。いわゆる無法者国家についても、
  通常兵器によって敵の核能力を奪うことが可能である。
・昔は交渉によって核兵器を解体することは不可能だったが、今は違う。
・アメリカは核実験を再開しないという意図を明確にすることが、短期的には
  政治的に望ましい。
・我々の生存を脅かしているのは核兵器の存在そのものである。

 こういうニッツエの主張を聞けば西村真悟なら、「んなことしたら強姦やり
放題になるやん」と言うでしょうが、思いつきの「防衛論」で俗受けを狙うし
かないポッと出のボンボンの防衛次官と、半世紀間核兵器をどう使うかを第一
線で「理論的」に考え、準備してきた人物では発言の重みが違います。
 あのマクナマラ国防長官と同じく、ニッツエも明らかに転向したのです。日
本で転向というと、必ず「右」へ、タカ派へということですが、自分の判断に
したがっての転向ということであれば、当然平和主義的方へのな転向もあると
いうことです。「ソ連に核兵器の脅しをかけて崩壊させるべし」(NSC-68)とい
う戦略?を編み出した人物が、半世紀を経てたどり着いた結論が核廃絶だった
のです。

 ご存じのように現在日本では、国会で言うと民主党を含んでそれより右(と
言うことは大部分)の政党は無条件で核抑止論を肯定しています(違いは自分
で持つかアメリカに依存するかという点)。しかしその抑止論の本尊、元国防
長官、元戦略空軍司令官、そして米核戦略の権化のニッツエまで、「核兵器は
意味ないよ。一方的に捨てたらええじゃん」と公式に言明しているのですから、
我が抑止論の信徒たちもこの事態に一言あってしかるべきでしょう。
 日本ではいきなり「ヒロシマ・ナガサキ」を持ち出して、核戦略が何なのか
という論議すらあまりなかった(少なくとも私はほとんど聞いたことがない)。
しかし「核の傘」に入ることは国策であるという奇妙な状態が何十年も続いて
きました。核兵器は「安全保障」に役に立つことがあるのかどうかという根本
的な論議はこの国ではどういう人たちが行っているのでしょうか。
 
 

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   青木雅彦
 btree@pop06.odn.ne.jp
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