Date: Mon, 04 Oct 1999 23:23:48 +0900
From: 加賀谷いそみ <QZF01055@nifty.ne.jp>
Subject: [keystone 1938] <男鹿>防衛施設局へお手紙
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 自然保護系は苦手ではありますが、ことが公共工事、まして相手が防衛施設局となれ
ば話は別。
 施設局関係の方がたがぞろぞろお見えになって顔合わせはしましたが、出張費と観光
のネタにされただけな「協議」を「住民に配慮して民主的に話し合いを続け先延ばしし
てきた」から「理解してほしい」(仙台防衛施設局公報官)とはずうずうしい。

 工事の遅れで翻弄される孫受けには気の毒ではあるけれど、私に文句を言うのは筋違
い。
 恨むしかできないなら、公共工事にぶらさがって、ラクしてカネを儲けてる「元請け
」を恨みな。
 東海村の事故も「原因を徹底的に究明」して個人の責任だってことにしちゃいそうな
ところもあるけどね。
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  仙台防衛施設局長 
           様 

 秋田県男鹿市の男鹿国定公園内にある自衛隊道路の一区画(本山山頂付近、自衛隊レ
−ダ−基地にいたる自衛隊専用道路)で、土砂の崩壊を防ぐ道路斜面の改良工事が行わ
れています。
 今この種の工事には法面に雑草の種を吹き付ける「緑化」を取り入れる方法が一般的
になっており、同地も同様の作業が行われる予定ですが、工事現場が国定公園内にある
ことから、秋田県自然保護課では、吹き付ける種子を、地元に育成しているものに限定
しました。

 しかし貴局では「地元種(郷土種)」を「在来種」と拡大解釈し「現行法令に従った
」として吹き付け作業を行おうとしています。
 現場は道路をはさんで、近くに「特別保護地区」(道路西側)があり、絶滅危惧種も
自生しています。現場斜面は地盤がもろく、工事後の土砂の崩壊が今後も予想され、斜
面に植え付けられた種子の繁殖や移動によって「特別保護地区」を含む周辺地域の生態
系に影響を与える可能性があります。そのため、私たちは施設局側に、工事の必要性を
含めた工法の見直しを求め、吹き付け種子の選定を厳重に行うよう申し入れてきました

 施設局側との話し合いも持ちましたが、種子の選定をやり直すとしながら、地元産は
なかったとして、「在来種」を用いた緑化工事を強行しようとしています。
 施設局ではたとえば「よもぎ」と名のつくものであれば、国外で生産された種でも「
在来種」であるとしていますが、たとえ種自体が国内産であっても生育の土壌や環境が
変われば、種になんらかの変化が起こりうる可能性も否定できません。
 また、最近の自然指向に伴って、登山や散策などの入山者が増え、人間や車によって
運び込まれた様々な雑草の種や菌類による生態系のかく乱も指摘されています。それに
道路添いの緑化工事という「自然工法」が拍車をかけることにもなりかねません。

 またもし緑化工事が、今回のように地域の植生などの特性を無視して、画一的に道路
斜面改良工法として行われているとすれば、今後不自然な生態系の変化・破壊が広範囲
に進むであろうことも憂慮されます。さらに植え付ける雑草の選定で繁殖力の旺盛な外
来種などが安易に取り入れられているとしたらなおさらです。

 そして、「県レッドリスト・絶滅危惧種U種」に指定されているしそ科植物が自生し
ていたにもかかわらず、斜面形成などの工事ではぎ取られ、消滅しようとしていること
も明らかになりました。
 県がレッドリストを作成し発表した際、「公共事業の環境影響調査などに積極的に活
用していく」としていましたが、自然保護課では「自生を把握していなかった」と釈明
し、「崩壊斜面に2次的に侵入したとみられ、この植物の自生の本拠地ではない。工事
も大切であり、保護への配慮は必要ない」との判断を示すに至りました。

 これは、施設局が十分な事前調査をせず、これに対し県が適切な指導をしないゆえに
起きた自然破壊です。県の調査の不備は否めませんが、施設局が事前に工事内容を市民
に公開し関係者の間で十分な協議がなされていれば防ぎ得た消滅の危機であり、施設局
側の責任も大きいものです。

 施設局も県も「人命にかかわる工事」として今回の工事を強行しようとしていますが
、それはもともと自然の摂理を無視して急斜面に強引に道路を造り、利用しているから
起こる「危険」であって、問題のすり替えにすぎません。山野は日々更新しているので
あり、土砂の崩壊もまた自然の摂理の内です。そこを人間の都合で利用・改変するので
あれば、自然環境への負荷を最小限に留めなければなりません。今回施設局は、範とな
るべき国の公共事業であるにもかかわらず、その配慮ははなはだおろそかでした。

 男鹿の自然は植生の豊かさに加えて規模が小さいため繊細です。
また未知な部分も多く、最近も秋田県のレッド・リストに「絶滅危惧種TA種」に指定
されているユキノシタ科の植物が見つかりました。これによって日本海側の北限が北上
し、太平洋側と並んだことが確認されました。自然保護課でも「男鹿半島に隔離分布し
た種だと思うが、男鹿の自然を再確認する発見」としてレッドリストの分布の基礎デ−
タに加えるとしました。

 男鹿の山野は、希少動植物を含む多種多様な生態系を持ち、後世にも受け継ぐべき市
民の貴重な財産です。
 施設局はその国定公園の中に共存する一方の側として、管轄外地域ではあってもその
まわりの自然を護る責務があります。
 99年度版防衛白書にもわずかばかり、環境保全への取り組みが記されていますが、
環境基本計画に基づき建築物の建築・管理などにも配慮しているとあります。それには
破壊してから「防止」するのではなく、破壊そのものを防ぐ姿勢が大事です。

 男鹿半島では最も景観のすばらしい山頂を、私たち市民は防衛庁に提供させられてい
ます。その上、「自然工法」などというまやかしで、動植物を滅ぼしたり、不安定な地
形につくりかえるなど、自然破壊を招く工事を続けるようであれば、自衛隊には男鹿か
ら出ていってもらいたいと思います。
 

1999年10月4日

              秋田県男鹿市
                  加賀谷 いそみ



 
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