Date: Sat, 02 Oct 1999 01:04:48 +0900
From: Aoki Masahiko <btree@pop06.odn.ne.jp>
To: aml <aml@jca.ax.apc.org>, keystone M <keystone@jca.ax.apc.org>
Subject: [keystone 1932] 東海村事故での自衛隊と在日米軍
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 最近とみに危機管理づいて、「緊急事態法整備」などマニアックなくらい「危
機」に造詣の深くなった政治家の先生方ですが、今回の臨界事故では日ごろの持
論の実践ができず、当日の午後4時までは、ジジコー組閣で頭がいっぱい、「危
機」の認識すらなかったとか。さすがにお辞めになる野中官房長官は「甘かった」
と自己批判。「座して死を待たず。先制攻撃をかける」と熱弁を振るっておられ
た民主党の現代表などは、さぞかし今回の危機には迅速な行動を取られたのでし
ょうね。( http://www.dpj.or.jp/topics/199910/1001_tokaichosadan.htmlによ
ると1日遅れで現地へ。これでは「座して死を待つ」人が出ます)
 しかし危機に際して実際の行動を取るのは政治家でなく、現場の人間やレスキ
ュー、そして軍隊です。今回は日本が持っているこの2種類の軍隊の核事故危機
管理についてちょっと質問をさせてください。以下の事について、正確な情報を
お持ちのかたは、(公開してまずい場合は私信で)お知らせください。

(1)在日米軍
 CNNニュースは記者のレポート(昨日の段階)で、「日本政府は今回の事件で在
日米軍に協力を求めた。これは全く前例のないことだ。神戸の震災でもなかった
ことだ。これはいかに政府がこの事故に危機感を感じているかを示している」と
報道。しかしその米軍は、
> また、防衛庁は在日米軍に今後の対策を照会したが、「在日米軍には対応でき
>る装備がない」との返答だったため、さらに、「米本国の部隊なら対応策がある
>か」などを問い合わせる方針だ。(朝日新聞)
とにべもない返事。

 しかしこれは妙です。下記のように自衛隊は一応核戦争も想定して核防護服な
ども持っている。ガイドラインでも「共通の準備段階」を強調しているように、
双方の想定が食い違うと困る。私の理解では、在日米軍の核(対策)装備は相模
原補給廠に貯蔵してある。今回米軍が出し渋ったのは、「敵」に装備の能力を知
られてはまずいという配慮でしょう。もっとも陸軍の実働部隊は日本にはいない
ので、沖縄海兵隊を呼んでくるというのはちょっとなんですが、横田や横須賀に
核事故の処理班がいるはずです。彼らはまさしくエキスパートですが、これがあ
んまり手際よく活躍すると日本での「核疑惑」を高めるため、これも出したくな
かったのでしょう。防衛庁が「照会した」のはこの特殊部隊の存在を知っていた
からに違いありません。

 それにしても、高い「思いやり」を出して米軍を援助して、しかも「事態法」
という立法で米軍奉仕を約束しているホスト国に対して、これはあまりにも冷た
い仕打ち。米軍は一体何のためにいるのか、冷静に考える必要があるでしょう。
(新しい報道では、クリントン大統領は「何でも協力する」と語ったとか。エネ
ルギー省とかのようです。米軍の協力については発表されていません)。

(2)自衛隊
 何年か前に、自衛隊の新装備として「化学防護車」が誇らしげに自衛隊の新聞
に紹介されているのを読んだ記憶があります。化学兵器や核兵器で住民が死に絶
えたか苦しんでいる現場をパトロール(決して救出ではない)するためのもので、
冷静に考えるとおぞましい兵器ではあるのですが、その記述の中に「原子力事故
の際にも活躍」とあり、なるほどこれは自衛隊には珍しく役立ちそうな装備だ、
と思ったことがあります。
 まさしくこういう時に・・・ところがまず出動が遅い。

>  陸上自衛隊東部方面総監部は三十日夜、連絡幹部三人
> を国の対策本部が設置された日本原子力東海研究所(東海
> 村)に派遣した。また、陸自大宮駐屯地(埼玉県大宮市)の
> 第一〇一化学防護隊は同日午後十時過ぎ、茨城県からの
> 災害派遣要請などがあった場合に備え、隊員二十一人を茨
> 城県ひたちなか市の勝田駐屯地に向かわせた。同隊員らは
> 化学防護衣などを着用、放射能測定器を備えた化学防護車
> 二台や除染車一台、放射能汚染の有無を検知する線量計
> などを運んでいる。(読売)
 と、事故後ちょうど半日でようやく「待機」状態。しかもいざ出動しても・・・

> 隊員は防護衣などを着用し、放射線量をはかる線量計や地下鉄サリン事件の際
>にも使われた携帯用除染機などを携帯しているが、これらの装備ではガンマ線、
>中性子線を完全に遮へいできず、事故現場には近づけないという。
>
> 陸自は放射線量減少後の任務として、(1)上空からの放射線量モニタリングの
>ヘリコプター出動(2)現場周辺の状況視察(3)住民の避難誘導(4)現場周辺の除
>染−などを想定している。 (産経)

 ああ、またしても得意の「後方支援」。臨界状態にあって中性子線が出ている
状況では、あの世界一高価な「防護車」も近寄れなかったというのです。ご存じ
のように陸上自衛隊は全隊員に化学防護服を配布しており、地下鉄サリン事件で
は警察に貸してやったくらいです。
 ただ、この防護服もフォールアウトだけを想定したもので、値段は高いもので
すが繊維に活性炭を織り込んで化学物質を吸着するだけのものだそうです。中性
子線などのカット効果はない。
 この役に立たなかった化学防護車ですが、「核戦争にも対応」と言っても、中
性子爆弾攻撃は未想定ということですね。まあ実際には、中性子爆弾がモノを壊
さず人間だけを殺すというのは嘘で、中性子線でやられる前に物理的に破壊され
てしまうようなので(「核戦争と放射線」東京大学出版会)同じなのですが、原
発ゲリラに対応すると言うわりにはやっぱり役に立たない。この世界一高価な動
くシェルターの性能等の正確な情報はどこで得られますか。
 軍隊を災害救助に活用しようというのは(安上がりだという意見もありますが)、
あまり賛成はできないのですが、それでも5兆円の血税を注ぎ込んでいる組織が
日本人の安全を守るのに役立たない(自衛隊を守るのには効果あっても)という
のでは、納税者は納得しないでしょう。

 とにかく自衛隊はコストパフォーマンスが悪すぎます。別組織で専門の救助隊
を作った方が動きやすいし、安上がりです。中性子線などものともせずに作業す
るロボットを作るには1兆円もいらないのですから。今後も驚くべき人災・天災
は避けられそうもないので、自分たちの組織維持のために脅威をでっち上げる人
たちは相手にせずに、「今そこにある脅威」から国民の命を守る組織を作らない
といけないのでは。
 実はこの事故のあった日、ジジコーは「住民の避難」を含む「有事法制」の推
進(防衛庁の言う「第三分類」)で一致した(事故のことを知らずに)というの
です。彼らの言う「危機管理」はしょせん国民の「管理」です。危機に対処でき
るのは能力ある政治家だけです。野中発言を聞いていると、阪神大震災の時の村
山無能内閣の失態から結局何も学んでいないということが分かります。いちばん
効果のある「危機管理」は現在の政治家と高級官僚の総入れ換えでしょう。

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   青木雅彦
 btree@pop06.odn.ne.jp
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