amlでの一連の話題です。ちょっと長くなり32Kを超えますので
ふたつのメールに分割します。
1)[aml 12728] 「周辺事態」と避難民(照会依頼)
2)[aml 12731] Re: 「周辺事態」と避難民(照会依頼)
3)[aml 12733] Re: 「周辺事態 」と避難民(照会依頼)
4)[aml 12747] 「避難民」の数:Re: [aml 12733] Re: 「周辺事態 」と避難民(照会依頼)
5)[aml 12736] 「東アジア戦略報告」[Re:「周辺事態」と避難民(照会依頼)]
6)[aml 12752] Re: 「避難民」の数
(from 『オルタナティブ運動情報メーリングリスト』 改行位置等若干変更)
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Date: Sat, 19 Jun 1999 03:28:46 +0900
From: "Satoru.F." <satfry@mbox.kyoto-inet.or.jp>
Subject: [aml 12728] 「周辺事態」と避難民(照会依頼)
「周辺事態」と避難民(照会依頼)
古屋哲です。RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネッ
トワーク)に所属しています。
私、以下の内容を一つの柱として、雑誌に寄稿する予定です。つきましては、
AML参加者のみなさんに、ご意見およびご教示をお願いいたします。
「『周辺事態』と避難民」について、私は以下1〜5のように認識しています。
1. 97年7月新ガイドラインは、
「V.周辺事態における協力」「2.周辺事態への対応」「(1)日米両国政府が各々
主体的に行う活動における協力(実際には米国政府が日本政府に「ヨキニハカラ
エ」と命じている内容)」の筆頭項目(イ)で次のように述べている
(イ)救援活動及び避難民への対応のための措置
…日米両国政府は、避難民の取扱いについて、必要に応じて協力する。避難民
(refugee)が日本の領域に流入してくる場合については、日本がその対応の在
り方を決定するとともに、主として日本が責任を持ってこれに対応し、米国は適
切な支援を行う。
2. 97年4月の入管法改定は、日本政府が避難民について「その対応の在り方
を決定」したものである。すなわち、
1-避難民を「不法入国者=集団密航者」として取り扱う。
2-避難民を自力で保護しようとする非政府団体を「集団密航に係る罪」で取り
締まる。
3-したがって、日本政府の避難民についての基本方針は、早期の身柄拘束、収
容、早期送還である。
3. 以上の方針を決定するさいに基本的な参照事例とされたのは、第二次世界大
戦敗戦後から朝鮮戦争後しばらくまでの、米占領軍と日本政府の朝鮮人「密入国
者」=避難民対策だった。
4. 97年入管法改定に先立つおよそ6か月間の「密入国者対策」キャンペーン
は、法改定の世論づくりであるとともに、海上保安庁と警察を中心として自衛隊
が協力して行われた「領海警備」「領土警備」演習だった。
5. 実際の日本領域にまでくる避難民は多くて数千人規模だと思われるが、その
収容場所や民生施設・物資の準備と供給、その他、最低限の人権保護措置も後回
しにされている。最近になって、「周辺事態法の地方自治体と民間の協力に関
し、政府が作成した解説書の原案」の中に「地方自治体が管理する各種施設の使
用許可。『避難民の一時的な収容スペ−スが必要な場合には庁舎、公園などの施
設の使用許可』を例示」とあることがリークされた([aml 12562] )。
さて、以上2から4までは、政府の公式見解には明示されていない、私の私的な
推測にすぎませんが、いままでのところ無理、矛盾のない推論だと考えていま
す。
で、お尋ねですが、
1)新ガイドラインの前提である米国の東アジア戦略について。「東アジア有
事」の避難民(難民)発生について、とくに日本領域に「流入」してくるような
避難民について言及した米国の文書はあるのでしょうか。米国はいかなる認識に
基づいて、どのような有事を想定して、日本政府に「避難民対策」を要求してい
るのでしょうか。
いわゆる「ナイ・レポート」については、[aml 10129] [aml 10130]
の島川さ
んの論文は読みましたが、原論文は見ていません。インターネット上で公開され
ているもの(和訳されていればなおよい)はあるのでしょうか。(島川さんが紹
介している http://www.gwjapan.org/ftp/pub/policy/miscpol/dod-ap95.txt
は現在、機能していないようです)
2)4.の「密入国対策」に関連した自衛隊の動きについて、なにか情報はあるで
しょうか。私は、当時の入管法改定にともなう国会議事録を見ており、それによ
れば海自が「不審船舶」などについての情報を関係当局(海上保安庁をさすもの
と考えられる)に提供した、とされています。
また、鹿児島県下甑[しもこしき]島では、村ぐるみで行われた“山狩り”
(密航者捜索)に、2月4日、駐屯している空自の部隊が参加しました
(1997.02.07付毎日新聞および同日夕刊)。私は、これは「領土警備」において
警察力を待たずに自衛隊(とくに空自)を出動させる可能性を求めている各種の
「危機管理構想」(たとえば、自民党「危機管理プロジェクトチーム中間報告」
(99.06.03))の先取りではないかと考えています。この下甑村に駐屯している
空自の部隊とは、どのような性格の部隊なのでしょうか。
以上二点についてのご教示、あるいはその他のコメントを、AML上あるいは私個
人あてに送信していただくよう、お願いします。
以上です。
]
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Date: Sat, 19 Jun 1999 12:40:36 +0900
From: Masahiko Aoki <btree@pop06.odn.ne.jp>
Subject: [aml 12731] Re: 「周辺事態」と避難民(照会依頼)
At Sat, 19 Jun 1999 03:28:46 +0900
You wrote:
>「周辺事態」と避難民(照会依頼)
>
>古屋哲です。RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネッ
>トワーク)に所属しています。
>
>2)4.の「密入国対策」に関連した自衛隊の動きについて、なにか情報はあるで
>しょうか。私は、当時の入管法改定にともなう国会議事録を見ており、それによ
>れば海自が「不審船舶」などについての情報を関係当局(海上保安庁をさすもの
>と考えられる)に提供した、とされています。
以下のような報道もありますが、これは難民というより、「ゲリラ」対策。た
だ、日本の治安当局は難民とゲリラは区別できないと考えており扱いは同じにな
ります。
−−−−−−−−−−−−−−−−
自衛隊の領域警備、治安出動で対応 警察・海保と連携
朝日6月18日
国内に侵入してくるゲリラ部隊や工作船に備えて、防衛庁が検討している領域
警備の対応策が17日、わかった。基本的には自衛隊の治安出動で対応するが、
警察や海上保安庁が現場に一時的にいない場合や、自衛隊が協力すればより効果
的な対応ができる場合には、自衛隊が応急的に活動できるよう自衛隊法の改正も
検討している。これらの場合は、警察や海上保安庁からの要請を前提とし、正当
防衛などに限って武器使用を認める考えだ。今後、警察庁などと協議し、共同対
処マニュアルづくりや共同訓練で連携を強める。自衛隊法改正には、警察庁など
が慎重なことから調整には時間がかかりそうだ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
> また、鹿児島県下甑[しもこしき]島では、村ぐるみで行われた“山狩り”
>(密航者捜索)に、2月4日、駐屯している空自の部隊が参加しました
>(1997.02.07付毎日新聞および同日夕刊)。私は、これは「領土警備」において
>警察力を待たずに自衛隊(とくに空自)を出動させる可能性を求めている各種の
>「危機管理構想」(たとえば、自民党「危機管理プロジェクトチーム中間報告」
>(99.06.03))の先取りではないかと考えています。この下甑村に駐屯している
>空自の部隊とは、どのような性格の部隊なのでしょうか。
>
これは「防衛ハンドブック」によれば、「第9警戒群」(鹿児島県薩摩郡下甑
村長浜無番地 09969-5-0015)とありますから、レーダーサイトに勤務する隊員
です。空自の隊員ですから「治安出動」(今回は法的にはそうでないが)は「専
門外」ですが、自衛隊法上は陸・海・空の区別はないので。奥尻島が93年大津
波に襲われたとき、同じ立場にある同島の第29警戒群が出動しています。
それで米軍の避難民協力要請ですが、これまで報道などで明らかになっている
のは、避難民は避難民でも、米国の軍属や民間人です。以下に関連記事の抜粋を
掲げましたが、韓国にいる米国人を九州で受け入れてくれという要請(と実際の
訓練)です。
米国としても、自国人を「救出」するのに頭が一杯で後は知らんという態度が
見え見えです。そのことは今回のコソボ事態を見ればよく分かる。何しろ米軍の
攻撃が難民を「生産」しても、軍事行動を優先するのですから。日本は「周辺事
態」で米軍に協力する代わりに在留邦人の「難民」救出を米軍に頼もうと思って
いたようですが、体良く断られています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
>1999年6月16日
>94―95年朝鮮半島の有事想定 米が後方支援要求
> 福岡空港も対象 防衛庁文書(西日本新聞)
>
> 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核疑惑をめぐり朝鮮半島情勢が緊迫し
>た一九九四年から九五年にかけ、米軍が有事を想定して日本政府に支援を要求
>していたことが十五日、西日本新聞社が入手した防衛庁の内部文書で明らかに
>なった。要求は民間空港の使用、軍需物資輸送から毛布や弁当の提供まで千項
>目を超え、項目別に各省庁への割り振りが検討されていた。この要求が日米防
>衛協力のための新指針(ガイドライン)法制化の引き金になったとの見方もあ
>る。
>
> 文書は九四年四月から九五年十二月までの三次にわたる在日米軍司令部(東
>京)からの支援要求項目と問題点、対応措置などをまとめたもの。
>
> それによると要求は、一次案の九百九十六項目が、二次案では第七艦隊など
>の分を加え千九百項目に増加。三次案で千五十九項目に整理された。
>
> 内容は輸送、施設提供、補給を中心とした後方支援が大半。空港、港湾の使
>用や艦船、航空機の修理、医療、米避難民の支援、基地警備、給食の提供まで
>広範囲で、多くが十日以内の開始を求めている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【朝日99年3月27日】
>昨年の米軍機の民間空港への飛来は719回
>
> 昨年1年間に日米地位協定に基づき、国内の民間21空港に米軍機が719回
>飛来したことが、運輸省の空港使用記録などからわかった。自衛隊機も71空港
>で3万5145回着陸している。周辺事態の際に民間空港を米軍に提供すること
>も想定した新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)関連法案が国会で
>審議され、26日には在韓米軍が福岡空港で避難民の輸送訓練をした。空港関係
>者や周辺住民らは、米軍使用の「既成事実化」を警戒している。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
94年の「半島危機」に際して、米軍の求めに応じて自衛隊統合幕僚会議が作
成した日本側の協力マニュアル(共産党が今年入手)から。
詳しくは
http://www.jcp.or.jp/Day-akahat/9903/990327_145_sii_ngl_3.html#bunsyo00
を見てください。以下は共産党の公表した文書の転載。
> II 対日支援要求の概要
> 1 支援要求軍種及び項目数
>・在日米陸軍司令部(USARJ)・在日米海軍司令部(CNFJ)・在日米
> 空軍司令部
>(USAFJ/5AF)・第7艦隊司令部(7th FLT)・第3海浜機動展
>開部隊(IIIMEF)・軍事海上輸送軍極東管区司令部(MSCFE)・軍事
>輸送管理軍司令部(MTMC)/計 1,059項目
> 2 支援要求内容(全般)(1)対日支援要求には、作戦と後方の支援要求
>があるが、後方に関する支援要求が大半を占めている。また、物的要求と役務
>関連の要求に分けるとほとんどが物的な要求である。(2)後方支援要求を機
>能別(輸送、施設、補給、整備、衛生、宿泊、給食等)に分類すると各機能す
>べてが要求事項として網羅されている。要求項目数で見ると主体は輸送、施設
>及び補給に関するもので、その他の機能に関する要求項目数は僅か。(3)運
>用支援要求は(基地及び港湾の警備、通信、機雷掃海、捜索救難支援、船舶曳
>航、ASWOC支援)であるが、基地警備が大半を占めている。(4)その他
>の支援として情報提供及び避難民の後送(NEO)に関する全般的支援がある。
>(5)要求期間は、要求項目ごと様々であるが、大半は展開開始日(C00)
>から事態終了(EOC)までとなっており、長期にわたる支援を要求。
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Masahiko Aoki
青木雅彦
btree@pop06.odn.ne.jp
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Date: Sat, 19 Jun 1999 17:30:23 +0900
From: "Satoru.F." <satfry@mbox.kyoto-inet.or.jp>
Subject: [aml 12733] Re: 「周辺事態 」と避難民(照会依頼)
古屋哲です。
青木雅彦さん、いつものとおり、迅速かつ明快な回答をありがとうございました。
ひきつづきもう一点だけ、質問させてください。
新ガイドラインの言う「避難民」について
1. 新ガイドラインでは、<救援活動と難民処理>、<捜索・救難作戦>、<非
戦闘員退避作戦>の三つを区別している[用語は『超明快訳で読み解く日米新ガ
イドライン』による]。いずれも「どちらの政府でも始められる活動(「日米両
国政府が各々主体的に行う活動」=政府訳)」である。
2. <救援活動>は「被害地の当局の承諾と共同により」実施される。すなわち
これは日米両国政府の管轄下にない領域における活動だろう。したがって同じ項
目に入っている<難民処理>の難民(refugee)とは、日米以外の非戦闘員国民
(「朝鮮有事」なら韓国人ないし朝鮮人)を指すのではないか。
3. <捜索・救難作戦>は、新ガイドラインによれば、むしろ共同作戦に限りな
く近い。ただ米軍は「作戦地域内」で、日本軍は「戦闘行動が実施されている地
域から区別される場所」でそれを行う、という差異が設けられているのみであ
る。この場合、<捜索・救難>の対象とは、明らかに米国とその同盟国の軍人・
軍属であろう。『超明快訳』解説(p43)では、「攻撃を受けて航空機・艦船か
ら脱出した乗組員を回収する活動」としている。
4. <非戦闘員退避作戦>は、「米国と日本の非戦闘員を第三国から安全な場所
へ退避させる」活動であり、両国政府は「自国民を退避させる責任を負う」。日
本国民であれば「邦人救出」。同じ項目に「[日米両国は]第三国国民の退避援
助のために、それぞれの条件を拡大することを考慮してもよい」としているが、
このときの「第三国国民の退避」とは、たとえば「1975年のサイゴン陥落時
に南ベトナム政権要人の脱出作戦が行われたのと同様な事態(『超明快訳』解説
(p49))であろうから、同様の事態に発生する難民(1975年以降で言えば
“ボートピープル”、インドシナ難民)とは区別される。
以上、まとめると、
○<難民処理>とは、紛争によって発生する(日米国民以外の)難民を対象とす
る。日本領域に「流入(入国)」した難民については、日本の責任で対処。
○<捜索・救難作戦>は、米国軍人を中心にその同盟国軍人を対象とする。日米
共同作戦で対処。
○<非戦闘員退避作戦>は、日米両国国民を対象とする(一部「第三国」のVIP
も)。両国がそれぞれの責任で対処。
となります。
以上に間違いがなければ、
Aoki-san wrote:
> それで米軍の避難民協力要請ですが、これまで報道などで明らかになっているのは、避難民は避難民でも、米国の軍属や民間人です。
> 以下に関連記事の抜粋を掲げましたが、韓国にいる米国人を九州で受け入れてくれという要請(と実際の訓練)です。
というのは難民とは別の話で、新ガイドラインでは<救難作戦><非戦闘員退避
作戦>と呼ばれているものではないでしょうか。
私が問題にしたいのは「難民の処理」です。先のメールで述べたとおり、日本
政府は、難民を「不法入国者」として扱い、早期送還することを基本方針として
いる、と私は考えています。
しかも、日本政府および保守政党・右派勢力はこの問題をきわめてイデオロギ
ー的に利用している。たとえば、自民党安全保障調査会『安保・防衛政策と新ガ
イドラインについて(Q&A)』(99.02.03)は、「周辺事態」の具体例として
「ある国の国内の政治体制の混乱などにより大量の避難民が発生している状況」
として、<難民>=<安全への脅威>という図式を描いています。さらに、「武
装難民」なる悪質な宣伝(たとえば梶山官房長官の発言(96.08.08))によっ
て、難民問題を「領域警備」に結びつけています。
日本政府が言い、一部勢力が誇張する「避難民」の数についても混乱がある。
「大量」について、二〜三十万人という数字まで出てくるが、朝鮮戦争時
(1950-51)で送還された朝鮮人が三千人。どう多く見積もっても一万人を越え
るとは考えにくい(そんなに大量に人を輸送する船がない)。十万人規模の数字
は、別の出所があるのではないか。すなわち、まったくの伝聞ですが、入管局で
は「朝鮮有事」にあたって、在日朝鮮人および日本人の家族については受け入れ
ざるをえない(現行入管体制でも在留資格が与えられる)、その数およそ三十万
人、という検討を非公式に行っている、といいます。これは、朝鮮民主主義人民
共和国への帰国運動で同国に帰還ないし移民した人びとが約九万三千人であり、
その家族をふくめて算出した数字です。
私の疑問点は、以上のような難民に関する基本方針と政治利用が、はたしてど
こから出てきたものだろうか、ということです。私が考えるところでは、米国は
この問題については「ヨキニハカラエ」であって(青木さんが言うとおり「後は
知らんという態度」)、難民を脅威として排外主義を扇動しているのは主として
日本政府(と保守政党・右派勢力)ではないでしょうか。
だとすれば、要は日本国家の主権行使の矮小さが再確認される、ということだ
と思います。「抑圧移譲」なる用語は、ただしくこういう場合に使用されるべき
でしょう。
朝鮮戦争時、在日朝鮮人は、避難民の収容と送還の非人間性を告発し、激しく
闘いましたが、日本人側の反応は不十分でした(朴慶植『解放後在日朝鮮人運動
史』)。今回、新ガイドラインについても、日本人である私たちは、この問題に
十分な注意を向けていないのではないか。そして、便乗して宣伝されている排外
主義にただしく反撃できていないのではないか。
と、こうした文脈で、前回、
1)新ガイドラインの前提である米国の東アジア戦略について。「東アジア有
事」の避難民(難民)発生について、とくに日本領域に「流入」してくるような
避難民について言及した米国の文書はあるのでしょうか。米国はいかなる認識に
基づいて、どのような有事を想定して、日本政府に「避難民対策」を要求してい
るのでしょうか。
とお尋ねしたわけです。
すみません、同じ質問になりますが、青木さん、その他のみなさん、お返事いた
だければ幸いです。
移譲、でなくて以上。
]
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Date: Sun, 20 Jun 1999 17:17:13 +0900
From: Masahiko Aoki <btree@pop06.odn.ne.jp>
Subject: [aml 12747] 「避難民」の数:Re: [aml 12733] Re: 「周辺事態
」と
避難民(照会依頼)
At Sat, 19 Jun 1999 17:30:23 +0900
古屋哲さんwrote:
>
>以上、まとめると、
>○<難民処理>とは、紛争によって発生する(日米国民以外の)難民を対象とす
>る。日本領域に「流入(入国)」した難民については、日本の責任で対処。
>○<捜索・救難作戦>は、米国軍人を中心にその同盟国軍人を対象とする。日米
>共同作戦で対処。
>○<非戦闘員退避作戦>は、日米両国国民を対象とする(一部「第三国」のVIP
>も)。両国がそれぞれの責任で対処。
>となります。
>
確かにご指摘のとおりですが、実際には新ガイドラインを忠実にすべて実行し
ようとすると、とても人手も時間も足りない。当然優先順位をつけているはずで
す。例えばガイドラインには「日本が武力攻撃を受けたとき」どうするかが先に
書かれていますが、実際にはこのシナリオは日米双方共真剣に検討してないでしょ
う。アメリカへの協力が先に来ると政治的にまずいから書いてるだけで、これは
検討は先送り。<難民処理>についても米国人以外のは後回しになるはずです。
そもそもやらない可能性も高いのでは。
> 私が問題にしたいのは「難民の処理」です。先のメールで述べたとおり、日本
>政府は、難民を「不法入国者」として扱い、早期送還することを基本方針として
>いる、と私は考えています。
> しかも、日本政府および保守政党・右派勢力はこの問題をきわめてイデオロギ
>ー的に利用している。たとえば、自民党安全保障調査会『安保・防衛政策と新ガ
>イドラインについて(Q&A)』(99.02.03)は、「周辺事態」の具体例として
>「ある国の国内の政治体制の混乱などにより大量の避難民が発生している状況」
>として、<難民>=<安全への脅威>という図式を描いています。さらに、「武
>装難民」なる悪質な宣伝(たとえば梶山官房長官の発言(96.08.08))によっ
>て、難民問題を「領域警備」に結びつけています。
>
> 日本政府が言い、一部勢力が誇張する「避難民」の数についても混乱がある。
>「大量」について、二〜三十万人という数字まで出てくるが、朝鮮戦争時
>(1950-51)で送還された朝鮮人が三千人。どう多く見積もっても一万人を越え
>るとは考えにくい(そんなに大量に人を輸送する船がない)。十万人規模の数字
>は、別の出所があるのではないか。すなわち、まったくの伝聞ですが、入管局で
>は「朝鮮有事」にあたって、在日朝鮮人および日本人の家族については受け入れ
>ざるをえない(現行入管体制でも在留資格が与えられる)、その数およそ三十万
>人、という検討を非公式に行っている、といいます。これは、朝鮮民主主義人民
>共和国への帰国運動で同国に帰還ないし移民した人びとが約九万三千人であり、
>その家族をふくめて算出した数字です。
>
> 私の疑問点は、以上のような難民に関する基本方針と政治利用が、はたしてど
>こから出てきたものだろうか、ということです。私が考えるところでは、米国は
>この問題については「ヨキニハカラエ」であって(青木さんが言うとおり「後は
>知らんという態度」)、難民を脅威として排外主義を扇動しているのは主として
>日本政府(と保守政党・右派勢力)ではないでしょうか。
> だとすれば、要は日本国家の主権行使の矮小さが再確認される、ということだ
>と思います。「抑圧移譲」なる用語は、ただしくこういう場合に使用されるべき
>でしょう。
日本の場合は、「安全保障」論議と言っても、保守勢力の場合ほとんど常に国
内治安対策の文脈で考えられます。卑屈なまでに新ガイドラインでアメリカに協
力するのも国粋主義的な立場からは奇妙なようですが、これが日本を軍事化させ
日本の全体主義化に寄与すると考えているからに違いありません。
周辺事態法、盗聴法、日の丸君が代法、国民背番号制などのジジコー路線は、
その「必要性」でなく、とにかく国内の治安態勢強化するのに役立つから,「こ
の際」全部通してしまえ、でやっていると思います。
ただでさえ管理社会の日本でこれ以上「治安をよく」してどうすると思うので
すが、彼らの「坂の上の雲」は何なのか見えません。
> と、こうした文脈で、前回、
>1)新ガイドラインの前提である米国の東アジア戦略について。「東アジア有
>事」の避難民(難民)発生について、とくに日本領域に「流入」してくるような
>避難民について言及した米国の文書はあるのでしょうか。米国はいかなる認識に
>基づいて、どのような有事を想定して、日本政府に「避難民対策」を要求してい
>るのでしょうか。
文書として公開するのはまずいでしょうが、議会の公聴会などでは証言がある
のかもしれません。「避難民対策」についても、もしあるとすれば日米で「共通
の基準及び実施要領」(新ガイドライン)が必要なわけですから、具体的な数字
のすり合わせもやることになるはずです。ただ、それを出せと言っても、「手の
内を明らかにすることになる」として拒否するのも間違いないでしょう。
とりあえず、公的資料というわけではありませんが、ここではご参考までにと
いうことで、一つのシュミレーションを転載しておきます。長くなるので関連部
分の抜粋だけ。全文は古屋さんに電子メールで送りました。謙遜でなくつまらな
いものですが、全文読みたい方は、私にご連絡ください。
ナベツネの野望むなしく赤字続きで廃刊になった「This is 読売」に
97年に掲載された「周辺事態」のシュミレーション(99年6月だから今!)
から「難民」関連部分だけを転載しておきます。
このシュミレーション、研究のためというより自分達のイデオロギーを押し付
けるためにシナリオを操作している(例えば病院を貸すのを拒否したから反日デ
モに襲われるとか、平和船団が惨めな失敗をしたとか)ので馬鹿馬鹿しいところ
が多いのですが、一応基礎的な数字などは、防衛庁・外務省・ペンタゴンからも
らって書いていると思うので、その点は参考になるかもしれないと判断しました。
「日本海沿岸に到着」した難民は3万人と。その下に引用した朝日新聞報道の
94年危機の最の統幕見積もりでも、「在韓邦人、米国人ら、数万人の避難民が
九州北部などに来る」と想定しています。
<贅言>
日本の平和主義の惨めな敗北と、北朝鮮の崩壊という自分達にとって気持ちのい
いシナリオを楽しむ前に、「This is 読売」編集部は自分達の雑誌の崩
壊というシュミレーションも行うべきだったでしょう。自衛隊が米軍に協力する
ように、ナベツネに協力した編集部員の中には自ら「難民」となった人もいるの
でないかと、自業自得ながら一寸気になりました。
文中▼で示された部分の§番号は、ガイドラインの別表の対米協力項目の番号
です。
-------------------------------------------
This is 読売 1997.11
シュミレーション朝鮮有事
新ガイドラインで日米はこう動く
岡崎久彦研究所グループ(総括/小川彰主任研究員)
奇 襲
一九九九年六月、朝鮮半島の天候は例年になく不順で、既に台風も北上し始め
ていた。そのころ、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核疑惑再燃をめぐり国
連安保理事会で経済制裁の決議が準備されていた。中国の動向はまだ不明だが、
拒否権発動だけは避けるだろうというのが大方の予想だ。
こうした状況の中で、あるどんより曇った日曜日の夜明け前、北朝鮮軍が軍事
境界線を越えて南侵を始めた。奇襲攻撃だった。同時に、韓国の国内に潜んでい
た数千人の特殊部隊・工作員が十一か所の主要飛行場や政治・軍事の中枢、補給
施設への攻撃を始めた。朝鮮半島の東岸を高速で南下する国籍不明機をレーダー
が発見、米軍機と自衛隊機がスクランブル発進した。
.......................
難 民
開戦六日日の午後になると、日本海の沿岸に難民が次々に到着し始めた。自衛
隊は海岸に多数の監視所を設営、国道からの取り付け道路を造って移動式レーダー
を運び込んだ。自衛隊法第百三条が根拠になった。難民は結局、阪神大震災の被
災者数の約一割に当たる三万人になり、一時収容所が各地に作られた。三万人の
身元確認には多くの係員が当てられたが、手を焼いたのは、紛れ込んでいた特殊
工作員の判別だった。
▼自衛隊の能力をカバーするため、米軍施
設・区域内にも難民収容所、事情聴取の事
務所なと(§16)が建設される。
.......................
戦後処理
北朝鮮は崩壊し、大量の難民が飢餓線上をさまよっているが、敗残兵のゲリラ
活動、略奪はおさまらない。韓国政府、北朝鮮臨時政府とも各国に支援を要請、
日本にも門戸を開くが、日本政府は現地の安全確認を条件とした。外務省がPKO部
隊の派遣を打診したのは韓国軍による半年間のゲリラ討伐が終わった後だった。
このころには北朝鮮も安定を回復、各国のPKO部隊も撤収を始めており、日本の出
番は既になかった。
▼被災地への人や補給品輸送(§1)、現
地での医療や通信、輸送(§2)なとで日
米協力する。避難民の救援、輸送、応急物
資の支給(§3)でも協力が予定される。
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朝日新聞
朝鮮半島有事、その時… 93―94年に政府が危機管理策を検討
(記事から一部のみ引用)
96.12.24
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発疑惑をめぐる緊張が高まった一九
九三年から九四年にかけて、政府部内で秘密裏に検討された危機管理策の全容が、
日米の関係者約六十人のインタビューで明らかになった。検討は官僚が主体とな
り、内閣安全保障室に外務、防衛、警察を加えた「四省庁会議」で行った。対北
朝鮮経済制裁の発動や朝鮮半島の有事を想定し、内閣に対策本部を設置して、海
上臨検への協力や邦人救出などの方針を決める構想を固めた。こうした検討結果
は、日米安保再定義の一環として、今年五月から橋本龍太郎首相の指示で行われ
ている極東有事研究の原型となった。
対外的にはそう答えざるを得なかったが、統幕内部の検討は、九四年に入り具
体化していた。補給を担当する統幕四室は「在韓邦人、米国人ら、数万人の避難
民が九州北部などに来る」と想定。空港から一時滞在施設までの輸送方法を、自
衛隊だけではなく民間運輸会社のトラックも含めて検討した。
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Masahiko Aoki
青木雅彦
btree@pop06.odn.ne.jp
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