仲田です。
NIRA(社団法人日本リサーチ総合研究所)の報告書(案)の抜粋です。
報告書(案)のタイトルは
「大規模用地の新しい利用方法に関する研究」
−苫小牧東部大規模工業用地を適用事例にして−
平成11年5月
です。
総論で、「これまで、本研究のケーススタディの対象にした苫小牧東部大規模工業
基地をはじめ、多くの第3セクター方式の開発会社が破綻状態にあるといわれてき
たが、実際にそれらをどのような形で処理するかについて当時は公開された議論に
はなっていなかった」と述べていることからも、要するに泡銭のあふれていた時代
に計画されていた大規模開発の破綻をいかに取り繕うのかという視点からの研究だ
ということがわかります。
研究の目的では
「全国各地で工業団地等の開発が進められてきたが、大規模用地を必要とする産業
が頭打ちとなり土地需要が減退している。そうしたなか、1970年代に計画された北
海道の苫小牧東部大規模工業基地や青森県のむつ小川原はもとより、バブル期以前
に計画された大規模土地開発の多くが行き詰まりをみせている。
本研究は、こうした行き詰まりをみせている大規模土地開発に対し、新たな開発
システムの可能性と選択可能な方策を、苫小牧東部大規模工業基地をケーススタデ
ィとして提案することを目的として実施した」
とあります。
全体は、A4判87ページにわたるものなので、海兵隊キャンプの移転に関する部
分を抜粋して流します。
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(2)暫定利用案=在沖縄海兵隊キャンプの移転先候補地として
苫東開発はいままで見てきたように、不動産業と同時に開発型事業であるので、
旧会社の清算をしても、債務を処理しただけであって、今後の具体的な土地需要、
開発プロジェクトが発生しなければ、新しい進展には結び付かない。
しかし、現在の経済環境のもとでは、なかなか民間の土地需要と開発プロジェ
クトが発生しない。そこで人為的、あるいは公的な土地の買い手、あるいは土地
利用を用意しなければならない状況にある。
旧開発会社の保有する土地を新会社を設立して買い取る方針も、人為的に買い
手をつくらないと土地が動かないためである。したがって、新会社に土地を移し
ても有効な土地利用が発生しなければ事態は進展しない。
そこで、苫東開発の暫定的な土地利用として、現在国家的課題になっている沖
縄の海兵隊基地の移転先として検討することを提案したい。
沖縄の米軍基地の整理・縮小は沖縄県民の半世紀を超える切なる願いである。
1995年9月、米兵による少女暴行事件を契機に、沖縄県民による米軍基地返還の
世論が一気に吹き出し、また、沖縄の米軍基地に対する全国的な関心が高まるな
かで、日米首脳会談で基地縮小が話し合われた。
米軍基地の中でも、普天間基地は、現在では宜野湾市の市街地の中心に存在し、
基地が住民の日常生活の障害のみならず、騒音、落下物の危険等、住民の安全を
脅かす存在の象徴というべきものである。
1996年4月、普天間飛行場の全面返還が発表された際、基地整理・縮小のシン
ボルとして、沖縄県民の期待が膨らんだ。橋本首相は、普天間基地移転の発表時、
「米軍基地の負担は広く国民全体で負わなければならない」と発表している。
普天間飛行場に象徴される、海兵隊の移転先には、県内、県外、海外(米国内
も含む)が考えられる。太田(ママ)前知事は、当初、海外、つまり米国への移
転の希望を繰り返し表明していた。当然、太田(ママ)前知事の発言のように、
アジアの平和が保証される情勢にあれば、海外(本国への帰還)が最も望ましい
ことであるが、現状では地域紛争の発生等が懸念されており、また日米安全保障
体制のもとで、当面は海兵隊の駐留を受け入れざるを得ない情勢にある。従って、
現在の時点で移転先を探すとすれば、県内か県外が選択の対象になる。
ところで、現在沖縄には約27,300人の軍人、21,700人の家族、その他、軍属を
ふくめて約50,400人がいる。このうち、海兵隊は、軍人16,700人、家族8,000人、
その他軍属も含めて合計約25,100人である(沖縄県資料)。
また、沖縄の海兵隊は、普天間飛行場のみならず、多用な訓練場、補給地区、
倉庫、兵舎・宿舎、通信施設、その他病院等の生活施設までの機能が集積されて
おり、特に海兵隊の持つ陸・海・空の軍事機能は一体として機能するとされてい
る。
従って、普天間飛行場の移転という場合、普天間飛行場の移転先を考える場合、
1 普天間飛行場機能のみを移転して、他の海兵隊機能は現状のままで移転し
ない方針とすれば、当然、県内で、しかも、既存の基地機能の立地からそう遠く
ないところが移転先として選択されるこになる。
2 普天間飛行場機能を県外に移転する場合は、飛行場機能と付随して、かな
りの機能が同時に移転することが必要になる。仮に補給機能、倉庫、兵舎・宿舎
の生活機能を想定しても、港湾機能を持ち、かつそこから遠くないところに数百
から千ヘクタールの土地が確保できることが条件になるものと想像される。
橋本内閣の時に、政府案として示した、名護市沖の海上ヘリポート基地建設構
想は、上記@の前提にたって立てられた移転方針であると考えられる。
しかし、県内の米軍基地の整理・縮小のシンボルとして普天間飛行場の返還を
捉えていた沖縄県民には、いかに海上ヘリポート基地案とは言え、新たに県内に
基地を建設することへの心理的抵抗は大きいと思われる。
稲嶺現知事は普天間飛行場の移転先として、軍民共用で15年間の暫定使用の飛
行場を陸上に探したい、旨の発言をしている。
稲嶺現知事は普天間飛行場の移転先として、軍民共用で15年間の暫定使用の飛
行場を陸上に探したい、旨の発言をしている。
しかし、海上案が出される前に、陸上の移転先もシミュレーションされたが、
なかなか困難なので、海上ヘリポート案になった、ということもあり、沖縄県内
移転を前提した場合には、普天間飛行場の早期の返還はなかなか困難になるので
はないかと思われる。
そこで、原則的には、日本に米軍海兵隊が存在する必要がなくなり、米本国に
移転することが望ましいが、現在時点でそれが望めないなら、次善策として、当
初の橋本首相の談話、つまり「広く国民全体で負担する」精神から県外移転も検
討すべきであろう。
移転先の候補地としては、いくつか想定されるが、基幹的な港湾施設、空港、
一団の大規模未利用地の存在などからして、「苫小牧東部地域」が候補地として
適当と考えられる。
苫小牧東部開発サイドに立ってみると、金利がかからない株で土地を保有する
という考えは地価が暫時高くなるのを防ぐという意味で賢明であるが、その土地
を、これまでと同様、分譲するスキームをを想定すると、なかなか現時点では有
効な土地需要が見込めず、適切な再建案を構築できない。
また、苫小牧東部地域に関心を示すビジネスはテーマパーク型のレジャービジ
ネス、あるいはエアーカーゴの物流基地など、地価負担力が小さく、しかも、必
ずしも土地を保有せず、リースでも問題のないビジネス群である。
そこで、発想を転換させて、新しい開発株式会社は、土地を保有することを第
一義にし、しかも、国家的プロジェクトとして出発したのであるから、将来、公
共的、かつ恒久的な大規模な土地利用、たとえばハブ空港機能などが発生するま
では、暫定的な土地利用に応える道筋をとるべきと考える。
こうした方針のもと、国家的課題でもあり、かつ、暫定的土地利用のひとつと
して、普天間飛行場等在沖縄海兵隊キャンプの移転の受け入れも検討に値すると
思われる。一団の広大な土地を持っていること、しかも地主は準公的性格の第3
セクターである開発会社一つであること、港湾に近接していること、近くに大規
模空港(千歳)があること、演習場等は周辺の既存施設を活用できるなど、受け
入れの条件は良好と思われる。
仮に、普天間飛行場および海兵隊機能の一部が移転する場合、苫小牧東部地域
は、国家的なプロジェクト(国際公共財を担う)に寄与すると同時に、新しく発
足させる第三セクターの「株式会社」に安定的な借地料の収入が見込まれ、事業
見込も立つようになる。
特に、借地収入料があれば、それで減資することによって土地保有の資本コス
トを下げることが可能になり、地価負担力の低い土地利用プロジェクトにも対応
が可能になる。あるいは、地料を担保に証券化を図るなどして資本の早期回収を
して他の事業に投資するなど、事業のアクションの選択幅が広がる。
こうして暫定利用(近い将来には海兵隊の本国帰還がある得ることも考えられ
る)の期間が、他の大規模土地利用型プロジェクトの準備期間になり、苫小牧東
部開発の全体像が描きやすくなるものと思われる。
このアイデアは、大規模用地の土地利用の観点から、苫東地域の土地利用形態
の一つとして考えたものであるが、普天間飛行場返還問題の打開の道を拓くため
にも、軍事的、政治的な問題を含めてその可能性を検討すべきと思われる。
(参考)沖縄の海兵隊機能を苫小牧東部地域に移転する場合の試算
1.仮定
・大規模な訓練場(実弾射撃訓練場)を除く、飛行場機能、倉庫、兵舎、宿
舎、ロジスティックス等の機能の一部が移転することを想定する。
2.現在の海兵隊が利用している主なキャンプの面積と借地料
面積 借地料(平成10年度)
・キャンプコートニー 134.9ha 1,051百万円
宿舎・司令部
・キャンプマクトリアス 37.9ha 312
宿舎・学校
・キャンプ桑江(海兵、海、空) 106.7ha 1,254
住宅・病院
・キャンプ瑞慶覧 645.9ha 7,175
司令部、倉庫、宿舎、サービス施設
・普天間飛行場(海兵、海) 480.6ha 5,354
飛行場
・牧港補給地区 275.6ha 6,367
事務所、倉庫、宿舎、家族住宅
上記計 小計 1,669.1ha 18,843百万円
平均借地料 1,121万円/ha
3.苫小牧東部地域への移転の場合の必要面積の想定
・必要土地面積A(事務所、兵舎等ロジスティック機能、生活機能)
・居住地区(15,000人) 200ha
・事務所、兵舎、倉庫 300ha
・港湾施設 200ha
上記 700ha
・必要土地面積B(飛行場機能)=苫東開発地域でなくともよいと思われる。
・代替飛行場 500ha
・必要土地面積 1,200ha
4.想定される建設工事費の概算
通常の施設の費用を想定しており、軍事上の施設等は想定していない
・飛行場(2500m)建設費 500億円(最近の実績から
類推)
・住宅・宿舎(3000戸) 600億円 (2000万円*3000戸)
・事務所、兵舎(10000人) 600億円(兵舎500万円*10000人
その他100億円)
・病院・生活サービス施設 300億円
・倉庫、港湾、その他インフラ整備 1,000億円
・上記計 3,000億円
5.想定される借地料
・新第三セクターの分譲予定価格
造成素地 港湾近傍地区 (11,000円/m2)
その他地区 (8,000円/m2)
A 想定される地価から推計した場合
大規模用地の借地料は、山野の場合、年間で地価の2.5〜3.0%、市街地の
場合5%程度が相場といわれている。ただし、実際の借地料は、両者で様々
な要因を勘案して設定される。
造成地分譲価格換算 (8,000円/m2)*1,200ha=960 億円
地価の3%の場合
960億円*0.03= 28.8億円/年
地価の5%の場合
960億円*0.05= 48.0億円/年
B 沖縄の現在の平均借地料と同水準とした場合
1,121万円/ha*1,200ha=134.52億円
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仲田博康
nakada_h@jca.apc.org