国防総省の委託を受けて湾岸戦争症候群の原因の調査に当たっていたRAND研
究所が、このほど劣化ウラン弾と症候群の関係についての報告書を出しました。
なにしろスポンサーがペンタゴンですから結果は明白なのです。因果関係は認
められないというもの(今後更なる研究が必要とは認めていますが)。
でも一応カネかけて作った報告書ですので、資料的価値はあります。沖縄の
鳥島での劣化ウラン問題も、周辺の島の住民の健康調査は実施されていないよ
うですし、本土には米軍の劣化ウラン弾が貯蔵されていることですし、またユ
ーゴでの劣化ウラン弾の使用の可能性も高いので、興味ある方には必携の資料
と思います。末尾に目次だけ掲げておきましたが、報告全文はここにあります。
http://www.rand.org/publications/MR/MR1018.7/MR1018.7.html
深読みすると、今劣化ウラン無害?の報告書が公表されたのも、コソボでの
劣化ウラン弾の使用に対する心理的障害を取り除くことにあるのかもしれま
せん。ユーゴが化学兵器を持っているという最近の報道も、住民に奇妙な症
状が出たときに「責任転嫁」する布石なのかも知れません。
ユーゴでの劣化ウラン使用問題については、欧米の環境保護団体や反核運動
の努力にもかかわらず確証が得られていません。ペンタゴンのさまざまな部
局に電話をかけても、「特定の兵器については答えられない」とけんもほろ
ろのようです。
情報は少ないのですが、よく書けた最近の記事にBoston Phoenixという週刊
誌の記事April 8 - 15, 1999があり
http://www.bostonphoenix.com/archive/features/99/04/08/
UNFRIENDLY_FIRE.html
劣化ウラン弾のコソボでの使用問題を扱ったもの。この中でCDI(国防情報セン
ター)のアナリストは「もしA-10が使われるなら劣化ウラン弾も必ず使用され
る)と語っています。
懸念されるのはこの「人道的」なNATOの軍事行動が、最近列車や避難民の車
両攻撃に見られるように無差別殺人の様相を強めているため、劣化ウラン弾
の使用云々のような問題は「些細な」ことと受け取られて、そのためより制
約なしに使われているのでないかということです。
実際に木曜夜10時(日本時間)からのNATOの記者会見では、スポークスマ
ンは避難民攻撃に対して"regret"を言いつつも、「人類の歴史で犠牲を伴わ
なかった軍事行動は一度もなかったし、これからもない」と完全に開き直っ
たかの発言(VOAのlive中継を聞いた私の記憶による発言再現ですので細か
い表現は違うかもしれませんが)。クリントン大統領もこれらの犠牲を"
inevitable"と表現しました。例えばミロシェビッチの軍隊がアメリカを空
爆して自分の娘が殺されてもこの言葉を使うようなら見上げた「哲人」大統
領ですが。戦争の初期の段階ですでに、数十人の無辜の死者くらいでは「犠
牲」と呼ばないように普通の人々の感性も麻痺させられているのかもしれま
せん。
日本でも「識者」が、「不審船」を撃沈できなかったのは憲法9条の責任だ
と絶叫し、戦争のための国内法の「不備」を指摘するのがジャーナリストの
勲章になっています。日本よりお先に非武装の「呪縛」を解いたドイツでは、
政権党になった社民党や緑の人々が転向して国外での軍事行動を容認したた
め、NATOの「人道的」な殺戮に苦悩しています。
そもそも大義名分のない戦争というのはないので(そうでないとただの集団
殺人鬼です)問題は、「悪をもって悪に報いる」ことを選択するのかどうか
ということです。若いころは戦争肯定論者だったトルストイ(レフ)は、後
年福音書を読んで「悪に報いるに悪をもってするなかれ」がキリストの教え
だと発見して非暴力主義を唱えたのですが、西ヨーロッパのキリスト教徒は
別の解釈のようです。
余計なことですが、世界の平和思想の図書館みたいなホームページがありま
す。Physicians for Global Survival, Canadaのページ。
http://www.pgs.ca/index.html
この資料を日本語に訳して多くの若い人に読んでもらいたいと思います。
日本でも憲法9条をどうするのかかなり決定的な段階になっていると思いま
すが、いま起こりつつあるコソボ事態を、憲法論議あるいは現代世界における
武力行使問題と結び付けて具体的に論じるという動きは日本にはまだないよう
です。あるいはただ単に私が知らないだけかもしれません。ホームページ等で
そのような議論が見られるところがあれば教えていただければ幸いです。
話がそれましたが、以下RAND研究所の報告目次転載。
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A Review of the
Scientific Literature
As It Pertains to
Gulf War Illness
Volume7
DEPLETED URANIUM
Contents
Preface
Figures
Tables
Summary
Acknowledgments
Abbreviations
Symbols
Chapter One: Introduction
Radiological Considerations
Chemical Considerations
Regulatory Standards
Methods of Detection and Analysis
Chapter Two: Health Effects
Overview
Internal Exposure
External Exposure
Clinical Discussion
Chapter Three: Concluding Remarks and Future Research
Radiation Effects
Heavy-Metal Toxicological Effects
Research
Appendix
A. Principal Decay Scheme of the Uranium Series
B. Principal Decay Scheme of the Actinium Series
C. Resuspension
D. Single-Particle Lung Dosimetry
E. Exposure to Radon (222RN) and Its Decay Products
F. UNSCEAR Tables
G. Measured Deep Dose Rates for M60A3 and M1 Tanks
Glossary
References
About the Authors
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Masahiko Aoki
青木雅彦
btree@pop11.odn.ne.jp
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