「おまえら人殺しはやめんかい!」と言って人殺しをするというのが今回の
ユーゴへの「人道的介入」爆撃だと言われていますが、現在のところまるで逆
効果なのはペンタゴンも認めるとおり。
「クリントン氏はベトナム戦争に反対したが、ベトナム戦争を分析して教訓
を得ることはなかった」と、米軍の退役空軍将校が皮肉なコメント。詳しくは
以下を。
http://www.nytimes.com/aponline/i/AP-US-Kosovo-Air-Power.html
アメリカ人にとって「思い出したくもない時代」、つまりベトナム戦争の時の
介入の仕方にあまりにも似ていることに不安が拡がっているようです。「湾岸
戦争で勝ち得た名声を日に日に失っていく」と米空軍の幹部は嘆いています。
アメリカがもしアジアで今回のような「人道的介入」を思い立ったら、これ
は「周辺事態」ということで日本も協力を余儀なくさせられます。「事態法」
の審議真っ最中ですし、このユーゴー爆撃は日本でももっと論議を呼んでいい
はずですが、賛成・反対ともに静かで、私が唯一新聞紙面で見た抗議写真はス
トイコビッチ選手のそれだけです。
ちなみに世界中での市民の抗議行動の予定と、それぞれの団体の連絡先(電
子メールアドレスとURL)が
http://www.iacenter.org/yugdemos.htm
にあります。フィリピンなどはありますが日本はありません。これを見ると前
回のイラク爆撃よりも抗議行動は遙かに大きいようです。
ジャーナリスティックな短期的な視点でなく、もっと広い視点でこの問題を
論じたものはないかと思っているのですが、日本語で読めるものをご教示くだ
さればと思います。ここではベトナム戦争批判の健筆を振るった言語学者のノ
ーム・チョムスキー氏の論文を紹介しておきます。長いのでここに転載しない
ので、興味ある方は以下で本文をご覧ください。
http://www.zmag.org/current_bombings.htm
この中には3月27日の記事の引用がありますから当然それ以降、29日ま
でにかかれたものです。
チョムスキー氏は今回のユーゴ空爆問題の困難が、国家主権を絶対化した
(安保理決議なしには犯せない)国連憲章と、世界人権宣言(すべての人の暴
力からの自由を謳った)との矛盾にあるとしています。言うまでもなく今回は、
後者を優先させた?軍事行動です。
チョムスキー氏はそこで、これまでの「人道的介入」の例を検討します。コ
ロンビア、トルコ、ラオス、エティオピア(ムッソリーニによる)、チェコ
(ヒトラーによる)、満州(日本による)などを検討して、これまでに「人道
的に見過ごせない」事態に軍事介入して、それを逆にエスカレートさせたこと
が多いことを指摘します。
「しかし、介入して残虐行為をやめさせた例もあるのでは?」。確かに。チ
ョムスキー氏があげるのは70年代のポルポト政権を崩壊させたベトナムのカ
ンボジア侵攻です。ところがこの時には、アメリカは国家主権の論理を優先さ
せて(実は対ソ戦の観点から)、ベトナムの側を罰した。ご存じのように日本
政府も追随した(今となってはどうでもいいことかもしれませんが、日本の左
翼の一部も同調)のだから、この時は「人道的介入」はけしからんというのが
日本の見解でした。
歴史が教えるように、そしてチョムスキー氏が別の学者を引用して語ってい
るように、「人道的介入」つまり、暴力をやめさせるための暴力を認めてしま
うと、結局はそれを抑制する論理がなくなってしまい、無制限なエスカレーシ
ョンを止められなく恐れがあるということです。実際NATOの空爆の「非人道行
為」を止めさせる、とNATO諸国を爆撃する国が出てきたとしても論理的にはお
かしくない。
チョムスキー氏の結論はヒポクラテスの誓い、つまり「他に改善の余地なき
場合は何ごともなすな」。もちろんこれは軍事的行動の意味で、「外交と交渉
には尽きるということはない」と付け加えています。
あえて私に贅言が許されるなら、ここにこそ今は完全に忘却された日本国憲
法の平和主義の価値があると言いたいのです。これは、あえて「何も(軍事的
なことを)しない」という勇気ある決断をすることで、その後に起こる悲劇を
回避するという戦略なのですから。「不審船」事件、周辺事態法、有事立法論
議と暴走気味の今、「何もしない」ことを大々的に宣言してよい時代だと思い
ます。法制度が「不備」だからスキができるのでなく、できるだけ武器使用が
困難なように制度を作るというのが、本来平和憲法の知恵のはずでした。
しかしこういう骨太な論議を今の日本の知識人に期待するのは酷なのかもし
れません。上記のチョムスキー氏のオピニオンを含む、今回のユーゴー事態の
欧米の知識人の論評が、
http://www.zmag.org/ZMag/kosovo.htm
にあります。
ところでこれとは逆方向の考察が、米軍のStars & Stripes紙の記事、
Wednesday, March 31, 1999
Yugoslavia attacks
could lessen threats
from NK, experts say
にあります。この見出しだけ読むと、今回の空爆で北朝鮮もびびって大人しく
なるだろうという論調という印象ですが、「逆に(地上軍を投入しないと)な
められる」という専門家の意見も載っています。詳しくは、
http://www.pstripes.com/editor.html
からたどってください(掲載から1週間で消えます)。
エープリルフールというわけではないのですが、日本がアメリカの「ニュー
メキシコでの残虐行為」をやめさせるためにアメリカを爆撃したという日本の
首相の声明が登場しています。これはユーゴー爆撃の愚かさを教えるパロディ
ーですが。
http://www.zmag.org/satire.htm
ところでユーゴからの生の報告を読みたいのは誰しもですが、実際には戦争
状態にある地域からプロパガンダでない情報を送るのはまさに命懸けです。コソ
ボ事態で、インターネットでの電子メールの中味やブラウザの使用(どこにつ
ないでいるか)を権力のチェックから守るプロジェクトが
http://www.anonymizer.com/kosovo
です。この精神を創始者の一人はこう語っています。
"Encrypted and anonymous communication is very important for human
rights activists, and for anyone who needs to denounce violations
of human rights committed by repressive regimes," said Patrick
Ball, Deputy Director of the AAAS Science and Human Rights program.
"The actions taken today by the Yugoslav government and Serbian
paramilitary units show why people who are reporting human rights
violations need to be protected from exposure: if they aren't
protected by these technologies, they will be killed".
実際今の世界では、真実を語ると「消される」立場におかれている人の方が
むしろ多数派でしょう。日本では、インターネット犯罪を取り締まるために匿名
性を奪おうとする動きが強いのですが、人権を守るという観点から匿名性の維
持も非常に大事と思います。ただどちらにしても日本というのは内部告発の希
な社会ではありますが。
****************************
Masahiko Aoki
青木雅彦
btree@pop11.odn.ne.jp
****************************