寺田典城秋田県知事からの「周辺事態法」に関する私への「回答拒否」のお手紙は、
とうてい納得のいくものではなく、あくまでも明快な「回答」をいただきたく、3月2
3日「要求書」をさしあげました。
自治体の長としての最大の責務を、政府の言うところの「国益」でごまかして、私た
ちの主権も人権もないがしろにされては困るのです。そしてもし、主権在民のこの国の
「国益」が「県益」を損なうものなら、それは国家権力や企業の利益とはなりましょが
、国民の利益ではないということで、それが、「新ガイドライン」に起因するとしたら
、この関連法案は、戦争を放棄し、基本的人権を保障し、生命、自由及び幸福追求の権
利を最大に尊重している憲法に違反しているということにますますなると思います。
知事のお手紙にも、その戸惑いは、若干にじみ出ていて、苦労のあとは、伺えますが
、この法案に対して、全国でも2番目に多い市町村議会の反対決議を目の前に、「県民
の意図するところを見定めたい」としたことは、県民を無視した高慢で怠慢な答弁で、
私は許すことができません。
要求書の提出に先立ち、身近な行政、議会として、市町村にもこの法案について真剣
に考えていただきたいと願い、全市町村の首長と議会議長に知事の手紙を紹介しました
。いくつかの議会で、要望書として扱うという報せがありました。
市民は「武器を捨てて世界平和を」と願い努力しているのに、「武器を持って一国の
平和を」などといっても、地球に住む多くの人は理解できないのではないかと思います
。
【要求書】
秋田県知事
寺田典城 様
要求書
3月12日付の知事のお便りを、翌日、いただきました。お便りをいただいたことは
ありがたく思いますが、残念なことに、このお便りは私が求めたものではありません。
このお便りを、知事は「回答」とされていますが、これが回答の名に値するものでな
いことは、お便りを読む人すべてが理解するでしょう。私にとって今回のお便りは、私
の公開質問書に対する回答拒否の通知でしかありません。これは、すべての県民に責任
を負う県知事の姿勢として、まったく理にかなわぬものであると思います。
以下にその理由をのべます。
知事は、お便りにおいて、「周辺事態法案は、周辺事態に際し、政府が地方公共団体
や民間に対して協力を求めることができるとの規定が設けられており、その具体的内容
如何によっては、住民生活や地域経済活動にも少なからぬ影響を及ぼす可能性があるた
め、県としても重大な関心をもっているところであります」とのべています。これは、
すべての県民に責任を負う県知事の表明として当然の姿勢です。
しかしそうであれば、その「重大な関心」を共有する県民が、政府が求める「協力」
に対する対応について、知事に対して行なった切実な質問には、誠心誠意回答すべきで
す。知事は、昨年7月に全国知事会を通じて行なった申し入れに対し、政府から「詳細
な説明を得られない状況」なので、「御質問に対して具体的にお答えできる状況にあり
ません」とのべていますが、これはおかしな言い訳です。
マスメディアの報道によってすでに周知のように、政府は、本年2月3日付で「周辺
事態」に際して地方公共団体と民間(企業・住民)に「求め又は依頼する協力例」10
項目を策定・公表しました。問題はきわめて具体的に政府によって提起されたのです。
私はこの政府策定の文書に依拠して、非常に具体的な質問を行なっているのですから
、知事が答えられないはずはありません。知事は自治体の長として、政府の「求め又は
依頼する」「協力」についての県の態度を、すべての県民の前に、公明正大に明確にす
る責務があります。
いうまでもなく、地方自治法の本旨に基づく知事の最大の責務は、120万県民の「
安全、健康及び福祉を保持する」ことです。したがって知事が「県民の生命や財産を守
るという『県益』」に触れているのは、まったく正当なことです。そうであるなら、知
事が主体性をもって自治体の平和的生存権を行使することもまた、全県民の支持を得る
でしょう。
しかし「周辺事態法案」など「新ガイドライン」関連法案を成立させようとしている
現政府の動きは、「国益」を名目に、自治体・民間を問わず、この国の社会総体を戦時
体制に組み込もうとするものです。したがって、この法案について、21都道府県の1
06議会が、反対や危惧を表明したことは、当然の事態というべきでしょう。
本県においても、14もの議会が、同関連法案を違憲とし、明確に反対を表明してい
ます。この14議会という数は全国で2番目に多く、秋田県民が平和憲法の趣旨をみご
とに体現した証として、まさに誇るに足る事態といえます。知事が「県民の意図すると
ころを的確に見定め」ようとするなら、この14議会の声にこそ耳を傾けるべきです。
判断の材料は知事の眼前にあります。
私の公開質問書に対する知事の回答拒否は、自治体の長としてふさわしからぬ行為で
す。私は改めて、私の公開質問書への誠実な回答を求めます。以下に、再度、同じ質問
を列挙します。「新ガイドライン」関連法案の審議はすでに進行しており、事態は急を
告げています。回答を、1999年4月7日までに寄せられるようお願い申しあげます
。
1、政府文書にある「建物、設備などの安全を確保するための許認可」は、本県の場合
、具体的に何を指しているのか、お答えください。
2、秋田空港の建設に当たって、当時の小畑知事は、「新空港は自衛隊の演習・訓練に
は絶対使用させない」と公文書で確約しました。秋田県は「非核平和宣言」を発してい
ますが、寺田知事は、県の管理する空港及び港湾の米軍による使用を拒否する姿勢を明
確にする意思はありますか。
3、「国が国以外の者に対して求め、または依頼する協力」10項目が公表されて2ヵ
月になろうとしています。しかもこれより先に各地で空港や港湾では民間協力の強制が
なされているのが現状です。政府では国会答弁で「協力内容についてはあらかじめ確定
される性格のものではない」としていますが、「港湾、空港施設の使用や物資輸送への
協力などが想定される」「自治体の法案への関心が高いので、引き続き説明していきた
い」ともしています。「新しい日米協力のための指針」の別表には「周辺事態における
協力の対象となる機能及び分野並びに協力項目例」40項目が示され、実際には一千項
目以上もあるといわれています。これらの資料をもとに県政では、同項目に当てはまる
県内施設と、それがどのように利用されるか、独自に調査すべきと思いますが、調査は
されていますでしょうか。もしまだのようでしたら、早急に調査し、県民に明らかにし
てください。
4、 政府文書は国以外の者、すなわち企業や私たち市民にも、「協力」を求めていま
すが、政府の言う「人員及び物資の輸送」には、武器・弾薬も含まれています。また病
院への「協力」を求められた場合、入院患者が病院から追い出されることも考えられま
す。これらは市民生活を直接脅かすものであり、事故もありえます。市民の安全を守る
自治体の長として、要請あるいは依頼される「協力」の内容を政府に問い合わせ、より
詳細な説明を県民に行う必要があると思いますが、そうする意思はおありでしょうか。
5、政府は、地方自治体の長に「求める」協力は「地方自治の理念や憲法に抵触しない
」と強弁していますが、一方ではあくまでも要請であり、「正当の理由があれば断わる
ことができる」としています。私は県民の協力拒否の意思もその「正当な」理由になる
と思いますが、寺田知事は政府の言う「正当な理由」とは何だと理解していますか。ま
た国会答弁では、協力を拒否した場合「本法案に基づく制裁措置をするものではない」
としていますが、政府と「対等な協力関係」にある自治体が協力拒否した場合、国の「
制裁措置」はなんらかの形でありえると考えますか。
6、「周辺事態法案」が、自治体と民間に対して、戦争への「協力」を求めていること
、しかもそれは強制性をともなったものであることが、すでに明らかになりました。寺
田知事は、地方自治法の「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び
福祉を保持する」(地方自治法第2条・第3項・1)の規定と自治体の独立性に基づき
、自治体の長として、政府に「周辺事態法案」の撤回を求める姿勢を鮮明にすべきであ
ると考えますが、いかがでしょうか。
1999年3月23日
〒
秋田県男鹿市
加賀谷 いそみ
TEL
【全首長、議長宛】
長
議会議長
国会では、新ガイドライン関連法案の本格的な審議が始まりました。
みなさまも、すでにご存じのことと思いますが、これに先立ち、政府は2月3日付
けで、「周辺事態」に際して「国が国以外の者に対して求め、または依頼する協力の内
容」10項目を策定・公表しました。(これを以下「政府文書」とします。資料1とし
て別に添付します。)
その内容は、住民生活に深くかかわるものであるにもかかわらず、10項目の多くは
、抽象的かつ不鮮明です。しかも策定された「政府文書」は、「協力」は10項目に限
られず、「事態ごとに異なる」とのべているのですから、県民に大きな不安が広がって
いるのは当然のことです。
そこで私は、去る2月23日、寺田典城知事に、「周辺事態」に際して政府が自治
体に「求め、依頼する」10項目に対する県の姿勢などを明らかにしていただくために
、公開質問書を提出しました(資料2として別に添付します)。それに対し、この度3
月12日付けで知事から手紙をいただきましたので、紹介させていただきます(資料3
として別に添付します)。
知事の手紙は、政府から「詳細な説明を得られない」ため具体的に答えられる状況
ではないと言いたいようです。そして一方で、周辺事態法案は、「具体的内容如何によ
っては、住民生活や地域経済活動にも少なからぬ影響を及ぼす可能性があるため、県と
しても重大な関心をもっている」とものべ、「県民の意図するところを的確に見定めた
上で、外交、防衛面での『国益』と県民の生命や財産を守るという『県益』について慎
重な検討を行っていきたい」としています。
私は、知事の回答拒否に深い憤りを感じます。知事は、昨年7月の申し入れに政府
の回答がないことを、回答拒否の理由としていますが、上述のように、政府が自治体・
民間に「求め、依頼する」10項目が、公的かつ正式に提示されたのですから、それへ
の対応を、公明正大に県民に明らかにすべきです。それは、県民に責任を負う県知事と
して当然のことであり、政府の対応を口実に、県としての姿勢表明を避けるのは、県民
無視の無責任な怠慢です。したがって私は、私の公開質問書への回答をあくまで求める
要求書を、近く提出します。
秋田県においては、すでに14の市町村議会が、全国にさきがけて「新ガイドライン
に基づく有事立法体制づくりに反対する意見書」を採択し、非戦平和の意思を明確にし
ています。同様の表明は全国各地で相次ぎ、現在その数は、21都道府県106議会に
も上っています。静岡県では、県議会が同様の意見書を可決しました。本来ならば、県
内市町村議会のこれまでの決議を尊重し、本県の県議会でも決議をしてしかるべきです
。
つきましては、貴行政ならびに貴議会が、住民に身近な行政・議会として、健康で安
全な生活と、恒久平和を子どもたちに伝えていくことを希求している私たち住人の思い
をもとに、秋田県行政が、戦争協力を拒否する姿勢を明確にし、自治体の平和的生存権
を行使するよう促す努力をなされますことを心から期待します。
また、貴行政ならびに貴議会が、上記「政府文書」の内容が、住民にどのような影響
を及ぼすのかを調査し、関係機関に対し内容を詳細に問い合わせるなど、住民の安全と
平和を守る自治体の責務を、十二分にはたされることをあわせて要請いたします。
1999年3月18日
〒
男鹿市
加賀谷 いそみ
(資料1、2 [aml 11211][keystone 1188] 秋田県知事へ質問書 )
(資料3 [aml 11451][keystone 1178] 秋田県知事回答)