『河北新報』(2月7日) によると
米軍三沢基地(三沢市)のF16戦闘機が1月21日に墜落した釜石市橋野町で、今
月に入って戦闘機とみられる航空機の飛行を住民が目撃していたことが、5日夜、橋野
ふれあいセンターで開かれた釜石市や仙台防衛施設局の代表と地元住民の懇談会で明ら
かになり、住民は「釜石上空の飛行は自粛のはずではなかったのか」と反発している。
とのことでした。
「検証・三沢米軍基地」「これが三沢米軍基地だ!」などの著者佐藤裕二さんのお話
によると、目撃者が「ゴーという重低音とともに栗林地区の上空を三陸沖方向に向かい
2機が、ややずれる感じで飛行。形、大きさとも一般民間機とは明らかに違う」といっ
ていることなどから、多分三沢のF4EJ改(ファントム)だと思われるとのことです
。ファン
トムはF16の大きさの倍もあり、翼が三角形ですから、見分けがつきやすいそうです。
佐藤さんは、墜落現場に行って残骸の写真などもとってこられたそうですが、現場か
ら四百メートルのところに住宅があり、時速六百キロのF16では二秒たらずの距離だ
ったということですから、いかに残酷で危険な事故だったかと改めて住民の恐怖がわか
ります。
司令官は、「操縦士のカンが鈍る」からと強引に飛行訓練を再会させました。これは
住民はおろか、部下である操縦士の身の安全さえをも保障するものではなく、低空飛行
は機体とパイロットの性能の限界まで引き出されて飛ぶのです。軍隊の「安全」はすべ
ての市民を犠牲にしなければ維持できないということがここにも現われていると思いま
す。
釜石市や岩手県では米軍に「事故原因の究明と公表、飛行中止」を申し入れましたが、
佐
藤さんは、
自治体は、故障の原因が明らかになれば、改善されて今後の事故は減るだろうという一
般的な「安全性」の認識及び地方自治法第二条の「安全維持」の義務に基いて要求を出
して
いるが、米軍の言っている安全性は「戦闘機の安全性」であり、私たちのいう「安全性
」とは、まったく異なる意味を持つ。軍の言う安全性とは「敵の戦闘機や地対空ミサイ
ルに撃墜されない」という意味の「安全性」なのだ、と指摘されています。
そして日米の「合意書」では、米側は明確に「低空飛行訓練は不可欠」と言っています
。
F16がいる限り事故は続き、何時かは住民に犠牲が出るだろうということです。
<佐藤裕二さんの資料より>
◎米軍は約二千機のF16を運用しているが、昨年四月に米空軍安全センターが発表
した資料によると、九七会計年度までの二十二年間に二百三十二機が墜落、十万飛行時
間あたりの墜落機数は平均四・四一、ここ十四年間を見てもたいして改善されていない
。(世
界の民間定期便は約0・一)
墜落原因は、機体の故障が約四五・九%(内九九%はエンジン関係)、パイロット
の
ミスに起因するものが四五・五%となっている。
戦闘機は、性能向上のために車同様つぎつぎとモデルチェンジされるが、それに伴
って新たな故障が発生する。また、性能が良くなると、今度はパイロットの能力がつい
ていけないという問題が起きる。
例えば、最新型の三沢のF16は、右手で操作する十五センチの操縦棹に、兵器選
択
やラジオ送受信など様々なスイッチボタンが十三個もついており、左手のスロットルレ
バーにもレーダー調節などの操作ボタンが九個もついている。これらを勘に頼る時速六
百キロ以上の超低空飛行をしながら、前方を凝視したまま間違いなく操作しろというの
だから、無理な話だ。F16のパイロットのキャプテン(一尉)もこれには閉口すると
言っていた。
◎最近の米軍機の墜落事件について
1月20日に高知県の夜須沖の岩国海兵隊所属のF/A18が僚機との接触事故で墜落し
た
。二機編隊訓練は、ブルーインパルスと同様、ニアミスの訓練のようなものであり、軍
の基準にもとづく独自の「運用」による事故である。
翌日21日には、三沢基地所属第13飛行隊のF16が、釜石市橋野町の山林に墜落炎上
し、パイロットは無事脱出した。墜落原因はまだ不明だが、エンジン関係の故障と思わ
れる。基地の発表では、訓練項目は2機による対地攻撃低空飛行で、午後1時離陸、2時3
0分着
陸の予定、装備はバルカン実砲弾500発、フレア(赤外線追尾ミサイルを逃れるため
の閃光弾)30発を搭載してたという。報道では午後1時半ころ墜落となっており、離
陸後
約30分飛行しての墜落、三沢基地から直線で約165kmの地点である。
一般に墜落事故は、10万飛行時間当たりの墜落機数であらわすが、世界の民間定期
便
の乗客死亡事故は、10万飛行時間あたりここ10年間、ほぼ0.1である。しかし、約18
00機を運用している米空軍のF16戦闘機の墜落は総計233機、23年間の10万飛行時間あた
りの墜落数の平均が4.43、88年から97年の10年間の平均は3.52、つまり「い
くら米
空軍が安全性を追求しても、どうにもならないのであ る。三沢航空団も87年発足いら
い7機をうしなっているが、ほぼ計算通りとなっている。
しかし、米空軍のF15戦闘機の墜落率は、ここ10年間の平均が1.8で、F16の半
分
以下である、これはF15は制空戦闘機で低空飛行をやらないことと、エンジンを2基装備
していることによる。エンジンが1基のF16は、低空飛行では故障即墜落なのである。
この後も約1年9ヵ月間隔で三沢のF16は必ず墜落する。騒音も私たちの生活を妨害
し
、一定の被害を与えるが、墜落は命を奪われる可能性が高い。しかも、これからも確実
におちるわけだから、今後の低空飛行反対運動は騒音とともに住民の命を守る闘いとし
て発展させる必要があろう。
またこの事故について
米太平洋軍機関紙「スタ−ズ・アンド・ストライブス」の、1月24日付の報道では、
F16の墜落で、環境への心配もある。専門家らが防毒マスク、防護服、防護靴に身を
つつみ、ヒドラジンとよばれる液体の跡を除去。三沢基地のスミス中佐は、「ヒドラジ
ンの心配は短期間で解決し常態にもどった」と述べた。
としており、ヒドラジンは、NASA(米航空宇宙局)でスペ−スシャトルなどの燃焼
剤として使っているほか、F16ではF−110エンジンの始動に使っているとのこと
。
(『赤旗』2/10)
そして
米軍が来る前に、事故直後、この危険情報は何も伝えられず、待機を含めて地元の消防
署員32名と消防団員79名が現場に駈けつけたわけですが、日本では、
米軍三沢基地が墜落した機体のうち、エンジンや主翼部分などを現場から回収し大型
トレーラーで同基地に搬送、機体の撤収作業をほぼ終了させた日に
事故機が液体燃料として発がん性物質の「ヒドラジン」を積んでいたことが10日、
明らかになった。同基地はヒドラジンの積載を認め、「燃料タンクは墜落現場で空の状
態で見つかり、現場にも漏れ出してはいない」と説明している。
米軍三沢基地によると、ヒドラジンはエンジンを動かす主発電機が故障した際、油圧
システムに電源を送るため使われる緊急パワーユニットの燃料。F16全機が搭載して
いるが、量は明らかにしていない。
事故当日は、釜石消防署員、地元消防団員ら約120人が現場に駆けつけ、消火活動
に当たった。地元消防団の菊池重年さん(58)は「現場で何も分からないまま消火作
業をしていたが、背筋が寒くなる。米軍に対し、市や釜石大槌消防本部とともに強く抗
議したい」と憤っている。
また、釜石市は、<事故当時「現場周辺はにおいも汚れもひどい状況だ」(市生活環
境課)ということでしたが>ジェット燃料が流出した現場近くの沢檜川の水質検査を来
週中にも実施し、燃料に含まれている可能性のある鉛や六価クロムなどの重金属が川の
水に含まれていないかどうかを調査する。
(河北新報2月11日)
としています。
ヒドラジンについてはすでに
Date: Fri, 29 Jan 1999 04:48:18 +0900
From: "MARUYAMA K." <kaymaru@mail.jca.ax.apc.org>
[aml 10889][keystone 1031] 米軍機墜落と環境汚染
で詳しく紹介されていますが、
<参照>河北新報(2月11日より)
◎立ち入り禁止必要/内藤裕史茨城県立医療大教授(中毒学)の話
ヒドラジンがまき散らされた場所に通常の服装で立ち入るのは極めて危険で、防毒マ
スクと全身を覆う防護服が必要。事故作業者への周知は当然なされるべきで、周辺住民
にも立ち入り禁止措置が必要だ。米軍から情報提供がなかったのであれば遺憾だ。
◎ヒドラジン
発がん性物質。高濃度だと1回の暴露でがんが発生する危険がある。衛星打ち上げロケ
ット燃料に使われ、F16戦闘機も使用。吸入や皮膚吸収で皮膚粘膜刺激、けいれん、
貧血、肝機能低下などが起こる。1986年に米国バンデンバーグ空軍基地で起きた衛
星打ち上げロケット空中爆発事故では、付近住民に外出禁止の警告が出された。
地元住民には、米軍への不信とともに、日本政府、マスコミへの不信をつのらせた人も
いると思います。日本で起きた事故ですから、当然情報は日本から発信されるはずのも
のと思いますが、この国の報道の流れもよくわかりません。