北海道小樽市では、米イ−ジス艦の寄港を受け入れました。
『北海道新聞』の社説でも指摘されていますが、「一自治体の対応に限界がある」など
と「及び腰」では困るのですが、一方でこの姿勢は、市民の不安を増大させ、函館市民
の「非核・平和函館市民条例」制定への期待をいっそう高めています。
『北海道新聞』『朝日新聞』の2月3日〜4日の報道によると
小樽市は2日、米第七艦隊所属のイ−ジス艦「ジョン・S・マッケイン」(ジェ−ム
ス・ワイズ艦長、8700トン、乗組員305人)の4日からの小樽寄港を受け入れる
ことを決め、外務省などに伝えました。
在札幌米総領事館によると、同艦は乗組員の休養と親善を目的として4日午前8時に
小樽港中央ふ頭に入港、9日午前9時に出港予定。日程には寄港中、乗組員による幼稚
園訪問などの親善、除雪ボランティア、さっぽろ雪祭り見学などが組まれています。一
般公開は「積雪期で危険」との同市の判断で行われません。
同市では1月下旬に同領事館に核搭載を問う質問の文書での回答を求めましたが、2
月2日午後、電話による「特定の核兵器搭載は論議しない」との内容が届いたのみだっ
たため、さらに文書での回答を求めたところ、「外交事項であり、外務省と協議してほ
しい」と拒否。外務省からは米側と足並みをそろえたごとく、同日午後4時ころ「核持
ち込み時の事前協議の申し入れがない以上、核持ち込みの疑いは有しない」との内容の
文書を新谷昌明市長に発送するという連絡があり、同市では受け入れを決めました。
軍艦マッケインは通知からわずか2週間で商業港に入港となりました。この文書は、
米艦が一昨年、昨年の米艦が函館港に入港した際の外務省文書と同じ内容。なお函館市
には同総領事館から文書の回答もありましたが、当該艦船の核不搭載を証明したとは言
い難いものです。
小樽市の須貝芳雄総務部長は「米側からの文書回答がないのは残念だが、核の不安は
外務省文書で解消された」としてますが、与党市議も「自治体として可能な何らかの歯
止めを考えないと、際限なく米軍艦の入港を認め続けることになる」と述べるなど、市
民は不安を解消したものではないと受け止めています。
小樽港には日米安保条約改訂後の1961年7月からこれまでに延べ58隻の米軍艦
が入港し、89年以降10年間で空母、巡洋艦、潜水艦が28隻寄港と特に急増してい
ます。
そのほかに、65年9月にニュ−ジ−ランド巡洋艦入港など、英国、オ−ストラリア
の軍艦、7隻が入港していますが、77年以降は、米軍艦しか入港していません。
1997年9月、小樽港に米空母インディペンデンスが入港する際は、非核神戸方式
の採用について、戦前から多くの軍艦船が入港してる「実績」があることを理由に「港
にはそれぞれ歴史的対応がある」として否定していた小樽市長でしたが、度重なる軍艦
の入港には「小樽港は商業港。準軍港化にはしない」と繰り返してきました。そして、
97年10月、札幌総領事館に「今後は文書で回答を得たい」と伝えました。この時の
電話でのやりとりを市では「約束」ととらえ、議会でも「今後は文書で回答を求める」
と「しいていえば小樽方式だ」と説明し、このたび初めて文書での回答を求めたもので
す。
しかし、今回の寄港に関して同総領事館では「核の有無という外交上の問題について
、(総領事館のような)1地方の出先機関が公式的な文書は出せない」と、この「約束
」を否定しています。
これに対して市では「時間的にも経過している。相手の事情が変わったとしかいいよ
うがない」とし、再び対応を検討し、「核の不安を解消するための質問は」続けていく
としています。(これだけでは、だれがだれをだましているのかわかりませんが)
【ジョン・S・マッケイン】(『北海道新聞』より)
高性能の電子装備とトマホ−クなど各種ミサイルを搭載した最新鋭の米海軍ミサイル
駆逐艦。速力32ノット。全長154メ−トル。1994年7月就役。米第七艦隊所属
で横須賀港が母港。軽量・簡易化した電子防空装置イ−ジス・システムを装備、160
キロ先の野球ボ−ルを識別すると言われる。対潜水艦作戦のほか、最先端の探知追尾シ
ステムとミサイルを結び付け、空母艦隊群を脅かす敵飛行機を発見し撃墜する。甲板前
部、後部に計90基のミサイル垂直発射筒を装備。搭載された巡行ミサイルには核弾頭
も装着可能。
一方、「国際観光都市に軍艦は似合わない」として、函館港に寄港するすべての外国
艦船に「非核」証明書を求める「非核・平和函館市民条例」の制定運動をしている「非
核・平和函館市民条例を実現する会」では、二ヵ月余りの間に2万7千筆の署名が集ま
り、3日、第1次分として函館市議会の石井満議長に提出しました。
これを受けて今後、市議会や政党間の調整がはかられることになりますが、外国艦船
への民間港提供は「国の専権事項である外交の問題で、自治体は決定に関与できない」
との政府見解があるなど、実現までの課題は多く、また、同様に「神戸方式」を港湾施
設管理条例の改定による採用で非核証明書の提出を義務付ける条例案を二月の定例県議
会に提出する高知県に対して、外務省が「条例化は困難」とする見解を示したように、
今後国サイドからさまざまな働き掛け(平たく言えば圧力、イヤガラセ)も予想されま
す。
同会では国との関係について、署名も「平和なまちづくりを願うのが目的で、政府に
反旗をひるがえす考えはない」ものだとし、@自治体の港湾管理権は国が簡単に介入で
きる領域ではない、A非核三原則は国是だから、核兵器の確認は国の利害に反しない−
ものであるという姿勢を明確にしています。
条例制定運動の盛り上がりの背景には、年々の米艦船寄港の既成事実による小樽港の
軍港化への懸念とともに、国の新ガイドライン関連法案への危機感があります。同会で
は、その中で同法案に「慎重な」公明党が賛同していることの意義は大きいとしていま
す。
また、この函館の運動の取り組みは、インタ−ネットやFAXなどで各地に伝わり、
関心もよせられているとのことで、1月半ばには田英夫さんから「市民自身がこのよう
な運動をつくりあげることは大事。感激した」と激励の電話も関係者に寄せられ、また
市議会内でも次第に賛同する会派が増えてきたとのことです。
しかし、短期間に集まった署名数からもわかるように、平和行政に対する住民の関心
の高さを、市議会でも無視できないはずですが、中には、「統一地方選挙がらみで民主
党や共産党が得点を稼ぎかねない」「会派として意思統一していないが、政府・自民党
が新ガイドライン関連法案の成立を目指している中で、(条例制定賛成には)乗りづら
い」などと、あいも変わらずリョウケンの狭い議員もおり、議会対策もまだまだ課題に
なりそうです。
国会での各党のあいまいもことした態度には、軍艦の入港や、日米共同軍事演習、低
空飛行など市民の不安を目の前に、現実を直視している各地の地元議員のなかにはさぞ
かし、はがゆい思いをしているかたもいることでしょう。