Date: Fri, 29 Jan 1999 18:43:29 +0900
From: Masahiko Aoki <btree@pop11.odn.ne.jp>
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Subject: [keystone 1032] Re: 米軍機墜落と環境汚染
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At Fri, 29 Jan 1999 04:48:18 +0900
MARUYAMA Kさん wrote:

>在日米軍機が高知沖と釜石近くの山林に相次いで墜落しましたが、釜石の墜落現場で
>はジェット燃料が沢に流出したと報道されています。
>
 汚染そのものも脅威ですが、問題はこの墜落現場に日本の警察も立ち入れな
いことです。現場の状況がどうなっているのか米軍提供の情報に頼るほかない。
 しかし普通事故が起こった時に行政が立ち入れないというのはおかしい。こ
れは日米地位協定によるものと説明されていますが、地位協定のどの部分にそ
れが書いてあるのかは明らかではありません。
 私の知る限り、墜落米軍機の「治外法権」の根拠について説得的に解説した
文書は有りません。以下に引用した文献に、それを「論じた」部分がありまし
たので、今後の議論の参考に転載しておきます。

 結論的に言いますと、米軍機は米軍の「財産」であるから、墜落したものに
ついて「不可侵権」ができるという解釈です。日本政府の公式見解でもあるよ
うです。それにしても事故の調査は、なにもばらばらになった米軍機(もはや
財産価値無し)をもらって帰ろうというのではありません。地域一帯が進入禁
止になる根拠になるとは思えません。一応「根拠」とされる地位協定の第23
条も末尾に転載しましたが、どう読んでもこれが事故現場の「治外法権」を認
めるものとは解釈できません。例えば我々が交通事故を起こしたときに、警察
に向かって「オレの私有財産に触れるな!」なんて通りますか?

 しかもこんなことを認めると、事故の調査がうやむやになって、また同じ事
故が繰り返される。米軍の「財産権」を優先するあまり、日本人の生存権が脅
かされる事態になっています。実際には「財産」云々はこじつけで、要するに
軍事機密を守りたいということでしょう。米軍の場合は、時には核兵器という
ヤバイ「財産」を積んで墜落することもありえますから、バレたら大変。
 恐らく、墜落事故の処理に関しては日米合同委員会の秘密合意(同委員会の
合意は原則非公開)によっているようです(下の引用参照)。日本側が「改
善」を申し入れることで対応は変わるはずです。

 そこでお尋ねしたいのですが、
・この墜落機の処理に関する法的根拠(形式的な意味しかありませんが)を説
  明?した文書・文献はあるのか。
 ・この問題がこれまで国会で取り上げられた例など。
 ・外国での駐留軍航空機事故の処理方法。現地国の立ち入り権など。
 
 岩国でも三沢でも事故原因の究明なしに飛行再開。自治体の飛行中止要請を
完全に無視。これではまたすぐに「神聖不可侵な」米軍「財産」が空から降っ
てくるのは避けられないでしょう。米軍は「パイロットだって命懸けだから安
全には気を付けている」と説明しますが、パイロットのためには緊急脱出装置
が用意されています。しかしこの「財産」を受け止める日本の住民にはそんな
便利なものはありません。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「在日米軍地位協定概論」(本間浩著)
p117

2 施設・区域の外での米軍およぴその構成員等の
  財産に関する特権

 外国軍隊が他国に駐留する場合、その軍隊の財産については駐留国に
おいて不可侵権が与えられる、と従来から一般的にいわれている。この
ことは、国際社会一般での慣習法原則になっている、と学説上も説明さ
れている。しかし、この不可侵が与えられるのは、駐留外国軍隊のどの
ような財産までか。軍隊に所属する構成員、軍属およびこれらの家族の
財産のうち、どの範囲のものにまで不可侵が与えられるのか。この不可
侵とは、どのような特権なのか。とりわけ、駐留基地の外にこれらの財
産がある場合には、どの程度の不可侵権が与えられるのか。これらの諸
点は必ずしも明確になってはいなかった。
 在日米軍地位協定では、米軍およびその構成員等の財産に対する不可
侵権に関する原則について、明示的な規定はおかれていない。しかし、
米軍およびその構成員等の財産の安全について両国が協力し、これらの
財産の安全および保護を確保するための措置を日本国政府が執ることを
約束する、という旨の原則を明示的に定めることによって、間接的に駐
留米軍およびその構成員等の財産に不可侵権が与えられるという原則が、
表されている。
 地位協定第23条によれば、米軍、その構成員、軍属およびこれらの家
族…の財産の安全を確保するため、日米両国は随時必要な措置を執るこ
とについて協力するものとし、さらに、日本国政府は、その領域におい
て米国の…財産…の十分な安全および保護を確保するため…必要な立法
を求め、および必要な措置を執ることに同意する。
 この原則によって、米軍およびその構成員等の財産については、それ
が施設・区域外にある場合でも米軍側に特権が与えられている。施設・
区域の隣接・近傍の地域を使用中の米軍の財産については、それが施設・
区域外にあるにもかかわらず、不可侵権などの特権が与えられるが、こ
のことは、その財産が米軍の所有または管理下にあることによるのであっ
て、路線権設置設定地域にあることによるのではない。
 とりわけ米軍の財産には、ジェット燃料・砲弾・火薬顆などの危険物
が含まれ、しかもこのような危険物がわが国の通常の鉄道、道路などを
経由して輸送されている。この危険物の輸送の場合も、危険物は米国財
産である故にそれについて米軍は特権を有する。さらに、米軍機が民家
に墜落した場合も墜落機そのものは米軍財産である故に米軍はそれにつ
いて特権を有する。反面、これらの例の場合の財産は、住民に危険や不
利益を生じている。それ故、日本政府側の執るべき措置は、住民の安全
または利益擁護への配慮と調整したものになるのでなければならない。
(中略)
 米軍財産の不可侵性は、施設・区域外の民家などに墜落した米軍航空
機についても適用される。これにもとづいて米軍はしばしば米軍機事故
立入り禁止措置をとる。そればかりではない。墜落した場所の管理者の
承諾を得ないまま米軍がそこに立ち入ることもある。しかし、このこと
は当該場所の権利者の権利を侵害することになりかねない。
 この点について国会答弁で明らかにされた外務省および法務省の統一
見解では、次のように述べられている。「施設区域外の米軍機事故現場
における手続に関する合意事項について。本合意事項は、合衆国軍用機
が合衆国軍隊の使用する施設または区域外にあるわが国の財産に墜落し
たときの緊急事態についての合意であり、一般的に言えば、墜落した場
所の管理者の承諾を得た上で立ち入るべきものであることは当然であり
ますが、このような緊急事態において急を要する場合には、あらかじめ
その場所の管理者の承認を求めるいとまのない場合もあるので、そのよ
うな場合に限り、管理者の承認を得ないで米軍の代表者が事故現場にお
いて緊急措置をとるため立ち入ることができるとしたものである。」
(第82回国会昭和52年10月13日衆議院予算委員会4号43ページ)。米軍の
このような権限は、地位協定第17条第10項(b)の米軍による施設・区域外
での警察権にもとづくというよりもむしろ、米軍財産の不可侵権にもと
づき、かつこれと住民側権利との調整を図ったことから生じたものであ
る。
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★地位協定第23条

第23条〔安全確保のための措置〕
 日本国及び合衆国は、合衆国軍隊、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれ
らの家族並びにこれらのものの財産の安全を確保するため随時に必要となるべ
き措置を執ることについて協力するものとする。日本国政府は、その領域にお
いて合衆国の設備、備品、財産、記録及び公務上の情報の十分な安全及び保護
を確保するため、並びに適用されるべき日本国の法令に基づいて犯人を罰する
ため、必要な立法を求め、及び必要なその他の措置を執ることに同意する。
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     Masahiko Aoki
     青木雅彦
     btree@pop11.odn.ne.jp

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