世紀末の1999年、約半世紀続いた戦後日本政治の最大の争点であった憲法
vs.安保という相容れない原理の対立にもいよいよ決着の時が近づいているようで
す。国防長官が新ガイドライン関連法の成立に尻を叩きに来て、自自連立に援護射
撃。「周辺事態法」だけでなく有事関連諸法令の成立と、有事の際に機能する新国
家機関の成立も急ピッチで準備されていると報道されています。
上記は安保の側を勝たせようとする努力ですが、憲法の側からの反撃もないわけ
ではありません。その一つが、自治体レベルで憲法を実現する動き。ちょうど「事
態法」審議が始まるのと同じ時期に、高知県と函館市でいわゆる非核神戸方式を条
例化する案の審議が始まるはずです。戦後憲法のもとで初めて実現した自治体の港
湾管理権を使って、非核証明を提出しない外国軍艦の入港を拒否する条例を作ろう
というものです。新ガイドラインが、自治体を国家(アメリカ)の戦争の「下請
け」として利用しようというのと正反対のベクトルです。神戸市の「神戸方式」は
議会決議であって条例にはなっていません。
まだこれを作ろうという自治体は少ないのですが、「ドミノ現象」を恐れるのが、
職員の給与は日本人の税金によって賄われているが実態は米国防総省の出先機関と
いう変則的なお役所の外務省北米局。高知県の条例化の動きに対して、地元選出の
自民党国会議員を使い走りにして「やめとけ」と圧力を加えたりの努力。
高知県は、この条例化について昨年5月に外務省に見解を質していましたがなか
なか返答がなく条例案提出が遅れに遅れていたのですが、このほど外務省から回答
がきたようです。この回答は竹内行夫北米局長名で、12月28日付け。すべての
新聞に載っていたわけではないので、ここでは地元高知新聞(1月7日付け)の記
事を一部引用します。
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それ(外務省文書)によると、
港湾管理者である自治体の権限は「港湾の適正な管理およ
び運営を図る観点のものにとどまる」とし、自治体が行う危険物の取り扱い
に関する規制や港湾施設の使用規制と、外国軍艦の寄港に関する国の決定と
は「別個の問題だ」と強調。自治体に与えられた権限は「国の決定に関与す
ることまでを認めたものではなく、国の決定を制約できない」としている。
その上で、県の非核港湾条例化(県港湾施設管理条例の一部改正)につい
て「外国軍艦が核兵器を搭載していないことを証明する書面を提出しないと
いう理由により、外国軍艦の港湾施設の使用を規制し、これを認めないとす
る権能を与えるものだ」と指摘。これは国の決定に自治体が「関与」または
「制約」することになり、港湾管理者の権限を「逸脱」するものであり、自
治体の事務としては「許されない」とし、条例化を明確に否定している。
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要するに、政府が米艦を入れると決めたら自治体は拒否できない(拒否は「許さ
れない」と最高に強い表現を使っているのです)。これは地方自治法や港湾・港則
法を否定するだけでなく、政府自身が「事態法」の実施に関して「自治体に強制は
しない」としていた見解も否定するもので、あの中村某の暴言もはるかに超える暴
「見解」です。
選挙で選ばれたわけでもない外務省の一役人が出した「見解」が正式解釈になる
としたら、これはもうクーデターです。抗議というよりはこれは撤回させるより他
ないのですが、そのための行動提起は他の方がされると思います。ここでは今後の
ために、皆様のお知恵を拝借して私自身にとって不明な幾つかの点を確認させてい
ただきたいのです。
(1)条例は「外国軍艦」一般を問題にするはずだが、外務省の回答が「北米局」
になった経緯は何か。
もちろんこういう条例が通ったら最大の「被害者」は米軍になるのは間違いない
のですが、「北米局」=外務省ではないはず。
(2)自治体の港湾管理権と、政府の「外交権」の関連についてまとめて考察した
文献をご存じの方はご教示ください。また諸外国ではこのような場合法的に
どう処理されているか、ご存じの例があれば教えてください。
この問題について赤旗1月8日号に、神戸大教授和田 進氏と名古屋大教授市橋
克哉氏の比較的長文のコメントがありますが、今後の「理論闘争」のためには典
拠つきのもっと詳しい資料が欲しいのです。自治体にちゃんと知恵を付けるという
意味でも必要です。
(3)上記の高知新聞記事に以下のようなくだりがあります。
> ただ、自民党は九年の十二月定例会で「高知県の港湾における非核平和利
> 用に関する決議案」を共同提案、全会一致で可決している。このため、決議
> と条例の位置付けをどう整理し、落としどころを見いだすか。
この自民党の「非核利用決議」とはどんなものでしょう。地元では報道されてい
るのでこの記事では説明を端折ったということだと思いますが、ご存じの方があれ
ば。自民党と言ったて、安全保障問題では一枚岩ではない(そこが小沢氏の付け目
なわけ)ので、呪文のような安保マインドコントロールが解ければ結構良心的とい
うか当たり前の反応をする可能性もあります。
なおすでにこのMLで案内させていただきましたが、「神戸方式」と自治体港湾管
理権については、非核市民宣言運動・ヨコスカ発行の『神戸方式の今日的意味と平
和船団の不思議』(98年刊、200円)が入門として分かりやすくまとめられてい
ます。
連絡先:0468-25-0157(fax/tel)
それにしても、あの「自自」の密室の「安保協議」。無気味です。政府・与党は
「期限」の迫った新ガイドライン関連法について何も説明しない。国民が眠りこけ
ている間に、自由や人権・平和的生存権が完全に奪い取られている。気付いた時に
は憲法は凍死。これじゃ政府・与党+米国は最悪の「昏睡強盗」だア!
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Masahiko Aoki
青木雅彦
btree@pop11.odn.ne.jp
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