仲田です。
「改正」米軍用地違憲訴訟の訴状です。長めですので2回に分けます。
資料提供は違憲共闘会議事務局長の安里さんです。
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「改正」米軍用地特措法違憲訴訟
訴 状
原 告 有 銘 政 夫
(以下略)
右原告ら訴訟代理人 別紙訴訟代理人目録記載のとおり
〒一〇〇−〇〇一三 東京都千代田区霞が関一丁目一番一号
被 告 国
右代表者 法務大臣 中村 正三郎
訴訟物の価格 金 円
貼用印紙の額 金 円
請 求 の 趣 旨
一 被告は、別紙「物件目録及び損害金目録」記載の土地につき、賃借権、使
用権、その他これを占有すべき正権原を有しないことを確認する。
二 被告は、原告らに対し、一九九七年五月一五日から各支払い済みに至るま
で一年につき次の割合による金員を支払え。
1 原告有銘政夫に対し金八三万三七五九円
2 原告眞榮城玄徳に対し金一三五九万二〇二〇円
3 原告池原秀明に対し金六八八一円
4 原告大城保英に対し金六八八一円
5 原告宮城正雄に対し金一三七八万一五八八円
6 原告島袋善祐に対し金二五八万一六〇九円
7 原告津波善英に対し金一三九万一五三四円
三 被告は、原告らに対し、それぞれ金一〇〇万円及びこれに対する一九九七
年五月一五日から各支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
請 求 の 原 因
第一 当事者
一 原告らは、いずれも米軍基地内に土地を所有し、復帰前に米軍によって
土地を強奪され、土地を強制的に米軍基地として使用されてきたものであ
り、復帰後は、被告国との賃貸借契約締結を拒否し、土地の返還及び米軍
基地の撤去を求めて長年闘ってきている「反戦地主」である。
二 被告国は、日米安保条約上の義務を履行すると称して、復帰後もさまざ
まな理由をつけて原告ら所有の土地を地主に返還せず、日米地位協定に基
づき右土地を米軍に提供しているものである。
第二 土地所有
原告らは、別紙「物件目録及び損害金目録」記載の土地(以下、本件各土
地という)を同目録記載の基地内に各々所有している。
第三 使用裁決に定められた使用期間の満了
一 本件各土地については、沖縄県収用委員会が米軍用地特措法に基づき一
九八七年(昭和六二年)二月二四日になした強制使用裁決が存在する。同
裁決は、使用期間を権利取得の日から一〇年、権利取得日を一九八七年五
月一五日と定めている。
よって、一九九七年(平成九年)五月一四日の経過により、右使用期間
は満了した。(なお、本件訴訟においては、「日本国とアメリカ合衆国
との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに
日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使
用等に関する特別措置法」を「米軍用地特措法」と略称する)
二 右使用期間の満了により、被告国は、右使用裁決に基づく強制使用権を
失うこととなった。
第四 違憲立法
一 米軍用地特措法の一部「改正」と本件各土地への適用
1 被告国は、使用期間の満了により、一九九七年五月一五日以降、本件
各土地に対する強制使用権を失い、不法占有という事態に陥ることが明
らか(に)なったことから、同事態を解消するため急遽、一九九七年四
月二三日「米軍用地特措法の一部を改正する法律」(法律第三九号、以
下「改正」法という)を制定公布し、同「改正」法は即日施行された。
2 右「改正」法は、従前の米軍用地特措法に「第一五条」「第一六条」
「第一七条」の三条を加えるものであるが、同一五条は、次のような内
容を持つものである。
「第十五条 防衛施設局長は、駐留軍の用に供するため所有者若しくは
関係人との合意又はこの法律の規定により使用されている土地等で引
き続き駐留軍の用に供するためその使用について第五条の規定による
認定があったもの(以下「認定土地等」という。)について、その使
用期間の末日以前に前条の規定により適用される土地収用法第三九条
第一項の規定による裁決の申請及び前条の規定により適用される同法
第四七条の二第三項の規定による明渡し裁決の申立て(以下「裁決の
申請等」という。)をした場合で、当該使用期間の末日以前に必要な
権利を取得するための手続が完了しないときは、損失の保障のための
担保を提供して、当該使用期間の末日の翌日から、当該認定土地等に
ついての明渡裁決において定められる明渡しの期限までの間、引き続
き、これを使用することができる。ただし、次の各号に掲げる場合に
おいては、その使用の期間は、当該各号に定める日までとする。
一 裁決の申請等について却下の裁決があったとき
前条の規定により適用される土地収用法第百三十条第二項に規定す
る期間の末日(当該裁決について同日までに防衛施設局長から審査請
求があったときは、当該審査請求に対し却下又は棄却の裁決があった
日)
二 当該認定土地等に係る第五条の規定による使用の認定が効力を失っ
たとき
当該認定が効力を失った日
2 省略
3 省略
4 省略
5 省略
6 省略
7 省略」
3 右「改正」法附則2は、この「改正」法の施行前に「改正」前の米軍
用地特措法により使用されている土地等について同法五条の使用認定が
あった土地について、防衛施設局長がその使用期間の末日以前に「改正」
前米軍用地特措法に基づく権利取得裁決申請及び明渡裁決申立をしてい
た場合についても、「改正」により新たに加えられた一五条ないし一七
条の規定を適用する旨、規定している。
4 「改正」法附則2により一五条ないし一七条が本件各土地にも適用さ
れることとなった結果、被告国は、本件各土地につき明渡裁決において
定められる明渡日までの間、又は一五条一項本文但し書において定める
日までの間、暫定的に本件各土地につき使用権を取得することとなった。
二 「改正」法は違憲無効
1 「改正」法一五条の違憲無効性
(一) 「改正」法一五条は、憲法二九条の財産権保障に違反する。
憲法二九条一項は「財産権は、これを侵してはならない」と財産権
の不可侵性を定めている。そして同条三項の「私有財産は正当な補償
の下にこれを公共のために用いることができる」との規定を受けて、
土地収用法が制定されている。
使用期限が切れたら、土地をただちに所有者に返還するのは法治国
家として当然のことである。「土地の使用期限が切れても返還しなく
てもよい」との今回の「改正」法は、憲法二九条一項の財産権の保障
を乱暴にも踏みにじるものである。
今仮に、米軍用地のための土地の強制使用が認められるとしても、
そのためには、憲法二九条三項の規定を受けて収用委員会の使用裁決
が必要とされているのである。
収用委員会の裁決がなくても、ましてや本件事実のごとく却下裁決
が現になされたにもかかわらず、強制使用を認める今回の「改正」法
は、憲法の財産権の保障を頭から否定するものに他ならない。
(二) 「改正」法は憲法三一条の適正手続保障に違反する。
憲法三一条が、行政手続においても適用されることは確定した判例
である(最高裁平成四年七月一日判決)。そして、憲法三一条によっ
て具体的には、告知と聴聞の機会を与えられる権利、事後の不服申立
手続の存在、中立機関による事前の裁定、手続継続による期待権のそ
れぞれが保障されている。しかし、「改正」法は右憲法三一条に真っ
向から反するものである。
「改正」法においては、収用委員会の裁決を経ることなく、内閣総
理大臣の使用認定、防衛施設局長の裁決申請、担保提供等の一方的行
為がなされれば、地主に対する事前の告知・聴聞の機会を与えること
なく強制使用が可能となる。権利主張の機会が事前に全く与えられな
いまま、内閣総理大臣及び防衛施設局長の意思のみで、自己所有の土
地を自己が使用できないだけでなく、自己の望まない方法で使用され
てしまうのである。
また、内閣総理大臣の使用認定、防衛施設局長の裁決申請、担保提
供等がなされれば一方的に暫定使用権原が発生し、その適法性を争う
手段が全く存在していないばかりか、中立機関による事前の裁定も存
在しない。起業者から独立した第三者機関である収用委員会が、国民
の権利主張を聞いた上で、公正・中立な立場で審理・裁決をしてこそ、
中立機関による事前の裁定がなされたと言えるのであるが、「改正」
法は、収用委員会の審査を全く経ることなしに防衛施設局長の裁決申
請と、その後の担保提供(さらには本件の場合建設大臣への審査請求)
という一方当事者の手続のみで強制使用を可能としているのである。
以上により、「改正」法は、憲法三一条が保障する各種原則に、二
重三重に違反する。
(三) 「改正」法は憲法四一条の立法概念を逸脱する。
憲法四一条は「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法
機関である。」と規定している。右の「立法」とは、受範者が不特定
多数であるという性格(一般性)、かつ、規制の対象となる場合ない
し事件が不特定多数であるという性格(抽象性)を有する法規範の定
立であると解されている。一般的・抽象的法規範に基づく具体的な権
力作用の行使は、誰にも平等に適用され、行政府の恣意的意思の支配
を排除することになって、まさに、日本国憲法の標榜する実質的法治
主義の思想に適合的だとされるのである(芦部信喜「憲法」新版、岩
波書店、二六四頁)。
しかし、「改正」法が、本件土地を含む原告ら所有の土地について、
不法占拠を回避することを唯一の目的として制定された法律であるこ
とは、各種マスコミ報道や衆議院の「日米安保保障条約の実施に伴う
土地使用等に関する特別委員会」等における国会審理での久間防衛庁
長官(当時)の答弁によっても明らかである。
「改正」法は、受範者が未契約地主三〇〇〇人だけに特定されてい
るという意味で個別的であり、右地主らが賃貸借契約を拒否している
場合にだけ適用されるという意味で具体的である。
このような個別的法律は、反戦地主らの権利をねらい撃ちにするも
のであって、まさに「立法の専制」ともいうべきものである。このよ
うに一般的・抽象的性格を欠く法規範の制定は、とうてい憲法四一条
の「立法」には当たらず、法規範としての効力を持たない。
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仲田博康
nakada_h@jca.ax.apc.org
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