沖縄県で酒を呑んだ米海兵隊員にひき逃げされ、意識不明の重体が続いていた、北中
城高校3年の上間悠希さん(18)は、14日午後10時過ぎ亡くなりました。15日
には私は、それをまだ知らず、外務省に手紙を書いていました。翌日彼女の死を知りま
した。 今回の事故に関しては、私の元へは、直接情報は何も届きませんでしたし、大
手新聞はあまり詳しく伝えてくれず、主に沖縄で発行している新聞の記事で、事件の経
過を知りました。
この事件は、10月7日、海兵隊員(キャンプ端慶覧所属、米海兵隊伍長23才)が
、キャンプ・フォスターの兵舎で酒を飲んだ後、午前三時ごろから、立ち入りが禁止さ
れている地域に出向き酒を飲み、車で兵舎へ戻る途中上間さんが運転するミニバイクに
追突し、そのまま基地に逃げ込んだものです。
日米地位協定の規定で、米兵を県警が逮捕できないまま、起訴ということになりまし
たが、書類送検から約28時間という異例の早さの事件処理となりました。起訴後は法
廷の場に移り、捜査機関による取り調べは行われません。ひき逃げ事件が起きても、米
軍側の捜査機関に拘束された米兵を県警が逮捕できないのは、彼らが日米地位協定一七
条五項cで守られているからです。(第17条[刑事裁判権]5項C:日本国が裁判権
を行使すべき合衆国軍隊の構成員又は軍属たる被疑者の拘禁は、その者の身柄が合衆国
の手中にあるときは、日本国により公訴が提起されるまでの間、合衆国が引き続き行う
ものとする)
酒を呑んだうえのひき逃げという悪質で重大な事故がおきたにもかかわらず、日本政
府は、日米地位協定には言及せず、当面の批判をかわして済まそうという卑怯な思惑に
終始しました。
日米地位協定(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に
基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定)については
、4年程前の暴行事件を契機にアメリカの「好意的配慮」で「見直し」がされましたが
、この見直しが当初から「意図的に玉虫色にしてある」と在日米軍関係筋が話している
ように、今回の事件で県警の逮捕同意に米軍側は「起訴前引き渡し事案に該当しない」
と拒否し、「玉虫色」があらためて実証されました。
沖縄県警は、身柄の引渡しを断念し、12日午後、業務上過失傷害と道路交通法違反
(ひき逃げ、酒気帯び運転)の疑いで海兵隊員を書類送検しました。被告の身柄は13
日午後6時前、那覇地裁が勾(こう)留状を執行したのに伴い日本側に移り、那覇拘置
所に収監されました。今回のスピード対応について、民主団体や専門家らは「協定見直
しを求める県民感情の高まりを避けることだけが優先された」と反発し、「協定の抜本
的見直しが必要」との声が上がっています。
しかし、小渕首相は16日の全国知事会で、「日米安保条約を円滑に運用するために
一定の特別な法的措置を認めることは国際法上も認められたこと。現時点で見直す必要
はない」とし、記者会見でも、米海兵隊のひき逃げ事件によって亡くなった上間さんに
ついて「めい福を祈り、遺族の方々には心からお見舞い申し上げたい」と述べただけで
、地位協定には一切ふれませんでした。この記者会見をラジオで聴きましたが、記者側
からも質問は出ませんでした。また高村外相も衆議院の沖縄・北方問題特別委員会で1
4日、日米地位協定に関して「外国軍隊の法的地位を認めることは一般国際法にも確立
した原則」「現時点では改定が必要とは考えていないが、私なりに勉強してみたい」と
答弁しています。そして、沖縄県出納帳らが、19、20の両日外務省や在日米軍司令
部などを訪れて地位協定の見直しを訴えましたが、「運用の改善には努力するが、見直
しは考えていない」と姿勢を変えませんでした。外務省幹部は操作段階からの米兵容疑
者の身柄を日本側が拘束するとの見直し要請について、「なぜ見直しが必要なのか。米
軍は逃走防止に務め、よき隣人となるべく努力している」と語り、特別扱い批判には「
駐留していただいているのだから、外交官と同様の特別扱いは当然だ。米国とほかの同
盟国との協定と比べても日本に不利ではない」とまでその考えを示したということです
。
16日夕、東京から帰任した大田昌秀知事は、同日午前の全国知事会で小渕恵三首相
が、日米地位協定の見直しに否定的な見解を示したことについて「政府と県民の考えの
間にはズレがある。それをどう埋めていくかという課題に取り組まなければならない」
「豪州や韓国など他国との地位協定の比較や文言を慎重に調整し、要請したい」と述べ
、今後も地位協定見直しを粘り強く要請していくことを明らかにしました。しかし、基
地対策に関する要望書をを出した(97/7/23)「渉外関係主要都道県知事連絡協議会」
でも同じく地
位協定とその運用について見直しを求めているはずですが、何の対応も伝えられていま
せん。
私には、国際法についてはよく知りませんし、この法律が正しいかどうかもわかりま
せんが、地位協定は、軍隊のために作られたものであり、私たちの人権を侵すものだと
思っています。また、海兵隊員の数々の蛮行は、法律うんぬん以前に許されないもので
すが、事件の加害者となった隊員は、同時に軍隊の暴力の被害者でもあります。彼らは
軍隊の仕組みに差し障りがあると判断されれば、市民としての良心を破壊されたまま追
放され、生涯その後遺症に苦しみ続けるのです。地位協定は彼らを犯罪者に追い立てる
道具の一つにもなっていると思います。
海兵隊による事件が相次ぎ、今回のようにあいまいなままにされるうちに、アメリカ
市民との間に、いわれのない敵愾心などが生まれるのではないかと不安になったことも
あります。でも今、海兵隊の実態を知る市民などの間で、軍隊の暴力を許さないと訴え
る国際的な連帯が作られつつあることも感じています。私たち市民には決して過去の過
ちを繰り返してはならないという共通の認識があるからだと思います。
外務省への手紙
謹啓
お忙しいところ誠に恐れ入りますが、下記を関係担当の方にお伝えくださいますよう
お願い申し上げます。
ひき逃げ事故にあい、今、生死をさまよい苦しんでいる少女を案じる一人としてお便
りをさしあげています。
新聞報道で、沖縄県北中城村の国道330号で今月7日発生した米兵による女子高校
生ひき逃げ事件を知りました。被害者は意識不明の重体とのことです。
今回の事件は、酒気を帯びた上のひき逃げという大変重大な事故です。
地元沖縄から、米兵による暴行事件を機に殺人など「凶悪」な犯罪の際には起訴前の
身柄引き渡しもあるとの見直しがなされたことから、起訴前に日本側へ被疑者の身元引
き渡しがあってしかるべきという声があったのは当然でした。地元警察も、その義務を
果たすべく、沖縄県警は外務省に日米合同委員会への付託を要請するかどうかなどを警
察庁と協議していました。しかし、野中広務官房長官が「齟齬(そご)が生じる事態と
はなっていない」として、身柄引き渡しの必要はないと記者会見で表明し、米軍と立場
を同じにしたことなどから、その引き渡しを断念し、凶悪事件にもかかわらず、引き渡
しがないまま書類送検、起訴という経過になりました。
那覇地検は13日午後四時前、業務上過失傷害と道交法違反(ひき逃げ、酒気帯び運
転)で在沖米海兵隊伍長被告(23)を起訴したとのことですが、これをもって、事件
を一段落させたようなむきがあるのは、大変見当違いだと思います。
日本国内で起きた事件にもかかわらず、被害者の手当をせず被疑者が米軍基地内に逃
げ込んだため、日米地位協定の規定によって、その身柄の拘禁を合衆国が行ったもので
す。日本国憲法には、主権在民を明記しており、それに反する一切の憲法・法令などを
排除すると定めらています。今回の事件に対する日本政府及び米軍の姿勢は、被害者に
対してはもちろんのこと、私たち日本に住むすべての市民の主権をはなはだしく侵すも
のです。これに関しては、日米地位協定の在り方に問題があるとして、1995年頃か
ら、その見直しがもとめられ、殺人、婦女暴行などの重大事件については、起訴前でも
日本側の要請に「妥当な考慮を払う」とした「地位協定の運用」がはかられました。し
かし、今回の凶悪事件では、市民が米海兵隊の憲兵隊に拘束されている被疑者の身柄引
き渡しと逮捕に同意するよう要請したのに対し、米海兵隊は「起訴前の身柄引き渡しは
日米合同委員会で協議する問題である」としてこれを拒否しました。これはアメリカの
「好意的な運用」では、私たちの主権は守れないということが判明したということでは
ないでしょうか。
また米軍のあいまいな態度を日本政府が容認することは、被害者の人権を侵すばかり
か、加害者にも、自らの罪の重大性の認識を持ち更正する機会をも奪う人権侵害ともな
ります。米兵の犯罪を未然に防ぎ、米兵を犯罪者としないためにも、日本政府には米軍
に対し毅然とした態度を望んでいます。
今回は異例なほど、起訴からの進展が早いといわれ、それは、米軍への配慮、政治的
配慮があったからだといわれているようですが、私にはその「配慮」なるもの自体はよ
くわかりませんが、私たちの人権に「配慮」したものだとはどうしても思えません。
私たちが、アメリカと真の友好関係を築くためにも、一方の主権を侵し、人権を無視
するような地位協定は、みなさまの努力によって、見直し、願わくば撤廃してほしいと
思います。
なお、事件には、今回起訴された被疑者の他にも関係者がいたということも聞き及ん
でおります。また、今回の事故は「公務中」であるのか否かも明白ではありません。こ
れらについて外務省ではどのように把握されていますでしょうか。
私は、新聞報道で事件を知ったのですが、認識に誤りがありましたらご指摘ください
。また、外務省では、市民から強く要請の声が上がっている「地位協定」の見直しにつ
いて今後どのように取り組まれるお考えか、お聞かせいただければ幸甚です。
皆さまとともに、被害者の一日も早い回復を願っています。
かしこ
1998年10月15日
加賀谷 いそみ
3月、4月、5月、6月、7月、8月、9月、10月、11月、12月