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To: "キーストーン" <keystone@jca.ax.apc.org>
Subject: [keystone 543] 反戦地主訴状
Date: Tue, 18 Aug 1998 01:00:48 +0900
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相模原の仲田です。
[keystone 536]に一坪反戦地主会の訴状がアップされました。
今回は、反戦地主会の訴状です。

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 訴 状
                              原    告  別紙原告目録記載のとおり。 

                              右訴訟代理人  別紙代理人目録記載のとおり。

900−0021 沖縄県那覇市泉崎1丁目2番2号
    被 告   沖縄県収用委員会
    右代表会長 当山尚幸
 

土地使用裁決取消請求事件
 訴訟物の価格  民事訴訟法第22条第2項
 貼用印紙の額  金          円
 

         請 求 の 趣 旨

一 被告沖縄県収用委員会が、平成10年5月19日、別紙目録第1ないし第11
 記載の土地についてなした使用裁決を取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。

         請 求 の 原 因

第一 土地所有関係

  別紙目録第1ないし第11の所有者欄記載の各原告らは、それぞれ同目録の土
 地欄記載の各土地(以下、「本件土地」という)を所有している。
 
第二 本件行政処分
 
  被告沖縄県収用委員会は、起業者那覇地方法務局長からの申請に基づき、平成
 10年5月19日、本件土地につき、権利取得及び明渡しの時期を平成10年9
 月3日とし、使用の期間を左記のとおりとする使用裁決(以下、「使用裁決」と
 いう)をなした。
 
           記 (使用の期間)
   別紙目録第1、3、4、5、6、8、10、記載の土地について、権利を取
  得する時期から5年間
   別紙目録第2記載の土地について、権利を取得する時期から1年間
   別紙目録第7、9記載の土地について、権利を取得する時期から4年間
   別紙目録第11記載の土地について、権利を取得する時期から平成13年3
  月31日まで
  
第三 本件裁決の違憲性(却下事由その一)

  本件裁決は、憲法に違反する日米安保条約、日米地位協定、日本国とアメリカ
 合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日
 本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関す
 る特別措置法(以下、「米軍用地特措法」という)に基づく無効なものであり、
 少なくともその取消を免れない。
 一 安保条約、地位協定は、憲法に違反し、無効である。
   本収用裁決は、日米安保条約、日米地位協定、米軍用地特措法及び土地収用
  法に基づき、在日米軍に対しその必要とする施設・区域を提供するためになさ
  れたものである。
   しかし、日本国憲法は、軍隊の駐留とそのための土地の強制収用を認めてお
  らず、安保条約をはじめ地位協定、米軍用地特措法は違憲であり無効である。
  1 安保条約は憲法の非武装平和主義原理に反し、憲法前文・憲法9条2項前
   段に違反する。
   (一) 日本国憲法が徹底した非武装平和主義の原理に基づいており、前文
    においては「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやう
    にする」と規定している。
     右規定の意味は、積極的な戦争準備行為あるいは戦争の実施を禁止して
    いるだけでなく、広く消極的な不作為を含めて、政府の行為が原因となっ
    て戦争の惨禍が起こることのないようにすることにある。政府の行為が原
    因となって、他国間の戦争に巻き込まれて、その惨禍を受けることを一切
    なくすることも当然に含まれている。
     したがって、在日米軍の駐留と「極東」における米軍の自由行動を認め
    る安保条約6条は、憲法前文に違反する。
   (二) また、憲法前文は、「日本国民は、・・・平和を愛する諸国民の公
    正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と述
    べ、日本国民の安全と生存は軍事力によらず、「諸国民の公正と信義」に
    よって確保することを明らかにしているが、安保条約6条は、アメリカに
    のみ我が国に軍事基地を設置することを認め、その軍事力=在日米軍によ
    って日本国民の安全と生存を維持しようとするもので、この点でも憲法前
    文に違反している。
   (三) 憲法9条2項前段は、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しな
    い」と規定している。その趣旨は、前文で示された非武装平和主義の原理
    を具体化し、あらゆる戦力の保持を否定することによって、自衛戦争であ
    ると侵略戦争であるとを問わず、一切の戦争を不可能ならしめるところに
    ある。
     このような憲法9条2項の前段の法意からすれば、我が国自体が軍隊を
    保持しないということの外に、我が国の領土に外国の軍隊も保持しないと
    いうことも当然に同条項に含まれているものと解される。
   (四) したがって、在日米軍は、右「戦力」に該当するので、その駐留を
    認める安保条約6条は、憲法9条2項前段に違反する。
  2 安保条約は、米国の世界戦略に基づき米国の国益を第一義的目的に行動す
   る米軍の駐留と基地確保を目的としており、憲法9条に違反する。
   (一) 安保条約第5条は、「各締約国は、日本国の施設の下にある領域に
    おける、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うく
    するものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の
    危険に対処するように行動することを宣言する。」としており、これがア
    メリカ軍の日本防衛義務を定めたものとされる。しかし、在日米軍が日本
    を防衛しているというのは全くの神話にすぎない。
   (二) 従来、岸首相とハーター国防長官との間で合意された「条約第6条
    の実施に関する交換公文」に基づく「事前協議」によって、在日米軍が
    「極東条項」を逸脱することは無いとされてきた。
     しかし、ベトナム戦争や湾岸戦争において、一度も「事前協議」がなさ
    れなかったという事実を見るならば、「事前協議」が米軍の自由出撃の何
    らの歯止めになっていないことは明らかである。
     これらの事実は、在日米軍の実態が、日本防衛の軍隊でなく、アメリカ
    の国益を第一義的目的として行動する世界のどこにでも出動できる部隊で
    あることに照応して、米軍の自由出撃に対し「歯どめ」とされてきた「事
    前協議」も、もはやなんの制約にならないことを明らかにしており、安保
    条約の違憲性は、安保条約制定時よりも、一層強まっている。
  3 安保条約は、日本国民の平和的生存権を侵害している。
    日本国憲法は、徹底した平和主義の理念を実現するためには、単に戦争及
   び戦争準備と軍備を全面的に否認する法制度を設けるだけでは不十分である
   と考え、人の平和的生存を、たんに国家が平和政策をとることの反射的利益
   としてとらえる従前の理解から原理的な転換を遂げて、平和をまさに権利と
   して把握し、「恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」を確認
   した。これが平和的生存権である。
    ところで、日米安保条約第6条は、アメリカに軍事基地の設置と軍事行動
   の自由を許容しているが、軍事基地は、言うまでもなく戦争遂行と戦争準備
   行為のために使用されるものであるから、軍事基地の設置を許容する日米安
   保条約6条は、日本国民の平和的生存権を侵害するものである。
    さらに、アメリカは、安保条約に基づく在日米軍基地を利用することによ
   ってベトナム戦争、湾岸戦争を遂行し、日本政府は、これに協力加担してき
   たが、この点からみても、日米安保条約は、日本国民の平和的生存権を侵害
   するものである。
 二 米軍用地特措法は憲法に違反し無効である。
  1 米軍用地特措法そのものが憲法に反する。
   (一) 米軍用地特措法は、国が、「駐留軍の用に供する」という軍事目的
    を実現するために国民の私有財産を、強制的に使用または収用することを
    内容とするものであり、憲法に違反する安保条約及び地位協定にその根拠
    をおく以上、当然に違憲無効である。
     さらに、米軍用地特措法が安保条約や地位協定ともども、憲法前文、9
    条及び13条によって宣言・保障された徹底した非武装平和主義に反し、
    国民の平和的生存権を侵すばかりでなく、憲法上許されない軍事目的のた
    めの強制収用は、私有財産を「公共のために用いる」場合にあたらず、憲
    法29条3項に違反するものである。同時に、米軍用地特措法は、土地収
    用法に比較し、著しく収用手続が簡略化されており、適正手続を保障して
    いるものとは言えず、憲法31条にも反する。
   (二) 米軍用地特措法固有の違憲性については、特に次の点を指摘しなけ
    ればならない。日本国憲法の制定にともない、米軍用地特措法がその多く
    を準用している土地収用法から軍事目的の土地収用は削除された事実であ
    る。すなわち、戦前の土地収用法には「国防其他兵事ニ要スル土地」をも
    収用対象とされ、帝国陸海軍のための土地収用が規定されていたのである
    が、新憲法制定にともない、右条項は削除された。軍隊のための土地取り
    上げ、土地の強制収用が憲法の非武装平和主義に反すると考えられたから
    に他ならない。現に自衛隊用地取得のための個人の所有地の公用収用は認
    められていない。
   (三) 米軍用地特措法は憲法29条に反する。
     財産権は、私有財産制の下において、自己の自由にできる財産を保有し
    たいという人間の当然の要求に支えられ、人間の自由なる実存を確保する
    ため必要不可欠な重要な権利であり、この財産権を制約しうるのは、立法
    の目的が正当であり、その制約の程度も必要最小限度の場合に限られる
    (憲法29条2項・3項)。
     平和主義・平和的生存権は、憲法上の他の価値体系の基礎であり、憲法
    体系の中核をなす基本原理であって、法規範性・実効性を有するところの
    効力規定であり、これに優越し、これを制約するような「公共性」は存在
    する余地がないというべきである。したがって、日本国憲法の下において、
    「駐留軍の用に供する」という軍事目的の実現のために、国民の所有する
    土地を強制的に使用または収用 することが、「公共性」をもちえず、憲
    法29条3項の「公共のために用いる」ことにあたらないのは当然であっ
    て、米軍用地特措法が、憲法29条3項に違反することは明らかである。
   (四) 米軍用地特措法は憲法31条に反する。
     米軍用地特措法においては、以下に指摘するように、使用・収用の認定
    にいたる事前手続における権利保渡の手続が、土地収用法に比較して、形
    式化・形骸化されており、適正手続を保障した憲法31条に違反するもの
    である。
    (1) 土地収用法においては、起業者が建設大臣または都道府県知事に事
     業認定申請書を提出する際の添付書類として事業計画書の添付を義務づ
     けている(土地収用法18条)。この事業計画書には、事業計画の概要、
     事業の開始及び完成の時期、事業に要する経費及びその財源、事業の施
     行を必要とする公益上の理由、収用または使用の別を明らかにした事業
     に必要な土地等の面積、数量などの概要並びにこれらを必要とする理由、
     起業地等を当該事業に用いることが相当であり、かつ土地等の適正かつ
     合理的な利用に寄与することになる理由が記載されるようになっている
     (規則3条1項)。「事集計画書」は申請に係る事業の内容を具体的に
     説明するものであり、事業の認定機関は、この「事業計画書」に記載さ
     れた事項をもとにして、収用の可否を判断するのであるが、米軍用地特
     措法は、使用または収用の認定の申請に、このような「事業計画書」も
     しくはそれに相当する使用・収益の内容を具体的に説明した書類の添付
     は要求されていない。
    (2) 土地収用法においては、建設大臣または都道府県知事は、事業の認
     定を行おうとするとき、起業地が所在する市町村の長に対して、事業認
     定申請書及びその添付書類のうち、当該市町村に関係のある部分の写し
     を送付しなければならず(24条1項)、右書類を受け取った市町村長
     は公告の日から2週間右書類を公衆の縦覧に供しなければならず(同条
     2項)、また、事業の認定に利害関係を有する者は、右2週間の縦覧期
     間内に、都道府県知事に意見書を提出することができる(25条1項)。
     ところが、米軍用地特措法では、この事業認定申請書、添付書類の送付
     及び縦覧の手続は無く、利害関係人の意見書の提出についての定めもな
     い。国民の権利保護手続として不十分である。
    (3) 土地収用法は、事業の認定を行おうとする場合において、必要があ
     るときは、公聴会を開いて一般の意見を求めなければならない(23条)
     と規定している。憲法31条の適正手続の保障の一環として、事業認定
     の公正・妥当さを保障するために認められた極めて重要な制度である。
     米軍用地特措法は、土地収用法23条の適用を除外し、公聴会の制度を
     廃止している。
  2 「改正」米軍用地特措法の違憲性
   (一) 憲法31条(適正手続条項)違反
     憲法31条が、行政手続においても適用されることは確定した判例であ
    る(最高裁平成4年7月1日判決)。そして、憲法31条によって具体的
    には、告知と聴聞の機会を与えられる権利、事後の不服申立手続の存在、
    中立機関による事前の裁定、手続継続による期待権のそれぞれが保障され
    ている。しかし、「改正」特措法は右憲法31条に真っ向から反するもの
    である。
     「改正」特措法においては、収用委員会の裁決を経ることなく、内閣総
    理大臣の使用認定、防衛施設局長の裁決申請、担保提供等の一方的行為が
    なされれば、地主に対する事前の告知・聴聞の機会を与えることなく強制
    使用が可能となる。権利主張の機会が事前に全く与えられないまま、内閣
    総理大臣及び防衛施設局長の意思のみで、自己所有の土地を自己が使用で
    きないだけでなく、自己の望まない方法で使用されてしまうのである。
     また、内閣総理大臣の使用認定、防衛施設局長の裁決申請、担保提供等
    がなされれば一方的に暫定使用権原が発生し、その適法性を争う手段が全
    く存在していないばかりか、中立機関による事前の裁定も存在しない。起
    業者から独立した第三者機関である収用委員会が、国民の権利主張を聞い
    た上で、公正・中立な立場で審理・裁決をしてこそ中立機関による事前の
    裁定がなされたと言えるのであるが、「改正」特措法は、収用委員会の審
    査を全く経ることなしに防衛施設局長の裁決申請と、その後の担保提供と
    いう一方当事者の手続のみで強制使用を可能としているのである。
     以上により、「改正」特措法は、憲法31条が保障する各種原則に、二
    重三重に違反する。
   (二) 41条違反
     憲法41条は「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関
    である。」と規定している。右の「立法」とは、受範者が不特定多数であ
    るという性格(一般性)、かつ、規制の対象となる場合ないし事件が不特
    定多数であるという性格(抽象性)を有する法規範の定立であると解され
    ている。一般的・抽象的法規範に基づく具体的な権力作用の行使は、誰に
    も平等に適用され、行政府の恣意的意思の支配を排除することになって、
    まさに、日本国憲法の標傍する法の支配の思想に適合的だとされるのであ
    る(芦部信喜「憲法」岩波書店221頁)。
     しかし、「改正」特措法が、本件土地を含む原告ら所有の土地について、
    不法占拠を回避することを唯一の目的として制定された法律であることは、
    各種マスコミ報道や衆議院の「日米安全保障条約の実施に伴う土地使用等
    に関する特別委員会」等における国会審理での久間防衛庁長官の答弁によ
    っても明らかである。
     「改正」特措法は受範者が未契約地主3000人だけに特定されている
    という意味で個別的であり、右地主らが賃貸借契約を拒否している場合に
    だけ適用されるという意味で具体的である。
     さらに、「改正」特措法附則2項は、楚辺通信所敷地内に所有地を有す
    る原告知花昌一だけを受範者とし、同原告の所有の土地だけを対象として
    いることは明白である。このような個別的法律は、反戦地主らの権利をね
    らい撃ちにするものであって、まさに「立法の専制」ともいうべきもので
    ある。このように一般的・抽象的性格を欠く法規範の制定は到底憲法41
    条の「立法」には当たらず、法規範としての効力を持たない。
   (三) 95条違反
     憲法95条は、特定の地方公共団体にのみ適用される法律(地方自治特
    別法)について住民投票を要求している。その趣旨は、国の特別法による
    地方自治への不当な干渉・介入の防止、地方公共団体の有する平等権の保
    障、地方行政における民意の尊重(成田頼明「地方自治特別法の住民投票」
    田上穣治編「体系・憲法事典」青林書院新社、1968年、666頁)で
    ある。
     すなわち、何が地方自治特別法にあたるかについては、憲法95条の趣
    旨が「その地住民の民意を尊重する」(和田英夫「新版憲法体系」勁草書
    房、378頁)、「一般の法律とは違った特例を特定の地方公共団体だけ
    に適用するこにとによって、住民の不利益を生ずる不平等な扱いが住民の
    意に反してなされないようにしよう」(小林直樹「憲法講義・下」東大出
    版会、1981年、479・480頁)という点にあることを十分射程に
    いれて解釈すべきである。
     当該立法が適用されることにより、特定の地域住民が不利益を負う場合
    には、地方公共団体の組織、権限、運営についての特別立法に限らず、地
    方公共団体を構成する地域あるいは地域住民について他の地域あるいは他
    の地域住民と異なった取り扱いを定める場合についても、住民投票が必要
    と解すべきである。
     「改正」特措法が、「暫定使用」という名目で半永久的に県民の土地を
    強制的に取り上げることを可能にする点で、改正前の米軍用地特措法より
    もさらに重大な人権制約をもたらすものであり、その結果、地方公共団体
    にとっては従来以上に都市計画等に重大な影響をもたらし、そのための事
    務的負担も従来以上に負うことを余儀なくさせるものであることが明らか
    である以上、地方自治特別法として住民投票を要するものと言うべきであ
    る。
     右については、「改正」特措法は沖縄県にのみ適用される特別法となっ
    ているものではないから、憲法95条違反とはいえないという反論も一応
    は考えられよう。しかし、「改正」特措法が約3000人の契約拒否地主
    の所有する沖縄の米軍用地をその対象としていることは明らかである。も
    し仮に事実上特定の地方公共団体にしか適用されない法律であっても、形
    式的にそれを日本全国に適用可能であるように定めをおけば、地方自治特
    別法としての規律である住民投票による過半数の賛成票の獲得を免れると
    いうのでは、憲法95条はザル法に堕することになる。そもそも日本国憲
    法は、そのような国家権力の恣意から国民、住民の権利を擁護することを
    目的としているのであって、立法の際の文言の選び方という小手先の技術
    で憲法規範を潜脱できることがあってはならない。
  3 以上、米軍用地特措法は、安保条約・地位協定にその成立の根拠をおくが
   故に、当然に違憲とされなければならないとともに、米軍用地特措法それ自
   体が、憲法前文、9条、13条、29条、31条に違反する無効な法律であ
   る。そして、「改正」特措法は、その違憲性をますます露骨に表明している
   ものである。
   
第四 本件裁決の違法性(却下事由その二)

 一 本件使用認定の違法性
  1 収用委員会は、使用裁決手続において、その基となる使用認定にこれを無
   効とすべき重大な瑕疵が存する場合、もしくは使用認定が違法であると判断
   される場合、そのいずれの場合についても使用裁決をなすことはできず、裁
   決申請そのものを却下しなければならない。
    本件使用裁決の対象となっている各土地については、1995年5月9日、
   当時の内閣総理大臣村山富市によって使用認定(以下、「本件使用認定」と
   いう)がなされている。
    しかし、既に述べたように、本件使用認定の根拠法となった米軍用地特措
   法は憲法に違反するものであり、従って本件使用認定も憲法に違反する無効
   なものであり、少なくともその取消を免れない。
  2 「適正且つ合理的」要件の厳正な認定義務
    米軍用地特措法は、土地収用法の定める土地強制使用のための要件を大幅
   に緩和し、且つ権利者保護の手続を大幅に切り捨てて米軍用地の強制使用を
   はかろうとするものであるが、全く無制約な土地収用を許すものではない。
   米軍用地特措法は前述のとおり違憲無効なものであるが、その点を置くとし
   ても、この法律の適用自体が厳正なものでなければならず、この法律の定め
   る要件が厳格に適用されなければならないことは当然である。
    米軍用地特措法3条は、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場
   合において、その土地等を駐留軍の用に供することが、適正且つ合理的であ
   るときはこの法律の定めるところにより、これを使用し、又は収用すること
   ができる。」と定め、米軍用地特措法による収用のためには、「駐留軍の用
   に供するための土地等を必要とする場合」のほかに、「当該土地を米軍用地
   として供することが適正且つ合理的」な場合でなければならないと明記して
   いる。すなわち、米軍用地特措法による土地の収用認定(強制使用)は、第
   一に「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする」との要件と、第二に
   「土地等を駐留軍の用に供することが、適正且つ合理的であるとき」との要
   件が必要とされている。
    したがって、ここでいう「適正且つ合理的」という要件が、単なる「基地
   の必要性」「安保条約に基づく基地提供義務」と同義語ではないことは明ら
   かである。
    被告は、「適正且つ合理的」の要件が備わっているとして、本件使用認定
   が有効になされたことを認め、本件裁決をなしたものであるが、これは前述
   のとおり憲法29条及び31条に違反するだけにとどまらず、米軍用地特措
   法が定める「適正且つ合理的」の要件を欠く違法なものである。
  3 米軍による土地の長期使用の歴史的経過
   (一) 本件土地について強制使用をさらに継続するための使用認定が、
    「適正且つ合理的」であるかどうかを正確に判断するためには、本件土地
    がどのようにして米軍の使用に帰したのか、米軍の使用にはどのような法
    的根拠があったのか、その歴史的な経過を踏まえなければならない。
   (二) 米軍は、沖縄占領と同時に、沖縄本島在住の住民を島内10数か所
    の捕虜収容所に抑留し、その間、土地所有権等権利の行使を停止し、軍事
    上必要とされる地域をすべて囲い込んで軍用地にした。これは、土地所有
    者の意思を全く顧みない、問答無用の略奪であった。本件土地も、このよ
    うにして地主の意思と無関係に米軍基地にされたものである。
     米軍は、いったん住民に返された土地についても、必要とあらば、「銃
    剣とブルドーザー」という言葉で呼び慣らされているやり方で、一方的に
    土地を取り上げた。
     米軍による土地の強制使用は、ヘーグ陸戦法規によるものといわれなが
    ら、しかし、同法規の定める「私有財産尊重」「没収、掠奪の禁止」の原
    則に違反するものであっただけでなく、土地の強制使用による基地の形成
    は、日本の民主化と平和の確立という駐留の目的を定めたポツダム宣言に
    も、明白に違反するものであった。
   (三) 我が政府は、沖縄において、米軍が国際法に違反して広大な土地を
    強制的に地主から取り上げ、そのために沖縄県民の生活が破壊されている
    ことを知りながら、米軍による沖縄の軍事的支配を終わらせ県民の生活の
    再建と権利の回復の道を講ずるのではなく、むしろ逆に、講和条約を結ん
    で沖縄の施政権を米国に委ね、米軍による沖縄の軍事的専制支配に「法的
    根拠」を与えた。
     講和条約の発効によって、沖縄における土地の強制取り上げの法的根拠
    をヘーグ陸戦法現に求めることができなくなった米軍は、矢継ぎ早に布令
    ・布告を乱発して土地取り上げの法的な装いをこらしたものの、それとて
    結局は、土地所有者の意思を無視して土地を強制使用するという、一方的、
    恣意的なものであることに何の変わりもなかった。
     復帰前の沖縄に新憲法の通用があったかどうかの議論はさておくとして
    も、少なくとも、米軍による沖縄の軍事的支配及びそのもとでの土地の強
    制使用が、新憲法の理念に反する不法不当なものであった歴史的事実は、
    何人も消し去ることはできない。
   (四) 我が政府は、沖縄の復帰にあたって、国際法に違反する違法不当な
    方法での土地取り上げを繰り返し不法占拠を続けてきた米軍から、土地を
    取り戻して県民に返還するのではなく、むしろ逆に、「沖縄における公用
    地等の暫定使用に関する法律」(昭和46年12月31日法律第132号)
    いわゆる「公用地法」を強行制定し、あろうことか米軍の不法不当な土地
    取り上げを追認し、自らの手で本件土地を含む県民の広大な土地を強制使
    用し、米軍及び自衛隊に使用を許した。
     しかし、復帰前の米軍による土地接収、使用は全く権原を欠く違法なも
    のであり、「公用地法」の制定によって、この違法状態はなんら治ゆされ
    ていない。しかも「公用地法」自体が合理的な理由もなく、県民を不当に
    差別し財産権を侵害するものであり、財産権の尊重をかかげる憲法29条、
    法の下の平等を定める14条、適正手続を定める31条に違反するもので
    あることはもとより、憲法の前文および9条の恒久平和主義にも違反する、
    二重、三重に憲法違反の無効なものである。
     百歩譲って「公用地法」の違憲無効な論議をさておいても、「公用地法」
    による土地強制使用権が消滅した昭和52年5月15日から「公用地法」
    の延長法(いわゆる「地籍明確化法」付則6)が成立発行した同月18日
    までの4日間は、政府による土地の使用が、何ら権原にも基づかない文字
    通りの不法使用である事実は、議論の余地なく明白である。
     原告ら土地所有者の意思を無視して取り上げた本件土地が、米軍により、
    あるいは政府自らの手によって、今日まで53年という長期にわたって強
    制使用されている事実からすれば、もはや本件土地は、すべからく土地所
    有者に返還されるべきものであり、使用認定の要件たる「適正且つ合理的」
    の理由は、全く存在しないといわなければならないものである。
  4 米軍基地が果たした役割
    右のように形成された米軍基地がどのような役割を果たしたかも、同時に
   考慮されなければならない。
    1949年の中国革命政権の樹立、それに続く朝鮮戦争の勃発という極東
   情勢の変化の中で、沖縄の米軍基地は一層拡大強化され、対共産圏封じ込め
   戦略の拠点とされた。朝鮮戦争の際、沖縄の米軍基地が最大限に使用された
   ことはいうまでもない。米軍の発表によれば、極東空軍が朝鮮に出動した回
   数は72万余回、海兵隊所属戦闘機10万余回、ナパーム弾・ロケット弾等
   の投下は空軍・海軍・海兵隊合わせて約70万トンという。沖縄基地を足場
   にして、無数の朝鮮人民が殺りくされたのである。
    ベトナム戦争においては、沖縄の米軍基地が最大の戦略拠点として、訓練、
   中継、補給基地としてはもとより、直接発進基地として利用され、あらゆる
   兵器を使っていかに多くのベトナム人民を殺りくしたかは、いまだ県民の記
   憶に新しいところである。
    そしていまなお、沖縄の米軍基地は、安保条約にいう「極東」の範囲を越
   えて、米軍の中東、世界戦略の拠点としてますますその機能強化がはかられ
   ている。核兵器や化学兵器の存在も疑念がもたれ、核戦略爆撃機B52が、県
   民の反対にもかかわらず頻繁に飛来している。
  5 県土利用の障害たる米軍基地
    我が沖縄は、全国との比較で人口1%弱、県土面積にいたっては0・6%
   弱である。この沖縄に、全国の30・4%強の米軍基地がおかれている。専
   用施設でいえば実に74・7%の基地が沖縄にあることになる。この米軍基
   地は、沖縄全県の10・8%を占め、沖縄本島での比率は19・6%、中部
   地域にあっては実に26・2%の面積が基地になっている。
    基地は、ただ、そこにあるというのに止まらない。基地あるがゆえに、県
   民全体の福祉増進につながる健全な地域開発と産業の発展が、大きく阻害さ
   れている。せめて、基地の提供に反対している原告ら地主の本件土地だけで
   も返還して、地主らの健全な利用に委ねることこそが、土地利用上適正且つ
   合理的というべきである。
  6 県民の生活と人権を破壊する米軍基地
    基地あるがゆえに健全な地域開発がゆがめられているだけではない。広大
   な米軍基地があるがゆえに、沖縄県民は、日常生活の上で言い知れぬ多大な
   被害を蒙っている。
    嘉手納飛行場、普天間飛行場、伊江島射爆場は、住宅地域や小・中・高校
   などの教育施設に接近しており、そのため地域住民や児童・生徒は、常時、
   90ホン、100ホンを越える騒音に悩まされている。地域環境は破壊され、
   地域住民の健康はもとより、成長途上の子供達の精神的、肉体的な発育、向
   上は、著しく阻害されている。
    銃弾乱射事件、森林の火災事件など、住民の反対を押し切って毎日のよう
   に繰り返される演習による被害は、枚挙にいとまがない。そればかりでない。
   基地からの廃油廃液、パイプラインによる漏油事件、米軍機墜落事故等によ
   る住民の日常的な不安は、もはや度し難い状況にある。
    米軍人、軍属による県民への犯罪多発、近年とみに激増している麻薬犯罪
   は、県民の生命、健康に対する直接的な脅威とさえなっている。
    我が沖縄は、去る大戦において、本土防衛の名の下に、子供・婦人などの
   非戦闘員を含む約18万人の県民の貴い命を失った。当時の沖縄県の人口の
   三分の一を越える同胞を失い、荒廃と混乱と失意のなかにあった沖縄県民を
   待ち受けていたものは、米軍による軍事優先と植民地的専制支配であった。
   それは、日本政府自らの沖縄政策によるものであった。
    そして今なお、この沖縄に広大な軍事基地(米軍・自衛隊基地)が大きく
   のしかかっている。もとより、政府の方針に基づいてである。この軍事基地
   こそは、沖縄県民にとって諸悪の根源というべきものである。土地を強制使
   用し、基地を保持し続けることは、憲法の理念に反するものである。
 二 本件裁決の違法性
  1 土地調書及び物件調書は、いずれも裁決申請書に添付すべき不可欠な書類
   である(土地収用法40条1項3号、同法47条の3第1項2号)。
    したがって、土地調書及び物件調書の作成手続に違法がある場合には、土
   地収用法47条の規定するとおり、「使用の裁決の申請が」「この法律の規
   定に違反するとき」に該当するものして、起業者の申請は却下されなければ
   ならない。
    本件の場合、土地調書及び物件調書の作成手続には、二つの重大な違法が
   存在する。一つは、使用認定後に作成が義務づけられている土地調書の実測
   平面図が、使用認定の前に作成されている違法であり、他は、土地・物件調
   書が、原告ら地権者の立会いのないまま作成されていることの違法である。
  2 土地調書及びこれに添付される実測平面図は、使用認定後に作成されなけ
   ればならない。起業者は、本件土地にかかる実測平面図はいずれも使用認定
   前に作成されたことを自認している。仮に、本件土地の実測平面図が、起業
   者の言うように使用認定前に作成されているものであれば、これは、土地収
   用法に違反するものといわなければならない。
    この点に関し、被告は、「同調書に添付する実測平面図が平成7年5月9
   日の使用認定の告示前である平成6年7月から9月にかけて作成されている
   ことは明らかであるが、それは直ちに違法にはならない」、「本件調書の素
   案である実測平面図が使用認定の告示前に用意されても、起業者の署名押印
   及び土地所有者の署名押印が使用認定の告示後であれば、調書の作成は有効
   である」と判示している(裁決書の理由第三)。
    確かに、実測平面図そのものの作成時期について直接規定した文言は存在
   しないが、土地収用法36条が「事業認定の告示があった後」の土地調書の
   作成を起業者に義務づけ、同法37条がその土地調書に実測平面図の添付を
   義務づけられているとみるのが自然である。
    また、右の解釈は、法が実測平面図を要求している趣旨にも沿うものであ
   る。すなわち、法が実測平面図の添付を要求しているのは、使用または収用
   裁決申請対象土地を特定し、土地所有者に異議を述べる機会(法38条)を
   与えるとともに、収用委員会の審理充実を計るためであるが、そのためには、
   土地所有者が異議を述ベる機会にできるだけ近い時期に作成されることが望
   ましいことは明らかである。したがって、裁決書の右判示は理由がない。
  3 土地収用法第36条2項は、「前項の規定により土地調書及び物件調書を
   作成する場合において、起業者は、土地所有者及び関係人・・・・を立会わ
   せた上、土地調書及び物件調書に署名押印させなければならない」と規定し
   ている。この「立会わせ」の解釈として、土地所有者の現場での立会い権が
   保障されていると解するのが相当である。なぜなら、土地調書・物件調書の
   作成の目的は、対象土地を限定し、事前に争点を整理することにあると考え
   られるからである。このことは、法38条で適法に作成された調書に、真実
   に合致していることの推定力が与えられていることからも明らかである。土
   地所有者に現地立会いの機会を与えたにもかかわらず、土地所有者が異議を
   述べなかったからこそ、調書の推定力が、特別に付与されることになるので
   ある。
    ところで、本件土地の土地・物件調書の作成に先立って、原告らは書面で
   もって、現地立入調査のための措置をとられるよう起業者に申し出たが、起
   業者は、「申し出については、その必要性が認められないので、ご要望に応
   じられません」との回答をなし、現地での立会いを拒否したまま、土地調書
   ・物件調書を作成した。
    このように、地権者らの立会いを拒否して作成した土地・物件調香は違法
   なものであり、かかる違法な調書をもってなされた本件裁決申請は、却下を
   免れえないものである。
    なお、原告らは、公開審理において幾度となく、対象土地の確認のため現
   地立入調査の申し出をなした。しかるに被告は、合理的理由を示されないま
   ま、地権者である原告らを除外し、被告のみで現地調査を行っている。これ
   は、原告らに与えられている証拠提出権を侵害するものであり、かかる違法
   な現地調査をもって対象土地の現況を確認し、これに基づいてなされた本件
   裁決には、合理性がない。

 1998年8月14日
原告ら訴訟代理人
弁護士   阿波根 昌秀
以下略

那覇地方裁判所 御中
 
 

別紙
原告目録
以下略

代理人目録
以下略

物件目録(所有者・物件所在地・面積等は略)
第1物件目録   伊江島補助飛行場
第2物件目録    瀬名波通信施設
第3物件目録   嘉手納弾薬庫地区
第4物件目録   トリイ通信施設
第5物件目録   嘉手納飛行場
第6物件目録   キャンプ瑞慶覧
第7物件目録   普天間飛行場
第8物件目録   牧港補給地区
第9物件目録   那覇港湾施設
第10物件目録  陸軍貯油施設
第11物件目録  楚辺通信所
 

−−−−−−−−−−−ここまで−−−−−−−−−−−
 

仲田 博康
nakada_h@jca.ax.apc.org
xc8h-nkd@asahi-net.or.jp
 


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