50年代の沖縄での住民を犠牲にした米軍の核戦争計画文書についての共同通信の
報道に関して、仲田さん、丸山さん、島川さんに情報提供と意見をいただきました。
ありがとうございます。一応それらを踏まえて、この事件の「教訓」のようなものを
以下にまとめました。
今日はヒロシマ原爆投下の日。私はこの日、日本のマスコミが核をめぐる最も中心
的な問題を避けて、「祈りと誓い」に問題をすりかえていく傾向に苛立ちを感じてい
ました。今回の報道が真実かどうかはともかくとして、この海兵隊文書が具体的に明
らかにしたものは、核戦争の最も中心的な問題、すなわち究極の差別性を白日の下に
晒して、日本人に問題の在処を一瞬明らかにしたのですが、全国マスコミは無視、米
軍の機関紙だけがクレームを付けるという、いわば腰砕け状態になってしまっていま
す。
核戦争では沖縄住民を犠牲にするという思想は当然受け入れられるものではないの
ですが、1地域どころか同盟国の全体をアメリカが場合によっては核攻撃するという
想定は、実はそれほど突飛な蛮行ではないのです。まさしくそれが核戦争の論理だと
いうことと正面から向き合わないと解決は不可能です。
ちょっと古い本ですが、(もう絶版だと思います)
「在日米軍 軍事占領40年目の戦慄」(小川和久著、85年3月講談社、87年6
月同社文庫版)
の、「序章 アメリカが日本を核攻撃する日」の中で、米軍が日本列島の詳細な重力
分布図を作成していて、これは弾道核ミサイルを正確に命中させるためである。米ソ
戦争で日本列島がソ連に占拠された時、日本を核攻撃して奪回を図るためだ云々とい
う話があります。
また同じころ出版された(原著83年)
「SIOPサイオープ アメリカの秘密核戦争計画」(ウイリアム・アーキン他著、
84年朝日新聞社)にも、アメリカの正式な核攻撃目標として「不特定の中立国およ
び一部の同盟国」と記述されている文書があるとされています。戦略的位置関係から
考えて、日本がアメリカの核攻撃目標である(あった)と結論するのはごく自然です。
SIOP(Single Integrated Operating Plan)というのは「単一統合作戦計画」、簡単
に言うと米国の核戦争計画を集大成した一連の文書のグループ。絶えず改定されてい
ます。もちろん間違っても全体が明らかにされることはない。この著者たちは、公表
された情報をつなぎあわせて全体像を再構築しています。
基地だけでなくカネまでだしてもらっている同盟国の人間を、イザとなったら虫け
らのように核攻撃するなんて、なんたる差別意識か。しかしそもそも、「人間の命は
全て平等」と考えていては、戦争というのは不可能。「俺達はお前たちを殺す権利が
ある」と、まず死んでもいい人と生きなければならない人に、人間を2種類に分類す
る。戦争が苦しくなると、ところがその「味方」がまた「死んでもいい人」と生き残
る人に分類される。一般住民は前者、高級軍人は後者、というように。考えてみれば
アメリカでさえ、全面核戦争の時には「フツーの人」は死んでもいい、「指導者」と
司令官だけは、空中指揮機と核シェルターで生き残れ、という前提で核戦争計画が立
てられていた(最後の<付録>の記事を見てください)のですから、その意味では、
同盟国の人間を守らないというのは核戦争の論理からは「ごく自然」です。
したがって、「作戦計画4−57(琉球諸島の地上防衛戦)」文書の真偽はともか
く、これは「あっても不思議ではない」、無い方が驚きという代物であることは間違
いありません(私が「信憑性を疑っているのでない」と書いたのはその意味です。共
同の報道は正しいというつもりではありません)。冷戦時代には、日本本土に関して
も同様の文書があったはずで、これも是非公開して欲しいものです(出さないでしょ
うが。「占拠された東京に核爆弾を落とし、永田町を完全な焦土とし」なんてバレた
らさすがに・・・)。
気になるのは、時々功名心からか、文書を捏造する研究者もそんなに珍しいことで
ないのです。「存在し得る」文書だからこそ、常識的な範囲で捏造するのも容易でし
ょう。もしこの「4ー57」文書が匿名の「研究者」の捏造だということになると、
上に述べた米軍の「日本核攻撃計画」までなかったことにされてしまうのが怖いので
す。またただでさえ少ない日本のマスコミの核問題調査報道が、その「失敗」に懲り
て、今後行われなくなることも怖い。
CNNのサリン報道がそうかどうか分かりませんが、諜報機関や軍がよく使う手で、
批判的な報道を続けるマスコミの信用を落とすため、エージェントを使ってそのマス
コミ(時に野党政治家)に「ガセネタ」を掴ませる。まあ、今回の場合、最近共同通
信が米軍に打撃を与えるスクープをしたこともないので、考え過ぎかもしれませんが
、いつもそういう可能性があることは意識しておかないと。
<付録 アメリカの最新の核戦争演習 空軍ニュース8月6日号>
御存じのように、アメリカ軍は核攻撃を受け地上の司令部が破壊されてもなお核戦
争が継続できるように、"Looking Glass"と呼ばれるEC-135を使った代替司令部を常
時空中待機させてきました。地上の人間がことごとく「蒸発」した後も、ここからも
う生き残っていないかもしれない「敵」目標へとミサイル発射命令を出し続けるので
す。
冷戦後の今も、このシステムへの「改良」を怠っていないようで、今回この
EC-135を、これまで海中の戦略原潜に核発射命令を伝えてきた「空飛ぶアンテナ」
TACAMO機で置き換える実験をやりました。7月24日、空中に浮かぶこのTACAMO機か
ら、核発射命令が出され、実際に現役のICBMのMinuteman IIIがアメリカ本土から、
マーシャル諸島へ飛んでいきました。「実戦」と違うのは核弾頭がついてないことだ
けです。
この「人類最後の日」の演習に加わった軍人たちは、さぞ憂鬱だったろうと思うの
は我ら素人。米空軍のAir Force Newsが引用している、TACAMO機上でミサイル発射ボ
タンをおした将校の言葉は"It was spectacular." つまり意訳すれば、こんな素晴
らしい花火大会はない、と恍惚状態です。彼は飛行機の上からミサイルが上昇してい
くのを眺めながら満足感に浸ってこう考えます。「これ以上の栄光があろうか。アメ
リカのためのこの偉大な平和を維持すること以上の」。いみじくもこの演習は「栄光
の旅立ち」と呼ばれています。"bad guys"がアメリカを攻撃する気を起こさせないよ
うにやるのだ、と彼は言っています。でもこのシステムが「役立った」その時には、
地上の彼の家族は跡形もなく消滅しているはず・・・・・
・・・・確かに何かが根本的に狂っているのですが、外務大臣の経験者の小渕さん
なんかはこういう事実も知らないし、生涯一度もこういう究極の核問題を考えてみた
こともなかったでしょう(考えてみれば幸せな人です。日本の政治家が長生きする訳
です)。いまだに「核抑止」は絶対捨てるなと政治家にお説教している外務省の高官
も。過去の原爆の悲惨さを伝えるのも絶対必要なのですが、日本の報道機関ももっと
こういう現在の核の「悲惨」さを具体的に報道して欲しいところです。
話を作っていると思われると困るので、私のところには8月6日の朝に到着したこ
のAir Force Newsを以下に全文転載しておきます。
Date: Wed, 5 Aug 1998
15:40:13 -0500
Reply-To: "82. USAFnews" <usafnews@AFNEWS.AF.MIL>
Sender: Air Force News Service <AFNS@AFPRODUCTS.EASE.LSOFT.COM>
From: "82. USAFnews" <usafnews@AFNEWS.AF.MIL>
Subject: 06aug98 - afns
981153. TACAMO 'first' enhances Strategic Command deterrence mission
by Navy Journalist Second Class Michael J. Meridith
U.S. Strategic Command Public Affairs
OFFUTT AIR FORCE BASE, Neb. (AFNS) -- As dawn crept into the skies above
Vandenberg Air Force Base, Calif., June 24, U.S. Strategic Command
officers aboard the Navy's E-6B Take-Charge-and-Move-Out, or TACAMO,
command-and-control aircraft simultaneously turned the keys that
launched a Minuteman III Intercontinental Ballistic Missile toward
a
target hundreds of miles away in the Marshall Islands.
It was the first time in history the launch of a Minuteman was
controlled from the TACAMO, which officially replaces the Air Force's
aging EC-135 in the "Looking Glass" mission of command and control
of
the nation's strategic nuclear forces Oct. 1.
The TACAMO combines the EC-135's tried and true Airborne Launch Control
System with the E-6B's capability of communicating with submarines.
The
on-board battlestaff is made up of members of the Air Force, Navy,
Army,
and Marine Corps, making it one of the few truly joint airborne
command-and-control platforms.
"It was spectacular." said USSTRATCOM's Maj. Maurice Kilpatrick, ICBM
operations officer for the launch. "It broke through the clouds,
and
the sun glinted off of it as it got higher. You could actually
see the
booster stage drop off. The crew had never seen anything like
it and
their reaction was incredible. It was truly spectacular to see
that
missile race off like that and know you were part of it. I thought
to
myself, 'what better glory than to maintain the greater peace for
America.'"
The annual test firing of a Minuteman III missile from Vandenberg,
referred to by participants as "Glory Trips," is a very significant
milestone in the career of a missileer. Kilpatrick said that
fewer than
one-tenth of 1 percent of all ICBM launch officers will ever have the
opportunity to conduct such a test, yet alone a first for the record
books. Also, the mission itself has ramifications that go far
beyond
the individuals involved.
"I believe the Looking Glass mission is the linchpin of deterrence,"
said Kilpatrick. "There's just a few ground-based command centers
and
those can be taken out fairly easily. The beauty of our system
is that
if they take them all out, we're still here. We really complicate
things for the bad guys."
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
/////////////////////////
青木雅彦
Masahiko Aoki
btree@osk.3web.ne.jp
////////////////////////
3月、4月、5月、6月、7月、8月、9月、10月、11月、12月