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*- FACTIVE MES( 8):●分科会 戦争 平和 基地問題
*843 SDI00872 山崎 久隆
インド核実験>インド核実験の意味
( 8) 98/05/14 15:01 831へのコメント
報道チェックも一日に300とかながれてくるといい加減めまいがしていま
すんで(=^_^;=)ここで、気分を変えて若干の解説を試みます。ええと核戦略に
ついては20年くらい前から市民運動などの現場で研究会などを開いていたり
して、米ソを中心にした戦略研究とか核兵器開発の流れなどを調査していたり
して、その当時はそっちが専門というか、フィールドだったんですが、今は昔
のことでして (=^_^;=)もうだいぶ忘れていますんで、 変なところがあったら
突っ込んで下さい>そのへんに詳しい人(=^_^;=)
なお、ここでは「核兵器」とは、戦略、戦術いずれにしても、実戦配備段階
のものを言い、核爆発装置などは含みません。
*
核兵器は大きくは三つに分類されます。
ウランを使うウラニウム原爆とプルトニウムを使うプルトニウム原爆と水爆
です。ウラニウム原爆はヒロシマ型、プルトニウム原爆はナガサキ型、水爆は
ビキニ型(って普通はいわんが(=^_^;=))っていう感じですね。
ウランとプルトニウムを分けるには理由がありますが、それは後述します。
これをもっと細分化することももちろん可能ですが、(プルトニウム原爆を
核にした3F水爆とか中性子線強化砲弾とか)細かい議論はここではしないの
で省きます。
戦略核と戦術核の分類は、主に核戦略上の分類で、核爆弾の種類分類とはあ
まり関係はありません。同じ核爆弾でも戦略目的に使ったり戦術目的に使うと
いうことが往々にしてあります。いい例がW80型水爆弾頭を搭載した巡航ミ
サイルトマホークで、戦略目標を叩く配備をしているものは戦略兵器として分
類できますが(B52などの航空機搭載型が主)戦術目的で配備しているもの
は戦術核となります。(艦艇搭載型が主)要は目標が戦術目的か戦略目的かで
分類されます。
戦略核と戦術核を分けるには、ペイロード(輸送手段)で分けたほうが分か
りやすくなります。大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)は戦略核、中距離核ミ
サイルや陸上配備巡航ミサイルや核砲弾などは戦術核、戦略爆撃機(B52や
B1、B2)搭載爆弾は戦略核、戦術攻撃機(F16やA6)搭載爆弾は戦術
核、潜水艦搭載弾道弾ミサイル(SLBM)は戦略核、水上艦艇搭載巡航ミサ
イル弾頭は戦術核といった具合です。
核兵器というのは段階を経て開発されるものでして、一朝一夕というわけに
はいきません。
核兵器開発の第一段階は、核物質の取得と核分裂を臨界状態にすることから
はじまります。核物質の取得はウラン濃縮とプルトニウム生成で行われます。
ウラン濃縮というのは天然ウラン(核分裂性のウラン235を0.7%含む)
を核爆弾に使用可能な程度にまで(核分裂性のウラン235を93%以上にす
る)濃縮することをいいますが、理屈は簡単でも実際には難しい問題があり、
原子炉燃料程度(4〜5%)を超える濃縮が出来る国はそう多くはありません。
それよりはプルトニウムの生成のほうが簡単で、「臨界装置」などのようなも
のでも可能ですが、原子炉を建設するということでも可能です。
ウラニウム原爆を作ったときにアメリカは実験もせずにいきなりヒロシマに
投下しました。核爆発が確実に起こることを確信していたからです。一方、プ
ルトニウム原爆はいったんアラモゴールドで核実験を行ってからナガサキに投
下しています。核爆発の信頼性を確認しなければならなかったからです。
プルトニウムは純度が悪いと核分裂反応が中途半端で止まってしまい、規定
の威力を発揮できない場合があります。また、臨界質量が小さいことで、核爆
発を誘発させるための高性能爆薬の炸裂タイミングが少しでも狂うことでも規
定の威力を発揮できない場合があります。そういう意味ではウラニウム原爆よ
りも製造が難しくなります。
核物質の取得という点ではプルトニウムが有利になりますが、核分裂の制御
ということではウランが有利という特長があります。
核物質の取得と臨界実験までは、原子力の平和利用との区別などはほとんど
つきません。特に高速中性子炉を持っている国ですと、核兵器級プルトニウム
が生成されますので、その段階では軍事転用を止める歯止めは技術的、物理的
にはないわけです。
核保有5ヶ国以外に第一段階を超えた国は、ドイツ、ベルギー、ブルガリア、
カナダ、キューバ、チェコ、スロバキア、ハンガリー、イタリア、オランダ、
ポーランド、ルーマニア、スペイン、スウェーデン、フィンランド、スイス、
ノルウェー、台湾、トルコ、パキスタン、イスラエル、イラン、イラク、ブラ
ジル、アルゼンチン、メキシコ、南アフリカ共和国、エジプト、朝鮮民主主義
人民共和国、韓国、そして日本があります。もちろんこれらの国が核兵器開発
をしているというわけではありません。しかし核分裂兵器を生産する能力はい
ずれもあるということになります。これらの国の中に「潜在的核保有国」があ
るわけですが。
第二段階として、核爆発が起きることを実証するための試験を行うことにな
ります。実証試験段階です。ウランでもプルトニウムでも、核爆発を起こすこ
とが目的ということになります。この段階を経ているのが核兵器5ヶ国とイン
ドですが、パキスタンとイスラエルと南アフリカはこの段階を経ずに次の段階
に進んだと見られています。特にウラニウム原爆であれば、先のアメリカの例
のように、実証を経ずに実用弾頭に進むことが可能です。プルトニウムでも、
純度管理が相当高くできるのであれば(日本の高速増殖炉実験炉常陽などのよ
うな装置があれば)可能です。水爆となると、おそらくこれまでは不可能であ
ったんじゃなかろうかと思われますが、トリガーとなる核分裂装置の信頼性が
高く、核融合につかうトリチウムの十分な供給と純度管理が十分出来るのだっ
たら、今ではシュミレーションでも可能かもしれません。そこまでやった国と
いうのは今まで確認されていませんが。アメリカでさえ近年ようやくその段階
に達したと見られます。
この段階に進んでいる国というのは、そういうわけで明確には特定できませ
ん。
第三段階は、製造した核兵器が実戦配備可能な段階まで信頼性を持たせられ
るかどうかということになります。いわば「実証段階」です。ちょっと複雑な
のは、原爆であればこの段階に到達するのはさほど困難ではないのですが、水
爆となると、その爆発制御などが難しくなるため、この段階に到達するには繰
り返し実験を重ねる必要があるので、現状では核兵器5ヶ国以外には無いので
はないかと思われます。
原爆でこの段階に達したと見られる国は、インド、パキスタン、イスラエル、
南アフリカということになります。74年にインドが行った核実験はこの段階
とは直接関係はないと思われますが、その後核開発を断続的に行ったことで、
今回の実験でもこの段階に到達していることが実証されたものと思われます。
一方、核実験を行ったかどうか確認できていないその他の国ですが、先にいい
ましたように濃縮ウランや高純度プルトニウムを調達できれば可能ですから、
不思議ではありません。
しかしながら水爆でこの段階に実験なしで到達し得るということは難しいと
思います。従って、今回のインドの核実験は、この段階に到達するためのもの
であろうと思われます。 インドは11日に行った3回について「a
fission
device, a low yield device and a thermonuclear device」と表現される実
験を行ったと声明を出しています。これは直訳すれば「核分裂装置」「低放出
エネルギー装置」「熱核反応装置」ということになりますが、最後の「熱核反
応装置」とは、通常水爆装置を意味するため、総合的にいえば「原爆の実証試
験と水爆装置のトリガーの信頼性試験と水爆本体の試験」というように読みと
れます。真ん中の「low yield device」とはあまり聞き慣れない言葉ですが、
兵器として単体のものではなく水爆の核に使われる核分裂装置であろうと思わ
れます。これ自身に核爆弾としての爆発力はほとんどありませんが、核分裂に
より大量の中性子を放出すると共に、高温のプラズマ状態を作り出すことによ
り、トリチウムやリチウムを核融合させるためのものです。通常は小型でなけ
ればならないので、プルトニウム239を使います。これが前に書きましたよ
うに核分裂の制御が難しいため、これだけの信頼性を試験したものと思われま
す。
核兵器開発の第四段階は、配備した核兵器の信頼性を維持するということに
なります。いわば「維持試験」ともいうべきものでして、この中には現在アメ
リカやロシアなどが行っている未臨界実験も含まれます。
プルトニウムやトリチウムなどは劣化しますので、それがどの程度まで進む
と核兵器の信頼性に支障が出るのかを見極めると共に、核兵器の能力を測定し
ておくために劣化したと考えられる爆弾を実際に爆発させます。また、このデ
ータを元にして、コンピュータシュミレーションで維持試験が出来るようにデ
ータを取得しておきます。
この段階にまでインドは進んでいるというような感じですが、それは13日
に行われた2回目の実験のときの声明にそういう下りがあるからで、実際のと
ころはわかりません。
一回目よりも情報が今のところ少ないというだけでなく、この段階の実験が
成功したかどうかはやったものにしかわからないからでもあります。
*
これが核兵器開発のおおざっぱな流れです。インドがめざしたものは、戦術、
戦略核として実戦配備可能な、信頼性を有する核兵器の開発であることは確か
ですが、その実態を知るのはこれだけでは困難です。
74年に行った核爆発実験は、核兵器としての意味合いはあまりありません
でした。核兵器の開発能力があることを示す効果はありましたが、戦略的意味
は無かったわけです。理由は、核兵器を輸送する手段も制御する方法も持って
いなかったことと、核兵器を配備し得る信頼性のあるシステムを有していなか
ったからです。それに、インド自身が核兵器であるとは主張せず、平和目的の
核爆発実験として公表し、軍事色を払拭する姿勢をとっていました。
これはいわゆる「張り子の虎」であったろうと思われます。すなわち、核兵
器はいつでも持てるという印象を持たせることで、対外的には攻撃力としての
核を有しているおそれを持たせることで、擬似的な核抑止を狙ったものと捉え
ることが出来ます。
その後、世界的には米ソの軍拡競争のあげくにソ連崩壊、米ソ冷戦の終結、
湾岸戦争、核軍縮の進展と続きますが、核兵器保有国の核の能力自体は依然と
して高まり続けていき、CTBT協議は、米ロの水準維持の結果として「許容
される」ようになり、それをうけて仏、中が駆け込み実験を経てCTBTに参
加をしていくという流れができます。
この段階で、インドは「張り子の虎」から具体的に核兵器を実用に耐えるレ
ベルに引き上げる見通しを得ると共に、時間的な余裕が余りないことを知りま
す。今の段階で少なくても中国のレベルに到達しないと、CTBT条約をめぐ
ってのインドの抵抗の限界が見えてくると共に、CTBT条約機構による核実
験探査包囲網の完成に伴い、実験と同時に規模と能力が計測されていくという
可能性が高まっていきます。
しかし13日に行われた実験だけだったとすると、軍事的にはかえってマイ
ナスの効果しかありませんでした。これまでインドは、潜在的核保有国とみら
れていましたが、その能力はよくわかりませんでした。
13日の実験では、原爆の製造能力は確認できるが、水爆、それも戦術核兵
器として使用が可能な、 ミサイルの弾頭に搭載可能な規模にまで「洗練され
た」水爆は保有できていないと考えられ、むしろ原爆は第三段階程度であるが
水爆は第二段階にとどまっていると「実証」したに等しい結果となり、予想の
範囲じゃないかということで、核抑止理論上も「相対する対抗相手には数年か
ら十数年の遅れ」を知らせる結果となり、抑止の均衡が取れていないことを暴
露したに等しいからです。この場合当然「対抗相手」は中国です。
こういう実験では、パキスタンには脅威となりますが、中国には脅威とはな
りませんから、目的が中国相手ということは普通は考えられません。パキスタ
ンを狙ったものというのも、考えにくい。したがってこれは、それぞれへのメ
ッセージというよりは、インド独自の軍事上の要求とCTBT協議への返礼と
いう意味合いが強いんではないかと思っていました。しかしながら、二日後に
行った実験では、明確に水爆の高度化をめざすと共に、核実験を経ずとも第四
段階のレベルに到達し得るということを誇示したと見られますので、これは明
確に中国の配備している核兵器への対抗措置を意味しています。
インドの11日の核実験では、現状ではまだ「未了段階」であろうと思って
いました。従って近い内に二度目、三度目の実験があり得ると見ていましたが、
これだけ早々と行った背景は、非難や制裁を受けるんであれば二度分まとめて
しまったほうが得策といった意味だけではなく、早々に第四段階に引き上げる
めどを立てておかないと、軍事上は「劣勢」を明確にしたままの実験をしただ
けになるという時期が続くと、核戦略上のメリットが無いと考えていたからだ
と思います。
そういう意味では、今回の実験はわずか2ヶ月前に政権に付いたインド人民
党の政策なのではなく、インド軍の要請に基づいてずっと以前(少なくても1
0年程度は)から進められていた核兵器開発の一つの到達目標の達成という意
味があると思います。
核兵器体系の成立と維持には、核弾頭の配備だけではなく、そのシステムを
コントロールし、制御し、指揮命令系統を整備する必要があります。核戦略体
制を維持するというのは、その国の核、電子、情報、通信の技術や人材のトッ
プを集約することになります。従って莫大な維持費がかかるだけでなく、こう
いう部門が軍事目的に動員され、民生活動に影響が出ることになります。いい
例がソ連の冷戦下の衰退=崩壊とレーガン軍拡によるアメリカの巨大な財政破
綻です。
従って、これからのインドの未来はこれによりさらに暗いものにならざるを
得ません。平和攻勢によって海外との経済関係を強化し発展(物的なものだけ
でなく)を遂げるという道とは対局を進もうとしているわけですから、明るい
わけがありません。後から核兵器を配備するという政策は、それまで営々と培
った信頼や尊敬を一朝にして消滅させるだけでなく、翌朝にはさらなる核兵器
体系の高度化が要求され、際限のない核軍拡の泥沼に落ち込むだけのことです。
それがわからない国の指導部が多すぎるので、この世界はいつまでたっても
ろくなもんにならんわけです。
日本だってえらそうにインドに説教を垂れている場合ではないんです。日本
はアメリカの核抑止戦略を容認しているだけではなく、その戦略を可能にする
ための軍事的供与(基地にとどまらない)を与え続けるという形で、日本自体
も核抑止戦略の泥沼にどっぷりと頭の先までつかっているのです。
YAMASAKI (SDI00872)
*846 SDI00872 山崎 久隆
インド核実験>岐阜地区市民生協理事会声明
( 8) 98/05/15 02:40 831へのコメント
岐阜地区市民生活協同組合 理事会による核実験抗議声明を、発言者のととろ
さんの許諾を得ましたので、転載します。
出典:FENV
|036/036 VEJ07515 ととろ
RE:核>98/05/12インド核実験
|( 8) 98/05/14 09:46 029へのコメント
|
|岐阜のととろと申します。
|
|今回のインドの地下核実験については、持続可能な社会を望む生協(生活協同
|組合)の多くでも抗議を送っております。
|岐阜地区市民生協の抗議文をご提供いただきましたので、転載させていただき
|ます。
|
|
|11日、インドバジパイ首相は、ラジャスタン州ボカラン砂漠で3回の地下核
|実験を行った事を発表しました。
|バジパイ首相は核兵器の保有も示唆しており、今回の実験は、包括的核実験禁
|止条約(CTBT)発効を妨げるだけでなく、核軍縮の国際世論への挑戦と受
|け止めます。
|
|平和行進を行っている中での実験で、今年の行進では「台所から平和」を願っ
|て、「核兵器を廃絶させよう。」「核戦争を起こさせないようにしよう。」
|「被爆者の援護・連帯をしよう。」「平和憲法を守り、世界に発信しよう。」
|「沖縄県民の平和への願いを支持し、連帯しよう。」のスローガンを高らかに
|上げていこうではありませんか!
|
|
|抗議文
|
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
|インド共和国 バジパイ首相殿
|
|貴国の地下核実験に強く抗議します
|
| 貴殿は、11日に記者会見を行い、地下核実験を3回行った事を発表しまし
|た。
|
|岐阜地区市民生活協同組合は、子どもを持つお母さんの立場から、「台所から
|平和」・「平和とよりよい生活のために」を合い言葉に、地域での平和のとり
|くみ・平和行進・「ヒロシマ・ナガサキ行動」などを通して「地球上から核兵
|器をなくそう」と願っています。
|
| この願いに反した今回の地下核実験は、核兵器廃絶を願う国際世論への挑戦
|であり、強く抗議します。広島・長崎への原爆の惨禍を体験した私たちは、こ
|れ以上あらゆる核兵器を作ることも核実験を行うことも許すことができませ
|ん。
|
|核兵器廃絶を願う大きな世論の高まりの中で96年には、国連総会で包括的核
|実験禁止条約(CTBT)が採択されました。また、国際司法裁判所は「核兵
|器使用は一般的に国際法に違反する」との勧告的意見を発表しています。
| 貴国の地下核実験は、東西冷戦体制崩壊後の核軍縮と核不拡散の潮流に逆行
|するものであり、人類破滅の危機を増幅しているにすぎません。
|核廃絶を願う国際世論を真摯に受けとめ、誠実に核軍縮を進め、世界の平和の
|実現と人類の未来の発展に尽力される事を求めます
|
|「核兵器のない21世紀を」実現するためにも、貴国の行った「地下核実験」
|の実施について、断固抗議します。貴政府のこのような実験の遂行を直ちに中
|止し、核兵器のない平和な世界をつくるために尽力されることを求めます。
|
|1998年5月13日
|岐阜地区市民生活協同組合 理事会
|岐阜県各務原市鵜沼各務原1−4−1
|пF(0583)−70−6873
|
|
|以上
|
|ととろ(VEJ07515)
YAMASAKI (SDI00872)
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3月、4月、5月、6月、7月、