米軍用地強制使用裁決申請事件
同 明 渡 裁 決 申請事件
意見書(三)
http://www.jca.ax.apc.org/~sei-u/hitotsubo_kanto/Kokaishinri/
ikensyo3/ikensyo3-TC.html
************************************************************************
第七 嘉手納飛行場
一 はじめに
那覇防衛施設局長は、一九九六年(平成八年)三月二九日、嘉手納飛行場(以下
「嘉手納基地」という)に係る三四筆の土地につき、権利取得裁決申請及び明渡裁決
の申立てを行なった(以下「本件各裁決申請」という)。
反戦地主・一坪反戦地主は、本件各裁決申請の問題点・違法性につき、一一回の公
開審理を通じて全面的に主張・立証を行なった。特に、第七回公開審理及び第八回公
開審理における左記の反戦地主・一坪反戦地主等の意見陳述は、圧巻であった。
嘉手納基地の概要 島田 正博
反戦地主の思い 高宮城 清
嘉手納基地の歴史と機能 大城 保英
嘉手納基地と環境・健康問題 池宮城紀夫
嘉手納基地と村落共同体の崩壊、精神・文化の荒廃 高良 勉
嘉手納基地と事件・事故 村上 有慶
新里 律子
嘉手納基地と教育問題 伊佐 冴子
一坪反戦地主の思い 平良 悦美
嘉手納基地と行政・都市開発(まちづくり) 渡嘉敷直久
村上 有慶
長嶺 哲
嘉手納基地と女性・障害者問題 又吉 京子
嘉手納基地と航空管制問題 大城 保英
嘉手納基地とアジアの民衆 当山 栄
地籍不明地問題 眞榮城玄徳
地籍不明地問題 有銘 政夫
地籍不明地問題 河内 謙策
総括陳述 芳澤 弘明
これらの意見陳述によって、嘉手納基地の全貌が戦後初めて公の場で明るみに出た
と言っても過言ではない。嘉手納基地は全面的に裁かれたのである。
反戦地主・一坪反戦地主の本件各裁決申請についての主張は要約すれば、次のとお
りである。
1 そもそも、米軍による嘉手納基地の建設は国際法違反であり(ハーグ陸戦法規
四六条)、日本政府は復帰にあたり違法状態を解消すべきであったのにこれを怠り、
復帰後は違憲な「公用地暫定使用法」「地籍明確化法」「米軍用地特別措置法」によ
り強制使用を継続してきたのであるから、本件各裁決申請は申請権濫用としていずれ
も却下すべきである。
2 本件各強制使用手続を基礎づける安保条約第六条は憲法違反であるから、本件
各裁決申請はいずれも却下すべきである。
3 本件各強制使用手続を基礎づける米軍用地特別措置法は憲法違反であるから、
本件各裁決申請はいずれも却下すべきである。
4 本件各使用認定には、憲法二九条三項、同一項に違反する重大かつ明白な違法
があるから、本件各裁決申請はいずれも却下すべきである。
5 そもそも、地籍不明地は強制使用の対象にならず、仮に強制使用の対象になる
としても眞榮城玄徳、有銘政夫の所有地として裁決申請されている土地五筆について
は特定がなされていないものとして却下すべきである。
6 そもそも、米軍の嘉手納基地の使用は、「極東」(安保条約第六条)の範囲を
逸脱しているので、本件各使用認定には米軍用地特別措置法第三条に反する重大かつ
明白な違法がある。したがって本件各裁決申請はいずれも却下すべきである。
7 本件各裁決申請の対象土地の使用実態を見れば、米軍用地特別措置法第三条の
規定する「適正且つ合理的」の要件が満たされていないにもかかわらず使用認定がな
された土地が存在する。そのような明白かつ重大な誤りによって使用認定がなされた
土地の裁決申請は却下すべきである(この主張の対象土地一七筆がどこかということ
については、後に述べる)。
8 本件各裁決申請書に添付された土地調書の実測平面図の中には、平成六年七月
から九月の間に実際に測量がなされなかったものが存在する。にもかかわらず防衛施
設局長が平成六年七月から九月の間に測量をしたと虚偽の説明をした土地の裁決申請
は却下すべきである(この主張の対象土地一一筆がどこかということについては、本
年二月二〇日付「意見書 」参照)。
9 本件各裁決申請書に添付された土地調書の実測平面図は、すべて本件各使用認
定前に作成されたものであるから、本件各裁決申請はいずれも却下すべきである。
10 本件各裁決申請書に添付された土地調書の作成に際し、防衛施設局長は反戦地
主・一坪反戦地主の現地立会を拒否する違法を犯したのであるから、本件各裁決申請
はいずれも却下すべきである。
11 沖縄市字森根角石西原一九一番等合計九筆の土地の土地調書・物件調書には異
議が付されているにもかかわらず防衛施設局長は立証を怠った。したがって同九筆の
土地の裁決申請は却下すべきである(九筆の対象土地がどこかということについては
本年二月二〇日付「意見書(一)」参照)。
12 防衛施設局長は、一九九五年(平成七年)三月二四日に一坪反戦地主の使用認
定に関する「意見書」を受領しなかった。したがって、防衛施設局長の一坪反戦地主
所有土地の使用認定申請、ひいては内閣総理大臣の使用認定には重大かつ明白な違法
が存在するから、一坪反戦地主所有土地(嘉手納町字東野理原三五〇、同三八一)の
裁決申請は却下すべきである。
13 防衛施設局長は、一坪反戦地主に対しては一切の任意交渉をせずに本件裁決申
請に及んでおり、そのような裁決申請は違法であるから、一坪反戦地主所有土地(嘉
手納町字東野理原三五〇、同三八一)の裁決申請は却下すべきである。
右に述べた一三点の却下事由については、いずれも一一回の公開審理を通じて反戦
地主・一坪反戦地主が繰り返し主張・立証してきたものである。また一九九八年二月
二〇日付「意見書(一)」で詳論されているものも存在する。
したがって、本稿では、公開審理における反戦地主・一坪反戦地主の主張を補充
し、明確にするために、右の5、6、7に関連する以下の点に絞って論ずることにす
る。
(1)眞榮城玄徳・有銘政夫関係の地籍不明地問題について
(2)嘉手納基地の使用が「極東」の範囲を逸脱していることについて
(3)本件各土地の使用状況と「適正且つ合理的」要件の不存在について
二 眞榮城玄徳・有銘政夫関係の地籍不明地問題について
過去の米軍用地強制使用事件に関する沖縄県収用委員会の公開審理において不十分
な審理しかなされなかった問題の典型が地籍不明地問題であった。
有銘政夫は、次のように述べている。
「過去の収用委員会の公開審理記録を読めば明らかのように、私たちが釈明を求め
れば必要なしと退け、具体的事実を示して回答を求めれば、この場は論議の場ではな
いと言って発言を封じ、一度たりとも実質審理が行なわれないまま、真相が闇に葬ら
れた」(第八回「公開審理記録」四二頁)
今回の公開審理においては、従前と異なり、短時間ではあったが、十分な実質審理
がなされた。嘉手納基地関係においては、眞榮城玄徳と有銘政夫と河内謙策が第八回
公開審理において意見陳述を行なった。
眞榮城玄徳と有銘政夫の主張は、そもそも地籍不明地が米軍用地特別措置法・土地
収用法に基づく強制使用の対象にならないということを前提に、仮に強制使用の対象
になるとしても、同人らのケースにおいては、裁決申請した土地が特定していないと
して却下すべきである、という内容であった(第八回「公開審理記録」二九頁以下参
照)。
そもそも地籍不明地が強制使用の対象になるかという問題については、代理人河内
謙策が第八回公開審理において、代理人吉田健一が第一一回公開審理において述べた
とおりであり、本年二月二〇日付「意見書(一)」でも詳論されているところであ
る。したがって、ここでは繰り返さない。
ここでは、眞榮城玄徳、有銘政夫及び両名の代理人である河内謙策が第八回公開審
理において述べた「仮に地籍不明地が強制使用の対象になるとしても同人らのケース
においては、裁決申請した土地が特定していないとして却下すべきである」という主
張に対する防衛施設局長の反論(平成九年一二月一日付「沖縄県の区域内における位
置境界不明地域内の各筆の土地の位置境界の明確化等に関する特別措置法に基づく位
置境界明確化の手続が完了していない地域に所在する裁決申請土地の位置境界の特定
について」と題する書面)を検討してみることにしよう(なお、旧平安常次所有地関
係については、現所有者である反戦地主・一坪反戦地主が眞榮城玄徳らと同趣旨の主
張をしていないので、検討を割愛する)。
まず、右の文書を一読して明らかなことは、眞榮城玄徳らが一九四七年の土地所有
権申請書に基づいて作成された一九四八年の地図をもとにこの問題を論じ、一九四八
年の地図と実測平面図・現況地籍照合図の違いを具体的に明らかにしているにもかか
わらず、防衛施設局長の反論文書がこの点については何ら具体的に反論をせず、眞榮
城玄徳らに「不利と思われる事実」を列挙することで点数を稼ごうとしていることで
ある。これでは反論になっていないと言わざるを得ない。
防衛施設局長が列挙する眞榮城玄徳らに「不利と思われる事実」の第一は、眞榮城
玄徳らが反戦地主会の方針に従って現地確認書に押印を拒否しているということであ
る。眞榮城玄徳らが反戦地主会の方針に従うかどうかは同人らの内心の自由に属する
問題であり、防衛施設局長がとやかく問題にする性質のことではない。防衛施設局長
は、今回の裁決申請において眞榮城玄徳ら個人を相手にしているのであり、反戦地主
会を相手にしているのではない。防衛施設局長の言動は、自らの前近代的人権感覚を
証明しているものと言えよう。
第二に防衛施設局長が列挙する眞榮城玄徳らに「不利と思われる事実」は、一九八
〇年(昭和五五年)一二月二六日に那覇防衛施設局と違憲共闘会議・平安常次の間で
「地籍明確化作業の過程において土地の復元が可能になった地主への補償に関する確
認書」が締結されているということである。
地籍明確化作業の過程において、眞榮城玄徳が土地を所有する石根原の地域におい
ても、有銘政夫が土地を所有する伊森原の地域においても、いわゆる「登記もれ土
地」(所有権認定申告がなされなかった土地)が明らかになった。しかし、防衛施設
局は、このような「登記もれ土地」については、両地域が未認証地域であることを理
由に、「登記もれ土地」についての軍用地料を支払わなかった。そこで、違憲共闘会
議が「登記もれ土地」の位置や境界・形状が確定しなくても軍用地料を支払うべきだ
としてその支払を請求し、その結果、確認書が締結されたのである。
右の経過から明らかなように、眞榮城玄徳も、有銘政夫も「登記もれ土地」の存在
自体については承認しているものの、地域内におけるその位置や境界・形状について
まで承認していない。「登記もれ土地」の位置や境界・形状について眞榮城玄徳や有
銘政夫が承認しているという証拠があるというのなら、防衛施設局長は、ぜひ提出し
て頂きたい。
また、眞榮城玄徳らの実測平面図に「仮」の表示のなされている土地があるが、そ
の土地が「登記もれ土地」で昔からそこに存在していたというのなら、防衛施設局長
は、その証拠を提出して頂きたい。それは不可能であろう。
したがって、防衛施設局長が、確認書を根拠に「反射的に自己の土地の位置、境界
については動かないものとなる」という論理は飛躍であり、こじつけ以外の何物でも
ない。 第三に防衛施設局長が列挙する眞榮城玄徳らに「不利と思われる事実」は、
眞榮城玄徳らが沖縄県収用委員会の裁決に基づく補償金を「受領」しているというこ
とである。
しかし、眞榮城玄徳らが地籍不明地の強制使用は許されないと過去一貫して収用委
員会において主張してきたことは明白な事実であり、収用委員会の使用裁決について
那覇地方裁判所に訴を提起してその取消しを求めているものであるから、補償金の
「受領」が本件申請土地が特定していることに結びつくものではない。
第四に防衛施設局長が列挙する眞榮城玄徳らに「不利と思われる事実」は、眞榮城
玄徳が土地を所有する石根原の地域においても、有銘政夫が土地を所有する伊森原の
地域においても、他の土地所有者が現地確認書に押印済みだということである。
しかし右のいわゆる「10−9=1」の論理は、全く成立しない。
1 他の土地所有者の土地がすべて未認証土地であり、その位置・境界がすべて決
まっていないのにもかかわらず、あたかも決まっているかのように述べて、残ってい
る土地がお前のものだというのは無茶苦茶な論理としか言いようがない。
2 他の土地所有者の押印の真意を歪曲している。沖縄の地籍明確化作業の実態が
集団和解であるということは、公知の事実である。したがって、少なからぬ土地所有
者の押印した真意は、「ここが本当に自分の土地かどうかわからないが、皆がこの案
でいくなら、自分もこの土地を自分の土地にすることに異存はない」という趣旨であ
る。「9」の意思がすべて「この土地は自分の土地であり、境界も間違いがない」と
いうのであれば、防衛施設局長は立証すればよい。それは不可能であろう。
3 防衛施設局長の論理は、集団和解案を和解案に同意していない者に強制するも
のであるが、和解を拒否している者に対して和解案を強制できないことは、法律の常
識に属する。
4 そもそも土地の位置・境界を確定することは、民事訴訟の判決によるか、地籍
明確化作業の成果の認証作業を経るしかない。民事訴訟の判決にもよらず、地籍明確
化作業の認証作業も経ないで、土地の位置・境界が確定するはずがないのである。防
衛施設局長の論理は黒を白と言いくるめるもので、法の大原則を破る誠に「勇気」あ
る主張と言えよう。
以上より、防衛施設局長らが列挙する眞榮城玄徳らに「不利と思われる事実」は、
すべて防衛施設局長の主張を根拠づけるものでないことが明らかになった。
地籍不明地問題についての防衛施設局長の論理の破綻は明白である。
三 嘉手納基地の使用が「極東」の範囲を逸脱していることについて
米軍用地特別措置法第三条は、内閣総理大臣の使用認定の要件として、「駐留軍の
用に供するため土地等を必要とする場合」をあげているが、同文言が「安保条約違反
の駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合」を含むと解釈することは、いか
なる奇弁をもってしても不可能なことである。
そこで、嘉手納基地使用の実態が安保条約違反と言えるかどうかが問題になる。
反戦地主・一坪反戦地主は、嘉手納基地使用の実態が以下のとおり安保条約第六条
の予定している「極東」の範囲を逸脱しているので、安保条約違反であることは明白
であると考える。
そもそも、在日米軍が日本の安全・日本の防衛とは無関係にアメリカの国益を基準
に行動する軍隊であるということ、また、「極東」の範囲を逸脱した目的を有してい
るということはアメリカ政府・軍関係者から再三言明されてきたところである。一九
九五年三月に発表された米国防総省の「日米安全保障関係報告書」も、次のように述
べている。
「日本に駐留する米国の陸・海・空軍および海兵隊は、アジア・太平
洋におけるわれわれの防衛第一線を支えている。これら部隊は遠くペル
シャ湾に至るまでの広範な局地的、あるいは地域的、さらには地域を超
えた突発事態に対処できる態勢を整えている。」(邦訳「世界週報」一
九九五年四月一日号七一頁)
嘉手納基地についても、第一八航空団司官ジェフリー・クレーバー准将(当時)
は、嘉手納基地機関紙「カデナ・ショーグン」一九九三年九月一〇日号において、次
のように述べて嘉手納基地使用の実態が「極東」の範囲を逸脱していることを認めて
いる。
「われわれは、戦闘機・給油機・空輸機・救護機・ヘリコプター、空
中と地上設置のレーダー・システム、加えて、機動と展開を要求される
支援、兵站と医療基礎施設の混成部隊を保持している。そして、合衆国
の国家利益と西太平洋における地域的同盟諸国の利益にかかわる支援に
部隊を動員する。出動し、戦いをして勝利する体制を整えている空の最
高のチーム」である(大城朝助「米新戦略に直結する沖縄」『赤旗』評
論特集版一九九五年一二月二五日号一五頁より引用)。
嘉手納基地の使用実態が「極東」の範囲を逸脱していることを最も誰の目にもわか
りやすい形で明らかにしたのが湾岸戦争であった。
第七回公開審理において、「嘉手納基地の歴史と機能」につき意見陳述した大城保
英は、県収用委員会に提出した「第七回公開審理意見陳述概要」の中で、次のように
述べている。
「九一年一月一七日に始まった湾岸戦争の『砂漠の嵐』作戦では、一
月末段階で五〇万人余の米軍が、ペルシャ湾周辺に集結しました(米国
防総省発表)。在日米軍基地からは一万五〇〇〇余人、そのうち沖縄か
らは八〇〇〇人以上の米兵が中東に出動しました。在沖米軍基地は、湾
岸地域への兵員、武器・弾薬、その他の物資等の輸送のために、嘉手納
基地をはじめ普天間基地、牧港補給基地、那覇軍港、ホワイト・ビー
チ、レッド・ビーチ、天願桟橋などすべての米軍基地が二四時間体制で
動きました。
九〇年八月七日夕方から翌八日にかけて、完全武装の米兵が多数C1
30輸送機に乗り込んで、嘉手納から中東へ出撃しました。米国防報告
によると、この日は『砂漠の楯』作戦の第一段階第一日目と位置づけら
れています。八月八日にはE3空中早期警戒管制機(AWACS)二機
が嘉手納基地から中東へ飛び立って行くのを、私たちは監視行動の中で
目撃しました。
その後も嘉手納基地からの発進は続きます。九月九日には大型輸送機
C5ギャラクシーが大量の物資を満載して、相次いで中東へ。九月二八
日には嘉手納の909空中給油中隊、第376組織整備中隊が湾岸戦争
の任務に参加(『カデナ・ショウグン』報道)。九一年一月一一日に
は、第一二海兵隊第二砲兵大隊が嘉手納からユナイテッド航空機747
やC5ギャラクシーで中東へ(約三四〇人)。この週に二二五〇人〜三
三四〇人の兵員が沖縄から中東へ(『星条旗』報道)。
その他、梅林宏道氏の『情報公開法でとらえた沖縄の米軍基地』によ
ると、空軍からは三五三人の空中給油部隊、八一人の空輸支援関係要
員、四四人の第四〇〇弾薬整備部隊員が湾岸に派遣されました。弾薬整
備要員は約九八〇〇トンの弾薬を嘉手納から湾岸に運んだと言われてい
ます。また、湾岸戦争に協力するために、アメリカ本国やグアムの米軍
基地に嘉手納から派遣された兵員もおります。
また、上記資料によれば、嘉手納基地に残った部隊も、色々な後方活
動で湾岸戦争を支援しています。嘉手納の補給部隊は二〇〇万ドル相当
の科学戦争用の防御装置や軍服などを湾岸へ送り、多くのF15戦闘機
の部品が湾岸に送られ、九一年前半までは嘉手納基地で部品不足が生じ
たと言われています。」
更に大城保英は、同書面の中で、「マヤゲス号事件で、海兵隊が嘉手納基地からC
141輸送機でタイへ出撃(七五年)」、「P3対潜哨戒機部隊がイラン革命、米大
使館員の人質事件で、インド洋のディエゴ・ガルシアに派遣される(七九年)」、
「イランでの人質救出作戦に特殊作戦部隊のMC130が四機出動、一機は撃墜」、
「国連憲章に違反して、米軍独自のイラク攻撃に嘉手納のKC135が参加(九六
年)」、「海兵隊員三〇〇名がソマリアへ向けて嘉手納を出発(九二年)」の事実を
指摘し、「嘉手納から飛び立った目的地はどれも極東の地域ではありません。これだ
けを見ただけでも、米軍の行動が日米安保条約にさえも違反していることは明らかで
す」と締め括っている。
以上より嘉手納基地の使用実態が、安保条約に違反していることは明白であろう。
したがって、嘉手納基地関係の三四筆の使用認定は米軍用地特別措置法第三条に違
反した重大かつ明白な違法があるので、本件各裁決申請は、いずれも却下すべきであ
る。
四 本件各土地の使用状況と「適正且つ合理的」要件の不存在について
米軍用地特別措置法第三条は、内閣総理大臣の使用認定の要件として、「駐留軍の
用に供するため土地等を必要とする場合」と「その土地等を駐留軍の用に供すること
が適正且つ合理的であるとき」とを規定している。
では、右の「その土地等を駐留軍の用に供することが適正且つ合理的であるとき」
とは、如何なることを言うのか。その解釈が問題となる。
このことにつき、参考になる一つの裁判例が存在する。いわゆる「アニーパイル劇
場事件」の東京地方裁判所の判決である(昭和二九年一月二〇日、判例時報第一九号
一七頁)。
アニーパイル(旧東宝)劇場は、駐留軍軍人の娯楽乃至慰安のため利用されてきた
ところ、昭和二七年一一月二四日、内閣総理大臣が使用認定をした。そこで東宝株式
会社が内閣総理大臣を相手として使用認定の取消を求めたのが本件である。
裁判所は、「日本国は、行政協定により、合衆国に対し、安全保障条約第一条に掲
げる目的の遂行に必要な施設及び区域の使用を許す義務を負担したので、この義務を
確実に果たすための国内措置として、駐留軍の用に供する土地等の使用又は収用に関
する特別措置法を作ったのである。故に、特別措置法第三条にいう土地等を駐留軍の
用に供することが『適正且つ合理的』であるか否かは、その土地等が安全保障条約第
一条に掲げる前記目的の遂行に必要な施設または区域といえるか否かということを基
準として決しなければならない(また特別措置法による使用又は収用は強制的なもの
であり、やむを得ない必要があるとしても個人の財産権の侵害が許容される場合であ
ることを考えると、その『適正且つ合理的』というにはおのずから一定の限界があっ
て、無制限に広い解釈をこれに与えることもできぬ、といわねばならぬであろう)。
人間生活にとって娯楽乃至慰安が必要であることは、いうまでもない。軍人生活に
とって娯楽乃至慰安が必要であることも、よくわかる。しかし『軍人には娯楽乃至慰
安が必要であるから、駐留軍々人の娯楽乃至慰安のために娯楽乃至慰安の施設を駐留
軍の用に供することは適正且つ合理的である。』というような論議は、いささか的を
外れている。ここでは軍人一般に何が必要であるか、というようなことは、問題にな
らず、ただ、駐留軍々人の娯楽乃至慰安のために、娯楽乃至慰安の施設を、駐留軍の
用に供することは、安全保障条約第一条に掲げる前記目的の遂行に必要な施設の供与
といえるかどうか、ということだけが問題になるからである。」と判示し、本件につ
いては、「本件物件を駐留軍のこのような用途に使うことは、特別措置法第三条でい
っている『適正且つ合理的』な使用には当たらない、と考える。このような用途は、
安全保障条約第一条に掲げる目的、即ち『極東における国際の平和と安全の維持に寄
与し、外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するため』という目的から少
しはなれるからである。右のような用途でも『適正且つ合理的』といえるとすると、
必要な最少限度に止めなければならないはずの、個人の財産権の侵害について、殆ん
どきりがなくなるからである。」と判断した。
誠に立派としか言いようがない判決であり、判決から四〇数年を経た現在でも、十
分に通用する論理である。
右の判決は、旧安保条約の時代のものであるから、今日の時点に読み替えれば、米
軍用地特別措置法第三条の「適正且つ合理的」の要件は、「日本国の安全に寄与し、
並びに極東における国際の平和と安全の維持のために必要な施設及び区域」と解され
ることになろう。
なお、いわゆる「那覇市軍用地訴訟」において、那覇地方裁判所は、「『適正且つ
合理的』であるとは、原告主張のように『適正』と『合理的』とに分断して解釈すべ
きではなく、両者を併せて、土地等を駐留軍の用に供する必要性が高いこと及び土地
等を駐留軍の用に供することによる公共の利益がこれを駐留軍の用に供することによ
って失われる利益に優っていることの意と解すべきである」と述べている(判例時報
一三五一号二九頁)。
しかし、このような比較衡量論は、一見もっとものようでありながら実は判断の明
確性・安定性を欠くものであること、問題になっているのが強制使用対象者の人権で
あることからすれば、人権にウエイトをおいて限定的な解釈がなされなければならな
いのにそのような考慮がみられないこと、という重大な欠陥を有する。
したがって、右のアニーパイル劇場事件判決の解釈が、今日もなお維持されなけれ
ばならないのである。
では、本件各使用認定は「適正且つ合理的」の要件を満たしているだろうか。
反戦地主・一坪反戦地主は、不当にも現地立入りを再三・再四にわたって拒否され
続けている。それゆえ、本件各裁決申請対象土地の実際の使用状況を、各「物件調
書」記載の「実地の状況」欄で点検すると、以下のように各土地が使用されているこ
とがわかる。これらの使用状況から判断すれば、これらの土地はいずれも「日本国の
安全に寄与し、並びに極東における国際の平和と安全の維持のために必要な施設及び
区域」と言えないものである。すなわち、米軍用地特別措置法第三条の「適正且つ合
理的」の要件を満たさない土地である(なお、必要に応じて、那覇防衛施設局長の平
成七年四月一七日付「使用認定申請書」に添付されている「土地等の調書」の「現在
の用途」欄に記載されている内容を紹介する)。
[土地の所在・地番] [所有者]
[使用状況]
1
沖縄市字山内唐道原六〇−一 比嘉康雄 沖縄電力株式会社が使用
している架空送電線があ
る(「使用認定申請書」
では「学校用地」となっ
ている)。
2 沖縄市字山内唐道原六〇−二 比嘉康雄 更地(「使用認定申請
書」では「学校用地」と
なっている)。
3 沖縄市字山内西原一一六九 金城 昇 家族住宅、変圧器及びマ
ンホール等がある。
4 沖縄市字山内石迫原一五七六 喜友名朝則 更地(「使用認定申請」
では「駐車場敷地」とな
っている)。
5 沖縄市字森根角石西原一九一 照屋秀伝 住宅、高圧ボックス及び
外灯等がある。
6 沖縄市字森根伊森原二七二 有銘政夫 住宅、マンホール等があ
る。
7 沖縄市字森根石根原三六一−二 眞榮城玄徳 沖縄電力株式会社及び沖
縄県企業局の使用する工
作物並びに駐車場があ
る。
8 沖縄市字森根石根原三六二 眞榮城玄徳 沖縄電力株式会社及び沖
縄県企業局の使用する工
作物並びに貯水タンクが
ある。
9 沖縄市字森根石根原三八五 眞榮城玄徳 沖縄県企業局の使用する
工作物及び駐車場があ
る。
10 沖縄市字白川白川原三八二−一 高宮城清 沖縄電力株式会社の使用
する工作物がある。
11 沖縄市字大工廻大工廻原三二 比嘉昭雄 資材置場がある。
12 沖縄市字大工廻大工廻原三四 比嘉昭雄 更地(「使用認定申請
書」では「資材置場敷
地」となっている)。
13 嘉手納町字野里南上原九五五 伊礼巳知男 電柱及び電気マンホール
がある。
14 北谷町字伊平赤道原八〇四 喜友名朝則 家族住宅がある。
15 北谷町字上勢頭平安山中勢頭原五一 名嘉富子外 更地(「使用認定申請
書」で「資材置場敷地」
となっている)。
16
北谷町字下勢頭下勢頭原四六一 佐久川政一 家族住宅及び電柱支線が
ある。
17 北谷町字砂辺加志原五五四 與儀和雄 墓一基がある。
以上により、右一七筆の土地の使用認定には、米軍用地特別措置法第三条に違反す
る重大かつ明白な違法が存在することが明らかである。
右一七筆の土地に係る本件各裁決申請は、いずれも却下すべきである。
**************************************************************
資料提供は反戦地主弁護団、テキスト化は仲田博康さん。
**************************************************************
沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック
http://www.jca.ax.apc.org/~sei-u/hitotsubo_kanto/index.html
東京都千代田区三崎町2-2-13-502
電話:030-910-4140、ファックス:03-3386-2203
郵便振替:00150-8-120796
**************************************************************
公開審理闘争の記録集 『くさてぃ』 発売中
B5判 290ページ、1000円(送料340円 20冊まで)
3月、4月、5月、6月、7月、