Date: Mon, 25 Jun 2001 21:33:29 +0900
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Subject: [keystone 4052] <神奈川>教科書比較分析 3/3(公民的分野)
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「教科書比較分析」第3便、「公民的分野」です。
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2002年度版中学校教科書の分析

公 民 的 分 野

8つの項目・観点から比較検討しました。

1 憲法第9条( 平和主義と憲法第9条)
憲法前文と第9条、第9条と自衛隊、自衛隊の違憲性あるいは憲法に矛盾しないという
論議は、各社とも記述の濃淡はあるが一応おさえている。
戦争放棄を説明する「あたらしい憲法のはなし」(1947年文部省発行)をコラムなどで
とりあげているのが日書、東書、大書、清水。第9条のもつ戦力不保持・交戦権の否認
が積極的な意味で国際的に注目されているとするのが日書・清水。扶桑はグラビアペー
ジで、阪神、淡路大震災と自衛隊、国境と周辺有事、国家主権と日本人、大国日本の役
割で自衛隊の活躍をとりあげているのが特徴的。また、コラム「憲法論議と第9条」で
「国民の多くは今日、自衛隊をわが国の防衛のため不可欠な存在」と紹介。

2 国民の義務
国民の三大義務のみを記述しているのが東書、清水、帝国・日文。公務員の憲法尊重と
擁護の義務を加えているのが大書と教出。扶桑は他社が5行から10行のスペースであ
るのに対し、本文17行、資料3点を加えると38行分の扱いになっている。扶桑の資料
「各国の憲法に記載された国防の義務」の中で「これらの国の憲法では国民の崇高な義
務として国防の義務が定められている」とコメントしている。日書は「兵役の義務のな
いことは、日本国憲法の特徴である」と記述している。

3 女性の地位や権利
憲法の男女平等、男女雇用機会均等法、男女共同参画社会基本法については、ほぼどの
社ともふれているが、その理念や実態の記述についてはばらつきがある。各社特集ペー
ジやコラムで、写真、イラスト、資料などをあげ、工夫がある。帝国、清水、東書は、
討論のページを組んでいる。日書、大書、教出、帝国、日文は欧米との比較など国際的
視野もある。夫婦別姓問題をとりあげたのが、東書、日文。なお、7社は、家事、育
児、老人介護について、女性の負担が多い実情を、意識変革と実践によって、男女共生
社会の実現を求めている。扶桑のみが、女性の社会進出は性別役割分業をこえるものと
し、専業主婦を強調し、男女の生理的・肉体的差異への配慮などを説いている。

4 子どもの権利( 児童の権利条約)
「児童の権利条約」については8社とも記載、そのうち子ども自身の訳文を紹介する清
水と東書。教出は「わたしたちの人権」を1ページでポイントを紹介。日書は「ある中
学校の生徒憲章、大書は「戦争と子どもたち」の1ページ、帝国はいじめを中心に人権
を考える2ページ、日文もいじめから人権を考える。
扶桑は「学校をめぐる問題でいじめについてふれているが、「少年法」で1ページ、
「子どもは心身の成長段階にあり肉体的・精神的に未熟なので、親の監護のもとに置か
れたり、少年法の適用を受けるなど、さまざまな法律上の保護をうける」としているの
が目に付く。扶桑のみが「児童の権利条約」を資料としてとりあげていない。
日書の「未来をきりひらく」は4ページを割いて人権・平和などを考えさせる材料を提
供している。

5 資本主義経済のしくみ( 資本家と労働者、 株式会社)
資本家が労働者を雇い利潤を求めて経済活動を行うのが基本であることを書いているの
は清水と日書。他は企業とか経営者を主人公にして説明している。帝国、東書、大書は
生徒が自ら企業を起こす試みとして提示。帝国は株式会社も自ら資本を集める方式で解
説。この三者は、経済活動への関わり方を企業家または投資家としての参加に重点を置
いているようだ。そうであれば、経営の決定権を持つのは大株主である銀行か大企業で
ある現実を記述すべきであると思うが、この指摘があるのは清水と日書。
日本の労働者の現実の厳しさをよく伝えているのは日書の<会社中心の生活>。他社に
も過労死、サービス残業などの言葉はあるが、背景にある日本の特異性を理解するには
不十分だと思う。

6 日本の農業問題( 食料の自給率)
<どうする、どうなる日本の農業>というタイトルの清水には危機感がある。農産物輸
入自由化による衰退、食糧自給率の低下を他の工業国と比較し、自然環境保全の意味で
も農業の重要性を訴えている。日書も同趣旨で、天候に左右されるという、工業との違
いにも触れている。教出は基本はよいが扱いが軽い。扶桑は「荒廃する田園」とし、
「取引が自由である限り自然破壊はさけられない」といいつつ、ヨーロッパは農工のバ
ランスを保とうとしていることに言及。
他社は食糧問題として自給率の低下を問題にしているが、農業を国の産業として守ると
いう考え方が見られない。東書は「規制と保護による政策を改めて」というが、こう
なったのはむしろ不十分であり不適切であったからではないだろうか。

7 環境問題( 具体性、 市民運動、 エネルギー問題)
地域の公害問題から地球全体の問題として、グラビアを含め全社ページ数が多い。オゾ
ン層破壊、酸性雨などいろいろあるが、<氷河がとける><私の国を沈めないで>とい
う清水のタイトルは生徒の心をとらえそうだ。
解決の手がかりとして市民運動や地方自治体の取り組みがあり、フライブルグのリサイ
クル(帝国)、三番瀬埋め立て縮小(日書)ホタルのとびかう人里づくり(大書)など
など。課題学習として展開した教出も積極的。
<原子力発電をめぐる各国の動向>(日文)は新エネルギー問題とともに考えさせる内
容になっている。原子力発電については害を指摘する大勢のなかで、扶桑は肯定的。国
際的な取り組みがいそがれるが京都会議は全社が記述。

8 南北問題( 現実、先進工業国の責任、 国際協力)
飢え、就学率など各社が記述。北の責任については、植民地時代から現在の要因にもふ
れる清水、教出、<日本が破壊するアジアの森林>という東書、日本はODAの額は世
界一だが、自国の企業の利益が優先されがちであるという日書、多国籍企業のグローバ
ルな進出による格差拡大を指摘する日文、と特色がある。
NGOの記述もいろいろだが、<シャプラニールの家>(帝国)<フィリピンに平和の
水道建設>(大書)がまとまっている。解決にはほど遠い深刻な問題だが「困難の中の
希望」(清水)を信じたい。肉食中心の食生活を穀物中心に改めれば世界の人口を養え
るという日書、大書の記述は発想の転換を求めているようだ。扶桑は途上国援助の項は
あるが、先進国の責任にはほとんどふれていない。

             −−−おわり−−−



 
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