「北限のジュゴンを見守る会」からの呼びかけです。
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「北限のジュゴンを見守る会」、名護新基地建設案の即時撤回を政府に要請!
発信者=北限のジュゴンを見守る会(代表・鈴木雅子)
発信時=2001年6月23日
本年6月8日、日本政府は、第7回代替施設協議会で、稲嶺沖縄県知事、岸本
名護市長ら沖縄側に、3工法8案を示し、それに基づいて地元で調整するよう求
めました。
同案に対し、名護現地をはじめ沖縄では、強い抗議の声があがっています。提
示された3工法8案は、どれを採用しても、新基地が押しつけられる地域の住民
を分断し、土木建設関連業者間の抗争を激化させ、しかも豊かな自然を大規模に
破壊するからです。
稲嶺知事は先の訪米で、新基地の15年使用期限を明確にするよう、米国政府
に迫りましたが、冷酷な拒絶しか返ってきませんでした。岸本市長は、15年使
用期限問題などで何の進展もないのに、基地建設案だけが協議の対象として押し
つけられることに強い不満を表明しています。
日本政府は沖縄側の意見を聞くフリをするだけで、やっかいな地元での調整
を、沖縄県と名護市に押しつけています。そして米国政府は、とにかく代替基地
を確保できればいいという姿勢で、沖縄の人びとの思いを足蹴にしています。
関東を中心に活動する研究者・市民の自然保護団体「北限のジュゴンを見守る
会」は、ジュゴンが生きられる環境を保全するために必要なことは、3工法8案
やその代替案の検討ではなく、新基地建設案そのものの撤回であると考え、6月
22日、全閣僚に以下の要請書を送りました。当会は近く、衆参両院の全議員に
この要請書を届け、協力を求めます。
米海兵隊・普天間基地の代替基地建設は、とうとう建設案が提示されるところ
まで来ました。全国のみなさんが、それぞれの立場で、名護新基地建設案の全面
撤回と基地建設計画の中止を、日本政府に強く求める声をあげて下さるようお願
いします。
以下に、当会の要請書を掲載します。
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要 請 書
私たちは、「北限のジュゴンを見守る会」という自然保護団体です。本会の目
的は、沖縄に生息するジュゴンが、今後も生き続け、どんどん増えて、群れをな
して泳ぐことができる自然環境を保全することにあります。それゆえ私たちは、
きわめて貴重で、しかも絶滅の恐れがある沖縄のジュゴンについての知識を広め
るため努力してきました。
さて、本年6月8日、首相官邸で開かれた第7回代替施設協議会で、政府は、
名護市に予定されている米海兵隊・普天間基地の代替基地建設について、3工法
8案を、沖縄県や名護市などに提示しました。その内容は、沖縄の地元紙で詳細
に報道されましたが、報道に接した私たちは、息も止まるほど驚きました。提示
されたどの案も、ジュゴンの生存の根を絶つものであったからです。
浅海性の草食獣である温和な性質のジュゴンは、とても音に敏感で、船のエン
ジン音にもおびえて潜水するほどです。ところが、政府が提示した8案は、工期
が6年から18.5年とされています。杭式桟橋工法であれ、ポンツーン工法で
あれ、また埋め立て工法であれ、長期にわたって連日、基地建設工事が続けられ
れば、餌場のある生息域からジュゴンが追い出されるのは、火を見るよりも明ら
かです。
日本政府が当初提示した建設案は、滑走路1300メートルで、しかも撤去可
能なヘリ専用基地というものでした。しかし今回提示された3工法8案は、いず
れも滑走路が2600メートルと倍の規模になり、しかも撤去の可能性にまった
く触れていません。それは、今回の建設案が、恒久基地の建設を前提としたもの
であることを示しています。
しかも2600メートルの滑走路には、米軍の戦闘機が発着できます。新基地
は、ヘリ専用基地ではなくなったのです。沖縄県は軍民共用基地の建設を主張し
ていますが、共用であれ、米軍専用であれ、ジェット機、戦闘機、ヘリなどの騒
音が、ジュゴンを駆逐してしまうことは自明の理です。米空軍厚木基地が発する
騒音が、基地周辺住民の生活と健康を脅かしている事実に思いを馳せれば、繊細
で音に敏感なジュゴンが、どれほど脅威にさらされるか、誰にもわかることでは
ないでしょうか。
帝京科学大学の粕谷俊雄教授は、本年6月16日付の『沖縄タイムス』で、政
府提示の3工法8案は、「どれもジュゴンのえさ場・通路・休息場の一つ、ない
し二つを破壊する。これはジュゴンの日周移動を妨げ、辺野古の生息場を放棄さ
せ、生息好適地の縮小を招く。」と指摘し、「空港は沖縄ジュゴンに有害であ
り、その害は海草群落の温存や移植では代替できない。ジュゴンの保存を望むな
ら、空港の建設は避けるべきである。」とのべています。
また、沖縄のジュゴンは、数十頭と推定されていますが、その点について、名
桜大学(名護市)の大西正幸教授は、こう指摘しています。「数十頭という数字
は、わずかでも環境の負荷がかかれば絶滅するという数である。日本海洋ほ乳類
学会では、沖縄のジュゴンを『近絶滅危ぐ種』という最も絶滅の可能性の高い種
の中に分類している。まして何の積極的な保護策も講じられておらず、漁業や船
舶のような人間活動による妨害、埋め立て、赤土流出などによる海草場の喪失・
劣化が手放しになっている沖縄の今の状況では、年々減少し、近い将来姿を消す
のは確実である。」(本年6月15日付『沖縄タイムス』)。
つまり沖縄のジュゴンは、今でさえ絶滅の危機にさらされているのであり、基
地の建設と運用がもたらす騒音や、餌場・通路・休息場の破壊によって、致命的
な打撃を受けることは必至です。
本年6月13日付の『沖縄タイムス』夕刊によれば、同日の衆院外務委員会で
田中真紀子外相は「普天間飛行場代替施設の工法・規模・場所の特定前に、複数
案の段階で環境影響評価(環境アセス)を実施することについて、『心得て進め
たい』と理解を示した。」とのことですが、これまで日本政府は、代替基地建設
の中止を一度も検討していません。
それどころか、稲嶺沖縄県知事や岸本名護市長らが求めている15年の使用期
限についても、沖縄側の意向を米国政府に伝えるとのべただけで、態度をあいま
いにし続けています。そして米国政府は、15年使用期限問題には見向きもしな
いという姿勢です。
ですから、田中外相が「心得て進めたい」とする環境アセスメントも、果たし
て基地建設そのものの是非を問う内容を持ち得るのでしょうか。これまで開発行
為に際してなされてきたアセスメントが、〈調査の結果、環境への影響は最小限
に食い止められる〉として環境破壊を容認してきた、あまたある前例が、ここで
も繰り返されることを、非常に危惧しています。
私たちはこれまで、沖縄の自然が、どれほど破壊されてきたかを知っていま
す。かつては「銭蔵(じんぐら、金庫)」あるいは「ウラムトウ(宝)の海」と
さえ呼ばれた、魚の湧く海、金武(きん)湾が、三菱石油の原油備蓄基地(CT
S)建設によって、どのように殺されていったか、その苦い経験から、多くを学
んでいます。
日本政府が、ほんとうにジュゴンの保護を考えているなら、名護に新基地を押
しつける計画自体を即時撤回すべきです。私たちがジュゴンの保護を訴えるの
は、ジュゴンの貴重さを深く認識してのことですが、それだけではなく、ジュゴ
ンが棲むことのできる海が、沖縄の人びとに豊かな環境を保証すると確信してい
るからです。
ジュゴンが生きられる海は、大いなる幸をもたらしてくれます。ジュゴンが棲
めない海にすることは、人間の生活を破壊することでもあるのです。
小泉首相を初め、日本政府の全閣僚に、私たちは心から訴えます。ジュゴンを
絶滅させることが明らかな代替基地建設計画を、今すぐ中止して下さい。良識あ
る決断によって、私たちと世界の人びとに安心を与えるよう、強く要請します。
2001年6月22日
北限のジュゴンを見守る会 代表 鈴木雅子