■報告その1
歴史歪曲教科書を許さない!アジア連帯緊急会議と集会(6月10ー11日)報告
「つくる会」教科書に抗議するために韓国の元「慰安婦」が4月末に来日され
たことがきっかけで、急遽アジア連帯会議を開くことを決定してから、わずか
1ヶ月余の短い準備期間でしたが、アジア 6カ国から約 40人を迎えて、充実し
会議(250人参加)と集会(800人参加)を実現することができました。危機感を共
有した皆さまのご協力のおかげです。
韓国とフィリピンから3人の元「慰安婦」、そして、マレーシア住民虐殺生存
者が参加されて、貴重な証言をしていただきました。アジア各国からの参加者は
日本の加害責任を認めない「つくる会」教科書を批判するだけでなく、その背景
にある日本の国家主義の拡大を憂慮する発言が相次ぎました。分散会に分れてこ
れからの行動計画を、「つくる会」教科書採択阻止とこれからのアジアの歴史教
育について提案を出し合いました。
教科書問題でアジア会議を開いたの初めてで、この会議をこれ限りにしないで、
連帯活動を続けるべきだという意見が出され、 「歴史教育アジアネットワー
ク」をつくることで合意しました。
11日夕の「人間の鎖」も500人が参加して文部科学省のまわりで手をつなぎ、抗
議の意思を表しました。人数的にはぐるりと囲むことができましたが、右翼が来
ていたために、つながることは避けました。内外の報道陣も多数取材に来まし
た。
11日夜の集会は、いくつも教科書問題の集会が開かれたあとでしたが、アジアの
人々の声を直接聞きたいと多くの参加者があり、また、国内の活動報告はアイヌ
民族、沖縄、在日コリアン、そして、地域や女性運動など7人が発言しました
が、たまたま、全員女性だったのが印象的でした。「つくる会」教科書執筆者た
ちの時代錯誤の女性蔑視に対する怒りの表れだと思いました。
採択された宣言と行動計画をぜひ読んで、まわりの人々に知らせ、できることか
ら始めていただきたいと思います。
6月12日 松井やより
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「歴史歪曲教科書を許さない!アジア連帯緊急会議」宣言・行動計画
2001年6月11日 東京
宣言
侵略戦争も植民地支配も正当化する国家主義勢力が日本で台頭し、日本を再び
戦争のできる国家に変えようとしています。それを意図した「新しい歴史教科書
をつくる会」の歴史・公民教科書について憂慮する韓国、中国、台湾、フィリピ
ン、インドネシア、マレーシア、日本,アイヌ民族、沖縄、在日外国人、およ
び、朝鮮民主主義人民共和国(日本政府の入国拒否のため文書提出による参加)
の250人が「歴史歪曲教科書を許さない!アジア連帯緊急会議」を 2001年
6月
10― 11日東京で開きました。
私たちは2日間の会議で、日本軍の性奴隷制として「慰安婦」にされた女性
や、住民虐殺被害者、日本国内のアイヌ民族、沖縄、在日コーリアンの立場から
の証言を共有し、「つくる会」教科書の採用を阻止するために、そして、将来の
あるべき歴史教育を確立するために、どのような行動をとるか意見を交わしまし
た。この二つの目的達成のために、私たちアジアの人々の連帯を強めることを宣
言します。
日本では「つくる会」教科書問題の集会が今年に入ってからでも全国各地で
300回以上開かれるなど急速に批判が高まっています。また、韓国、中国両政府
から修正要求が日本政府に出され、韓国の国会議員や元「慰安婦」が来日して日
本政府に座り込みなどの抗議行動をとりました。その他のアジアの国々からも抗
議の声が日本に次々に届いています。それは、「つくる会」教科書がアジアのす
べての人々にとって、危険なものだからです。
「つくる会」歴史教科書の問題点は、第一に、日本の侵略戦争をアジアの西欧
植民地支配からの解放戦争であると美化し、植民地支配は合法的であり、相手国
に貢献したと評価するなど、過去の歴史をすべて正当化していること、第二に、
皇国史観に貫かれ、天皇の戦争責任を追及するどころか天皇を礼賛しているこ
と、第三に、南京大虐殺を疑問視し、日本軍性奴隷制(「慰安婦」制度)という
20世紀最大規模の戦時性暴力を抹殺していること(執筆者は、「慰安婦」の記述
はトイレの歴史を書くようなものと暴言)、第四に、歴史の主体が国家中心で、
民衆やマイノリティ不在であること、第五に、家制度を擁護し、良妻賢母の伝統
的性別役割を強調するなど女性蔑視思想が濃厚なこと、などです。つまり、自民
族中心、国家中心、権力者中心、男性中心史観に貫かれているのです。
このような歴史認識は「つくる会」公民教科書に反映しています。第一に、憲
法改悪、自衛隊礼賛、海外派兵、集団的自衛権、「中国・北朝鮮脅威」論、「国
旗・国歌」の強制、国益と国家秩序、国防の義務強調、核武装肯定など、戦争の
できる国づくりを公然と主張しています。第二に、戦争国家にするために、市民
的自由や権利よりも公共の福祉優先、個人より家族の一体性重視、外国人やマイ
ノリティへの差別軽視、市民運動の敵視など、人権より国権優先の国家中心主
義、排外主義、人種差別思想を唱えています。第三に、女性への暴力の問題など
女性の人権や男女平等教育への配慮に欠け、女性差別が明らかです。
このように、歴史・公民教科書は表裏一体のものであり、歴史教科書の過去の
侵略肯定という歴史認識が公民教科書の現在の戦争肯定につながっているので
す。さらに、国連人権規約などの國際人権法や国連勧告などにも反しています。
このような見方をもつ教科書が子どもたちに与える悪影響は計り知れません。
「つくる会」教科書の問題は、日本の小泉内閣の憲法や教育基本法改悪、靖国
神社公式参拝などの動きに連動し、戦争のできる国家に向かうものであり、この
ような日本の国家主義への流れに、アジアの人々が国境を越えた協力で歯止めを
かけないと、アジアに再び惨禍と災厄をもたらす恐れがあるのです。
しかし、危険な国家主義は、経済のグローバル化への反動として、世界各地で
広がって紛争や暴力を引き起こしており、アジアの国々でもそれを食い止めなけ
ればならないと思います。そのためにも、それぞれの国で自国の歴史を点検し、
教育を国家権力から人々の手にとりもどし、平和のための歴史教育を実施するこ
とが必要です。
私たちは、第一に、日本政府が「つくる会」教科書を検定に合格させた責任を
厳しく問い、強く抗議します。それは、宮沢官房長官談話と近隣諸国条項(82
年)、河野官房長官談話(93年)、村山首相談話(95年)、日韓共同宣言(98
年)、日中共同声明(98年)など日本政府のこれまでの公式見解と国際公約に違
反した措置だからです。そして、日本政府が、韓国、中国からの修正要求に誠実
に応じるように要求します。
第二に、「つくる会」教科書が各地の教育委員会で採択されて教室に持ち込ま
れないように、私たちは、日本国内で、アジア全域で、できる限りの共同行動を
起こします。
第三に、アジアに生きる私たちが和解と信頼に基づく平和と人権のアジアを創
ることを願い、そのような大事な役割を担う子どもたちを育てるのにふさわしい
歴史教育を確立するために協力し合います。
これらの目的を達成するために、私たちは歴史教育アジアネットワーク (歴史
教科書アジアネットワーク)を結成することに合意し、次のような行動計画を提
案します。
行動計画
I.「つくる会」教科書採択阻止のために
1)地域で
教育委員会への働きかけ:請願・要請の署名運動、手紙(ハガキ)書き
教科書展示会:アンケートに意見を書く
採択過程の公開要求、地方議会に憲法、教育基本法に基づく教科書採択の要請・
請願
「つくる会」教科書を他の教科書と比べて読む運動
教科書問題のさまざまな集会
市民ネットワーク作り
地方自治体の人権教育、國際理解教育に歴史教育を取り入れる
2)教育現場で
校長や教師と話し合う
PTAで取り上げる
教職員と市民との連携
3)全国的に
マスコミ対策:新聞に折り込み広告・意見広告、
良い記事を応援・悪い記事に抗議
4)アジア各国で
毎週金曜日座り込み
各国で日本大使館に抗議
自国政府に日本政府への働きかけを要求
5)アジア太平洋地域の連帯で
アジア共同署名運動
姉妹都市、友好都市間の連携
Eメールでの情報伝達
同時サイバー・キャンペーン(文部科学省に対して)
ホームページ作成
6)国際機関や世界で
国連人権委員会、ILO,ユネスコなど国連機関に世界のNGOと連携して訴え
グローバルなNGOネットワークに情報伝達
II. アジアの未来を共に創る歴史教育を確立するために
1)ジェンダーの視点で
女性運動と教科書運動の連携
すべての教科書に「慰安婦」記述の復活、充実
ジェンダーの視点からのアジア共通の歴史教科書
2)歴史学者、教育学者として
国定教科書など自国の歴史の見直し
朝鮮史、アジア史、日本史学会に行動を要望
地域史などの作成
3)歴史教育の国際協力
アジア各国間の生徒・学生・教師、学者同士の交流(共同授業など)
他のアジア諸国の歴史教科書を参考にする
歴史副読本の共同制作
各国教科書の日本関連記述についてのシンポジウム、報告書
4)国際キャンペーン
「つくる会」教科書支援日本企業の責任追及(企業名公表、製品不買運動など)
日本の国連常任理事国入り反対運動
日韓協定など2国間協定の見直し
「歴史歪曲教科書を許さない!アジア連帯緊急会議」参加者一同
呼びかけ団体
「戦争と女性への暴力日本ネットワーク」(VAWW−NETジャパン)
平和と実現するキリスト者ネット(キリスト者平和ネット)
子どもと教科書全国ネット21(教科書ネット21)
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教科書アジア連帯緊急会議宣言(英語最終完成版)
No! To the Distorted History Textbook
A Declaration and Action Plan of the Asian Solidarity Conference on
Textbook
Issues in Japan
Declaration:
Nationalism, which attempts to justify past war atrocities and
colonialist rule, is on the rise in Japan. The influence aims to make
Japan into a nation which can go to war. Those who are deeply concerned
about this grave situation as well as concerned about the history and
civics textbooks published for this purpose, by the Society for New
History Textbook (Tsukurukai), held "The Asian Solidarity Conference
on
Textbook Issues in Japan. - No! to the Distorted History Textbook."
on
June 10th and 11th 2001, in Tokyo. Included were the total of
250
participants from ROK (South Korea), DPRK (North Korea: due to the
refusal of entry into Japan, participated by submitting their papers),
China, Taiwan, Philippines, Indonesia, Malaysia and Japan (including
Ainu, Okinawa, and Koreans in Japan).
During the two-day conference, valuable testimonies were shared from
the
stand point of the "comfort women" who were forced to become sex slaves
of the Japanese military, survivors of village massacres who experienced
unimaginable suffering during the war with Japan, Ainu people, Okinawan
and Koreans in Japan. We exchanged our ideas and opinions on how we
can
take joint action to prevent the adoption of the Tsukurukai textbooks
and to establish new visions of history education for the future. We
declare that we strengthen solidarity among Asian people in order to
achieve these two aims.
The criticism has been on the rise about the Tsukurukai textbook in
Japan and more than 300 nationwide meetings on the textbook issue have
been held this year. The Korean and Chinese Governments have already
made demands to the Japanese Government to make corrections on the
Tsukurukai textbook that passed official screening. In addition a member
of the Korean Parliament, and former "comfort women" did a sit-in in
front of the Diet building to protest against the Japanese Government.
And there have been other protests voiced from various countries around
Asia. This simply and clearly implies that how dangerous the Tsukurukai
textbooks are for people in Asia.
The first problem with the Tsukurukai history textbook is its attempts
to justify Japan's aggression and invasion as a war of liberation,
liberating Asia from Western colonialist rule. It legitimates its own
colonialist rule by pointing out that other Asian countries benefited
by
their rule. Second, , it is written by Emperor's historical view
(kokokushikan); instead of pursuing the responsibility of the
emperor
for the war, it in fact glorifies the emperor. Third, it questions
the
actuality of the Massacre of Nanjing, and erases from its records any
mention of the Japanese military sexual slavery system, which was
largest war violence in the 20th century (the Comfort Women System),
(the editor stated that writing about the "Comfort Women" was like
writing about the history of the toilet - adding insult to insult).
Fourth, the subject of history is portrayed as the nation-state and
the
people and minorities are absent and not represented. Fifth, it defends
the family system, and emphasizes the "good wife, wise mother" mold
of
traditional gender role-based division of labor, thereby revealing
a
discriminatory attitude toward women. In other words, it is a self-race
centered, nation state centered, power politics centered, male
chauvinistic view of history that pervades its pages.
Such a view of history can also be seen in the Tsukurukai civics
textbook. First it unabashedly calls for the need to build a nation
that
can go to war, by revising the constitution, glorifying the Self-Defense
Force, encouraging overseas dispatchment of forces, insisting on the
right to " collective self-defense ", emphasizing the threat of DPRK
(North Korea) and China, teaching respect for the national anthem and
flag and national interest and national order, insisting on the
obligation to protect ones own nation from outside aggression, and
affirmation of the need for nuclear armament. Second, in order to create
a militaristic nation, it plays down the rights and freedoms of
individual citizens, lifting up the priorities of public welfare. It
sees family unity as more important than the individual. It
discriminates and looks down on foreigners and minorities. And it takes
a hostile position toward citizen's movements, placing national interest
over human rights. They proclaim a nation centered, anti-foreign, and
racist philosophy. Third, there is no sensitivity to the violence done
toward women, or honoring human rights and male-female equality
education, thereby revealing its discrimination toward women.
These history and civics textbooks need to be understood together. An
understanding of history based on the legitimization of past war
aggressions in the history textbooks, leads to the affirmation of war
in
the civic textbooks. These textbooks also are contrary to the spirits
of
UN Human Rights Law such as UN Covenant on Human Rights and other UN
Recommendations. We can not estimate what could be the impact of these
distorted textbooks upon children.
Along with the move of revision for Education Basic Law and Constitution
and planned official visit of Yasukuni shrine under the Koizumi cabinet,
the Tsukurukai textbook issue is another step to build a nation that
can
go to war. And unless there is some way with the cooperation of people
beyond national boundaries in Asia, to put a stop to the growing
nationalism in Japan, this could spell danger and bring more atrocities
and damages to other Asian countries.
The dangerous nationalism, however, spreads and provokes conflicts and
violence all over the world as a counteraction of globalization. We
need
to stop this occurrence in Asia. To this end, we need to examine history
in our own countries, to bring education back to people from the power
of the nation and to promote history education for peace.
First, we strongly protest to the Japanese government for allowing the
Tsukurukai textbook to pass the screening process. And we hold the
Japanese government accountable for passing these textbooks which
clearly contradict the recent official Japanese government policies
reflected in speech done by Chief Cabinet Secretary, Miyazawa and "
the
provision concerning neighboring countries "(1982), the 1995 speech
by
former Prime Minister Murayama, the 1998 Japan-Korea Joint Declaration
and the Japan-China Joint Declaration of the same year. And we strongly
demand that the Japanese government sincerely consider and comply with
the demands for corrections presented by the ROK (South Korea) and
China.
Second, we are committed to a joint action in Japan and in other Asian
countries, to oppose the adoption of Tsukurukai textbooks by any local
Committee of Education for use in the classrooms.Third, we strongly
desire that we work together toward creating an Asia of peace and human
rights for all, on the basis of trust and reconciliation. And we commit
ourselves to creating the kind of history textbooks that will help
to
nurture children who will be able to take on such a role in the future.
Toward this end we commit ourselves to work together.
In order to reach these goals, we agree to form the Asia Network on
History Education (tentative name) and propose the following action
plan:
Action Plan
I To stop adoption of Tsukurukai textbooks
1 In the community
- To work on local Committee of Education: Signature, letter and post
card campaign.
- To visit Exhibitions of the textbooks: State your opinion in
questionnaire.
- To demand to open the adoption process to the public.
- To request and file a petition with local government.
- To organize a movement to comparatively read Tsukurukai Textbook
and
other textbooks.
- To organize various meetings on textbook issues.
- To create a citizen's network.
- To demand to include history education into human rights and
international education of the local government.
2 In the schools
- To talk with the principal and to discuss among teachers.
- To take up the issues at the PTA
- To make linkages between citizens and teachers.
3 On the national level
- To countermeasure to mass media
: Inserted newspaper ad and opinion
ad.
Support good articles and protest against
bad articles
4 Throughout Asia
- Sit-in demonstrations on every Friday.
- Protest against the Japanese Embassy in each country.
- To demand our own government to work on the Japanese government.
5 Solidarity in the Asia Pacific Region
- Joint signature campaign in Asia.
- Linkage among sister cities and friendship cities.
- Communicate information through e-mail.
- Simultaneous Cyber campaign
( toward ministry of education, culture, sports and technology
)
- Create a home page site.
6 Through international organizations on a global basis
- Appeal to UN agencies such as UN Human Rights Commission, ILO and
UNESCO in cooperation with other NGOs.
- Communicate with global NGO networks.
II To establish history education to create a common future of Asia
1 From a gender based perspective.
- To make linkages between women's movement and movement of textbook
issues.
- Put a description of " comfort women " back into all the textbooks.
- Common History textbook from a gender based perspective.
2 As historian and scholars of education.
- Review the history of our own country described in government
authorized textbook.
- To ask academic society of Korean, Asian, and Japanese history for
possible actions.
- To write a history of local community.
3 International cooperation of history education
- Exchange programs of pupils, students, teachers and scholars in Asia.
(joint classes )
- Exchange programs for ordinary citizens ( study tours, etc )
- Joint production of a supplementary reader of history with reference
to history textbooks in different Asian countries.
- Symposium on Japan related description in textbooks in different
countries and compile report.
3 International campaign
- Pursue the responsibility of those companies, which sponsor the
Tsukurukai textbook: Publicize the names of companies, boycott campaign
against their products.
- Movement against Japan to become permanent member of UN Security
Council.
- Review bilateral agreements such as Japan Korea Joint Agreement.
June 11th, 2001
Tokyo, Japan.
Participants of "The Asian Solidarity Conference on Textbook Issues
in
Japan
-No! to the Distorted History Textbook."
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■報告その2
「こどもの人権と教科書の問題を考える越智今治の会」の弓山正路です。
侵略戦争も植民地支配も正当化する国家主義勢力が日本で台頭し、日本を再び戦
争のできる国家に変えようとしています。それを意図した「新しい歴史教科書を
つくる会」の歴史・公民教科書について憂慮するアジア7カ国(韓国、中国、台
湾、フィリピン、インドネシア、マレーシア、日本)の250人が「歴史歪曲教
科書を許さない!アジア連帯緊急会議」を2001年6月10−11日東京で開
きました。そこで通訳をされた竹野内真理様が詳しい報告を送ってくださいまし
た。竹野内様のご快諾を得ましたので、皆さんに送ります。アジアの民衆の声を
しっかり受け止め、連帯の輪をさらに広げていきたいと思います。
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「歴史歪曲教科書を許さない!アジア連帯緊急会議」の通訳をしました竹野内真
理と申します。
アジア連帯会議はアジア各国からの貴重なお話、そして具体的な今後の対策など
を分かち合えて大変良かったと思います。特に、アジアからはるばる来てくだ
さった海外ゲストに感謝を捧げたいと思います。
マレーシアからはご自身が銃剣で6ヵ所(1ヵ所は背中から胸へ貫通)も刺された
チャンロイさんがいらしてくださいました。日本兵士は、チャンさんの目の前で
母親から乳飲み子であった弟を無言で取り上げて放り上げ、銃剣で串刺しにした
そうです。赤ちゃんは血と大便まみれになり、当時6歳だったチャンロイさんは
あまりの姿に怖くなって触ることもできなかったといいます。母親も刺され倒れ
ていたのですが、30分くらい揺り動かしてもニ度と動くことはなく、その後兵士
が戻ってきて虐殺した死体に葉っぱをかけに来たので、チャンさんはまた死んだ
ふりをし、命拾いしたそうです。
台湾からの慮さんは、日本軍による抗日運動家たちへのだまし討ち大虐殺の話
(式典に招待したように見せかけ、参列した275人の運動家にバラの花を胸につ
け、座らせた後、いっせい射撃し殺した)とともに、理性があり良心的な日本人
の話もしてくれました。台湾の原住民に毒を盛るようにと命令された時、「薬は
ありますが、私は医者としてこの薬を殺すために使うことは出来ません。また総
督府としても決して殺すことはないといって連れてきておいて、今となって毒殺
しては、日本の威信にかかわることだから、かかる手段は絶対反対です。」と拒
否した軍医もいたそうです。また、台湾の気候風土に合った米を育成した農業技
師の話、マラリアをなくしてくれた熱帯疫病研究班などの話を引用してくれまし
た。アジアの侵略の話は、実にそのほとんどがむごい話ばかりですが、このよう
な話を聞くと、中には人間性を失わない人もいてくれたと、ほんの少しほっとせ
ずにいられません。
日本からの発言で印象的だったのは、「アジアの人々は、過去に日本から受けた
苦しみをただ文句をいいに来ているのではない。間違った方向に進もうとしてい
る日本に真実を伝え、このままでは貴方の国は大変だ、しっかりするようにと、
ラブコールを送っていると捉えています」という主催者である日本キリスト教協
議会の方のものでした。本当にアジアの方々は、戦時中に想像もつかないような
苦痛を受け、今は私達に真実の道を示してくれています。アジアの皆さんは口々
に言います。「過去の真実を見ずして、どうして現在を良くすることができるだ
ろう?未来を良くすることができるだろう?これからの世代に私達は真実を伝え
ていかなければ。」被害に遭われた方たちが加害者に対し、貴重なアドバイスを
発信してくれているのです。私達はこれを無にしてはいけないと思います。
しかし、同時に私が危惧しているのは、会場内、そしてアジアの人々や全国にい
らっしゃる問題意識を持ち、行動されている人達の中では共有しあえているもの
が、時代錯誤の軍事強化を唱える反対勢力、そして偏った情報を安易に受け入れ
ている人びと、そして世の中の多くの無関心層の人びとにどのように広げていけ
るのだろうかという疑問です。韓国では十万も署名が集まったそうですが、それ
が日本の外務省に渡されていても、ほとんど知る人もなく、なしのつぶての状態
だそうです。
そして、連帯会議後の国会議員との懇談会では来ていた議員は4人のみでした。
社民党2名と民主党1名と無所属の川田悦子さん(息子さんの川田龍平さんがカメ
ラマンとして出席していました)だけでした。4人の議員の方は、海外ゲストの
痛切な願いと高い志に、真摯に力強く受け答えていました。
ですが同時に、土井党首の「本当に今までも努力してきましたし、これからも全
力で阻止していきたいと思っています。しかしながら、現在の右翼そして保守勢
力の台頭、そしてなにせ党の力が弱く、世論の盛り上がりにも欠け、検定合格に
までなってしまい、申し訳ありません。」と悲しそうに話されていたのも、心に
残りました。もちろん、土井さんはいつものように全体として力強いスピーチを
してくださり、アジアの皆さんにも好評でしたが、確かに上記の内容も事実で
す。本当は保守派政治家の方たちに、アジアの皆様の発言を聞いて欲しかったの
に、良くご理解していらっしゃる政治家しか聞きに来ていないのです。
その後の人間の鎖のデモンストレーションでは、韓国のハルモニが、全身を震わ
せながら、「戦争はだめなんだよ!とにかく絶対だめなんだ!あんたたち、わか
るか?」と叫んでいました。たったこれだけの短い台詞に、目の前のボランティ
アの若い男子学生達が目頭を熱くさせながら聞いていました。実際に体験をした
人の話を直接聞くというのは、迫力が違います。
ちなみに昨年の国際戦犯女性法廷では、元従軍慰安婦の証言に、日英、日中、韓
日、すべての通訳が泣いていました。どうして、生き証人がいるのに、これだけ
歴然とした証拠があり、これだけの耐えがたい事実があるのに、歴史を歪曲する
人がいたり、被害者を誹謗したり無視する人がいたり、そして多くの歴史教育や
政治に無関心でいられる人がいるのでしょう。アジアの人々の痛みは私達の痛み
でもあるはずです。
アジアの国々を「小野蛮国で発展が止まっており、取るに足らない」と称した福
沢諭吉は、「日本の侵略戦争を促した重要人物である」というアジアのゲストの
発言がありました。
来日したアジアの人々が福沢諭吉の顔を日本の一番高価なお札に見る時、彼らは
どう思うでしょうか?また、自らの回顧録に「従軍慰安所を作ってやった。」と
記した当時の海軍将校の中曽根康弘は、その後の首相です(この事実は国際女性
戦犯法廷でも証拠として提出されました)。私も恥ずかしながらこの問題に多少
かかわりを持つまで知らなかったのですが、いったいどのくらいの日本人が、こ
の重大な事実を知っているでしょうか?
私はこの問題に関して、反対の立場をとっている人、真実を良く知らずに偏った
思い込みをしている人、そして無関心でいるすべての人たちにアジアの人々の声
を聞いてほしいと思います。一度で良いから生の声を真剣に聞いて、この重大問
題に正面から向き合って欲しいと思います。そして彼等の思いに触れ、自らの歪
曲した考え方や無知、無関心を克服してもらいたいと思います。
最後に台湾の慮さんが国会議員会館でおっしゃっていた素晴らしい言葉の引用を
ここで繰り返させていただきます。
「無関心とどう戦えばいいのか?私達は教育によって無関心と戦い、思いやる心
によってそのちからをそぐ。最も効果的な治療薬?それは記憶、いついかなる時
でも記憶である。」
エリ・ヴィーゼル
ホロコーストを奇跡的に生き抜いたノーベル平和賞受賞者