前田 朗@歴史の事実を視つめる会、です。
6月10日
1) ICTR(ルワンダ国際刑事法廷)は、6月7日に、バジリシェマ被告人
に無罪を言渡しました。ICTR初の無罪判決です。以下、プレスリリース
(ICTR/INFO-9-2-271.EN)から簡単に紹介します。
2) バジリシェマIgnace Bagilishemaは、ルワンダのキブエ県のマバンザ
Mabanza町長でした。検察官は、被告人は1994年4月初旬に地元住民を招集
して、ツチを殺すよう助長扇動していたとして起訴していました。また、被告人
自身、マバンザに避難してきたツチの男女や子どもを殺害し、準軍隊に引き渡し
て殺害させたとされています。1994年4月12日に、元キブエ県知事のクレ
メント・カイシェマClement Kayishemaと殺害に関する会談をもったことでも起
訴されています。カイシェマはすでにジェノサイド罪で有罪とされ終身刑を言渡
されています。バジリシェマに対する訴因は、ジェノサイドの罪、人道に対する
罪、ジュネーヴ諸条約の重大な違反など7つあります。
3) バジリシェマは、46歳で、1999年2月9日に、ICTR逮捕状に基
づいて南アフリカで逮捕されました。裁判は99年10月27日に始まり、20
00年10月1日に結審しました。検察官は18人の証人を呼び、弁護人は15
人の証人を出しました。第一裁判部の裁判官は現地キブエに検証に行っていま
す。こうした現場検証はICTRとしては初めてのことです。
4) 弁護人は、被告人はジェノサイドが行われた時期に会合をもっているが、
それはマバンザの安全を確保するためであったと主張しました。
5) ICTR第一裁判部は、被告人がツチ殺害を防止するための行動をし、法
と秩序の確立に努めたことを認定しました。検察側証人が何人も登場しました
が、彼らは被告人が殺害の現場にいたことを証言していません。カイシェマとバ
ジリシェマの会談も証明されていません。
6) ICTR第一裁判部は、ジェノサイドの罪とジュネーヴ諸条約の重大な違
反については全員一致で無罪としました。また、ジェノサイドの共犯、人道に対
する罪(殺害、せん滅、その他の非人間的な行為)については多数決で無罪とし
ました。グナワルダナGunawardana判事の少数意見がついています。判決は、検
察官は合理的な疑いを越えた証明をしていないと判断しました。
7) 翌日の6月8日、第一裁判部は、バジリシェマに条件つきの釈放を認めま
した。条件は、所在を明らかにすること、許可なく海外に出国しないことなどで
す(ICTR/INFO-9-2-272.EN)。検察側は、控訴の意思を表明して、バジリシェマを
釈放しないよう要請していました。
8)本判決は、ICTR初の無罪判決です。アカイェスが、ジェノサイドや人道
に対する罪につき有罪となり、同時に戦争犯罪については無罪となったように、
一部無罪の判決はこれまでもありました。しかし、検察側立証が認められず完全
無罪となったのは本件が初めてです。また、ジェノサイドの訴因についてICT
Rの初めての無罪です。ICTRでは、ジェノサイドの罪を認めて、ジェノサイ
ドの共犯については無罪とした例がありますが、ジェノサイドの罪本体の無罪は
初めてです。なお、ICTYでは、イェリシッチ事件で、ジェノサイドの罪の無
罪判決があります(人道に対する罪で有罪)。