前田 朗です。
3月11日
************************************
***
CERD58通信 第4号(2001年3月9日、ただし10日の改訂版)
人種差別撤廃条約NGO連絡会
ジュネーヴ発
担当:前田 朗、大谷美紀子
1……CERD審査二日目午前
晴れのジュネーヴ、9日午前10時、CERDの日本政府報告書審査二日目です。
傍聴は約40名。メディアも朝日ほか。北朝鮮代表も。
最初に追加質問があった。
アブル・ナスル委員(エジプト)――条約は国連の最初の重要な人権条約であ
るが、日本は批准に20年かかった。その理由を知りたい。
日本政府代表の回答。前日およびこの日の質問に対する回答を尾崎・人権人道
課長が行った。
外務省――本論に入る前に、作成手続き、NGOとの協力の問題だが、すべて
の人権条約に関してNGOとの協力が不可欠と認識しているので、この観点から
報告書作成段階でNGOとの会合をもった。政府とNGOの間には意見の相違も
あり、NGOの中にも相違があるが、十分にNGOの意見を尊重した。さらに今
回も事前に意見交換会をもった。今後もNGOとの協力を行っていきたい。
本論に入る。多くの委員から質問のあった、条約と国内法の関係、条約の自動
執行力についてであるが、条約は国内法として効力をもっている。実際の訴訟で
は、まだ判決はないが、99年の静岡地裁浜松支部が、宝石店からの外国人排除
について、個人の損害賠償請求について条約が不法行為の解釈基準となると判示
した。自由権規約ついて東京高裁は自動執行力を認めた。一般論として、条約の
目的や規定に従って具体的に判断することになる。個別判断とな何か。条約の実
体規定は、締約国は何々をすると決めているものであって、個人に権利を与える
ものではなく、締約国の義務を規定している。これは締約国が既存のものも含め
何らかの対策をするという意味であり、従って自動執行力を有するとは考えてい
ない。
人口構成について、民族別の統計は実施していない。国勢調査は国や地方自治
体の政策決定に必要な調査をするものである。今後検討したい。
入国する外国人が増えている。99年には、490万の入国。韓国、台湾、米
国。在留も増えている。出身地は後ほど文書で提出する。
アイヌ問題(と表現した)。住民数、北海道では23767人。政府とNGO
の数字の違いが指摘されたが、政府の数字は北海道ウタリ生活調査実体調査によ
るものである。調査対象は、北海道に在住して、自ら名乗り出ている人である。
北海道以外は含まれていない。自ら名乗り出ていない人は含んでいない。NGO
がいう5万という数字については承知していない。社会的指標について、生活保
護の受給状況は説明した。進学率の増加は文書で提出する。アイヌの最新の差別
実態については、99年調査によると、差別を受けたことがあるが12.4%、
他の人が差別を受けたのを知っているが15.7%。学校で差別されたが46.
3%、結婚差別は25.4%、職場で差別されたのが9.5%となっている。例
えば、アイヌと指摘され、馬鹿にされた、アイヌを理由に交際・結婚を断られ
た、というものである。アイヌは憲法上、法律上は日本人と同じ権利を有してい
る。活動、職業、女性への差別は制度上存在しない。鹿狩りが禁止されていた時
期があるが、現在は届け出であり、禁止はされていない。法務省の人権擁護機関
で、啓発資料を作成し活動している。人権相談を受け、侵害の調査や、関係者へ
の理解の促進を図っている。アイヌ文化振興法はアイヌ語、伝統に関する啓発を
含んでいる。民族としての誇りが尊重される社会の実現を目指している。研究・
出版、アイヌ語指導者の育成、ラジオ、アイヌ工芸展、副読本の作成などを行っ
ている。予算は文化振興財団への補助金や奨学金を計上している。アイヌが先住
民かどうかについては、国民に対する普及施策基本方針に盛り込まれている通
り、歴史の中では和人との関係で北海道に先住し、独自の文化、言語、固有の文
化を発展させてきた民族である。しかし、先住民族の定義が国際的に確立してい
ない。先住権との関係で様々な議論があるので、先住民であるか否かは慎重に検
討する必要があると考えている。国民一般に理解が十分得られていないので、啓
発して、日本の多様な文化をめざす施策はするが、先住権を前提とした施策では
ない。96年有識者懇談会、97年法以前の被害に対する賠償について指摘があ
ったが、北海道庁は4次の福祉対策を行っており、教育文化や生活に関して格差
是正を図っている。政府も北海道に協力して、対策連絡会議を設置して予算の充
実に努めている。
ウイルタ、ニブヒについて、政府としては全貌に関する正確なデータは保有し
ていない。手元にある情報では、これらはサハリンに居住していた人々である
が、現在国内では1人と聞いている。北方民族博物館の民族資料を展示してい
る。憲法上は法の下の平等を保障している。
ILO167号条約には、ILOが本来取り上げるべき労働者保護以外の条項
が含まれている、条約採択には日本政府は棄権している。ただちに批准するには
問題が多い。
外国人の入国・居住や食用について、いかなる職業も自由という保障ではな
い、法律の前に平等と定めている。在留資格制度は報告書に説明した。別の在留
資格に該当する活動をするには資格変更手続きをすることができる。人種による
差別はしていない。
エンターテインメントがほとんどとの指摘があったが、90%というのは在留
資格のカテゴリーのうちの比率である。エンジニア、レーバーでもアジア出身者
の比率が高い。アジア出身者のうちでは、永住者52.9%、日本人の配偶者1
1.8%、定住者6.0%、興業は2.6%である。文書で提出する。
外国人労働者。専門的技術的分野の外国人については政府の基本計画、経済の
活性化、国際化のために積極的に受け入れるが、単純労働者については、高齢者
への圧迫、労働市場の二重構造化の問題、外国人の失業問題、受け入れると社会
的コストが増大する、経済と国民生活に多大の影響があり、送り出し国や外国人
自身に影響するので十分慎重に対応する。現地での国際協力による雇用創出が重
要である。単純労働者の受け入れに慎重であることは人種差別とは関係ない。
外国人労働者の不法滞在問題、不法就労外国人の増加に歯止めをかけるため
に、雇用主、ブローカーを規制しなければ実効性がないとの指摘があった。その
通りであり、89年入管法改正で不法就労助長あっせん罪を規定している。不法
就労目的の不法入国援助の罪でもブローカー規制をしている。検挙事例は増えて
いる。助長罪は着実に増加している。風俗店での労働を希望するフィリピン女性
60名に関連して日本人男性を起訴した例がある。
ジェンダー。政府報告作成にあたり、人種差別に関連する限り積極的に取り上
げたい。女子差別撤廃条約を批准して、様々の努力をしている。人身売買を含む
問題は風俗営業法、入管法、組織犯罪対策法で厳正な対処をしている。国連国際
法委員会の人の密輸に関する議定書の策定に日本政府は積極的に関与している。
送り出し国とも協力して解決に努力している。貧困が問題の根源なので、東南ア
ジアにおける被害児童のケアに取り組むNGOの草の根活動に支援を行ってい
る。
外国人の人権は、法務省が人権尊重思想の普及を図っている。講演会、テレヴ
ィ、パンフレットなどの地道な努力をしている。加えて12月に人権週間があ
り、その強調事項は「国際化にふさわしく」という趣旨である。また、6月1
日、人権擁護委員の日にも啓発活動をしている。
外国人に対する差別問題。具体的な差別は基本的には人権侵犯事例として適切
な措置をとっている。
在日韓国・朝鮮人。法的地位は報告書にある通りである。入管法に対する特例
法が制定され、91年以降日韓で協議している。
97年のアムネスティ・インターナショナル報告書についてであるが、日本人
であれ外国人であれ、逮捕・勾留は裁判所が適切な手続きを経て行っているもの
であり、憶測による逮捕や恣意的な逮捕が行われることはない。アムネスティ報
告書は事実に反したもので、著しく事実を歪めており、実態を正確にしめすもの
ではないと考える。外国人への人権侵害が絶対にないとは申していない。過去に
存在したことは事実である。規則違反した被収容者について、警備官が制止する
過程における問題であり、もし行き過ぎがあれば公務員を懲戒する厳正な対処を
行っている。警備官に研修を実施している。処遇規則改正も行い、取扱いにはい
かなる理由による差別も行っていない。
難民。インドシナ難民以外、別の51年条約の難民も認定制度を設けて保護措
置を実施している。国籍、民族による取扱いの差異はない。2000年12月末
まで2179件、認定256件、不認定1400件、取り下げ312件である。
人種差別被害者への賠償。公権力の行使にあたる公務員が職務上人権侵害をす
れば国・地方自治体が適正に賠償する。
人権擁護局は都道府県単位で設置され、調査・処理を行っている。事例は、指
導によって外国人排除の看板掲示をやめた例がある。
民法で、差別行為は無効となるかという点であるが、ある差別的行為が法律行
為であれば民法90条により訴訟手続きを始めるまでもなく、当然に無効とな
る。民事と刑事とは明確に区別されているので、民事で無効となっても、刑事手
続きとは関係ない。検察官は、差別行為が犯罪であれば訴追するが、民事法とは
別に判断する。具体的に生じている差別行為をどうするか。法律行為無効宣言の
制度はない。差別的法律行為による差別に従う義務は発生しない。人種差別的な
契約による債務を負った者が債務無効訴訟を起こすことはできる。事実上、不利
益を除去できる。損害賠償は、人種差別による損害は民法709条の不法行為責
任で適正な賠償をすることになる。被害者は損害賠償訴訟を提起する。
4条の留保。日本としては4条abのうち憲法と両立する範囲で処罰すること
は可能であり、その限度で対処する。4条の概念は様々な場面における非常に広
い範囲を想定しており、現行法制を超える刑事規制は、その必要性が十分に明ら
かでなければならず、表現の自由に抵触しないものである必要があり、処罰され
ることと処罰されないことの区別があいまいになり罪刑法定主義に抵触するので
留保した。特定の個人の名誉毀損は名誉毀損罪、侮辱罪が成立する。一般的に処
罰の対象となる。4条の留保を撤回し、処罰立法を検討しなければならないほど
の人種差別の扇動は日本には存在しない。憲法21条1項は表現の自由を保障し
ている。個人の人格の尊厳にかかわりがある。もっとも重要なものの一つである
と位置付けているので、表現行為の制約にあたっては、制約の必要性と合理性が
厳しく求められる。国民の人権意識は自由な言論を通じて高められるべきであ
る。自発的に国民が是正するのが望ましい。人種差別を推進・扇動する団体や活
動を禁止する措置は、優越的表現や憎悪の活動の行きすぎは刑法の個別的な罰則
で対処する。助長・扇動団体は、破壊活動防止法に違反すれば、団体規制ができ
る。人種差別表現類型を一般的に禁止したり、団体の存在を禁じる法的措置は採
っていない。現行の法体系で十分な措置である。
朝鮮人学生に対する人種差別行為は、法務省が日頃から様々な啓発活動をして
いる。嫌がれせや暴行は、法務省職員や人権擁護委員が、児童・生徒の通学路や
交通機関で冊子を配布したり、拡声器で呼びかけをしている。警察も警戒強化を
している。学校その他の関係機関との協力連携を行って未然防止に努めている。
94年の検挙は3件。98年8月から9月には6件を認知したが、検挙に至って
いない。
ITについては、放送法で事業者の義務規定があり、人種差別も規定してい
る。IT上の違法有害情報の流通はプロバイダー・ガイドライン等自主的な対応
が行われており、政府はこれを支援している。
選挙権。憲法は国民固有の権利としている。条約でも市民と市民でない者の区
別は認められている。選挙権を与えないことは条約に違反していない。最高裁判
決の地方自治体に関する判断は、永住者に付いては、法律をもって、付与するこ
とは憲法上禁止しているものではないとしつつ、国の立法政策の問題としてい
る。98年10月以来7本の法案が国会に提出され、審議中である。国会での議
論を見守っていきたい。
再入国の問題。日本国民が自国に帰国するのは憲法以前の当然の権利であり、
帰国の確認に止めている。永住者の再入国の権利、これを認めるか否か、認める
場合の条件に付いては主権国家の裁量である。永住者の権利ではない。再度、在
留資格を得る必要のある場合に、手続きが煩雑となるので、一定の要件の下に再
入国制度を設けている。韓国・朝鮮人には特別永住者の意志を尊重することにな
っている。
雇用・職場における差別。労働基準法3条において、賃金・時間その他の労働
条件に差別的取り扱いをしてはならないとしている。基準法関係法令では、不法
就労者も含めて法律は適用される。契約、人種を理由とした差別行為は法務省の
人権擁護機関に相談できる。法律扶助協会を紹介する。侵害の疑いがあれば調査
が行われる。外国人であることによって職場で誹謗中傷された事案について、指
導して、改悛させ、誹謗中傷を停止させた例がある。
公共住宅について、92年4月通達で、合法的に滞在する外国人に平等の入居
条件としている。外国人の入居は着実に増加している。
社会権の保障は国籍国が行うべきものとされている。生存権は憲法では日本国
民に保障している。生活保護は日本国民を対象としている。しかし、永住者には
日本国民と同様の措置をしている。行政措置だから問題ということはない。
ホテルについて、旅館法で人種差別は認められていない。
人権救済の一般的あり方については中間取りまとめが公表された。
法律扶助の立替制度は一律ではなく、資力や生活状況により一部猶予や免除が
できる。
人権擁護機関に関連して、加害者の良心に訴えるのが友好なのかとの指摘があ
ったが、法務省が行った勧告・決議の大部分は、反省しており、成果をあげてい
る。中には確信的で説得に応じない場合もある。中間とりまとめでも取り上げて
いるので、今後検討したい。
条約の普及に関して、CERDの最終所見を広く広報するべきと考えているの
で、最終所見が出されれば速やかに翻訳して、ITで公表する。
入国管理官、警察官、裁判官の問題では、周知徹底を図っている。入管も警察
も研修を行っている。司法修習の講義でも取り上げているし、任官後にも研修カ
リキュラムがある。その他の公務員一般への研修にも積極的に採り入れている。
部落への言及のないことであるが、条約descentは、その審議経過をみると、
national originでは国籍を含むとの誤解を招くので、それに代わる言葉として
提案されたものである。その後、文言の整理がなされないままdescentが条約に
残ったものである。これは過去の世代における人種・皮膚の色などの要素に関連
して民族的出身に着目したものであり、社会的出身に着目した概念ではない。従
って、部落民は条約の対象ではない。しかし、部落民についても法の下の平等を
保障するよう、全力を傾注している。
2000年8月の人権小委員会の職業と世系に関する決議であるが、この決議
はdescentの定義をしていない。小委員会は個人の資格の委員によるものであ
り、日本が有権的に判断することはできないが、条約1条のdescentと人権小委
員会のdescentは異なる概念と解される。
沖縄。条約1条の定義からみて、沖縄県に居住する人や沖縄出身者は、他県の
出身者と同じく、多様であるのであり、人種であるとは考えられていないので、
条約の対象とはならない。米軍基地の存在による多大の負担があることは十分認
識している。米軍施設区域の整理・統合のSACO最終報告を着実に実施するこ
とが最善である。沖縄には特色豊かな文化・伝統があるが、これは日本各地にそ
れぞれ特色豊かな文化・伝統があるのと同じである。政府は沖縄の文化・言語・
宗教を否定していない。条約の対象ではない。米軍による差別的事件に関する日
本政府の権限を質問された。差別的事件とは何を意味するのか不明である。いず
れにしろ、日米地位協定17条により、日本政府は罪を犯したとされる米軍人に
裁判権を有している。協定18条は、公務以外に米軍人が行った行為についての
民事裁判権を規定している。これらの規定はNATOの場合と同様の内容であ
る。米兵による事件・事故の防止は日本政府は米軍に申し入れている。今後も働
きかけていく。米国も良き隣人政策をとっていると承知している。事件防止のワ
ーキングチームを米軍・日本政府・地方自治体などでつくって、事故の未然防止
のための具体的措置を検討している。今後とも最大限の努力を行う。
中国帰国者は、第二次大戦前に日本から中国に移住した日本人が、長期にわた
って中国に残留した後に帰国したもので、日本民族であり、条約の適用対象とは
ならない。しかし、年金制度の特別措置、支度金、住宅・就職のあっせん、自立
支援をしている。
14条の個人通報制度は、条約実施の効果的な担保をはかる注目すべき規定で
あるが、司法の独立を侵すとの指摘があり、真剣かつ慎重に検討している。日本
の司法制度は三審制で慎重な審理が行われており、再審制度もあり、不服申立て
制度や非常救済制度もある。個別通報制度は、こうした国内救済法体系を混乱さ
せる恐れがある。
92年の条約改正は未発効である。条約は締約国のみを拘束するのが原則であ
る。費用は締約国のみを対象とするべきである。日本政府は改正を受諾する予定
はない。
石原発言。まず三国人という言葉については、特定の人種を指していない。外
国人一般を指したものであり、この言葉の使用自体に人種差別を助長する意図は
なかったと理解している。「不法入国した三国人、外国人が凶悪な犯罪を繰り返
しており、災害時には騒擾の恐れがある」との言葉に関連して、都知事は、外国
人の美奈さんへの差別意識の改称に努め、人権施策の推進を行うと表明してい
る。人種さあ別を助長する意図はなかった。なお、都知事は都民の選挙によって
選出されている。
中国人をみたら110番という警察ビラであるが、このビラはすべての中国人
を犯罪者とみなしたもので不適切な内容である。警察庁は配慮に欠けたビラと認
め遺憾の意を表明し、ただちに回収、廃棄している。今後このようなことのない
よう指導を徹底していく。
日本政府が条約を批准するのに長期間かかったのはなぜかとの質問であるが、
4条abと表現の自由の関係を調整するのが困難だったためである。
以上が、日本政府の回答である。この他に、文部科学・法務・総務等の回答を
準備していたが、時間の都合から、いったん打ち切り、CERD委員の発言にな
った。
ユーティス委員(アルゼンチン)――4条は、意図が良いものか悪いものかに
かかわらず、すべての国に拘束力をもつ。CERD勧告15も参照。すべての角
度から明確に指摘している。罰することだけが必要なのではなく、予防的性格も
重要である。歴史から明らかになり、今日さらに明らかになっているように、人
種差別の流布宣伝はあっという間に広まる。従って予防的性格が重要になる。石
原発言は単に差別であるだけではなく、外国人を犯罪者扱いしようとしたもので
あり、驚きを禁じえない(強い口調で)。公の発言で外国人一般に対する表現を
使っている。こうしたことは決して初めてのことではない。社会の中で歴史の中
で、外国人、移住者がやってくれば必ず起きてきた問題である。公職者の発言の
重大性は、例えばスペインの例であるが、国会議員が冗談で「アジア人は国に帰
るべきだ」と発弦して役職を辞任した。人種差別宣伝流布は、表現の自由を侵害
する主な要因である。ある集団を傷つける表現は、表現の自由を侵害する。これ
に対策を採ることが表現の自由を侵害するということはない。まったく逆に、表
現の自由を保障するために4条を適用するべきである。表現の自由と暴力行為に
関して、団体の規制法がない。CERDとしては懸念を有する問題である。日本
は明らかに4条を実施していない。破壊活動防止法の存在が示されたが、人種差
別助長扇動団体に対する適用の事例はない。日本政府は、人種差別助長扇動をす
る団体が存在することを認めているようだが、処罰はない。暴力主義的破壊活動
を行って初めて法律が適用される。しかし、特定の人に対する差別行為や文書流
布も暴力行為に匹敵する。他の人々の存在を否定する言論は、物理的暴力よりも
激しい暴力となることがある。部落民は条約の適用対象であると考えられる。カ
ースト制を参照できる。
デ・グート委員――日本政府は条約には自力執行力はないとしている。なるほ
どそうかもしれない。そうであれば、人種差別行為をすべて禁止する国内法を制
定することが必要である。政府は差別とたたかう努力をしているが、そうした努
力だけでは不十分である。人種差別に対処する法律を制定し、処罰を行い、予防
と教育を行うべきである。法律はシンボリックな意味もあり、社会において無視
すべきでない価値観を示すことができる。人種差別宣伝流布が今は行われていな
いとしても、外国人が増加しているので、外国人嫌悪による行為が行われるよう
になるかもしれない。今から教育を行っていく必要がある。なによりも国内法が
必要である(繰り返し繰り返し)。4条の完全実施を要請したい。
ソーンベリ委員――先住民についてのILO169号条約を日本が謙虚に見直
す必要がある。この条約は柔軟な解釈を施す余地を残したうえで、近代的な良い
慣行を提示する条約である。日本政府は、国際法には先住民の定義がないという
が、だからといって標準を明らかにできないというものではない。何よりも事実
に即して物事を考えることが重要である。国際法に定義がないから従わないと考
えるのではなく、国家が先住民概念を承認して適用していくことが国際法の定義
をもたらすことに繋がる。条約1条は定義をできる限り明らかにしようとしてい
る。インドの状況を参照するべきである。社会的な差別で職業の内容によるもの
は条約の適用対象である。
ディアコヌ委員――国家賠償法に関連して互恵主義の理解が異なる。相手方が
賠償を認めないからこちらも認めないというものではない。国際法ではこうした
互恵主義派認められていない。先住民や少数者は問題視されるべきではない。過
去の不正は先住民や少数者に対して向けられてきた。だからこそ民族の固有性を
求める権利を保障しなければならない。彼らが社会の中で犠牲になってきたこと
を理解するべきである。民法90条の説明によると、人種差別であって公序良俗
にあたれば行為は無効という趣旨であるが、疑問である。人種差別は禁止されて
いるのだから、人種差別であるか否か判断で足りる。さらに公序良俗に反するか
否かを判断する必要はない。4条と憲法の関係に関する説明が理解できない。一
般的刑法と条約の要請との違いを理解する必要がある。問題は人種差別に国家が
どのように対処するのかである。国家が社会の背後に隠れることは許されない。
これは将来重大な問題に発展するかもしれない。法律的制度的な枠組みを確立す
る必要がある。14条を司法への脅威と考えるべきではない。CERDと日本政
府の間にはまだ隔たりがある。対話は始まったばかりだからである。日本はスタ
ートしたばかりである。今後期待したい。
日本政府(法務省刑事局)――日本政府は4条を留保しているが、人種差別行
為が処罰されないということではない。人種差別行為は様々の形で行われるの
で、それに対応して処罰している。名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪、業務妨害
罪がある。これらは暴力的要素が伴わなくても処罰可能である。どのような差別
的暴力も処罰の対象である。殺人、強姦、傷害は犯罪である。現行法で十分担保
している。刑法で処罰することは、処罰において人種差別的側面を無視している
ことではない。日本刑法は刑期の幅が広く、量刑では人種差別的側面も含めて総
合的考慮をしている。暴力行為の動機が理不尽な人種差別であれば、暴力行為の
動機が理不尽な女性差別である場合と同じことであるが、当然、被告人に不利な
事情として考慮される。名誉毀損等についても堂良いに刑罰加重事由になる。他
方、人種的優越・憎悪流布・扇動助長団体という概念は、それ自体としては非常
に広い概念であり、法的規制は表現の事由にかかわることになり、これを処罰す
ることが不当な萎縮効果をもたないか、この概念自体を犯罪の構成要件とするこ
ちにより、処罰されることと処罰されないことの区別がはっきりせず、罪刑法定
主義に反するのではないかという憲法上の考慮をしなければならない。絶対的な
表現の自由を認めるのかとの指摘があったが、一定の要件のもと処罰の対象とさ
れている。表現の自由を絶対化しているわけではない。刑罰について具体的な必
要性、明瞭性を要するがゆえにその萎縮効果も含めて考慮している。人種差別禁
止法の象徴的な効果についての指摘があった。そうした考え方もあろうかとは思
うが、もっぱら象徴的な効果をもたらすことのために包括的な処罰規定を設けて
も実際に適用しなければ、そのような法律を作ることに意味があるとは思えな
い。現行法の適正な運用で十分である。
ロドリゲス委員――人種差別禁止法がない。4条と表現の自由につき、留保の
撤回要請がなされた。日本政府は現行法で十分としている。石原発言について
は、決して人種差別を助長する意図はないとのことであった。先住民に関する発
言がなされた。アイヌに対する差別的慣行がある。政府は註深く検討するよう要
請された。在日コリアンへの差別行為が指摘されたが、日本政府は差別解消の努
力、対応しているとの回答であった。多くの委員が差別的行為が続いているこ
と、外国人の数が増えていることを指摘した。インドシナ以外の難民に関する回
答もあった。不法就労に関する法律の説明があった。統計の欠落が指摘された。
完全な全面的な統計が必要である。女性に対する差別も指摘された。部落民の状
況、1条の解釈の相違が指摘された。沖縄に関して、条約の対象ではないとの回
答があった。米軍犯罪の処罰はできるとのことであった。NGOとの協議が持た
れたとのことである。14条の留保撤回要請が出され、8条の改正採択を受け入
れるように要請がなされた。
日本大使――ロドリゲス委員その他の委員に感謝。人種差別とたたかうための
あらゆる側面に関する指摘があった。人種差別はつねに形態を変えて生じるの
で、つねに対処しなければならない。日本も人種差別に直面していることを率直
に認めたい。人種差別と闘っていく決意をもっている。
2……NGO連絡会打合せ
CERD審査直後、NGO連絡会の打合せが行われた。
CERDの最終所見は3月19日頃に公表される見込みである。政府はすぐに
翻訳して公表するとしているが、NGO連絡会としても翻訳して公表することを
確認した。総論部分は日弁連が翻訳を担当し、各論はそれぞれの団体が自分と関
連する部分を翻訳する。訳語その他全体の調整は村上先生、阿部先生にお願いし
たい。
3……最後のご挨拶
以上がCERD58の速報です。ITの接続不良もあって、やや遅れたりもし
ましたが、ジュネーヴからの速報としては、比較的速やかに、かつ充実した内容
をお知らせできたのではないかと、勝手に自画自賛しております。
この通信はNGO連絡会の活動の一環として作成したものですので、NGO連
絡会の皆さんに速報をお知らせすることと、何かの参考にしていただくことを目
的としています。従って、NGO連絡会の皆さんによる利用は自由です。転送・
転載、引用、改変、加筆・訂正などご自由に利用してください。
ただ第1号にも書きましたが、この通信は客観的にバランスのとれた情報を提
供するものではありません。限られた時間の中で、現地で、バタバタしながら作
成したもので、大きな欠落もあれば、取捨選択も恣意的であれば、思わぬ間違い
もありえます。従って、ご利用される場合には、傍聴された方はご自分の記憶や
メモに照らして吟味しなおしていただくのがよいと思います。
傍聴された方にお願いです。この通信の内容に誤りや、追加すべき重要事項が
ございましたら、お知らせいただけますよう。
NGO連絡会の活動を総括する時期ではありませんし、総括する立場でもあり
ませんが、この通信を作成してみて、NGO連絡会の活動の重要性、的確性、信
頼性を強く感じました。現地で初めて会った人々も含めて、慣れない場所で、慣
れない活動を行ったわけですが、短期集中の素晴らしい活動をすることができた
といってよいのではないでしょうか。2001年3月8日と9日が、日本におけ
る人種差別克服の闘いの歴史において記憶される日となることを疑いません。
中でも、準備段階から、現地での各種の手配、会議室の提供、情報の収集と連
絡に多大の努力をされたIMADR国際事務局とIMADR日本支部の皆さんの
活動に感謝と敬意を表したいと思います。本当に有難うございました。
また、現地の活動で中心的な役割を果たした藤岡さん、岡本さん、上村さんた
ちにもあつく感謝を述べたいと思います。
さらに、それぞれの課題を日本各地から持ち寄ったNGOの皆さん、ご苦労様
でした。人種差別に苦しみ、敢然と人種差別とたたかう全国の皆さんと一緒に活
動できて、とても勉強になりました。短期集中のCERDでは、残念ながらゆっ
くりお話する機会をもてませんでしたが、今後も引き続き連絡をとりながら、人
種差別の克服に向けた共同の取組みを継続しましょう。
最後になりますが、ダーバン2001はすぐそこです。CERDでの活動から
ダーバン2001に向けて次のステップがすでに始まっています。2001年
が、世界にとってはもとより、日本にとっても人種差別との闘いの本当の始まり
の年となるよう、NGOの総力をあげた取組みが必要です。NGO連絡会の皆さ
ん!
――ダーバンで会いましょう!!……(さて、私は行けるものやら)