Date: Sun, 11 Mar 2001 14:53:03 +0900
From: "MAEDA,Akira" <maeda@zokei.ac.jp>
To: keystone <keystone@jca.ax.apc.org>,"pmn@mail.jca.ax.apc.org" <pmn@mail.jca.ax.apc.org>,"renko-ml@egroups.co.jp" <renko-ml@egroups.co.jp>
Subject: [keystone 3674] 人種差別撤廃委員会日本政府報告書審査(1)
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前田 朗@人種差別撤廃委員会NGO連絡会、です。
3月11日

すでに新聞報道や、いくつかのMLに報告が出ているように、3月8・9日に人
種差別撤廃委員会(CERD)第58会期において日本政府報告書の初めての審
査が行われました。NGO連絡会に集まった多くのNGOは、現地で協力してロ
ビー活動を行いました。私は、NGO連絡会の日本への速報係を担当しました。
本日帰国しました。6日から9日にかけて「CERD58通信」を作成していま
したので、以下、4回にわたって投稿します。一部のMLでは重複する情報もあ
りますが、4回を通してごらんいただけると、現地の雰囲気をご理解いただける
と思います。

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***

CERD58通信 第1号(2001年3月6日、但し7日に改訂)
  人種差別撤廃委員会NGO連絡会
  ジュネーヴ発
  担当者:前田 朗、大谷美紀子
 

1……ご挨拶

いよいよCERD(人種差別撤廃委員会)における日本政府報告書の審査が迫っ
てきました。NGOレポートの作成や、CERD傍聴・ロビー活動の協力・分担
を進めてきた人種差別撤廃条約NGO連絡会として、日本向けの速報を作成し、
発信することになりました。

あらかじめ言い訳をしておきますと、迅速的確な速報をお送りすることはできま
せん。できるだけ客観的な情報提供の努力をしますが、担当者の主観的な関心、
偏った情報になるかと思います。また、肝心の8日・9日の政府報告書審査につ
いては、長時間にわたって、様々の課題が取り上げられるので、そのなかの断片
的な情報しか扱えないと思います。できるだけ現場の雰囲気をお伝えするよう心
がけます。

2……NGO連絡会打合せ

3月6日午後、ジュネーヴの世界キリスト教センター内にあるIMADR事務所
においてNGO連絡会の打合せが行われました。

参加NGOは、IMADR国際事務局、IMADR日本委員会、部落解放同盟、
部落解放・人権研究所、在日韓国人問題研究所、在日朝鮮人・人権セミナー、北
海道ウタリ協会、市民外交センター、石原やめろネットワーク、移住労働者と連
帯する全国ネットワーク、自治労東京支部。

日本政府報告書の審査にあたって、CERD委員が日本の情報を正確に知ることがで
きるように、NGOがレポートを作成して提出しています。レポートを提出したの
は、人種差別撤廃条約NGO連絡会、北海道ウタリ協会、部落解放・人権研究所
/部落解放同盟、在日コリアン・グループ、石原やめろネットワーク、移住労働
者と連帯する全国ネットワーク、琉球弧の先住民族会/沖縄市民情報センター/
市民外交センター、日弁連等です。

3……確認事項・情報

NGO連絡会の確認事項は主に次のようなものです。

4-1 ブリーフィング
委員へのブリーフィングは、7日と8日の昼、パレ・ウィルソンの会議室で行
う。
7日の発言は、(1)冒頭に概説(藤岡)したうえで、基本的認識を示す。総論
――NGO連絡会の報告書の紹介。20分。(2)日弁連(人種差別禁止法、救済
機関)。10分。(3)人種差別の定義に関して、部落問題、中国帰国者(追加
レポート)等を取り上げる。各10分程度。(4)質疑。
8日の発言は、(1)アイヌ、(2)沖縄、(3)在日、(4)移住労働者、
(5)石原発言。各10分。

4-2 記者会見
記者会見は、7日4時から5時。IMADR事務所にて。「CERDとは」に始まって、
総論30分。各論3分x8団体。個別のアプローチ。

4-3 日本政府代表の構成
外務(人権人道課長ほか)・法務・総務・文部科学10名。ジュネーヴ代表部
(大使ほか)6名。
 

5……予定スケジュール

7日 
09:30  ロドリゲスさんと相談(藤岡、上村、岡本)
13:30  ブリーフィング(パレ・ウィルソン1.016室)
16:00  記者会見(IMADR会議室)

8日
13:30  ブリーフィング(パレ・ウィルソン1.016室)
15:00  CERD日本審査(パレ・ウィルソン)

9日
10:00  CERD日本審査(パレ・ウィルソン)

6……おまけ

 以下は、昨年、救援連絡センターの機関誌「救援」3月号に前田が書いた記事
です。

* * * * *

人種差別撤廃条約、日本政府の報告書

 一月一三日、日本政府は人種差別撤廃委員会に報告書を提出した。第一回報告
書だが、締切を大幅に過ぎて二回分の報告書となっている。A4版で英語(八一
頁)と日本語・仮訳(六〇頁)で、標題は「人種差別撤廃条約第一回・第二回定
期報告(仮訳)」である。

  報告書の構成
  「総論」では、我が国憲法における基本的人権の尊重、国土に関する情報、人
口に関する情報、アイヌの人々の現状、在日外国人の現状、在日外国人の人権、
在日韓国・朝鮮人、難民の状況、について述べている。
 「第二条」では、国家及び地方の公の当局及び機関による差別の禁止、私人間
における差別の禁止、差別法の撤廃。「第三条」では、アパルトヘイトの禁止。
「第四条」では、留保、流布、扇動、暴力の処罰化、情報分野における規制等、
扇動団体の活動の禁止。「第五条」では、裁判所、その他全ての裁判及び審判機
関、身体の安全及び国家による保護についての権利、在日外国人の安全の権利、
政治的権利、移動、居住の権利、出入国の権利、国籍についての権利、婚姻並び
に配偶者の選択、相続及び財産についての権利、思想・良心及び信教の自由、集
会・結社及び表現・言論の自由、職業選択の自由、労働条件等、労働組合の結
成・加入、住居、公衆の健康、医療、社会保障、社会サービス、教育、文化的な
活動、公衆の使用を目的とする場所又はサービス。「第六条」では、人権侵害の
場合の救済、保障措置、人権擁護機関の仕組み、人権擁護機関の活動。「第七
条」では、教育及び教授、人権教育のための国連十年、文化、について述べてい
る。
 
 報告書の検討
  日本政府は各種の条約委員会に報告書を提出してきたが、委員会の審議での指
摘、NGOからの厳しい批判を受けてきた。NGOは報告書の不備・不足を「ご
まかし」と批判してきた。
  政府も、批判を意識して、以前の報告書より前進した報告書を作成した。都合
のよいことだけではない記述があちこちに見られる。委員会審議が報告書に反映
している面もある。代用監獄や死刑に関する勧告に対しては公然と反発する日本
だが、改善姿勢を見せる努力もしているようだ。しかし、まだ批判すべき点が多
い。
 例えば在日朝鮮人について、植民地化による国籍の押し付けや、昭和天皇の勅
令による一方的な国籍剥奪の歴史を無視して「自由意思で国籍選択している」こ
とになっている。日本が「朝鮮籍」を符号と称して差別してきた事実も隠してい
る。参政権や入国の自由以外の基本的人権は外国人にも保障されていると簡単に
述べているのには驚かされる。報告書は「再入国許可の有効期間の特例」として
特別永住者への特例を挙げている。しかし指紋押捺拒否者に対する報復措置につ
いては沈黙している。教育についても差別なく扱っているとしている。「韓国・
朝鮮人学校」については「その殆どが各種学校として都道府県知事の認可を受け
ている」とある。文部次官通達が「朝鮮人学校は、わが国の社会にとって、各種
学校の地位を与える積極的意義を有するものとは認められないので、これを各種
学校として認可すべきではない」として徹底差別してきたことを隠している。大
学受験資格問題については「大学への入学資格は与えられていない」と正直に書
いている。人権委員会や人権小委員会でNGOが発言してきた。子どもの権利委
員会でも厳しい質問を受けたのは記憶に新しい。

  社会的差別
 就労については「差別的取扱いは禁止されている」と建前論の後に「就労、入
居等に関する差別、差別言辞や差別落書き事案等、日常生活において依然私人間
での差別」「本名を名乗ることによって起こる偏見や差別」とあるのは一応評価
できる。だが、これは「私人間での差別」問題ではない。政府の差別政策が社会
に差別を温存してきたのである。
  九四年と九八年のチマチョゴリ事件についても人種差別撤廃条約四条との関連
で報告しているが、法務省の人権擁護機関の活動についての記述は疑問である。
「情報の収集に努める」と書いているが、九八年の事件の後に法務省人権擁護局
に質問した時、担当者は「新聞のスクラップをしてます」としか答えられなかっ
た。「関係者等から事情聴取を行う」とあるが、朝鮮学校関係者への聞き取りは
していなかった。九四年も九八年もである。私たちが法務省人権擁護局に行った
ことを「関係者等」の「等」への「事情聴取」にしたのだろうか。啓発活動とし
て「差別防止を呼びかけるリーフレット等の配布や啓発ポスター」とある。これ
はほとんど嘘である。問題のリーフレットやポスターは「人権を大切に」「子ど
もの人権」という一般的なものしかなく、朝鮮人は登場しない。チマチョゴリの
「チ」も出ていない。
 「司法機関による救済」の部分で、日立就職差別事件判決、大阪入居差別事件
判決を紹介している。四半世紀にこの二つしかないことを自己暴露していること
になる。浜松・外国人お断り事件で裁判所が人種差別撤廃条約を活用したことを
追加報告することになるだろう。

 NGO報告書に向けて
 以前と比べればずいぶん良くなったようだが、差別の実態に積極的に言及して
いるのは、社会的な差別の部分であって政府による差別ではない。マンション入
居差別、プール利用差別、中間搾取、強制労働、チマチョゴリ事件等。つまり、
政府は差別撤廃の努力をしているが社会的差別は残っている、というのである。
これは疑問である。政府の外国人差別の実態をきちんと報告する必要がある。特
に、代用監獄や入管における外国人に対する暴力やセクシュアル・ハラスメント
について一言も触れていない。 
 人種差別撤廃委員会での審査を充実させるには、NGO報告書が重要である。
委員会には締約国の報告書が続々と届く。政府報告書しか読まなければ、何も質
問できない。NGOが差別の実態を報告することで、委員も情報を活用すること
ができる。NGO報告書をつくるための議論はすでに始まっている。アイヌ、在
日朝鮮人、来日外国人、被差別部落などの人権NGO間の連絡も進められてい
る。委員会審査は二〇〇〇年八月か二〇〇一年三月の見込みである。
 
 

   



 
  • 1998年   3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  • 1999年   1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  • 2000年   1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  • 2001年   1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月

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