野呂田さんは、「花岡事件」の歴史を持つ秋田県選出の国会議員ですが、19
42年に閣議決定され国策によって強制連行された、中国や朝鮮半島の人々の強
制労働も、旧日本軍による性奴隷制も、アジア解放のためだったとお考えのよう
です。
「大東亜戦争」と発言/野呂田氏、県内の講演で持論
衆院予算委員長を務める自民党の野呂田芳成氏(秋田2区)は18日、能代市
と鷹巣町で開かれた時局講演会で「支那事変」などの言葉を使い、「大東亜戦争
でアジアの植民地政策はなくなった」と発言した。
野呂田氏は講演の中で、現在の日本文化の問題について持論を展開。「終戦の
ころ、日本人が本当の意味での反省をしなかった。戦争に負けたのは(経済封鎖
に対抗しようとした)政策が間違っていたからで、それを反省すべきだったの
に、日本の文化や伝統、歴史が間違っていたと思ってしまった。50年前に文化
の根っこを傷つけてしまったことで、日本は段々活力を失ってしまった」などと
述べ、「大東亜戦争は政策の間違いだった」とする一方で、それ以前の日本の行
動について容認とも受け取れる発言を行った。
(秋田魁新報 2001.2.19)
自民党では野呂田氏の進退問題に発展する可能性もあると懸念。
野呂田氏の発言は、戦後の教育改革を批判する中で出てきたもので、太平洋戦
争を「大東亜戦争」と呼んだうえで、「(米国などが)石油などを封鎖したか
ら、日本はやむを得ず南方で資源確保に乗り出していった。いわばそれは米国側
の策にはまってしまったのが本当だろうと、多くの歴史家が言っている」と述
べ、「大東亜戦争で植民地主義が終わり、日本のおかげで独立できたという国の
首脳もたくさんいるが、それは別として、戦で負けてしまったのは、政策の誤り
であって、日本の文化、歴史、伝統が悪いと反省してしまったのは本当に大きな
誤りだ」とも発言。
野呂田氏は十八日夜、読売新聞の取材に対し、「評論家などが発言している内
容を紹介しただけだ。日本の政策の誤りだったという点は、間違ったことを言っ
ていない」と強調。
民主党の菅幹事長は十八日夜、「自民党の中にはそうした歴史観を持っている
人がいるが、許されない。衆院予算委員会理事会などで問題にする」と述べた。
(読売2月18日23:43)
野呂田芳成衆院予算委員長の発言について、野党四党は十九日午前、野呂田委員
長の不信任決議案を同日中にも衆院予算委員会に提出する方向で検討に入った。
同日昼、野党国会対策委員長会談を行い、正式に対応を決める。
これに関連し、野呂田氏は十九日午前、国会内で記者団に「アジアの国々で
(日本のおかげで)独立できたということを言っている人もいると紹介しただけ
だ」と語った。
委員長の辞任要求については、〈1〉一人以上で委員会に不信任決議案を提出
する〈2〉五十人以上の賛同者を集め、本会議に委員長解任決議案を提出する―
―などの方法がある。
(読売2月19日12:00)
韓国外交通商省は十九日午前、自民党の野呂田芳成衆院予算委員長の発言につ
いて論評を発表し、「太平洋戦争を美化し、近隣諸国の苦痛を無視した、わい曲
した発言を行ったことを非常に遺憾に思う」と批判した。また、自民党幹部であ
る野呂田氏の発言は「国家間の友好協力関係だけでなく、日本のためにも全く望
ましくない」とした。
(読売2月19日13:13)
野呂田芳成衆院予算委員長の発言に対し、中国外務省の朱邦造報道局長は19
日「日本の一部の人々の歴史問題に対する無知とでたらめの度合いを示してい
る」と談話。
朱局長は「侵略戦争はアジアの被害国に深刻な災難を与え、その罪悪は筆舌に
つくしがたい」としたうえで、「(発言は)日本国内の類似した政治傾向への警
戒心をさらに高めさせる」と述べた。19日付の人民日報も発言を「侵略を美化
する」ものと非難。
中学歴史教科書の検定を巡って、日本の「右傾化」に対する懸念が中国でも高
まっている。対日関係を重視する中国政府は、教科書問題での公式コメントを控
えているが野呂田氏の発言がくすぶっている反日感情に火を付ける可能性があ
る。
(asahi.com19:09・さきがけ夕2001/02/19)
野呂田芳成衆院予算委員長が秋田県内での講演で「大東亜戦争で植民地主義が
終わり、日本のおかげで独立できたという国の首脳もたくさんいる」との趣旨の
発言をした問題が19日の予算委で取り上げられ、民主党の池田元久氏が「太平
洋戦争を正当化する発言」と批判し、改めて見解を求めた。野呂田委員長は「言
いたいことはたくさんあるが、委員と委員長のやりとりは慎むべきだ」と述べ、
理事会で協議することとした。
(asahi.com2001.2.19 14:07)
民主、自由、共産、社民の野党4党は20日、野呂田芳成衆院予算委員長の解
任決議案を提出する。野呂田氏が職権で新年度予算案の公聴会の日程を決めたこ
とや「大東亜戦争で植民地主義が終わり、日本のおかげで独立できたという国の
首脳もたくさんいる」と発言したことに反発。20日の衆院予算委員会では審議
に応じない方針だ。
野党側は野呂田氏が予算委の野党の質問時間中に日程設定に踏み切ったことに
ついて「暴挙」(赤松広隆民主党国対委員長)と主張。20日の衆院予算委理事
会で改めて抗議する。野呂田氏の歴史認識をめぐる発言も「侵略戦争の美化、正
当化で予算委員長としての資質が根本から問われる」(市田忠義共産党書記局
長)と批判している。
野党内には予算委の審議を止めて抗議の意思を示すべきだとの声もあった。た
だ「国民から見れば、どっちもどっちということになる」との判断から、19日
は政府・与党への追及を優先した。
(asahi.com01.2.20 00:28)
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野呂田さんは、99年5月、ガイドライン関連法成立時、防衛庁長官を務めてい
ました。その際の発言の一部をあげると
2月3日の「周辺事態安全確保法案第9条において想定される協力項目例」10
事例を挙げた「政府文書」提出に先立ち、2月1日、「一般的な協力義務として
は協力するのが当然」「地方自治体の長が要請を受け入れた場合、自治体の職員
が協力しなければ地方公務員法により責任を問われる」「国の機関の職員の場合
は、国家公務員法により当然処罰」など答弁。
3月3日、衆院予算委員会で、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のミサイル再発
射と関連し「現実に被害が発生していない時点であっても、敵基地を攻撃するこ
とは法理的には可能だ」と述べ、朝鮮中央通信が「妄言」と非難。
5月11日の参院「日米防衛協力のための新指針特別委員会」で「地理的条件か
ら言っても、基地が多く存在することを考えても、(周辺事態に沖縄が巻き込ま
れる可能性が高いと)言われるようなことがあり得るのではと思っている」と発
言。翌日撤回。同日の記者会見では、「船舶検査の警告射撃は、 憲法に違反し
ない」との見解を表明。
沖縄戦を経験した沖縄県では、県民の多くが、この発言を政府の本音と受け止
めたと伝えました。県民の過半数がガイドライン法に反対していましたが、その
理由で最も多かったのが、戦争に巻き込まれるおそれがあるというものでした。
これは、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発疑惑で米朝関係が緊張した9
4年4月、在日米軍が日本政府に対して具体的な協力支援を提示し、那覇空港二
十四時間体制使用、那覇港湾十一トントラック九十六台、海兵隊基地(岩国含む)
にはトラック・クレーンなど計千四百八十四台を要求していた事実をふまえたも
のです。
5月24日、新防衛指針関連三法(周辺事態安全確保法、日米物品役務相互提供
協定改定、自衛隊法改正)が成立
7月の自民党の研修会では、「一基で十二万人が殺される炭疸(たんそ)菌など
生物兵器を搭載したノドンが首都圏に撃ち込まれれば核爆弾よりも悲惨なことに
なる」と発言。
(2000年4月に防衛庁は「生物兵器対処懇談会」設置)
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これらの発言が、南京大虐殺を否定する「大東亜戦争」歴史認識に基づいた野
呂田さんによってなされています。
「大東亜戦争」というのは、1941年10月16日の近衛内閣総辞職後成立
した東条内閣が、12月8日未明パール・ハーバー(真珠湾)を奇襲攻撃、英領
マレーの北端コトバル東岸に敵前上陸したとき、12月12日に戦争の名称とし
たもので、不戦条約に加盟していた日本が、これ以前におこした侵略戦争(19
31年にはじまった満洲事変、1932年1月28日上海事件、1937年7月
7日の宣戦布告なき日中全面戦争−日華事変−)の歴史を「削除」した言い方で
す。アジア侵略の際の軍部の言い分は、外交方針が軟弱を極めるからわれわれが
かわって国益を守るのだというものでしたが、天皇および政府は「無能」ゆえに
そんな軍部ファッショを阻止できませんでした。多くの国民もまた軍部のプロパ
ガンダに飲み込まれていきました。
アメリカはこれを利用し、それまで関心の薄かった自国の大衆を戦意高揚さ
せ、以後アメリカ国民は、「リメンバー・パールハーバー」(「真珠湾を忘れる
な」)を合言葉に戦争にかり出されていきました。1939年9月1日、ヒト
ラー率いるナチスドイツの機甲部隊がポーランドに侵攻、世界の人口の5分の4
をまきこむ第2次世界大戦が始まっていました。
野呂田さんの秋田での講演の内容は、今までも複数の議員によって何度か繰り
返され、外交問題にもなりました。現政府の中にも、「大東亜戦争」歴史観を持
つ閣僚が多くを占めています。
しかし、今時点の発言は、再び大きな外交問題になりかねないことを野呂田さ
んは全く気づいていらっしゃらないようです。
アジアの「反発」はいつも日本の「妄言」から端を発しているのです。
九三年八月、連立政権のもとでの細川首相(当時)は「侵略戦争であり間違っ
た戦争だったと認識している」と発言し、植民地支配についても謝罪しました。
これに「危機感」をもった自民党では、「歴史・検討委員会」を設置し、アジア
太平洋戦争は侵略戦争ではなく、自存・自衛の戦争でありアジア解放の戦争だっ
た、「慰安婦」や「南京大虐殺」はなかったとする「大東亜戦争の総括」と題し
た書籍を発刊。九六年六月に中学教科書の「慰安婦」記述が明らかになると、
「侵略国家として罪悪視する自虐的な歴史認識や卑屈な謝罪外交に同調できな
い」とする「明るい日本議員連盟」(奥野誠亮会長)発足。これに連動して九七
年十二月二日「新しい歴史教科書をつくる会」が発足し、「日本の前途と歴史教
育を考える若手議員の会」(「歴史教科書への疑問」を編集)とともに、戦後世
代に歴史改ざん勢力による「大東亜戦争」史観が引き継がれ、現在、教科書改ざ
ん問題の中心的役割を担っています。その勢力によって、侵略戦争を否定する教
科書が検定申請され、まもなくその結果がでようとしています。
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韓国併合を正当化する内容の中学歴史教科書が検定申請されている問題で、韓
国の通信社、聯合ニュースは十八日、政府当局者の話として、韓国政府が今後、
あらゆるチャンスを通じ、この歴史教科書が検定を通過した場合、日韓間に重大
な影響を与えることを喚起していく方針を決めたと報じた。報道によると、韓国
政府当局は「(韓国が動けば)日本の右翼勢力の立場を強化すると判断し、穏便
な解決法を模索してきたが、今後は積極的に問題を喚起する」「(教科書検定
は)一次的には日本の国内問題だが、特殊な性質上、国際問題でもあることを日
本の外務省も充分認識している」と語った。
(朝日2月19日)
「新しい歴史教科書をつくる会」が関係する検定中の中学歴史教科書について
「教科書は少なくともうそを書いてはいけない。歴史観の違いはあるだろうが、
事実に反してはいけない。歴史は科学ではないとして、不正確な誤ったことを書
いている。例えば、神武天皇を神話として紹介しながら、その即位の日を太陽暦
に直したのが2月11日の建国記念の日などとし、神話と史実を一緒にしてい
る。教科書の最低基準を満たしていない。歴史学を冒とくするものだ」=15日
(毎日2月19日「ひとこと」欄)