前田 朗@歴史の事実を視つめる会、です。
1月26日
1) 人権高等弁務官事務所のホームページに、1月25日のプリンストン・プ
ロジェクトにおける人権高等弁務官のあいさつが掲載されています。重大人権侵
害の不処罰に関するプロジェクトとのことですが、どのようなものかは知りませ
ん。参加者が誰かも不明。すみません。とりあえず、以下が訳です。内容自体は
目新しいことはありませんが、普遍的管轄権をめぐって新しい動きが出ているこ
とだけはわかります。プリジェクトそのものの内容が知りたい…
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25 January 2001
Princeton Project on Universal Jurisdiction
Message from Mary Robinson
United Nations High Commisssioner for Human Rights
「普遍的管轄権に関するプリンストン・プロジェクト」
メアリ・ロビンソン国連人権高等弁務官のメッセージ
このコロキウムに参加して、人に関する普遍的管轄権の原理についての考えを共
有することを願っていたが、こうして参加する機会を得た。
このテーマは、人権のために活動するすべての者に重大な関連を有する。重大人
権侵害事件における不処罰を終わらせる手段を探求することは、人権高等弁務官
事務所の重要部分であり、人権擁護のための闘いにおける重要手段である。この
ように名声高い集団が参加しているコロキウムにおいてこの議論が行われている
ことを歓迎し、プリンストン・プロジェクトのイニシアティヴが、普遍的管轄権
の原理の発展と明確化にとって積極的な役割を果たすことを期待する。
人権高等弁務官としての日常活動において、大規模な、時には広範な人権侵害が
生じているのに、犯行者が処罰されないことが多いという現実を見ている。拷
問、戦争犯罪(ジェンダーに基づく暴力を含む)、強制失踪は、そうした犯罪で
ある。国境を超えた犯罪活動が、グローバライゼーションや国境の自由化によっ
て促進されて、最近増加しているが、そのことがこうした侵害についての不処罰
との闘いを必要としている。人身売買、特に女性と子どもの人身売買は、人権高
等弁務官事務所の特別な関心事項である。これらの妨害傾向は、正義と責任を確
保する代替手段のための可能性を考慮する理由である。
今日、国際刑事管轄権の履行のためには二つの重要で補足的な手段がある。国際
刑事法廷における訴追と、普遍的管轄権の原理の国内適用である。前者に関する
限り、ICC規程の署名と批准の数が増加していることに励まされ、この常設裁
判所がやがて現実のものとなることを願っている。ICC設立以前であっても、
ICC規程は不処罰と闘うための貴重な手段であることが明らかとなっている。
ICC規程は、多国間条約としては初めて人道に対する罪を法典化したもので、
一定の行為について非国際的性格の武力紛争において行われた戦争犯罪を掲げて
いる。
補足性の原則という柱石によって、ICC規程は、正義の実現にとって国際的訴
追だけでは十分ではなく、不処罰を終わらせるために国内法制度の決定的な役割
があることを強調している。領域国家が重大人権侵害の捜査と訴追をしないこと
が多いのが悲しい現実である。それゆえ、普遍的管轄権の適用が、正義の決定的
な手段である。
普遍的管轄権の原理の基礎となっている考えは、一定の犯罪は、国際的法益を害
するものであり、各国は、その犯罪がどこで行われようと、犯行者や被害者の国
籍がどこであろうと、犯行者を裁判にかける権利がある(義務すらある)という
ものである。人権侵害は、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪、拷問に対
する普遍的管轄権に服すると広く考えられている。普遍的管轄権の原理は、これ
までこうした犯罪について用意されてきたが、最近の急速な発展を見ている。プ
リンストン・プロジェクトは、普遍的管轄権の原理が法と慣習において発展しつ
づけることを確認するべきである。
言及しうる一つの観点は、普遍的管轄権を国際法におけるその他の犯罪に適用す
ることである。というのも、最近さまざまな場でそうした意見が出ている。例え
ば、「国連の強制失踪保護宣言」は、申し立てのあった強制失踪行為について普
遍的管轄権の行使を提示している。そうした規定は、すでに、「強制失踪米州条
約」という形で地域レベルでは盛り込まれている。国際社会は、今日、「強制失
踪保護条約草案」を検討している。
普遍的管轄権は、最近では、イタリアのパレルモで「国連の越境組織犯罪条約の
署名会議」とともに開催された「越境組織犯罪と闘う国際努力への越境サイバー
犯罪の挑戦に関するシンポジウム」で議論された。条約交渉における議論では、
「民事通商事項に関する管轄権と外国判決に関するハーグ起草会議」に関連し
て、国際犯罪にあたる行為についての民事裁判権の許容性問題が浮上した。条約
交渉は、人権高等弁務官事務所の関心事項であり、その内容は、人権侵害の被害
救済を求める被害者のために裁判所にアクセスすることに重要な進展をもたらし
うる。国際司法裁判所も、普遍的管轄権に関連する問題を検討している。という
のも、国際人道法重大違反を犯したとして身柄拘束を求められているコンゴ民主
共和国元外務大臣に対してベルギー予審判事が出した逮捕状に関する案件が係属
しているからである。
こうした発展によって、普遍的管轄権の原理の適用に関して新しい地平が開かれ
ようとしている。しかし、だからといって、普遍的管轄権が容易に行使できるわ
けではない。原理を適用するためには、なお重要な実践的問題や法的問題が残さ
れている。普遍的管轄権の障害は、最近では、国際法協会の非常に重要な報告書
において詳細に検討されている。
普遍的管轄権の行使の障害には、主権免責抗弁の適用が含まれる。この点では、
ピノチェト事件に関するイギリス上院決定が、元国家元首はイギリス法のもとで
拷問の犯罪について免責を得られないと確認している。他の最近の事件では、公
的資格で行われた国際法のもとでの犯罪についての刑事責任の免責という考えが
問題となった。
特に強く関心を持つ別の領域は、恩赦法の問題である。一定の重大人権侵害や人
道法違反は、恩赦に浴してはならないと強調したい。シエラレオネにおける虐殺
を終わらせるためにシエラレオネ平和協定に調印する問題に直面したときに、国
連は、平和協定4条の恩赦条項は、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪、
その他の重大国際人道法違反には適用されないことを確認している。重大人権侵
害や重大国際人道法違反について恩赦が与えられるといった誤ったメッセージが
送られることのないよう注意しなければならない。プリンストン・プロジェクト
は、一定の犯罪は、不処罰のまますますにはあまりにもにくむべき者であるとい
う立場を表明するべきである。
普遍的管轄権の行使は、世界じゅうの重大人権侵害の犠牲者のためのより大きな
正義の約束である。人権高等弁務官事務所は、不処罰を終わらせる手段としての
普遍的管轄権を強化するためのプリンストン・プロジェクトの努力を通じて、こ
の急速に発展している領域の監視を続ける。この問題の議論が、人権侵害被害者
のための正義の実現に寄与することを願い、この会議の報告書を受け取るのを期
待したい。