Date: Tue, 16 Jan 2001 21:48:29 +0900
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Subject: [keystone 3502] 「人道的介入」を考える
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 〈第1回〉「人道的介入」を考える
 
   井上 澄夫(戦争に協力しない!させない!練馬アクション)
                                    
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 《民族とは、出自を共有していると錯覚し、隣人に敵意を抱くことで結ばれて
いる人間の集団をいう》
 (スロヴェニア人歴史家マルヤン・シュトゥルムの定義)
 
 冷戦の終結がもたらしたものの一つに、〈軍隊の多機能化〉がある。これは、
米欧日の軍に共通する現象で、今や、それら諸国の軍は、災害派遣、国連のPK
O(平和維持活動)・平和執行活動、あるいは、いわゆる「人道的(軍事)介
入」などのために、盛んに出動している。
 災害、国連安保理決議、人道(人権)などを口実とする、この種の軍の出動
は、「非戦闘活動」と呼ばれる。それは軍が、外敵からの「国家の防衛」、即ち
敵の侵略を粉砕することと、「国内の治安維持」とを本務とするからである。し
かしコソボ紛争を契機に、九九年三月から六月までNATO(北大西洋条約機
構)が続けた新ユーゴへの空爆は、実に一万回を超えたのであり、「非戦闘」と
は、とうてい言えない。

  米欧日の軍隊が、「非戦闘部門」での活動をあえて活発に始めたのは、冷戦の
終結が、〈冷戦の熱戦化〉を前提とした東西の軍事同盟の存在理由を喪失させた
ことに関係している。旧東側の軍事同盟・ワルシャワ条約機構は、一九九一年七
月に解体した。その結果、旧ソ連軍は、ハンガリーから五万人、旧チェコスロ
ヴァキアから七万三千人、旧東ドイツから三八万人を撤退させた。
 一方、NATOは解体せず、存続したが、在欧米軍は大幅な軍縮を迫られ、二
五万人から一〇万人に削減された。(これに対し、東アジアの米軍一〇万人は、
まったく削減されていない。)

  NATOは「目的喪失症」に陥りかけたが、たちどころにそれから脱却する絶
好の口実を見つけた。湾岸戦争の終結直後(九一年六月)、旧ユーゴスラヴィア
国内で、「民族紛争」とも呼ばれる地域紛争が噴出し始めたからである。
 最近手にしたある書に「平和の兆がちょっとでもみえると、必ず戦闘がはじま
る」という痛切な言葉があったが、私流にいえば、「軍隊にとって最大の敵は、
敵の不在である」、あるいは「軍隊は戦争を抑止するのではなく、平和を抑止す
る」のである。
 国連とNATOは、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争に関与し、九五年一一
月、とりあえずデイトン和平合意が成立した。しかしコソボ紛争の激化への対応
は、ついにNATOによる新ユーゴへの空爆に発展し、九九年四月のNATO創
設五〇周年首脳会議は、その種の軍事介入を「域外派遣」として、「新戦略概
念」に組み込んだ。

 NATOのほんらいの目的は、冷戦終結後も「欧州又は北米の一締約国以上に
対する武力攻撃を全調印国への攻撃と見做」し反撃することである(北大西洋条
約第五条)。したがって締約国の「域外」への介入に関する明文規定はない。そ
こで規定のない地域への展開は禁じられていないというコジツケによって、「非
五条任務」なるものを設け、「人道的介入」の根拠としたのである(この点は、
いずれ詳述する)。

 本コラムは、しばらく「人道的介入」がはらむ問題を、じっくり考察したい。
人道問題、人権抑圧を理由とする軍事介入は、今後もつづくし、それは、私たち
の反戦運動に、深刻な問題を投げかけているからである。「人道的介入」は、私
たちの反戦・反軍の原理を根本から問うている。私たちは、答えを出さねばなら
ない。
 
  かつてのEC(欧州共同体)参加一二カ国は、九三年一一月に発効したマース
トリヒト条約(欧州連合条約)によって、EU(欧州連合)を発足させた。EU
の基礎となっている基本的価値は、アムステルダム条約(九九年五月に発効した
新欧州連合条約)の第六条第一項に掲げられている。「連合は、加盟諸国に共通
の原則、即ち、自由、民主主義、人権と基本的な自由、法の支配を基礎として創
設される」。
 それゆえEU諸国は、九九年一〇月の総選挙で、加盟国のオーストリアに、極
右のハイダーを党首とする自由党と国民党の連立政権が成立したことに、強い危
機感を抱き、外交関係の一部停止などの制裁措置をとった。
 それに触れて、神余隆博(しんよ・たかひろ)外務省欧亜局審議官の「深化と
拡大のパラドックス」は、こういう。(『外交フォーラム』二〇〇〇年六月号、
〔〕内は、引用者による註)。

〈ハイダー問題が象徴的に示していることは、EUがアムステルダム条約第六条
のEUの基本的価値を「踏み絵」として、加盟国に絶対的な帰依を要求している
ことである。そして今やEUは、死刑の廃止を世界中に訴えるなど、人権や人道
上の問題に関し「理念の帝国」と化している。
  EUのこのような傾向が最も鮮明な形で顕在化したのはコソボに関する対応で
あった。コソボ問題では(国連)安全保障理事会のマンデート〔権限の付与〕な
しにNATOの空爆が行なわれた。しかしながら、民族浄化という人道上の惨劇
に対しては不作為(ビナイン・ネグレクト〔やさしい怠慢〕)は許されず、武力
をもってしても介入するという「戦うヒューマニズム」の文化が確立されつつあ
るということであり、それがEUの精神風土の中核を形成していることを明確に
認識しておく必要がある。そして、そのような傾向を助長している要素として、
EU諸国における社民〔社会民主〕主義優勢の政治環境と、ホロコースト〔ナチ
スによるユダヤ人虐殺〕とナチズムの徹底した排除を求める社会的ムードが存在
することを見落としてはならない。〉

 「ホロコーストとナチズムの徹底した排除」も、EUの基盤である基本的価値
も、広く支持されるにちがいない。だが、だからといって、あの新ユーゴ空爆
が、「戦うヒューマニズム」の文化の発現として正当化されるか。国際政治学
者・鴨武彦氏は、こういう。

〈私は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のようなエスノ(民族、引用者)ナショ
ナリズムの深刻な武力紛争に対して、国際社会は(ママ)、第三者の国際組織、
たとえば国連の平和維持活動(PKO)が強化されるべきであると思う。/結果
論としてでなくいいたい。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争への国連やECの国々
の対応は、手遅れであったのではないか。/「民族純化」をめぐるエスノナショ
ナリズムの増幅作用に対して、私たちは、傍観していてはならない。〉(『世界
政治をどう見るか』、岩波新書)
 
  高まりつつある、この種の思潮を、どう受け止めるべきか。腰をすえて考えて
いく。

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「やさしいまちづくりをめざす吹田わいわいフォーラム」の機関紙、
『with You』2001年1月号(予定)への寄稿



 
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