Date: Tue, 16 Jan 2001 21:48:23 +0900
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Subject: [keystone 3501] 「人道的介入」の非人道性
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 反戦エッセイ 36
 
 「人道的介入」の非人道性を明らかにした劣化ウラン弾被害
 
     井上 澄夫(戦争に協力しない!させない!練馬アクション)
 
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  二一世紀劈頭(へきとう)、「バルカン症候群」という言葉が、新聞紙上をに
ぎわしている。それは、一九九一年の湾岸戦争で、米・英両軍が使用した劣化ウ
ラン弾による健康破壊、「湾岸戦争症候群」と同じ症状である。湾岸戦争では、
戦車や戦闘機から、米・英両軍合わせて約九五万発(劣化ウラン約三二〇トン
分)の砲弾が発射された。
 同じように、NATO(北大西洋条約機構)軍は、旧ユーゴスラビアのボスニ
ア・ヘルツェゴビナ紛争と新ユーゴのコソボ紛争に介入する際、劣化ウラン弾を
用いた。前者への介入(九四、九五年)では、約一万八百発、後者への介入(九
九年)では、約三万一千五百発が使用されたことを、NATOは認めている(コ
ソボ紛争で使われた劣化ウランは十トンという報道がある)。

  劣化ウランについての産経新聞の解説を紹介する。「劣化ウランは、天然ウラ
ンから核燃料になる濃縮ウランをつくる時に副成する。比重が重いために、戦車
砲や戦闘機や軍艦の機関砲の弾丸として使用すると、貫通力が増す。金属ウラン
は、空気中で発火し、砲弾に用いると燃焼発火効果がある一方で、放射能による
汚染を引き起こす疑いが持たれている」。
 いま少し正確を期す必要があるだろう。劣化ウラン(U―238、放射能は天
然ウランの約六〇%、半減期は四五億年)は、核兵器や原子力発電用の濃縮ウラ
ン製造過程で生まれる。つまり、核兵器の製造と、エネルギーの原発への依存が
つづくかぎり、大量の劣化ウランが生じる。
 国際行動センター・劣化ウラン教育プロジェクト編、新倉修/監訳『劣化ウラ
ン弾』(日本評論社刊)は、この問題について最も入手しやすい必読の書である
が、その巻頭にこうある。
 「劣化ウラン兵器は、標的となった人間を殺すだけでなく、これを扱う兵士に
有毒な作用を及ぼし、戦場から数百マイル離れたところで呼吸し水を飲む非戦闘
員である民間人、さらにはまだ生まれていない数世代の人間に有毒な作用を及ぼ
す。/劣化ウランは遅発反応性兵器つまり反応があらわれるのに時間がかかる兵
器だ。珍しい原因不明な症状やガン、奇形、先天的疾病に対処する退役軍人やそ
の子どもたちが増えて、私たちが本当の戦死者の数を知るまでには、何十年、何
世代もかかる」(サラ・フランダース)。
 この概説は、問題の輪郭を的確に浮き彫りにしている。

  これまでの報道によると、NATO各国で、バルカン半島旧ユーゴ地域からの
帰還兵に、白血病などが多発し、イタリア、フランス、ベルギー、ポルトガル、
オランダ、チェコ、ギリシャで、死亡者が確認されている。問題は軍事介入した
国々から広がってきた。しかし、劣化ウラン弾を撃ち込まれた地域の《住民の被
害》は、報道でほとんど欠落している。
 たとえば、新ユーゴのコソボ自治区は現在、国連コソボ暫定統治機構(UNM
IK)の下にあるが、同機構はこれまで、住民の健康調査をまったくしていな
い。コソボでは、一一二地点に劣化ウラン弾が撃ち込まれたが、昨年一一月に現
地を訪れた国連環境計画(UNEP)の調査団は、攻撃地点の多くで放射線反応
があり、使用弾の回収が進まず、野放し状態であると警告している。
  「バルカン症候群」という言葉も、バルカン半島からの帰還兵に発症したか
ら、そう呼ばれているのであり、同地の住民の被害はこれまで、まるで顧みられ
てこなかったのだ。

  前掲書『劣化ウラン弾』は、湾岸戦争に参加した米軍兵士たちの被害だけでな
く、イラクなどの人びとが受けた、すさまじい健康被害・環境破壊を報告してい
る。また『中国新聞』は、昨年四月から七月にかけて、「知られざるヒバク
シャ・劣化ウランの実態」と題して、米国やイラクなどで行なった綿密な現地取
材に基づく、秀逸な連載記事や特集を掲載した。しかし、米政府・国防総省は、
それらの事実を完全に否定しつづけてきた。
 米軍は、劣化ウラン弾の毒性をむろん知っていた(前掲書の四七頁にある米陸
軍兵器軍用品化学司令部が発行した報告書の記載が、それを実証している)。し
かし、ここが肝心の点だが、〈毒性があるから〉、劣化ウラン弾は「優れた兵
器」なのであり、だからこそ米・英両軍が使用しつづけてきたのだ。問題の急速
な国際化を前に、英政府は揺らぎ始めたが、米政府の姿勢は頑強である。「優れ
た兵器」を失うことを恐れると同時に、「湾岸戦争―バルカン症候群」に対する
補償問題が、関係国全域から持ち上がることを極度に警戒しているのである。
 
  劣化ウラン弾という核物質使用兵器の製造・配備・使用の禁止を求める声を、
今こそ大きくあげねばならない。問題をあくまで、残虐きわまる砲弾が撃ち込ま
れた地域の住民の視点から考えよう。
 それはとりもなおさず、NATOが強行した「人道的介入」という名の戦争の
発動を、根本的に批判することだ。「人道的介入」の非人道性が、明らかになり
つつある。二一世紀の最初の頁を、反戦の力でめくろうではないか。

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     ◎松下竜一氏発行『草の根通信』2001年2月号への寄稿



 
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