Date: Sun, 14 Jan 2001 16:35:55 +0900
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Subject: [keystone 3484] 戦争犯罪の成立要素(3)
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前田 朗@歴史の事実を視つめる会、です。
1月14日

1)第八条第二項cは、国際的な性格のない武力紛争(つまり内戦など)に関す
る戦争犯罪規定です。戦争とは国家と国家の間で闘われるものとされていた時代
には、国際人道法は戦争だけに限定されていましたが、実際には内戦が置きま
す。そこで1977年のジュネーブ諸条約選択議定書は、国際的性格のある武力
紛争と、国際的な性格のない武力紛争とに分けて、二つの議定書として作成され
ています。ICC規程もこの考え方を採用していて、c以下は非国際的武力紛争
に関する規定です。

******************

第八条第二項c

第八条第二項c(i)-1  戦争犯罪としての殺人

要素
1 実行者が、一人以上の人を殺した。
2 その一人以上の人が、降伏した戦闘員、または、敵対行為に積極的に参加し
ていない民間人、医療要員、宗教人であった(56)。
3 実行者が、その人の地位を決定する事実条件を知っていた。
4 実行行為が、非国際的武力紛争の文脈で、かつそれと結びついて行われた。

5 実行者が、武力紛争の存在を決定づける事実条件を知っていた。

(56)「宗教人」という語句には、司祭ではない非戦闘員たる軍隊構成員であ
って、同様の役割を果たしている者も含まれる。

第八条第二項c(i)-2  戦争犯罪としての切断

要素
1 実行者が、一人以上の人に、特に永久的に損傷を与え、または身体器官を永
久的に傷害しもしくは取り去ることによって、切断した。
2 実行行為が、その一人以上の関係人の医療、歯科治療もしくは療養によって
は正当化されず、または、その人の利益のために行われたのではない。
3 その一人以上の人が、降伏した戦闘員、または、戦闘行為に積極的に参加し
ていない民間人、医療要員、宗教人であった。
4 実行者が、その人の地位を決定する事実条件を知っていた。
5 実行行為が、非国際的武力紛争の文脈で、かつそれと結びついて行われた。

6 実行者が、武力紛争の存在を決定づける事実条件を知っていた。

第八条第二項c(i)-3  戦争犯罪としての虐待

要素
1 実行者が、一人以上の人に重大な身体的または精神的な苦痛を加えた。
2 その一人以上の人が、降伏した戦闘員、または、敵対行為に積極的に参加し
ていない民間人、医療要員、宗教人であった。
3 実行者が、その人の地位を決定する事実条件を知っていた。
4 実行行為が、非国際的武力紛争の文脈で、かつそれと結びついて行われた。

5 実行者が、武力紛争の存在を決定づける事実条件を知っていた。

第八条第二項c(i)-4  戦争犯罪としての拷問

要素
1 実行者が、一人以上の人に重大な身体的または精神的な苦痛を加えた。
2 実行者が、次の目的でその苦痛を加えた。情報または自白を得る、処罰、強
迫、強制、またはなんらかの差別に基く理由。
3 その一人以上の人が、降伏した戦闘員、または、敵対行為に積極的に参加し
ていない民間人、医療要員、宗教人であった。
4 実行者が、その人の地位を決定づける事実条件を知っていた。
5 実行行為が、非国際的武力紛争の文脈で、かつそれと結びついて行われた。

6 実行者が、武力紛争の存在を決定づける事実条件を知っていた。
 

第八条第二項c(ii)  戦争犯罪としての人格の尊厳の侵害

要素
1 実行者が、一人以上の人の尊厳を侮辱し、品位を引き下げ、またはその他侵
害した(57)。
2 その侮辱、品位の引き下げ、またはその他侵害の激しさが、一般に人格の尊
厳の侵害と認められる程度のものであった。
3 その一人以上の人が、降伏した戦闘員、または、敵対行為に積極的に参加し
ていない民間人、医療要員、宗教人であった。
4 実行者が、その人の地位を決定する事実条件を知っていた。
3 実行行為が、非国際武力紛争の文脈で、かつそれと結びついて行われた。
4 実行者が、武力紛争の存在を決定づける事実条件を知っていた。

(57)この犯罪については、「人」には死者が含まれうる。被害者が侮辱、品
位の引き下げ、その他侵害をに気づいたことは必要ではないと解釈される。この
要素は、被害者の文化的背景の関連する側面を考慮に入れる。

第八条第二項c(iii)  戦争犯罪としての人質

要素
1 実行者が、一人以上の人を捕らえ、拘禁し、またはその他人質にした。
2 実行者が、その一人以上の人を殺す、傷つける、または拘禁し続けると脅し
た。
3 実行者が、国家、国際組織、自然人または法人、集団に、その一人以上の人
の安全または釈放について明示的または黙的な条件として、行動しまたは行動し
ないことを強要しようとした。
4 その一人以上の人が、降伏した戦闘員、または敵対行為に積極的に参加して
いない民間人、医療要員、宗教人であった。
5 実行者が、その地位を決定づける事実条件を知っていた。
6 実行行為が、非国際的武力紛争の文脈で、かつそれと結びついて行われた。

7 実行者が、武力紛争の存在を決定づける事実条件を知っていた。

第八条第二項c(iv)  戦争犯罪としての適正手続きぬきの判決の言渡しまたは刑
の執行

要素
1 実行者が、一人以上の人に判決を言渡しまたは刑を執行した(58)。
2 その一人以上の人が、降伏した戦闘員、または敵対行為に積極的に参加して
いない民間人、医療要員、宗教人であった。
3 実行者が、その地位を決定づける事実条件を知っていた。
4 裁判所によって言渡された事前の判決がなかった、または、判決を下した裁
判所が「正規の裁判所」でなかった、すなわち、独立性と公平性という本質的保
証が与えられていなかった、または、判決を下した裁判所が一般に国際法のもと
で不可欠と認められている司法上の保証が与えられていなかった(59)。
5 実行者が、事前の判決がなかったこと、または、関連する保証が否定されて
いたこと、かつ、裁判所に公正な裁判に本質的で不可欠である事実を知ってい
た。
6 実行行為が、非国際的武力紛争の文脈で、かつそれと結びついて行われた。

7 実行者が、武力紛争の存在を決定づける事実条件を知っていた。

(58)この文書で用いている諸要素は、ICC規程第二五条と第二八条で示さ
れているように、個人の刑事責任の別の形態を使っているわけではない。
(59)要素4と5については、裁判所は、すべての関連条件に照らして、保証
に関する諸要素の重複効果が、一人以上の人から公正な裁判を奪ったか否かを検
討するべきである。



 
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