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〈緊急報告〉石原都知事の差別・排外主義が、警察行政の現場に顕現
―中国人かな、と思ったら110番―
報告者=井上澄夫(東京都は戦争協力をするな!平和をつくる市民連絡会)
報告時=2000年12月27日
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12月26日付『朝日新聞』夕刊に、次のような記事が載った。記事を要約し
て引用する。
〈警視庁地域部が東京都内各署に配った防犯チラシに「中国人かな、と思った
ら110番」などの表現があり、「配慮に欠ける」との指摘を受けた同部がこれ
を回収していた。警視庁地域指導課によると、チラシは「あなたの管理するマン
ション、あなたの部屋が狙われています」と題したA4判。空き巣に狙われやす
い場所や時間などを記し、最後に「中国人かな、と思ったら110番」「建物内
で中国語で話しているのを見かけたら110番」との表現があった。
都内では中国人と見られる窃盗グループが特殊な工具を使って空き巣に入る
ピッキング窃盗事件が相次いでいる。住民からの110番通報が検挙の端緒とな
ることが多いことから、同課がチラシをつくり、11月21日に作成例として都
内96署にファクスで送ったという。このうち、赤羽署など2署がこのチラシを
配布。同署は約400枚をコピーして管内のマンションの管理人や町内会役員ら
に配った。別の署では約300枚を交番に配ったという。
しかし「配慮に欠ける」などの指摘があり、同課は12月に入って回収、廃棄
処分とした。〉
記事には、中国大使館も、外務省に抗議するとともに、再発防止を申し入れた
との記述があり、「チラシの文面からは中国人全員が犯罪者のようにとらえられ
かねない。日中相互理解の時代なのに残念だ」という中国大使館の話が掲載され
ている。
さて、問題を生んだ病根は、いかにも深い。記事をとりあえず信用するなら、
都内96署にファクスで送られた作成例を「活用」したのは、「赤羽署など2
署」である。だがそれは、警視庁サイドの説明だから、これはまず疑ってかかる
べきだろう。
作成例がファクスで送付されたのは11月21日であり、回収や廃棄処分がな
されたのは「12月に入って」からという。12月の何日にそれらがなされたの
かは、記事では分からないが、回収・廃棄処分まで少なくとも10日を要してい
る。その間、チラシを問題にし、即時の対応を迫る声は、都内の警察署やそこに
勤務する警察官たちから上がらなかったのだろうか。警視庁地域部が「配慮に欠
ける」という指摘を受けたと記事にはあるが、誰が指摘したのかは、分からない
(新聞報道におけるこういう記述の曖昧さは、それ自体問題だと思うが、ここで
はこれ以上触れない)。
警視庁内部および都内の警察署から指摘がなされなかったとすれば、東京都の
警察行政と警察官たちには、まったく初歩的な人権意識さえないことになる。か
りに内部から指摘があったのに、回収・廃棄処分が遅れたのであれば、それは都
の警察行政の組織体質の問題であると言わざるを得ない。いずれにせよ、問題の
根の深さは、計り知れない。
記事には、警視庁地域指導課の「誤解を招く表現であり、関係者にはご迷惑を
かけ、申し訳ない」というコトバが引用されているが、誤解とは何か、関係者と
は誰のことか、何がどのように申し訳ないのか。その後続報を目にしていない
が、こういう民族差別主義・排外主義むき出しのチラシを作った警視庁地域部
や、全都の警察行政を統轄する警視総監の責任はどうなるのか。この点に注目し
ないわけにはいかない。「反省のフリ」で済む問題ではないのである。
しかし同時に指摘されねばならないのは、石原都知事の責任である。警察法に
よれば、都知事の所轄の下に都公安委員会が置かれ(第38条)、都警察の本部
である警視庁は、都公安委員会の管理の下に都警察の事務をつかさどる(第47
条)。したがって問題のチラシを作って配布した警視庁の行為に、最高のレベル
で責任を負うのは、石原都知事に他ならない。石原都知事は、どう責任をとるの
であろうか。
しかも石原都知事の責任は、単に警察行政の監督責任に留まらない。本年(2
000年)4月9日、石原都知事は、陸上自衛隊練馬駐屯地で「不法入国した多
くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している」とのべて、大災害発
生時に「想定される大きな大きな騒擾(じょう)事件に対処するため」、自衛隊
に「治安の維持を大きな目的として出動してほしい」とのべた。しかも石原知事
は、その発言を撤回しないばかりか、その後のいくつもの発言で、中国に対する
敵意をむき出しにしてきた。今回警視庁が起こした犯罪(中国人=犯罪者として
防犯を呼びかけたのだから、そう断定していいだろう)は、石原都知事による意
図的な民族差別主義・排外主義扇動の「成果」である。彼の扇動は明らかに、右
翼・右派勢力を激励してきた。そしてその扇動の「成果」は、ついに警察行政の
現場においてさえ顕現するに至ったのである。「中国人かな、と思ったら110
番」という宣伝が続いたなら、どういうことが起こったであろうか、想像するだ
に鳥肌が立つ。
差別・排外主義発言を繰り返している石原都知事は、今回の事態をどうとら
え、どう対応するであろうか。
警察法は、都公安委員会は、国家公安委員会に対し、警視総監の懲戒又は罷免
に関し必要な勧告をすることができると定めている(第49条)から、都知事が
自ら所轄する都公安委員会に働きかければ、警視総監の懲戒・罷免について影響
力を及ぼすことができる。しかし警視庁は、石原都知事の意とするところに誠に
忠実に、問題のチラシを作成・配布したのだから、知事が警視総監の首のすげか
えのために動くことを期待することはできないだろう。
「魚は頭から腐る」。差別・排外主義扇動の元凶、石原都知事に職を辞しても
らうしかないのではないだろうか。