keystoneML2000/12

From: "NAKADA Hiroyasu" <nakada_h@jca.apc.org>
To: "keystone" <keystone@jca.apc.org>
Subject: [keystone 3428] 第１９回口頭弁論準備書面１
Date: Sun, 24 Dec 2000 23:19:02 +0900
X-Priority: 3
Sender: owner-keystone@jca.ax.apc.org
X-Sequence: keystone 3428
Reply-To: keystone@jca.ax.apc.org

仲田です。

１２月１３日、那覇地裁で行なわれた違憲訴訟裁判の口頭弁論準備書面です。
長いので、３回に分けます。

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－

第１９回口頭弁論（２０００年１２月１３日）
第　四　準　備　書　面
　　原告らは、被告の準備書面（六）に対して、次のとおり反論する。
第一　米軍用地特措法三条の「提供の必要性」要件について
　一　被告の主張の問題点
　　　被告は、米軍用地収用特措法３条にいう「『駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合』
　　とは、使用又は使用しようとする土地等が日米安保条約６条、日米地位協定２条に基づき合意
　　された施設及び区域に含まれていることを意味」すると主張する。
　　　被告のこの主張は、日米地位協定２条に基づく「基地提供合意」即米軍用地収用特措法３条
　　の「提供の必要性」と解するものであるが、この解釈には、二つの観点から問題が存する。
　　一つは、「提供の必要性」について司法の判断を排除する点であり、二つは、基地の実態から著
　　しく乖離した不合理な事態を招く点である。
　　　以下、詳述する。
　二　司法の判断の排除
　　１　いうまでもないが、日米地位協定２条に基づく、日米合同委員会における基地（施設及び
　　　区域）提供合意は、日米両政府が政治的判断に基づき行なうものである。
　　　従って、そこには司法の判断は介在していない。
　　　　他方、米軍用地収用特措法３条は、強制収用のための法的要件を定める条項であり、その
　　　要件として上記の「提供の必要性」と提供することが「適正且つ合理的であること」の二つ
　　　を規定するものである。この要件は、強制使用の実体的法的要件をなすものであるから、当
　　　然に司法の判断を受けるものである。
　　　　以上のように、日米地位協定２条に基づく基地提供合意と米軍用地収用特措法３条の要件
　　　たる「提供の必要性」との問には、法的性質という点で大きな差異がある。
　　　　被告の主張は、このように性質が異なることを充分承知の上で、米軍用地収用特措法３条
　　　の要件たる「提供の必要性」を日米地位協定２条に基づく「基地提供合意」と同一視するも
　　　のであり、結局、この主張は「提供の必要性」を日米両政府の「政治的合意」に置き換えて
　　　解釈し、「提供の必要性」についての司法判断を排除する結論を導くものである。
　　２　しかし、憲法２９条が「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いること
　　　ができる」と規定していることから明らかなように、強制収用・使用は、「公共のために用い
　　　る」場合に初めて許されるものである。そしてこの場合、「公共のために用いる」場合に該当
　　　するか否かは、政府の政治的判断で決定されるものではなく、司法の場で判断されるもので
　　　ある。これは、「公共のために用いる」ことが財産権を制限・制約する憲法上の要件として規
　　　定されていることから当然に導かれる論理的結論である。
　　　　米軍用地収用特措法は、駐留軍の用に供することは基本的に「公共のために用いる」場合
　　　に該当するとの前提の下に、制定されているものであるが、日米両政府が合意したことを無
　　　条件に「公共のために用いる」場合に該当すると規定したものと解することは相当でない。
　　　なぜなら、日米両政府間において提供合意される基地の中には、客観的に提供の必要性のな
　　　い基地が存しうるからであり、現実に、沖縄には後記のとおり、客観的に提供の必要性の認
　　　められない軍用地が数多く存在しているからである。
　　　　仮に、日米両政府の基地提供合意が無条件に「公共のために用いる」場合に該当すること
　　　になると、憲法上の財産権制限・制約の要件を欠くことになり、米軍用地収用特措法そのも
　　　のが違憲の法律となると言わなければならない。従って、米軍用地収用特措法が合憲となる
　　　ためには、少なくとも「提供の必要性」について司法の判断を行ない得るものと解しなけれ
　　　ばならない。
　　　　原告らは、このような立場に立って、日米両政府が提供合意をなしている場合でも、当該
　　　強制使用対象土地等が客観的に「提供の必要性」が存するか否かを司法が審査・判断すべき
　　　ものと解しているものである。
　　３　なお、被告は、原告らが引用したアニーパイル劇場事件の東京地裁１９５４年１月２０日
　　　判決は、「適正且つ合理的」要件という観点からこれを否定したものであり、「提供の必要性」
　　　という観点からこれを否定したものではないとして、同判決は、原告らの主張を裏付けるも
　　　のではないと批判する。
　　　　しかし、同判決は「土地等を駐留軍の用に供することが『適正且つ合理的』であるか否か
　　　は、その土地が安全保障条約第１条に掲げる前記目的（我が国の安全と極東における国際の
　　　平和と安全の維持）の遂行に必要な施設又は区域といえるか否かということを基準として決
　　　しなければならない」としていることから、明らかなように、実質的には、「適正且つ合理的」
　　　要件の名の下に、「提供の必要性」（同要件の判断基準の一つである「目的と手段との関連
　　　性」）を基準として判断していることは、同判決の記載から明らかである。
　　　（原告らが主張しているように、「提供の必要性」の要件と「適正且つ合理的」の要件とは明
　　　らかにことなるものであり、別個の要件と解釈すべきである。その点では、右東京地裁判決
　　　は、両要件を混同していると言わなければならない）
　　４　被告は、「提供の必要性」について、前記のような主張を展開する一方、最高裁１９９６年
　　　８月２８日大法廷判決を引用して、「適正且つ合理的」要件については、「我が国の安全と極
　　　東における国際の平和と安全の維持にかかわる国際情勢、駐留軍による当該土地等の必要性
　　　の有無、程度、当該土地等を駐留軍の用に供することによってその所有者や周辺住民などに
　　　もたらされる負担や被害の程度、代替すべき土地等の提供の可能性等諸般の事情を総合考慮
　　　して判断すべきである」と主張する。これは、「駐留軍による当該土地等の必要性の有無、程
　　　度」を「提供の必要性」の内容として理解するのではなく、「適正且つ合理的」要件の内容と
　　　して理解しようとするものである。
　　　　しかし、「駐留軍による当該土地等の必要性の有無、程度」は、「提供の必要性」の要件の
　　　内容を指すものと解するのが自然であり、且つ同法３条の文理にも合致するものである。
　　　　いずれにしても、原告らと被告の主張は、「駐留軍による当該土地等の必要性の有無、程度」
　　　を、「提供の必要性」の要件の内容と解するか、それとも「適正且つ合理的」用件の内容と解
　　　するかの違いは存するものの、「駐留軍による当該土地等の必要性の有無、程度」を強制使用
　　　の要件とする点においては、差異はない。
　　　　従って、原告らが「提供の必要性」について指摘した問題点は、被告の立場に立ったとし
　　　ても妥当するものである。
　　　（なお、右最高裁判決は、直接的には米軍用地収用特措置法３条の強制使用の要件に関する
　　　紛争についての判決ではなく、前記判示部分が、同法３条の要件について直接判示したもの
　　　と解するのは早計である。）
　三　提供合意の実態と司法審査・判断の必要性
　　１　沖縄における米軍基地の形成過程、その歴史的経緯については、併合後の原告第一準備書
　　　面において詳述したところである。
　　　沖縄の米軍基地の特徴の一つは、沖縄の本土復帰前に米軍がその権力を利用して好き勝手に
　　　土地を囲い込み、又は強制的に土地を取り上げて広大な基地を保持しているところにある。
　　　沖縄の本土復帰の際の日米合同委員会における基地提供合意は、このような不幸な歴史を引
　　　きずったまま、米軍の既得権を引き継ぐ形で合意されたものである。
　　　　このため、日本国憲法の下においても、客観的に不必要な土地が軍用地という形で数多く
　　　残っている。このことは、実際に軍用地を見聞すれば、すぐに判明する事実である。
　　　　例えば、伊江島には、軍用地として米軍に提供されている土地上に、民家が建築され長年
　　　にわたって民間に使用されている土地がある。この様な土地は「黙認住宅地」と呼ばれてい
　　　る。又、軍用地として米軍に提供されているにもかかわらず、４０数年の長期にわたって畑
　　　として使用されている土地が存する。いわゆる「黙認耕作地」と呼ばれる軍用地である。さ
　　　らに、ゴルフ場用地として使用されている土地、フェンスに囲われて基地の中に取り込まれ
　　　ているが、長年使用されず雑草が生い茂るままに放置されている土地、住宅用地として使用
　　　されているが、集合住宅とすれば不要となる土地等必ずしも米軍基地のために必要とされな
　　　い土地が、上記事情、歴史的経緯の下で、提供合意されている（この点については、すでに
　　　原告ら第三準備書面の各論にて指摘されている）。
　　　　この沖縄の米軍基地の実態をみると、日米両政府間において提供合意がなされている一事
　　　をもって、当該土地が米軍の用に供する必要性が存すると判断することは、相当でなく、む
　　　しろ著しく法的正義に反するものである。
　　２　被告は、右のような現実を十分に承知しているものである。
　　　　それにもかかわらず、被告は、基地提供合意の「政治性、外交性、専門性」を口実に内閣
　　　総理大臣の裁量権を強調して、基地提供合意の内容についての司法審査・判断を排除しよう
　　　と主張しているものである。
　　　　しかし、米軍基地のために必要とされる土地の範囲、面積、規模については、軍事的観点
　　　から確かに専門的判断を要する点が存することは否定できないが、しかし、そうだからと言
　　　って米軍基地にとって必要か否かの判断をなし得ないものではない。沖縄の米軍基地は長い
　　　歴史を有しており、これまでの基地の機能、歴史、使用実態をふまえると、容易に不要な軍
　　　用地を区別し判断しうるものが多数存するものである。
　　　　狭い沖縄の中にひしめく米軍基地、そのためにいかに住民、地域にさまざまな大きな負担、
　　　人権侵害、生活破壊をもたらしているかを直視すると、安易に合意されてきた提供合意を司
　　　法の立場から審査しチェックすることが極めて重要であることが容易に理解し得るものであ
　　　る。
　　　　被告の主張は、基地提供合意について司法の審査を排除する点で極めて不合理な結果を招
　　　来するものであり、到底認めうるものではない。
　四　「提供の必要性」についての個々の判断基準について
　　１　「駐留軍」について
　　（一）原告らの主張は、明確
　　　　安保条約は、条において「アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において
　　　施設及び区域を使用することを許される」と規定し、使用の主体を三軍に限定していること、
　　　米軍用地収用特措法が１条において「（日米地位協定）を実施するため、日本国に駐留するア
　　　メリカ合衆国の軍隊（以下駐留軍という）の用に供する土地等の使用又は収用に関し規定す
　　　ることを目的とする」と定め、「（日米地位協定）を実施するため、日本国に駐留するアメリ
　　　カ合衆国の用に供する土地等の使用又は収用に関し規定することを目的とする」とは規定し
　　　ていないこと、また、同法３条が「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合におい
　　　て・・・この法律の定めるところにより、これを使用し、又は収用することができる」と定
　　　めていることから、原告らは同法３条の強制使用、又は収用は、陸軍、空軍及び海軍の三軍
　　　が直接自ら使用する場合に限られていると主張するものである。
　　（二）被告への反論
　　　　被告は、海兵隊が海軍省に法制上属することを理由に、合衆国の軍隊だと主張する。しか
　　　し、海兵隊が海軍省に属するとしても、それは海兵隊の所管を示すものであり、アメリカの
　　　法制上、海兵隊が陸軍、空軍、海軍とともに独立した指揮系統をもつ軍隊であり、海軍と異
　　　なる軍隊であることは法制上明らかである。被告は、この点を真正面から答えず、単に海兵
　　　隊の所管省が海軍の所管と同じ、海軍省であることを指摘するのみである。軍隊が同一の軍
　　　隊とみなされるかはその組織編成及び指揮系統により判別されるものであり、被告の反論は、
　　　的をえないものとなっている。
　　　　原告らが「特殊機関等」というのは、陸軍、空軍、海軍、海兵隊の四軍に属さないＣＩＡ
　　　等の他の機関、特に情報機関等をさすものである。アメリカ合衆国の機関といえども、軍隊
　　　に属さない他の機関が提供施設及び区域の使用を許されないことは、被告といえどもこれを
　　　認めざるをえないものであろう。特に本件で問題となるのは、トリイ通信基地の使用実態で
　　　ある。
　　　前記のとおり、安保条約６条は、直接的には陸軍、空軍、海軍に対して日本の施設及び区域
　　　を提供し、使用させることを目的とするものであるが、具体的な提供施設及び区域の範囲、
　　　使用方法等については、日米合同委員会において取り決められる。日米合同委員会は、どの
　　　範囲の施設及び区域を提供し、その提供施設及び区域の使用条件をどのように定めるかは、
　　　アメリカ合衆国との協議により定めうるものであり、日本国政府は一定の自主的判断権を条
　　　約上有しているものである。
　　　　被告は、条約上のこの判断権を行使して、今日まで軍隊の直接使用する軍事施設（軍隊の
　　　構成員の宿舎を含む）だけではなく、軍隊構成員の家族の住宅・その子供のための学校、娯
　　　楽施設、教会、歳出外資金により運営される諸機関使用地等を提供してきた。
　　　　しかし、このように提供された施設及び区域の提供の必要性の程度は、その使用者、使用
　　　態様によりさまざまである。
　　　　米軍用地収用特措法は、強制収用・使用のために私有財産権を制限し、提供のための権原
　　　を取得することを目的とする法律であるから、駐留軍隊のために不可欠でない軍隊構成員の
　　　家族の住宅・その子供のための学校、娯楽施設、教会、歳出外資金により運営される諸機関
　　　のための使用は、同法３条の「駐留軍の用に供する場合」には、含まれないと解すべきであ
　　　る。仮に，含まれると解する場合には、「強制使用又は収用」の「必要性」がないと解するの
　　　が相当である。
　　２　「駐留目的」について
　　　　原告らは、日米安保条約６条及び日米地位協定２条に基づく、施設及び区域の提供は、無
　　　制限なものではなく、条約上「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び
　　　安全の維持に寄与するため」（駐留に目的）に制約されるものであり、この駐留目的に違反す
　　　る提供合意はそもそも条約に違反し、米軍用地収用特措法はこのような駐留目的に違反する
　　　使用のための強制使用・収用を認めていないと主張しているものである。
　　　　ところが、被告は、原告らのこの主張に真正面から答えようとしない。
　　　　被告は、「原告らの右主張は、必要性の要件を正解しないものであって、失当である」と批
　　　判する。しかし、右の様に安保条約６条に違反する施設及び区域の提供が、違法であること
　　　は明らかであり、条約上違法な提供合意を理由に米軍用地収用特措法の適用を正当化しえな
　　　いことは明白である。
　　　　結局、被告の反論は、安保条約６条に違反する施設及び区域の提供合意はしていないとの
　　　主張につきるものである。
　　　　しかし、原告らの主張するように、駐留目的違反の使用実態が存するか否かは、事実の問
　　　題であり、証拠調べの結果に基ついて判断されるべき問題である。
　　　　被告は、原告らの主張が「失当である」として、証拠調べを回避しようとするものであり、
　　　原告らの主張への反論とはなりえていないものである。
　　３　目的と手段の関連性について
　　　　この点についての被告の反論は、前記のとおり、米軍用地収用特措法３条についての独自
　　　な見解に基づくものであるが、すでに指摘したとおり、被告の主張には理由がないものであ
　　　る。
第二　米軍用地収用特措法３条の「適正且つ合理的」要件について
　一　被告の主張する「適正且つ合理的」要件
　　一　被告は、前記のとおり、「適正且つ合理的」要件については、１９９６年の最高裁判決が米
　　　軍用地収用特措法３条について、「我が国の安全と極東における国際の平和と安全の維持に
　　　かかわる国際情勢、駐留軍による当該土地等の必要性の有無、程度、当該土地等を駐留軍の
　　　用に供することによってその所有者や周辺住民などにもたらされる負担や被害の程度、代替
　　　すべき土地等の提供の可能性等諸般の事情を総合考慮して判断すべきである」と述べた個所
　　　を引用するだけで、それ以上に積極的に意見を表明していない。
　　　　上記判示部分は、米軍用地収用特措法３条の強制使用の要件については、総合的に判断す
　　　ること、その場合に考慮すべき事情を列挙したものであり、積極的に同法３条の要件を解明
　　　したものではない。
　　　　従って、同判示部分を根拠に、原告らの「適正且つ合理的」要件を批判するのは適切でな
　　　い。原告らの主張は、これまでの強制収用事件の判決に基づき「適正且つ合理的」要件を解
　　　明したものであり、適切なものである。
　二　「適正且つ合理的」要件の判断方法――「有機的一体性」の主張について
　　１　被告は、「適正且つ合理的」の要件の充足性の判断は、「まず、使用認定の対象土地を含む
　　　当該施設及び区域を一体として駐留軍の用に供することが適正且つ合理的か否かという見地
　　　から検討すべきである。そして、当該施設及び区域を一体として駐留軍の用に供することが
　　　適正且つ合理的と認められる場合には、これに含まれる対象土地に係る使用認定は、駐留軍
　　　用地特措法３条の要件を充足して適法といわなければならない」と主張する。
　　　　右論理は、被告独特なものである。この被告の論理は、まず曖昧な概念から組み立てられ
　　　ている点に注目する必要がある。「対象土地を含む当該施設及び区域」がこの主張のキーワー
　　　ドとなっている。新規に施設及び区域を提供しようとする場合には、日米両政府で新たに提
　　　供する「施設及び区域」を決定・合意しなければならない。その場合には、何のために使用
　　　されるのか（目的）、その目的のためにどの「施設及び区域」が必要とされるのか（必要とさ
　　　れる範囲）が協議され、提供する「施設及び区域」が決定・合意される。しかし、前記のと
　　　おり、それはあくまで日米両政府間の政治的合意であり、財産権制限・制約のために「公共
　　　のために用いる」場合に合致するか否かの司法審査をうけたものではない。従って、強制使
　　　用の際に、司法が日米両政府が合意した「施設及び区域」の使用目的、その必要性の有無、
　　　程度、それに応じて「提供施設及び区域」の規模・範囲が適切であるか否かを審査・判断す
　　　ることになるのは、当然である。
　　　　ところが、被告の主張する右「有機的一体性」の主張は、「提供施設及び区域」がすでに合
　　　意されていることを理由に、「提供施設及び区域」の範囲については、司法は審査・判断して
　　　はならず、合意された「提供施設及び区域」を米軍に提供するか否かのみを司法は審査・判
　　　断すべきであるとするものである。
　　　　従って、「有機的一体性」とは、「日米両政府問で提供合意されていること」と同義であり、
　　　「提供施設及び区域」の範囲の要否についての司法の審査・判断を排除する目的を有するも
　　　のである。
　　　　仮に、「有機的一体性」という用語の意味が、日米両政府問で合意された「提供施設及び区
　　　域」という意味ではなく、現実に「有機的一体」となって機能していること、すなわち、現
　　　実的機能を指すものだと解すると、日米両政府間で合意された「提供施設及び区域」につい
　　　ても、「有機的一体をなして機能している部分」と「有機的一体をなしていない部分」とがあ
　　　り得る事になる。そうすると、何を基準に「有機的一体性」を判断するのかという判断基準
　　　が重要となる。しかし、被告は、この判断基準を提示しえないでいる。
　　２　被告は、「有機的一体性」という論理を前記二様に使い分けているようにみえる。前者の論
　　　理は、司法の審査・判断を排除する点で誤ったものであることは、いうまでもない。後者の
　　　論理は、有機的一体性を判断する基準を提示しえない点で本質的に欠陥を有するものである。
　　　「有機一体性」という概念は、有機物体、又は有機的生物を前提にして、生み出された概念
　　　であるから、本来有機物体又は有機的生物の一部をなしており、当該部分が欠けると当該有
　　　機物又は有機的生物が一体性を欠くに至るものを意味すると解される。従って、これを本来
　　　有機的物体又は有機的生物でない基地にあてはめるのは無理があるが、強いてあてはめると、
　　　基地機能に不可欠な土地、建物、施設を有機的一体をなすものといい、それがなくても格別
　　　基地機能に支障を及ぼさないものを有機的一体性を有しないものというものと解される。
　　　従って、被告の主張（後者の論理）に立つとしても、当該土地が当該土地が含まれる「施設
　　　及び区域」の基地機能にとって不可欠であるか否かを、司法は審査・判断すべきこととなる。
　　　　ところが、被告は、過去に基地として使用されていたことを理由に、「当該土地は、これま
　　　で基地として使用されてきたから、当該土地を含む施設及び区域と有機的一体をなしている」
　　　と主張しているものである。しかし、すでにのべたように、沖縄の基地使用は、復帰前に米
　　　軍が違法に好き勝手に囲い込み、取り上げてきた広大な米軍基地を、復帰時に何らの司法的
　　　審査・判断を経ることなく極めて安易に継続使用してきたものであり、これまで基地として
　　　使用されていたとの一事から、基地としての「有機的一体性」が肯定されるものではない。
　　　被告のいう「有機的一体性」が存するか否かは、個別に当該土地を審査・判断することによ
　　　り、初めて明らかになるものである。
　　　　よって、「有機的一体性」を理由に、個別の土地の「提供の必要性」、又は「適正且つ合理
　　　的」要件の審査・判断を要しないとする被告の主張は、主張自体失当である。
　三　「適正且つ合理的」要件の具体的判断基準について
　　１　被告の主張
　　　　被告は、「適正且つ合理的」要件の内容につき、「対象土地等を駐留軍の用に供することに
　　　よって得られる公共の利益と駐留軍の用に供することによって失われる利益とを比較衡量し、
　　　前者が後者に勝っている」ことを意味すると主張する（被告第六準備書面、２３頁）。
　　　　そして、１９９６年の最高裁大法廷判決の次の判示部分を引用して、右比較衡量する際の
　　　判断要素は、同判決が指摘する要素であるとする。
　　　　「我が国の安全と極東における国際の平和と安全の維持にかかわる国際情勢、駐留軍によ
　　　る当該土地等の必要性の有無、程度、当該土地等を駐留軍の用に供することによってその所
　　　有者や周辺住民などにもたらされる負担や被害の程度、代替すべき土地等の提供の可能性等
　　　諸般の事情を総合考慮して判断すべきである」
　　　　しかし、右判決が指摘する「必要性の有無、程度」、「代替する土地等の提供の可能性」等
　　　は、被告の主張する「対象土地等を駐留軍の用に供することによって得られる公共の利益と
　　　駐留軍の用に供することによって失われる利益とを比較衡量」することでは包摂できない、
　　　別個の要素であり、右判決で被告の主張を理由づけることはできない。
　　２　被告主張の問題性
　　　　被告の主張は、米軍用地収用特措法の要件のうち「提供の必要性」要件を「日米両政府の
　　　提供合意」と解し、「適正且つ合理的」の要件を「得られる公共の利益」が「失われる利益」
　　　に優ることと解し、実質的に「提供の必要性」の判断を排除するところにその特徴が存する。
　　　　しかし、憲法２９条の「公共のために用いる」とは、財産権を制約する憲法上の制約原理・
　　　要件であり、「公共のために用いる」という原理・要件には、①制約の目的が「公共のため」
　　　であること、②財産権を制約することが「合理的」であること、③それが「必要最小限度」
　　　であること、④制約手続及び内容が「適正」すなわち法的正義に合致することが含まれてい
　　　ると解すべきである。
　　　　土地収用法は、同法２条で収用・使用しうる事業を規定して、①の収用目的の「公共事業
　　　性」を定め、同法２０条３号で②及び④を「適正且つ合理的」要件として規定し、同条４号
　　　で③の「必要最小限度性」を規定している。
　　　　米軍用地収用特措法も、土地収用法と同じ構造を有するものであり、同法１条で「駐留軍
　　　の用に供する」ことを定めて、①の収用目的の「公共事業性」を定め、同法３条で②及び④
　　　を「適正且つ合理的」要件として規定し、③を「提供の必要性」及び「適正且つ合理的」要
　　　件として規定している。
　　　　被告が主張する「得られる公共の利益」が「失われる利益」に優ることは、「適正且つ合理
　　　的」要件でいう「合理性」の一つの判断要素を示すものであり、それが直ちに「適正且つ合
　　　理的」要件の内容となるものではない。
　　　　例えば、高速道路を建設するために強制収用する場合を例にとると、高速道路を建設する
　　　ことにより「得られる公共の利益」が「失われる利益」に優るときでも、そこに建設する必
　　　要性はなく、他により「失われる利益」が少ない建設可能な代替地があれば、その土地収用
　　　は決して「合理的」なものとはいえないものである。被告が引用する前記最高裁大法廷判決
　　　も「代替土地等の提供の可能性」を挙げて、強制収用要件の判断要素としている。この事だ
　　　けをみても、被告の主張が理由の無いものであることは明らかである。
　　　　原告らが主張する「提供方法の非代替性」、「提供土地の非代替性」、「提供する土地の範囲
　　　が必要最小限度の範囲内であること」等は、「適正且つ合理的」要件を判断する際の適切な判
　　　断要素、基準である。原告らが「提供方法の非代替性」というのは、例えば、米軍が「兵隊
　　　の住宅用地」として土地の提供を求めている場合には、すでに被告が提供している土地に要
　　　求されている「住宅」を建築して提供すれば十分であるので、このような場合を指している
　　　ものである。又「提供土地の非代替性」とは、確かにすでに提供している土地では「住宅」
　　　用地として不足しており、新たな土地の提供の必要性が認められるが、他に賃借すれば足り、
　　　反対している地主の土地を強制使用するまでもない場合を指しているものである。又「提供
　　　する土地の範囲が必要最小限度の範囲内であること」とは、当該土地を提供することが必要
　　　とみとめられるが、提供する土地の範囲がそこまでは必要とされない場合をさすものである。
　　　　このように原告らの右主張は、「適正且つ合理的」要件の内容を具体的に類型毎に判断基準
　　　をしめしたものであり、極めて妥当なものであるから、被告の批判は、当たらないものであ
　　　る。

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－

仲田博康
nakada_h@jca.apc.org

1998年　　　　　3月、4月、5月、6月、7月、8月、9月、10月、11月、12月

1999年　　　　　1月、2月、3月、4月、5月、6月、7月、8月、9月、10月、11月、12月

2000年　　　　　1月、2月、3月、4月、5月、6月、7月、8月、9月、10月、11月、12月

［キーストーンメーリングリスト　目次］