keystoneML2000/12

From: "NAKADA Hiroyasu" <nakada_h@jca.apc.org>
To: "keystone" <keystone@jca.apc.org>
Subject: [keystone 3426] 第１９回口頭弁論準備書面２
Date: Sun, 24 Dec 2000 23:17:51 +0900
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　　３　個別の判断要素について
　　　　被告は、原告らが「得られる公共の利益」と「失われる利益」を比較衡量する際に考慮す
　　　る判断要素として、財産的侵害のほか、①思想・良心・信条の自由の侵害、②街作り、都市
　　　計画上の被害、③騒音、軍事基地があるが故の基地被害、④土地所有権への侵害の程度、⑤
　　　当該土地の従前の違法な使用状況を挙げたことに対して、これを不適当と批判する。
　　　　しかし、これらの要素はいずれも考慮されるべき妥当な要素であり、被告の批判は当たら
　　　ないものである。
　　　　右①について、被告は、「使用に反対する個人的心情」を主張するにすぎないとしてこの要
　　　素を考慮することを否定する。しかし、土地の私的所有権の「絶対性」は、本来土地所有者
　　　の私的判断の自由を保障するものであり、土地所有者が「私的感情」で土地の処分・使用を
　　　拒否しようが、合理的理由に基づき拒否使用が、憲法で保障された「思想・良心・信条」に
　　　基づき拒否しようがその判断は、法的に保障されているものであった。しかし、資本主義社
　　　会の進展の中で土地の有する公共性、社会性が改めて見なおされ、私的所有権の制約を判断
　　　する際に、土地の強制収用・使用を拒否する所有者の拒否の理由に正当な根拠があるか否か
　　　が考慮されるようになってきた（内心への介入）。この意味において、土地所有者がどのよう
　　　な理由に基づいて強制使用・収用を拒否するのかが重要な判断要素となるものである。そし
　　　て、原告らは、違法に土地を取り上げられ、強制使用されてきたものであり、土地所有者と
　　　して当然に保護されるべき思想・良心・信条の自由を長年にわたって侵害されてきたもので
　　　ある。このような経緯を有する本件においては、「失われる利益」の内容として原告らの思
　　　想・良心・信条の自由を考慮するのは、極めて当然のことであり、法理的に何ら不適当なも
　　　のではない。
　　　　②について、被告は「基地から派生する周辺住民などへの騒音等の問題を意味し、かつ、
　　　これに尽きることが明らかである」として、これを考慮することを否定する。
　　　　しかし、何故に．基地から派生する騒音被害は考慮する要素にふくまれるが、基地の存在
　　　から派生する街作り、土地計画上の障害が含まれないのであろうか。広大な基地の存在が地
　　　方自治体の街作り、都市計画上の障害を作り出していることは、狭い沖縄においては一見し
　　　て明らかであり、「失われる公共的利益」の重要な内容の一つであることは明らかである。
　　　　③については、これを否定しえないことから、被告は「騒音」が判断要素の一つであるこ
　　　とを認めた上で、原告らがあたかも「騒音に関する被害があれば、直ちに『適正且つ合理的』　
　　　の要件を充足しない」などと主張しているかのように歪曲した上で、前記最高裁判決はその
　　　ように判示したものではないとして、原告らを批判する。
　　　　しかし、これは言うに事欠いて原告らの主張を捻じ曲げて見当違いの反論を行ったもので
　　　あり、主張自体失当なものである。
　　　　④について、被告は、原告らが土地所有権への「侵害の程度が著しい」と指摘したことに
　　　関して、原告らの「不利益は、当該土地の使用を制限される」ということにつき、侵害の程
　　　度は「著しくない」かのような主張をなす。そして、「所有者や行政の立ち入りが自由に行な
　　　われていないこと等」は、何ら侵害の程度の「著しさ」を根拠づけるものではないと批判す
　　　る。しかし、これは誤っている。土地所有権の中核は、土地の使用にあり、土地の価値はそ
　　　の自由な土地使用により形成されるものであるから、土地所使用権の全面的剥奪を目的とす
　　　る強制使用は、土地所有権の「著しい侵害」と評価されるものである。又通常の使用権取得　
　　　（強制使用）とことなり、土地が米軍に提供されること、しかも現実に使用する米軍に絶対
　　　的な管理権が地位協定上保障されていること、米軍が外国の軍隊であり我が国の司法権が及
　　　ばないと解されていることから、その土地使用制限は徹底したものであり、その侵害の程度
　　　が著しいものであることは、容易に理解しうるものである。被告の批判は、当をえないもの
　　　である。
　　　　⑤について、「従前の使用は、直接審理の対象にならない」として、原告らの主張を批判す
　　　る。しかし、被告の同批判は、前記のとおり、「適正且つ合理的」要件を「得られる公共の利
　　　益」と「失われる利益」を比較衡量することと同一視するという独自の解釈を前提にするも
　　　のであり、主張自体失当である。すでに、詳述したとおり、「適正且つ合理的」要件の中には、　
　　　「法的正義に合致する」という要素・観点が含まれており、公益の代表者たる国が土地を継
　　　続的に強制使用する場合には、従前の土地の使用が適法であること、少なくとも違法に当該
　　　土地を使用していないことが要請されていると解されるものであるから、原告らの主張には
　　　理由が存するものである。
　　４　クリーンハンドの原則について
　　　　被告は、原告らの主張は失当であるとするが、その理由は、あまりにも形式的な「反論の
　　　ための反論」の域を出ないものである。
　　　　被告は、第一に、「適正且つ合理的」の要件は「適正」と「合理的」に分断して解釈すべき
　　　でないから、原告らの主張は失当であるという。しかし、仮に分けて考えなかった場合にで
　　　も、米軍用地収用特措法３条が定めた「適正且つ合理的」の法的意義をどのようなものと解
　　　するかが問題となるのであり、それについて何ら自らの考えを提示ないままの批判は何ら「検
　　　討に値する批判」とはいえないものである。
　　　　被告は、第二に、１９９６年最高裁判決が「クリーンハンドの原則」をあげていないから
　　　原告らの主張は失当であるという。しかし、同判決は前述の通り米軍用地収用特措法３条の
　　　要件をめぐる紛争ではなく、同法３条の要件を直接的に判示したものと見るのは早計である。
　　　従って、右判決にクリーンハンドの原則があげられていないから右原則が「適正且つ合理的」　
　　　要件の判断基準にならないとは言えない。そして、「適正且つ合理的」の意義を検討すれば、
　　　原告ら主張のように、法的「正義」の観念が含まれていることはその語義から明らかである
　　　から、その法的「正義」の一大原則である「クリーンハンドの原則」が適正且つ合理的の要
　　　件に含まれるとの原告ら主張には理由がある。
　　　　被告は、第三に、使用認定以前の土地の使用状況は審理の対象外であるから、原告らの主
　　　張は失当であるともいう。しかし、クリーンハンドの原則は、自らが法を破っておきながら
　　　一方で法の保護を求めるのは法的正義に反するという趣旨であるから、その性質上、従前の
　　　ことを審理の対象とすることは、当然の理である。
第三　米軍用地収用特措法３条要件充足性について
　一　米軍用地収用特措法３条要件充足性の判断手法
　　　被告は、原告らの主張を「同条の要件充足性は専ら使用認定の対象とされた各土地ごとの具
　　体的事情のみに基づいて判断すべきであり、対象土地を含む当該駐留軍用地全体の事情を考慮
　　すべきではない」という趣旨にも解しうると、原告主張を歪曲して解した上で、原告主張を批
　　判する。しかし、原告は、当該基地・施設全体の使用状況などを全く考慮すべきでないと主張
　　しているのではなく、①基地・施設全体の問題とともに、②該土地の問題も考慮しなければな
　　らないと主張しているものである（基地全体の問題として、遊休地などが広大に存する状況な
　　ども、使用認定の要件充足性を判断する上では当然考慮されなければならない）。
　　　　被告の方こそ、①の問題のみを考慮要素として主張し、基地施設全体が日米両政府問で提
　　供合意されていれば、自動的にその範囲内にある土地の使用認定は要件を充足すると主張して
　　いるのである。
　　　しかし、使用認定及びこれを前提とする使用裁決は、基地・施設単位でなされるのではなく、
　　個別の土地ごとになされる。このことは、被告も認めるところである。
　　　そうであるならば、個別の対象土地ごとにみても、米軍用地収用特措法３条要件が充足され
　　ることが不可欠である（その検討の際に、基地全体の状況も考慮されることはあり得ても、最
　　終的には個別の強制使用対象土地ごとに「必要性」、「適正且つ合理的」の要件充足性が判断さ
　　れ、この要件が満たされて初めて使用認定及びこれを前提とする使用裁決が有効なのである）。
　　　基地の提供が「適正且つ合理的」だからといって、その基地内の全ての土地の提供が自動的
　　に「適正且つ合理的」になる訳ではないから、この点に関する被告主張は全く合理的な理由と
　　はなっていない。この点は、先に、被告の「有機的一体性論」批判として詳述したところであ
　　る。
　二　「現在の用途」と現実の使用状況との齟齬
　　　被告は、「現在の用途」の記載は、①対象土地の「特定のための参考資料」であるとともに、
　　「当該土地が施設及び区域全体と一体となって有機的に機能していることを確認する上での参
　　考資料」にすぎない、と主張する。
　　　①について検討すると、使用認定申請においては、当該土地の所在、地番、数量、構造・形
　　状等（地目）が土地等の調書で明記され、かつ、位置図、概略図、実測平面図という位置特定
　　のための図面が添付されている。土地特定のためにはこれでもって十分であり、従って、土地
　　特定の参考資料としてわざわざ「現在の用途」を記載する意味は全くない。
　　　それにそもそも、現在の用途の記載と、現実の使用状況に齟齬があっては、土地の特定が出
　　来ないことになってしまい、意味がない。
　　　従って、「現在の用途」を記載するのは、右記載の用途に現在使用されており、そのために今
　　後も米軍に提供する必要があるからこそ、当該土地の使用認定が必要であり適正且つ合理的で
　　あるという趣旨と解するのが合理的である。右米軍用地収用特措法３条要件充足性の判断を被
　　告内閣総理大臣が行うための資料として、「現在の用途」は記載されているのであり、そう解釈
　　しないと、そもそも米軍用地収用特措法３条が、必要性、及び適正且つ合理的の要件充足性を
　　使用認定の要件として求めた法の趣旨が没却される。
　　　次に、前記被告主張の②について検討すると、これは、適正且つ合理的の要件のひとつとし
　　て、被告の主張する「有機的一体性」の有無の検討の参考資料とするためというのであるから、
　　前記①について原告が主張したのと同趣旨であり、その意味では正しい主張といえよう。
　　　そうであるならば、有機的一体性を確認するための参考資料である「現在の用途」が現実の
　　使用状況と食い違った状態で使用認定がなされたということは、「使用認定の判断の際の前提
　　事実に事実誤認がある」と言うことになる。これは使用認定の違法性を強く裏付ける重要な事
　　実である。これは、「現在の用途」の記載は、有機的一体性を確認するための参考資料であると
　　いう被告主張からしても当然の帰結である。したがって、「齟齬があっても、使用認定の適法性
　　の判断に何らの影響を及ぼさない」という被告の主張は、論理性のない主張であって、誤って
　　いる。
　三　適正且つ合理的の要件充足性
　　　前述したとおり、街作り、都市計画上の被害を考慮しないとする被告主張は誤っており、ま
　　た、基地提供によって得られる公共の利益が基地提供によって失われる利益に優ることが明ら
　　かであるとの被告主張は誤っている。
　　　これらについては既に、原告の第三準備書面（二〇〇〇年六月二一日付）で詳細に主張した
　　ところである。ここでは、以下、被告の反論に対して必要な範囲でのみ再反論する。
　　１　伊江島補助飛行場
　　（一）被告は、物件番号６及び１の土地を含む第一土地について、空対地射爆撃訓練場及び短
　　　距離離着陸訓練場用地として使用され、伊江島補助飛行場全体と一体となって有機的に機能
　　　していると主張する。
　　　　しかし、被告の主張するように、基地用地として提供されている土地が全体として有機的
　　　に機能しているが故に必要であるというなら、提供された土地は全て基地機能を担っており、
　　　伊江島住民が使用できるような状態にはないことになるはずである。ところが、伊江島には、
　　　基地用地として提供されているにもかかわらず、黙認耕作地として伊江島住民によって自由
　　　に使用されている土地、あるいは黙認住宅地として家屋を建てて居住することが認められて
　　　いる土地等が存在する。
　　　　基地として米軍に提供した土地を住民が自由に使用するのを認めているのに、「基地とし
　　　て有機的一体をなしている」又は「基地として必要」などと言えるはずがない。被告は、客
　　　観的には使用の必要性がない土地まで、言わば地引網的に基地用地として契約、あるいは強
　　　制使用しているのである。黙認住宅地の隣地である石川清敬所有の土地が返還されたのも、
　　　不要な土地を強制使用していたからにほかならない。
　　　　被告が繰り返し使用する「有機的に機能している」という表現は、不要な土地を必要であ
　　　るかのように誤魔化すためだけの「ロジック」であって、実質的な意味は何もない。現に、
　　　被告の準備書面にはその実質的な内容は一切触れられていない。
　　（二）物件番号６及び１の土地は、フェンスの直ぐ内側あるいはフェンスに極めて接近した場
　　　所に位置しており、その上には何の基地施設もない。そしてフェンスの外側は黙認耕作地で
　　　ある。それ故、両土地とフェンスの外側の黙認耕作地との違いは、フェンスがあるが故に住
　　　民が自由に立ち入りできないというだけであって、基地施設としての必要性のないことは全
　　　く同じである。
　　　　すなわち、物件番号６及び１の土地については、これを提供する客観的必要性がないと言
　　　うべきである。
　　２　嘉手納弾薬庫地区
　　（一）被告は、その準備書面六で、「本件第三土地」（嘉手納弾薬庫地区内の土地、但し物件番
　　　号３は除く）は、すべて同地区の弾薬庫保安用地の一部として使用され、施設全体と一体と
　　　なって有機的に機能しているとして、「日米安保条約の目的」「現実の使用者である駐留軍の
　　　意向等の諸般の事情」に照らし、駐留軍の総合補給施設用地として確保するのが相当と判断
　　　された範囲は、別紙図面（被告第六準備書面の添付図面）二の青線で囲まれた部分であると
　　　し、「本件第三土地」がその青線の範囲内にあることをもって強制使用の必要性を満たしてい
　　　るという。
　　　　しかし、被告の主張する青線の位置、すなわち提供施設の範囲の特定は、客観的基準に基
　　　づくものではなく、きわめて恣意的であり合理性がない。
　　　　例えば、別紙図面（二）の青色で囲まれた部分の中には、一部分だけ除外された部分があ
　　　る（東南植物楽園の南西部分）。
　　　　この部分は、その弾薬庫施設用地として１９８２年５月１４日まで強制的に使用されてい
　　　たものであるが、１９８２年５月１４日をもって返還されたものである。すなわち、被告の
　　　論理に従えば、右の部分は、１９８２年５月１４日までは、その周辺の土地と一緒になって
　　　弾薬庫施設の機能を維持するために欠かせない土地であった筈であるが、１９８２年５月１
　　　５日以降は、その必要性がなくなったということになる。何故、青線の中に位置するこの部
　　　分だけが有機的一体性が喪失し、その周辺の土地は依然として有機的一体性を有しているこ
　　　とになるのか理解できない。
　　　　青線の範囲を決める基準が存するのであれば、このような事態は発生しないはずである。
　　（二）原告らは、弁論併合後の第二準備書面でもって、米軍用地収用特措法３条に云う「提供
　　　の必要性」とは、駐留軍の用地に供するため土地等を提供する客観的必要性が存する場合を
　　　いうとし、それは「駐留軍の使用に限られること」「駐留目的の範囲内に限られること」「目
　　　的と手段との関連性が直接的に認められること」が必要であることを明らかにし、ついで、
　　　①土地等の提供の客観的必要性が高いこと、②提供により得られる公共の利益がこれにより
　　　失われる利益に優っていること、を明らかにしてきた。
　　　　そして、右の客観的必要性は「個別の土地毎」に具体的に検討されなければならないこと
　　　も既に主張してきた。
　　　　「本件第三土地」は、いずれも弾薬庫施設との有機的一体性はない。特に、物件番号２の
　　　土地は国道５８号から数十メートルしか離れておらず、その返還がなされても、施設の機能
　　　を維持するのに何らの支障をきたすものではないので、駐留軍用地として使用される客観的
　　　必要性も、他の土地との有機的一体性も欠いていることは明らかである。
　　　　また、物件番号３の土地についていうと、同土地は県道７４号線に隣接しており、これが
　　　返還されても、施設機能の維持に影響はないから、駐留軍用地として使用される客観的必要
　　　性はなく、他の土地との有機的一体性もない。
　　３　キャンプシールズについて
　　（一）「本件第四土地」（原告島袋善祐の所有地）の特定について
　　　　被告は、「現地復元性のある図面によって特定される土地であれば、使用認定及び使用裁決
　　　をすることができる。所有者が不明の場合には、所有者不明であるとして使用認定及び使用
　　　裁決をすることになる」とし、「本件第四土地」は、現地復元性のある図面で特定され、かつ、
　　　その所有者も特定していると主張する。
　　　　しかし、原告ら第三準備書面（２０００年６月２１日付）において詳細に明かにしている
　　　とおり、島袋善祐所有地は、地籍不明地であり、地籍不明地は本来強制使用手続を行い得な
　　　いものであって、適正手続の保障を欠き、使用認定は取消されるべきである。
　　　　被告の主張する「現地復元性のある図面によって特定される土地」とは島袋善祐の所有地
　　　ではなく、島袋善祐の所有地は特定されていない。被告の主張する「編さん地図確認書」な
　　　るものへの島袋善祐の署名押印は、偽造された無効なものであることも、前記原告第三準備
　　　書面で述べたとおりである。
　　　　また、被告は、隣接の関係地主などの同意を得ていることを根拠としているが、位置境界
　　　明確化法による「土地所有者の集団合意」による手法は、関係所有者全員の協議により各筆
　　　の土地の位置境界を確認すべきことを定めており、関係所有者の中に一人でも地図編さん図
　　　に同意しないものがいれば、その地図編さん図は何ら意味を持たないものであり、島袋善祐
　　　は、右地図編さん図に同意していないのであるから、被告の主張には根拠はない。
　　（二）施設全体と一体となって有機的に機能しているとの主張について
　　　　被告は、「本件第四土地」は、キャンプシールズに含まれ、倉庫及び駐車場敷地として使用
　　　され、同施設全体と一体となって有機的に機能していると主張する。
　　　　しかし、キャンプシールズは、海軍機動建設大隊が使用する基地であり、同大隊の任務は
　　　兵舎、道路などの施設等の建設などであるから、それら使用目的との全体的有機的一体性を
　　　検討すべきところ、被告の主張にはそのような主張は一切なされていない。
　　　　「本件第四土地」周辺には、ソフトボール場やバレーボールコートなど使用認定申請書に
　　　は記載されていない施設があるだけでなく、広大な空間が空地となっているのであり、いか
　　　なる意味においても、施設全体と一体となって有機的に機能しているとの主張は妥当しない。
　４　トリイ通信施設について
　　（一）トリイ通信施設内に存する「本件第五土地」につき、被告は被告準備書面六において、「本
　　　件第五土地は、日米地位協定による合意に基づき提供された施設及び区域であるトリイ通信
　　　施設に含まれ、電磁障害除去地として使用され、同施設全体と一体となって有機的に機能し
　　　ている」と主張する。
　　　　そして右主張における「電磁障害除去地として使用され」とする点につき、同年１０月１
　　　１日に実施された口頭弁論期日において、被告は裁判所からの釈明に対し、「トリイ通信施設
　　　内のアンテナ塔は現在も使用されており、本件土地は現在も電磁障害除去地として使用され
　　　ている」旨答弁している。
　　　　しかしながら、すでに原告ら準備書面第四（２０００年６月２１日付）においても述べた
　　　とおり、実際には黙認耕作地内の通信塔は使用されておらず、破損したまま放置されており、
　　　施設との間のケーブルも切断されている。
　　　　従って、「本件第五土地」が現に電磁障害除去地として使用されていない以上、「本件第五
　　　土地」がトリイ通信施設全体と一体となって有機的に機能しているとする主張はその前提を
　　　欠くものであり、「本件第五土地」の使用認定が「適用かつ合理的」の要件を充足しないこと
　　　も明らかなものである。
　　　　なお、被告があくまでも本件土地が現に電磁障害除去地として使用されていると主張する
　　　のであれば、同施設内のアンテナ塔の現状も含めそれを積極的に立証するべきは当然のこと
　　　である。さらに右の点を明らかにする意味においても、原告ら申立にかかる本件土地付近の
　　　検証の採用は必要不可欠である。
　　　　被告は右準備書面六において、トリイ通信施設の必要性に関し、「トリイ通信施設は、本件
　　　使用認定の前から現在に至るまで通信施設として使用されている。本件使用認定時までの駐
　　　留軍の使用実績等からすると、従前使用していたのと同程度の規程・内容のものが施設とし
　　　て必要である」旨主張する。
　　　　しかしながら、現時点において通信施設としての機能の重要な部分が失われていることは
　　　右に述べたとおりであり、又仮にこの点を置くとしても、「本件第五土地」が所在する黙認耕
　　　作地は県道６号線の南西に位置し、楚辺、大木、大湾、古堅、渡見知の各部落に取り囲まれ
　　　た地域であり、市街地域としての開発が強く望まれている箇所である。
　　　　以上に加え、このような黙認耕作地に存する「本件第五土地」はトリイ通信施設全体の総
　　　面積のわずか０，０２パーセントの面積であり、本件土地が基地機能にとつて必要なものと
　　　は到底言えない。「本件第五土地」が返還されることにより基地機能が阻害されることはあり
　　　得ないのである。
　　　　従って、「本件第五土地」がトリイ通信施設全体と一体となって有機的に機能しているとす
　　　る被告の主張は極めて失当であり、結局「本件第五土地」の使用認定は「適用かつ合理的」
　　　の要件を充足していないものである。
　　５　嘉手納飛行場
　　　　被告は、「本件第六土地」が嘉手納飛行場の総面積の０，０８パーセントに過ぎず、同飛行
　　　場全体と一体となって有機的に機能していること、及び、同飛行場全体を提供することが適
　　　正かつ合理的であることを理由として、「本件第六土地」の強制使用について「適正かつ合理
　　　的」の要件を充たすと主張している。しかし、「本件第六土地」は同飛行場全体と一体となっ
　　　て有機的に機能しているとの被告の主張を裏付ける具体的主張は全くない。しかし、逆にい
　　　うと、全て合わせたとしても総面積の０，０８パーセントにしかならない「本件第六土地」
　　　を強制使用しなくとも、同飛行場の機能は失われないのである。
　　　被告が同飛行場の有機的一体性を主張するのであれば、有機的一体性の具体的判断理由・判
　　　断基準を明らかにした上で、その判断理由・判断基準の中で「本件第六土地」がどういう関
　　　連性を有しているのかを明らかにしなければならず、そうでなければ被告の主張自体に意味
　　　がない。
　　　　次に、被告は、嘉手納飛行場にかかる「本件使用認定時点までの駐留軍の使用実績等」を
　　　根拠にして、「従前使用していたのと同程度の規模・内容のものが施設として必要」とし、「日
　　　米安保条約の目的」「駐留軍の意向等」の事情に照らし、「駐留軍の飛行場施設の用地として
　　　提供するのが相当と判断された」のが同飛行場の敷地であると主張している。しかし、「従前
　　　使用していたのと同程度の規模・内容のものが施設として必要」というのは、今まで使用し
　　　続けたことが何故今後将来にわたっての使用を認める必要性につながるのかを、説明する合
　　　理的な理由とはなりえないものである。そのためには、今後引き続き使用する必要性を積極
　　　的に説明することが必要である。「本件第六土地」の中には、例えば、駐車場敷地や家族住宅
　　　敷地とされているものがあるが、何故、広大な遊休地の存在する嘉手納飛行場の施設内にお
　　　いて、他に、駐車場敷地や家族住宅敷地がとれないのか、その整理統合が今後も一切なされ
　　　ないのか、何ら説明されていないのである。それについての協議をそもそも日本国政府は米
　　　軍との間において行ってきたのか、それとも行っていないのかについても、被告主張からは
　　　明確でない。
　　　　これらについて何の主張もないまま、単に「有機的一体性がある」という抽象的主張を繰
　　　り返しても、原告ら主張への合理的反論にはならないし、米軍用地収用特措法３条要件充足
　　　についての主張とはならない。

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仲田博康
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