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21世紀を目前にして
井上 澄夫(戦争に協力しない!させない!練馬アクション)
「これはもう、この国は緩(ゆる)みっぱなしだね。政治家は言うに及ばず、官
僚も自衛隊も警察も、なにもかも緩んで、ほどけて、グシャグシャだ。どうにもな
らない」
「日本国家・社会挙げての総崩壊か」
「いや、総溶解。メロメロに溶けつつあるという感じだな……」
というような会話が、私の周りで最近多い。「戦後は終わった」と言われたの
は、もうずっと前のことだが、1945年8月15日を一応区切りとする〈戦後日
本〉というものが、全体として本当に終わり始めたのは、1990年代初頭だと私
は思う。
90年にバブルが弾けた、91年1月に湾岸戦争が起き、同年12月に旧ソ連が
崩壊して冷戦構造が解体した、そして92年には、PKO協力法がついに成立させ
られた――それらのメルクマール(指標)をもって、90年代初頭を「〈戦後日
本〉の解体の始まり」としていいのではないだろうか。
冷戦構造の崩壊は、それまでの対外関係から日本を解放したのだから、国家とし
ての自立性を手にする絶好の機会だった。だがその用意は、支配する側にも、支配
される側にも、まるでなかったから、〈戦後日本〉は、国家の骨組みまで揺さぶら
れ、危うい浮遊がはじまった。
現憲法体制の動揺は、そもそも成立期の受動性に起因する。その弱点が覆いよう
もなく表面化し、現憲法を支える基本原理にまでヒビが入り始めた。そこから昨今
の総崩壊、ないし総溶解現象が生まれている……。
だとするなら、見通しが定かでない21世紀は、90年代初頭に実はすでに始
まっていて、私たちは、ものみな崩れゆく音を聞きながら、呆然自失のうちに、底
知れぬ混沌に叩き込まれていることになる。「それが世紀末だよ」などと言っては
おられない。この状況につけ込んで、〈暗黒の21世紀〉を準備している者たちが
確かにいるのだ。
9条改憲派は、現憲法を成立させている基本原理を粉砕し、弱肉強食のネオ・リ
ベラリズムを貫徹できる国家をめざしている。主権在民、非武装平和、人権実現、
そういった普遍的価値をなげうって、国権主義に基づく国家に改造する、そのため
の改憲なのである。中曽根元首相や石原都知事が、どのような思想に立脚して、改
憲や現憲法破棄・新憲法制定を主張しているか、そこに着目するなら、私の指摘
は、けっして過言ではないはずだ。
このままでは、戦争と平和をめぐる状況は、来る世紀において、いよいよきびし
くなるだろう。米国が牽引して強行されている「市場原理のグローバル化」は、経
済的弱者を容赦なく叩きのめす世界をもたらす。米欧日の多国籍資本の魔手から逃
れうる聖域は、どこにも存在せず、大国と小国、南と北の格差は拡大・深化する。
そしてどの国においても、最大の被害者は貧困層である。20世紀後半に指摘され
た問題が、特段に深刻化し、極限にまで登り詰めることになるのだ。そうなれば当
然、〈戦争の芽〉が世界各地で吹き出すにちがいない。
そうさせないために、私たちに問われているのは、「全世界の民衆が、とりあえ
ず食べることができる」、そういう世界を、どうやって実現するかということであ
り、その観点から戦争の防止を考えることである。この国についていえば、弱肉強
食の修羅場に「経済大国」として生き残ることを拒否し、私たちの力で、共生の仲
間として世界に歓迎されるよう創り変えることである。
21世紀は、目の前である。
(「やさしいまちづくりをめざす吹田わいわいフォーラム」の機関誌『with
You』2000年12月号への寄稿)