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「ビッグレスキュー」反対運動の報告・第2回
発信者=井上澄夫
(「やめて!東京都による〈防災〉に名を借りた自衛隊演習」
実行委員会)
発信時=2000年9月11日
「やめて!東京都による〈防災〉に名を借りた自衛隊演習」実行委員会は、8
月末の立川、練馬など各地域での集会と連携しつつ、9月1日から3日まで、3
日間の連続行動を行ないました。まず9月1日の報告です。
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9・1 関東大震災から77年
―石原・都知事による自衛隊「防災演習」を問う―映画と講演の夕べ
連続行動初日のこの集会は、中野ゼロ地下2階の視聴覚ホールで開かれ、会場
の椅子が足りなくなるほど盛況で、110人が参加しました。
集会ではまず、関東大震災時の朝鮮人大虐殺の実像を、虐殺をまぬがれた人や
虐殺を目撃した日本人の聞き取りなど明らかにした映画『隠された爪痕(つめあ
と)』が上映されました。これは、1983年に作られた、非常に重い内容のド
キュメントです。その上映は、4月9日の石原都知事の暴言の記憶が参加者の脳
裏に深く刻みつけられていることや、「治安出動」訓練を忍び込ませている疑い
が濃い、自衛隊中心の9・3「防災」訓練(「ビッグレスキュー」)が間近に
迫っていたことによって、観客一人ひとりに深い思いを喚起しました。
次に恵泉女学園大学教員の内海愛子さんが、映画『隠された爪痕』を高く評価
しながら、「しかしこの映画には一つ肝心のものが登場していない。それは実際
に手を下した人たちです」と指摘しつつ、石原都知事があえて用いた「三国人」
という言葉の持つ意味と歴史的背景を、わかりやすく解説しました。講演は非常
に好評で、問題がよくわかったという声がたくさん聞かれました。
その後、講演について質疑応答が行なわれ、関東大震災の時、朝鮮人と間違え
られて殺されそうになった日本人が、日露戦争従軍証を持っていたため助かった
というエピソードを、ある参加者が紹介しました。その人の祖父に当たる人がそ
う言っていたと自分の父親が証言したというのです。そしてその参加者は、自分
の父親が「そういうことがあるのだから、運転免許証は、日本人であることの身
分証明書として大切だ」と強調したことについて、「そういう日本人のあり方で
いいのかと私は疑問を感じている」と語りました。
最後に今回の連続行動の基調が実行委から提起され、満場の拍手で採択されま
した。私たちがどのような思いで、連続行動に取り組むのか、それを明らかにし
た基調の全文を以下に掲載します。
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関東大震災から77年
−−石原・都知事による自衛隊「防災演習」を問う−−
「9・1映画と講演の夕べ」基調
(一)77年前の今日、1923年9月1日、関東地域を襲ったマグニチュード
7.9の大地震は、昼食前という時間帯であったことも手伝ってたちまちのうち
に各所で火災を発生させ、死者・行方不明者が十数万に及ぶ大惨事を生み出しま
した。こうした大惨事を教訓として、9月1日が「防災の日」とされ、各地で防
災訓練が行われていることはよく知られています。
しかし、関東大震災が歴史に大きく刻印されなければいけないのは、そうした
理由ばかりではありません。大震災とともに官憲を主な発信源とする「朝鮮人が
暴動を起こした」「井戸に毒を入れた」という根も葉もない流言、デマゴギーに
踊らされた日本の民衆が組織した自警団、あるいは軍隊・警察自身によって、朝
鮮人・中国人、社会主義者への襲撃・虐殺が白昼行われ、およそ6000人とい
う犠牲者が出ました。この恥ずべき負の歴史的事実を私たち日本人は忘れること
ができません。
普通の民衆を在日外国人の虐殺という非人間的・非日常的行動に駆り立てて
いったのは、確かに政府・内務省や警視庁のデマや煽動でした。しかしその一方
で、民衆の間に、植民地支配下に置いた朝鮮人に対する差別・偏見、排外主義が
根深くあり、それが大震災という非常事態の中で、逆に恐怖につながっていくと
いう、帝国主義支配下の民衆の姿を見ることができると思います。
しかし、こうした歴史的事実は、政府や行政ばかりでなく民衆の間でも十分に
語り継がれることなく、むしろ今日まで隠され続けてきています。戦後30年を
経て1970年代に入り、ようやく犠牲者の証言や事実の発掘作業が、市民の間
から生まれてきました。今日上映する『隠された爪痕』は、そうした作業の一つ
の成果であり、貴重な映像です。私たちはあらためて関東大震災における朝鮮
人・中国人虐殺の歴史に向き合い、その意味を問い返さなくてはならないと考え
るものです。
(二)ところが77年後の東京で、あの悪夢の歴史を朝鮮人や中国人に思い起こ
させる発言が、東京都の、行政の責任者によってなされました。いうまでもなく
4月9日の石原慎太郎都知事の発言です。陸上自衛隊練馬駐屯地の創隊記念式典
において行われた、石原知事の「三国人」「外国人犯罪」発言は、在日朝鮮人・
中国人に対する歴史的認識のかけらもない差別発言であり、またいわゆる
「ニューカマー」、移住労働者を犯罪予備軍と決めつけ、彼らに対する差別と偏
見を煽動・助長する、敵意とデマゴギーに満ちた発言でした。
一方で、この石原発言を支持する声が少なからずあるという現実は、日本人の
中に今もなお、外国人に対する偏見・差別意識が根強く存在し、「外国人は凶悪
な犯罪をたくさんやっている」という全く事実に反するデマゴギーが浸透してい
ることを示しており、だからこそ関東大震災のような災害が起こった時に、また
もや日本人に襲撃されるのではないかと、在日の人々を不安に陥(おとしい)れ
たのだと言えます。
この露骨な差別発言に対して、在日外国人を初めとして、多くの人々によって
発言の撤回・謝罪、辞任を求める行動が展開されましたが、石原知事は謝罪・撤
回するどころか、マスコミや抗議した側に責任を転嫁することさえして、現在も
なお居直り続けていることは、周知のところです。私たちは、こうした居直り、
発言の既成事実化を許さず、なお石原知事の謝罪、辞任を求めて行かなくてはな
らないと思います。
(三)1980年以来毎年、9月1日に、東京都を初めとした首都圏の7都県市
では、警察・消防庁が主力となり、市民も参加した総合防災訓練を行っていま
す。この防災訓練にも小規模ながら自衛隊が参加してきていますが、今年はそれ
とは別に、9月3日に「ビッグレスキュー東京2000〜首都を救え〜」と銘打
ち、陸・海・空三自衛隊を主力とした東京都独自の大規模な防災訓練が、石原知
事の提唱により、志方俊之(しかた・としゆき)・元陸上自衛隊北部方面総監が
プランナーとなって初めて行われます。しかし、これはこれまでの防災訓練とは
性格を大きく異にした、「防災」に名を借りた自衛隊演習以外のなにものでもあ
りません。
発表によれば、9月3日、午前7時、東京直下でマグニチュード7.2の大規
模な地震が発生し、広域的な被害が発生しているという想定で、都庁に災害対策
本部が設置され、総理大臣も緊急災害対策本部長として参加するという、国家挙
げての態勢が敷かれます。そして、都内10カ所を会場として様々な訓練が、午
後4時までの長時間にわたって展開されます。銀座では自衛隊部隊が道路を封鎖
して占拠、ヘリコプターが舞い降りて住民を加えた避難訓練が行われます。荒川
区・白鬚西(汐入)の再開発地域では実際に民家を破壊しての救助訓練、晴海埠
頭には横須賀基地から海上自衛隊の艦艇が接岸、江戸川の河川敷では野営敷設や
渡河訓練、練馬駐屯地からは地下鉄大江戸線を利用して木場までの進出訓練な
ど、全国から7100名の隊員、車両約1000台、航空機約100機、艦艇5
隻を動員し、統合幕僚会議議長の指揮のもとで、自衛隊始まって以来の都心での
大演習を行おうとしているのです。
石原知事は、練馬駐屯地での挨拶で、この訓練を「外国人による騒じょう事
件」を想定した治安訓練とはっきりと言っていますし、7月22日のMXテレビ
では、防災訓練の目的として「平時の価値観を180度転換させて国益のために
個人を犠牲にする」ことにあると強調しています。自衛隊はさかんに否定してい
ますが、全国各地からの応援部隊を得て東京のど真ん中で行う今回の訓練は、そ
の内容を見れば、石原知事発言を待つまでもなく、「防災訓練」などではなく、
明らかに治安訓練であり、クーデターの予行演習とすら言える極めて危険な代物
(しろもの)と言わざるをえません。
一方で注目しなければいけないのは、こうした治安訓練に、ボランティア組織
や自治組織、あるいは労働組合などが動員されている点です。銀座では、ありも
しない襲撃への恐怖に煽られた商店の経営者が積極的に参加するといいます。ま
た東京のある生協では、会報で産直米の稲刈りツアーの案内の隣に、「毎年参加
しているから」という程度の認識で、今回の防災訓練への参加を呼びかけていま
す。そこには自衛隊が前面に立った訓練であることが、意識的なのか全く触れら
れていません。他の幾つかの生協でも数十人規模で参加するそうです。
私たちは、自衛隊が主体の訓練に、市民・労働者が本格的に動員されるという
段階に入ってきているということを、十分に認識しなければならないと思いま
す。
(四)こうした自衛隊演習計画に対し、この間、東京の練馬や中野、北、大田、
立川など各地で防災訓練反対や反基地運動に取り組んできたメンバーが集まり、
3月初旬から広く行動を呼びかけてきました。そしてその過程で石原発言があ
り、私たちの指摘を東京都の責任者自らが証明してくれたことになりました。私
たちはそうした状況もにらみながら、7月8日には100名の参加をもって結成
集会を開き、正式に「やめて!東京都による『防災』に名を借りた自衛隊演習」
実行委員会を発足させ、本格的な行動を開始しました。
この間の議論の中で私たちは、自衛隊も参加する行政主導の防災訓練を批判す
る一方で、では民衆にとっての「防災」はどうあるべきか、という点についても
考えてきました。最近でも有珠山や伊豆諸島で噴火や地震が頻発しており、東海
大地震の発生が完全には否定できない状況で、では実際に大規模災害が起こった
時にはどうするのだ、誰が助けてくれるのだ、という声が、民衆の中に確かにあ
ります。私たちの中でも議論が十分に煮詰められてきたとは言えませんが、少な
くとも私たちは、「防災」そのものに反対ではありません。そうではなくて、次
第に自衛隊主導・主体に変わってきている現在の防災訓練に反対なのです。今
日、「防災」の名の下に、警察や自衛隊の市民生活に対する管理・監視が強まっ
てきており、日米新ガイドラインに見られる、戦争への自治体や住民の動員につ
ながる態勢がつくられてきていることに注目しなければならないと思います。
(五)自衛隊はそもそも戦争を行う組織であり、日常的に人を殺す訓練をやって
います。災害時の救命・救助活動には実は大して役に立たないことが、5年前の
阪神・淡路大震災で証明されています。実際に人命救助に大きな力を発揮したの
は、まず家族であり、近所の住民であり、消防レスキューやボランティア組織で
あったといいます。自衛隊は、16000人の隊員が動員されながら、1200
0人が待機していました。7月8日の集会で講演していただいた神戸在住の在日
韓国人・李相泰(イ・サンテ)さんは、待機をしている隊員に、何故救助活動を
しないのかと聞いたら、「私らは、指示がないと動けないんです」と答えたとい
うことです。「小規模・分散配置・独自判断」が早期救助の決め手であるなら
ば、軍隊の行動原理はこの三原則と相いれないことになります。
災害は必ず起きます。であるならば、「防災」とは、まずなによりも、どうし
たら被害を最小限に食い止めることができるかということです。李さんは、ご自
身も阪神・淡路大震災に遭(あ)われた経験から、市民も参加した災害に強い街
づくりが必要ではないか。また、いざとなったらお互いに助け合う関係が日常的
にできていることが大事だと指摘しています。ところが政府や東京都のやってき
たことは全く逆の街づくりであり、石原知事は、外国人や障害者を差別して市民
の間に不信感を煽り立ててすらいます。「防災の日」にのみ形ばかりの訓練を行
うのではなく、外国人であれ、日本人であれ、お互いの違いを認め合い、障害者
と健常者がともに生きていく市民のコミュニティー、共生の社会を創っていくこ
とが、いま求められているのではないでしょうか。
(六)以上のような視点に立ち、9月3日の「防災」に名を借りた自衛隊演習に
対して、私たちは真っ向から反対し、その真の意図を明らかにしていきたいと思
います。明日9月2日は、都庁にデモをします。3日当日は、演習会場で各地の
仲間が監視・抗議行動に取り組みます。私たちも、手分けをして各行動に参加
し、午後は各会場での行動の報告を持ち寄りながら、水谷橋公園に集まり、銀座
デモを行っていきましょう。今日から3日連続の行動は確かにハードな日程では
ありますが、石原発言に怒る人々、各地で自衛隊演習に反対する人々、政府や東
京都のやり方に疑問を持つ多くの人々とともに、成功させていきましょう。