[TO: aml, keystone]
島川です。
佐世保の強襲揚陸艦「ベローウッド」がより強力な「エセックス」に交替してい
ます。ベローウッドは、スービック海軍基地が閉鎖されたのにともなって1992年
にフィリピンから移ってきて以来、佐世保を母港としてアジア太平洋ににらみを
きかせてきました。98年末のイラク空爆作戦の時には、沖縄の海兵隊<31st
MEU>
を乗せて中東へも出撃しています。
佐世保の揚陸戦部隊は、1972年以来横須賀を母港としている空母部隊と共に、米
海軍=海兵隊の前進展開戦略の要であるわけですが、これまでは強襲揚陸艦も空母
も、その時点で同艦種の中では古いものを配置していました。空母は初代「ミッ
ドウエー」も2代目「インディペンデンス」も、横須賀配備を最後として解役さ
れています。今の「キティホーク」も退役間近の艦です。その理由はよくわかり
ませんが、最前線への配置ということは最も危険であるということですから、被
害を受けたり喪失した場合の米軍戦力全体に与える影響を最小限に留める(被害
担任艦的・威力偵察的な要素?)という考慮もあったのでしょう。
今回の交替が従来の空母と違うことは、ベローウッドが佐世保を最後に退役する
わけではなく、またエセックスは艦齢8年という、予算不足から旧式艦を改造・
艦齢延長工事等で使い延ばしている米海軍からすれば最新の部類に属する「新鋭
艦」であるということです。
ベローウッドとエセックスはトン数もあまり変わらず、艦型もほほ同じなので遠
目には区別がつかないくらいですが、その能力には大きな違いがあります。例え
ば、米海軍のFact File
<http://www.chinfo.navy.mil/navpalib/factfile/ships/ship-lha.html>
によって搭載機を比較してみますと、
ベローウッド(LHA3):
CH-53 シー・スタリオン 9機
CH-46 シー・ナイト 12機
AV-8B ハリアー
6機
計 27機
*組み合わせは任務によって適宜変更するという注があります。
エセックス(LHD2):
CH-46 シー・ナイト 42機(強襲)
AV-8B ハリアー
5機(制海)
対潜ヘリ
6機(攻撃)
計 53機
という具合です(カッコ内の説明はエッセクスなどワスプ級の搭載機にだけ付さ
れています)。エセックスの場合も搭載機の組み合わせは各種あり、例えば、ハ
リアー20機、攻撃ヘリ4〜6機で制海・制空・陸上攻撃任務に就くことも可能とい
うことです。
ワスプ級は上陸作戦用の舟艇もベローウッドの属するタラワ級よりも多く運用で
き、LCAC 3隻またはLCM 12隻ということのようです。LCACはホバークラフト型の
上陸用舟艇で、
<http://www.chinfo.navy.mil/navpalib/factfile/ships/ship-lcac.html>
高速で海上から海浜上へそのまま直行揚陸できる最新鋭の<水陸両用>揚陸艇です
が、これの運転騒音は相当なもののようで、佐世保の基地を監視している方によ
れば、LCAC訓練基地の周辺地域では騒音問題に悩んでいるとのことでした(LCAC
は、例の海自の「おおすみ」も搭載しています)。
今回の交替は「船体交換」という方法によって行なわれました。経費節約のため
に、両方の艦の乗員をそのまま取り替えるというやり方です。西海岸のサン・ディ
エゴ軍港からエセックスに乗ってきた乗員がベローウドに乗り換えて帰るという
ことですが、この方式なら1000人を越す乗員と、加えてその家族の引っ越しを伴
なわないから簡単・安上がりであるということです。また、第7艦隊両用戦部隊司
令官のシュルツ少将は、艦の交替そのもののメリットとして、ベローウッドが年
間200日の演習や作戦行動をこなしたこと、また「この地での任務」の緊急性を挙
げて、第一線の艦艇が大改造を受けるために1年〜1年半もの間戦線から離脱す
るというデメリットを避けることができる、と述べています。「船体交換」は、
佐世保艦隊ではすでに昨年夏に同型ドック型揚陸艦「ジュノー(LPD10)」と「ダビュ
ーク(LPD8)」の先例がありますが、米海軍は今回の大型艦同士の「ハル・スワッ
プ(船体交換)」を歴史的快挙というふうに報じています。
そのエセックスに乗る沖縄の第3海兵遠征軍も、米国本土の第1、第2遠征軍と
同格ということにはなっていても、実際は兵力を相当に間引いた「格落ち」部隊
で司令官も他より階級の低い少将でしたが、今は中将を配置して、戦時の増援に
よって遠征軍としての規模と指揮能力を確保するように図られています。空母部
隊も、通常動力艦の退役によっていずれは原子力空母が配備されることになりま
すが、揚陸戦・海兵部隊は先んじて最強襲撃部隊に衣替えをしつつあります。ヘ
リ部隊のMV-22への機種転換計画や名護新基地計画・岩国の海兵隊航空基地の沖合
拡張なども含め、「整理縮小」ではなく「拡大増強」というところです。
Cf.
COMNAVSURFPAC Press Release: USS ESSEX Arrives in Sasebo For Hull
Swap
With USS BELLEAU WOOD
<http://www.surfpac.navy.mil/pressrelease/July00/00-184.htm>
COMNAVSURFPAC Press Release: ESSEX Officially Joins Forward Deployed
Naval
Force, BELLEAU WOOD, ESSEX Skippers Exchange Command in Sasebo
<http://www.surfpac.navy.mil/pressrelease/July00/00-195.htm>
ESSEX ARRIVES FOR HULL SWAP 2000
<http://www.lha3.navy.mil/news20_hs.htm>
Sasebo bids farewell to USS Belleau Wood (LHA 3)
<http://www.ctf76.navy.mil/>
Hull Swap 2000
<http://www.ctf76.navy.mil/hull_swap_2000.htm>
「『エセックス』佐世保へ入港」『丸』2000年10月号 31-33頁。
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島川雅史 mshmkw@tama.or.jp
mshmkw@jca.apc.org
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