[TO: aml, keystone]
島川です。
MV-22墜落事故の「最終報告」が出されて、7月27日に海兵隊からそのプレ
スリリースが出ています。
<http://www.usmc.mil/marinelink/mcn2000.nsf/445312e1fd4fc5ea8525691500033829/122050a8a7c6593d852569380063e594?OpenDocument&Highlight=2,MV-22>
原因については、予想通りというか予定通りというか、「<ヒューマン・ファ
クター>の複合」によるものだそうです。
原因として挙げられているのは、
(1) 予定されたフライト・プランからの逸脱。
(2) 予期しなかった追い風。
(3) パイロットによる非常に大きな降下率。
の、三点ですが、特に強調されているのは第3点です。「安全な飛行のための
規定によって確立されている降下率を大きく越えた」と述べて、事実上、パイ
ロット・ミスを主原因としています。以前のマッコークル中将のブリーフィン
グでは「リコメンド」とされていましたが、この発表では「確立」されていた
のだそうです。
(1)の点については、着陸アプローチのミスによって着地点を行き過ぎそうに
なったので、飛行計画より高いところから急角度で降下することになり、本来
はゴー・アラウンド(着陸復行)をすべきケースであった、と述べています。
7月28日付「米軍ニュース」
<http://www.defenselink.mil/news/Jul2000/n07282000_20007282.html>
によれば、このミスを理由として、2機編隊の着陸をリードした1番機の操縦
士と副操縦士は「編隊指揮官」業務の6カ月停止という処分を受けています。
(2)の点は、「最大15ノットの追い風」があったので、前進対気速度がその分
遅くなった、ということです。
「米軍ニュース」はマッコークル中将の27日のブリーフィングを報じて、海
兵隊はこの飛行機に「降下率/速度」が「安全でないことを認識し得る」ような
警報装置の開発を検討中と伝えています。この点は、前回のブリーフィングで
記者から指摘されたものの中将が不可能を力説したわけですが、前言撤回とい
うことになります。米軍ニュースしか見ていない読者は中将の前回発言は知ら
ないわけですから、至極もっともなことであると思うでしょうが。
さて、そのマッコークル中将の国防総省でのブリーフィング
<http://www.defenselink.mil/news/Jul2000/t07272000_t727mcco.html>
ですが、冒頭でテレビカメラを閉め出すという異様な宣言から始められました。
司会に当ったのは海兵隊広報の少佐で、通常のブリーフィングを担当し特別な
人が呼ばれる場合には司会役をこなすベーコン報道官ではなく、しかもその少
佐がTVカメラの排除を宣言するとともに、ブリーフィングの主題である事故報
告書について、中将は原因説明には同意するが改善勧告の部分には同意してい
ない箇所もあるが、そのこと自体が報告書が民主的に独立して作成されたこと
を示すものである、という何やら奇妙な前置きを述べて始まりました。
当然にも会見は記者側からのTVカメラ排除理由への疑問から始まりましたが、
中将はそれは自分個人の意志であると言い、また前回ブリーフィングでTVを認
めたのは「不適切」であったと述べ、放送内容が視聴者側でテープに取られた
りするのは自分の管理範囲を越えるとか、何かよくわからない理由を挙げてい
ます。要するに、中将にとって前回ブリーフィングの場合は不本意な報道のさ
れ方であった、自分が何か隠そうとしているという印象を与えた番組があった、
埋葬の様子などを追うTV報道のやり方が嫌いである、ということのようですが
判然とはしません。記者側も当然にも納得はしていません。中将が演壇の照明
が明るすぎる?とベーコン報道官に言ったのを潮に報道官が出て来て、自分の
「技術的能力」を越えるとジョークにしてしまい、ある記者のこれを引き取る
ジョークが続いて、その後すぐに中将がブリーフィングの内容に入っています。
広報の少佐は全身冷や汗を流していたのではないでしょうか。
マッコークル中将の報告書説明の要旨は米軍ニュースの通りですが、少佐の言
う勧告部分への不同意点とは、やはり警報装置の件で、中将は個人的には「非
常に困難」なことだと思うと述べています。「追い風」については、前回は天
候に問題なしと言ったわけですが、これは後でわかった事実なのだと縷々弁解
しています。この中将は「沽券」に非常にごだわる人のようです。また、中将
は報告書の追い風10-15ノット説に対して、自分は8ノットくらいだったと
思っていると言明しています。少佐の発言とは異なり、改善勧告部分だけでは
なく事実認定部分でも異議を唱えているわけです。そして、事故原因解析の上
では10ノットでも8ノットでも大差ないことも認めています。警報装置と8
ノットで報告書にたてついているのは、自分が嘘は言わない信念の人であると
いうアピールなのでしょうか。
マッコークル中将は長広舌をふるい、たまりかねた記者から、あなたの発言を
さえぎって次の質問してもよいかなど言われても、よければ結論部をもう1段
落ぶん加えたいなど言いつつ10段落ほども喋り続け、また、記者の質問が終
わらないうちにかぶせて回答するなど、興奮している様子です。会見記録は長
文のものとなり、ネットスケープHTML書類で78K、A4プリントで12ページぶんあ
ります。
報告書本体は8000ページあるそうですが、全文は非公開とのことです。あらゆ
る可能性を検討し詳細を極めたということですが、事故後3カ月程度で構造や
材料等の検証ができるわけもなく、そこに触れないという結論が先にありきの
わけで、フライト・マニュアルなども含め軍事機密のヴェールの陰にあること
について、また下手人が自分で自分を調べるような事故調査について、死亡し
た元プロペラ四発機の操縦士には何か言いたいことがあるかもしれません。
総司令官が<遊覧飛行>のあとで、これで死者の家族たちに飛行機には問題が
なかったと言うことができる、など児戯の上塗りのような発言をしたり、航空
兵科トップの中将がTVカメラを追い出してみたり、海兵隊というのは広報・情
報専門家がおもわず目をつぶるような集団であるみたいですね。
前回のマッコークル・ブリーフィングは海兵隊のホームページに出ていました
が、今回のは掲載していないようです。上記プレス・リリースも、検索によっ
て8/11にホームページに掲出されたことを発見したくらいで、<遊覧飛行>の
時の大騒ぎに比して様がわりです。海兵隊ニュースも事故報告書完成という<
大事件>について沈黙したままです。海兵隊ホームページは改変中で今はニュー
スくらいしか載っていませんが、それにしても事故がかき消えている印象です。
報告書完成以後で、Marine Corps News のサーチで<MV-22>でひっかかってく
る事故関連ニュースはこのリリースひとつだけです。マッコークル・ブリーフィ
ングには海兵隊広報も目を閉じたということでしょうか。あるいは中将か誰か
が差し止めているのでしょうか。
MV-22の「量産正式決定」は10月とのことです。また、空軍特殊部隊用のCV-22
も初号機がロールアウトしたとのことです。
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島川雅史 mshmkw@tama.or.jp
mshmkw@jca.apc.org
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