このたび、憲法調査会市民監視センターの五月例会で報告された高田健さんの
「読売改憲試案批判」が、パンフレットとして、国際経済研究所から発行されま
した。
−このささやかなパンフレットは、筆者が最近、憲法調査会市民監視センターの
五月例会で報告した「読売改憲私案批判」をテープおこしして手を加えたもの
と、同市民監視センター発行の「憲法通信」七月号巻頭に書いた「書評」に手を
加えたものです。あわただしい日々で十分な推敲などする余裕もないまま、信頼
する仲間たちの勧めで印刷します。お気づきの点がありましたらお教えくださ
い。
いよいよ、改憲問題は重要な局面にさしかかっています。みなさんの闘いにい
くらかでも参考になれば、望外の喜びです。(高田健)−
◇憲法改正読売新聞社第二次試案の検討◇
新しい装いの底に流れる復古主義
国軍の公然たる派兵や戒厳令を可能にする改憲案
高 田 健
発行日 2000年7月15日
発行者 国際経済研究所
東京都千代田区三崎町2-21-6-302
電話03(3221)4668 FAX03(3221)2558
頒価 300円
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・はしがきにかえて
中曽根康弘氏の改憲戦略について・・・・・・
「21世紀日本の国家戦略」(PHP研究書出版)
・憲法改正読売新聞社第二次試案の検討
新しい装いの底に流れる復古主義
国軍の公然たる派兵や戒厳令を可能にする改憲
前文の理念の復古主義改悪
国民主権の意味を低める「第一章・国民主権」
天皇の事実上の元首化を狙う「第二章・天皇」
第三章・安全保障
第四章・国際協力
第五章・国民の権利及び義務
第六章・国会
第七章・内閣
第八章・司法
第十章・地方自治
「論憲は三年で終える。四年目からは各政党が改正試案を出して、それを中心に
調査会で論戦すべきだ。・・・・五年目から具体的な行動に入り、平成十八年
(2006年)までに憲法改正を終わる。しかし、六年という長いタイムスパン
は、国民に切迫感や脅迫感を与えないように時間をとっているのであって、実際
に動き始めたら、もっと時間を切り上げて改正案を出して国会で論議するほうが
よいし、おそらくそうなるのではないか。鳩山(由紀夫民主党)代表が『二年で
改正試案を各党が出して、速やかに憲法改正の結論をつけよう』といっているの
は、さすが鳩山一郎氏の孫だと思います」
−中曽根康弘「21世紀日本の国家戦略−164頁−」(PHP研究所出版)よ
り−
(案内ここまで)
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読売新聞では1994年11月3日、唐突に「改憲か護憲かの国民的論議に終
止符を打つ」(読売新聞憲法問題研究会)として、「改憲」試案を発表。そして
5年6ヶ月後の2000年5月3日に「第二次試案」を発表。現憲法の公布日と
施行日にゴロをあわせるという念の入れよう。
日本三大紙の地位を占めるシェアを持ち、報道を旨とする機関である新聞社
が、自社の紙面を使い、自社作成の試案で改憲を「自作自演」する行為は、そこ
に掲げる「『公の秩序』重視を明示」を自ら否定する一私企業法人の「ペンによ
るクーデター」であり、「私(読売改憲試案)の氾濫による公の崩壊」そのも
の。
同試案こそ、自民党改憲試案であり、改憲勢力ならびに憲法調査会の改憲試
案。小沢、鳩山案にしてもその範を超えないもの。
今回の読売改憲試案は、憲法遵守義務を市民に強要し、「国民」を単一民族に
限定し、政党活動の制限による独裁や「軍隊」と明記した国軍による海外侵略を
可能にし、天皇の元首化、公共の福祉から公共の利益重視への転換を掲げるな
ど、平和三原則を装いながら、ことごとくその形がい化を狙ったもの。そして今
後も色かたちを変えて、明確に平和三原則を抹殺する第三、第四の改憲試案を作
り出すこともありえる。
止まることを知らないバイオテクノロジーの世界では、すでにタブー無き生命
操作に警鐘を鳴らす動きが活発になっていますが、憲法も人類の生存権をかけた
知恵の結集でなければないはずです。それならば日本国憲法の平和三原則こそ、
いかなる機関、なにびとたりとも侵してはならない「タブー」です。
今世紀末、人権意識が飛躍的な高まりを見せたとはいえ、これらを「タブー」
とする認識までに至っていないのが、現状です。
しかし国際司法裁判所の創設、国際人道法による人権救済、死刑を容認してい
る最大政権のアメリカにおける、死刑容認世論の、80%から60%への落ち込
みなど、徐々にではありますが、「正義の殺人」を拒否する流れは生まれつつあ
ります。
この国では、非科学的な「タブー」大好きな面々が、こと憲法、教育基本法に
関しては「タブー無き議論」をと、ことあるごとにのたまっていますが、改憲勢
力が廃したい「タブー」とは、「非武装平和主義」であり、「主権在民」であ
り、「基本的人権の尊重」であって、決して「天皇」なんぞではありません。
低調ながらも今国会の憲法調査会で、読売改憲試案をベースにした「議論」は
引き続き行う一方で、改憲勢力はすでに前国会で「憲法制定経緯の検討」は終え
たとして、改憲発議を模索し、次期選挙後での改憲を目指す動きを強めることは
明白です。
自民党、保守党、自由党はすでに改憲を選挙公約として明示し、中曽根康弘議
員は、自民の六割は改憲派だと豪語しています。また、選挙前の市民の調査で民
主党の約七割が「全面改憲」と答えたということです。「護憲」勢力にしても
「国防軍」としての自衛隊を容認する「武装平和主義」どまりです。
今、私たちの急務は、改憲勢力の欺瞞性を明らかにし、国会議員には時代錯誤
の「改憲論議」をやめ、日本国憲法を遵守した国会運営を求めることです。
その取り組みの一つとして、改憲勢力が拠り所としている「読売改憲試案」を
精査し、憲法改正試案で何を復活させ、何を「削除」しているのか、明確に示す
ことがあげられます。
<加賀谷いそみ>