keystoneML2000/06

From: "NAKADA hiroyasu" <nakada_h@jca.apc.org>
To: "keystone" <keystone@jca.apc.org>
Subject: [keystone 2816] 準備書面４
Date: Wed, 28 Jun 2000 22:44:02 +0900
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三　土地使用の実態（適正かつ合理的要件の不存在その１）
　１　本施設内の土地のうち、桃原富徳所有地（認定取消事件訴状添付の第八物件目録５記載の土
　地）、天久仁助所有地（認定取消事件訴状添付の第八物件目録６記載の土地）は、いずれも飛行場
　地区の保安緩衝地帯用地として使用され、認定がなされたものである。
　２　保安緩衝地帯とは、航空機の運行に伴う安全を図るために、建造物等の高度制限がなされる
　区域のことをいうが、本件土地と着陸帯との位置関係（着陸帯の延長線上や側面）及び距離関係
　（着陸帯からどのくらいの距離にあるのか）を考慮すると、本件土地の強制使用は客観的にみて
　全くその必要性はない。
　３　すなわち、「桃原所有地」は、本施設内の南西側に位置しており、着陸帯の南端から約230
　メートルの距離、外部との遮断をしているフェンスからわずか10メートルしかない位置に所在
　している。
　　「天久所有地」は、いずれも尻尾状となった本施設内の南先端部で滑走路の延長線上に存し、
　着陸帯の南端から約530メートルもの距離があり、フェンスからわずか2メートルしかない位置
　に存在している。
　４　同じく保安緩衝地帯として使用されていた土地のうち、1962年以降、本施設に属する土地の
　一部が所有者に返還されているが（甲Ｇ4号証）、同年6月30日に返還された土地は、滑走路の
　延長線上に位置し、着陸帯の北端から約300メートルの距離しかない。
　５　また、1963年8月15日に返還された土地の中には、着陸帯の側面西方に位置し、着陸帯の
　外縁からわずか約170メートルの距離しかないのである。これらの土地が返還された理由として
　は、右土地が保安緩衝地帯用地として何らの必要性がなかったことに他ならない。
　６　従って、客観的要件からみても位置関係、距離関係との対比上、本件各土地についても保安
　緩衝地帯用地としての客観的要件を満たしていないのであるから、強制使用をする必要性を著し
　く欠いている、違法な措置である。
四　基地被害（適正かつ合理的要件の不存在その２）
　１　航空機事故等について
　　普天間飛行場に所属する航空機が、県内外で墜落事故等を繰り返している状況にあり、1972
　年から94年まで57件の事故が発生しており（年間2・5回の割合で事故が発生していることに
　なる）、市民は、日々の生活の中で、ふりかかる死傷等の多大な不安をいだきながら生活している
　状況下にある。
　２　ヘリコプター等の事故
　　　　　墜落事故　　　　　　　11件（死亡84人、負傷25人）
　　　　　不時着（緊急着陸）　　38件
　　　　　落下物　　　　　　　　8件
　　　　　　　　　計　　　　　　57件
　３　騒音被害（平成7年6月、航空機騒音測定器の結果）
　　　　　19時～22時（夜間）　　　456回発生
　　　　　22時～24時（深夜）　　　139回発生
　　　　　　7時～19（日中）　　　1、642回発生
　　　　　　0時～7時（深夜）　　　　　7回発生
　　　　　　　　　計　　　　　　　2、244回発生　　　最高値　94・6ｄＢ
　４　このような基地被害の存在は、提供により失われる利益が甚大であり、本件使用認定が適正
　かつ合理的な要件を欠くことを基礎づける重要な事実である。
五　適正且つ合理的要件の不存在についてのまとめ
　１　使用認定の要件である「適正且つ合理的」の意味は、土地等の提供の必要性が高く、かつ、
　右提供により得られる公共の利益が、これにより失われる利益に優っていることをいうが、前者
　の「提供の必要性」の要件は既に前記で述べたとおり欠如している。後者の法益権衡要件につい
　ては、逆に「失われる利益」の方が「強制使用に基づく公共の利益」よりも優っているのは明白
　であり、法益バランスを失したものとなっており、右要件の欠如も認められるところである。理
　由は以下のとおりである。
　２　前記のように、普天間飛行場は宜野湾市の中央部に位置し、同市の面積の約25パーセント
　以上を占めるに至っている。人口約8万2000人の宜野湾市は、本施設の周りにドーナツ状に市
　街地が形成され、そのうち3万人以上の住民が本施設に隣接して居住し、大学、小・中学校等の
　文化施設も存在している（甲Ｇ1、3号証）。
　　住宅密集地域に存する本施設はすでに先に述べたとおり、航空機騒音、航空機墜落事故、道路
　交通網の遮断による市民生活上の不利益、地域振興上の多大な障害等、地域のガンとなっており、
　地域住民に多大な被害を被らせ続けており、他方、本件土地の使用は、その必要性ともからめて
　公益の利益にほとんど寄与するものとなっておらず、本施設目的自体が違法な在留施設であるこ
　とに勘案すると、全くこの点で公共の利益など存しないのであり、法益のバランスを著しく失し
　たものとなっている。「失われる公共の利益」に重大な危害・損害を及ぼしているのである。
六　結論
　以上の理由から本件使用認定及び使用裁決には重大な違法があり取り消されるべきである。

第八　牧港補給地区

一　基地の概要
　１　所在地・面積等
　　牧港補給地区は、キャンプキンザーとも呼ばれているが、浦添市の西部、国道58号線と東シ
　ナ海にはさまれた細長い平地で、面積275万平方メートルを占有している（甲Ｈ1号証・地図、
　甲Ｈ10号証・高文研「情報公開法でとらえた沖縄の米軍」梅林宏道著、202頁～204頁）。
　２　駐留部隊等（甲Ｈ10号証・高文研「情報公開法でとらえた沖縄の米軍」梅林宏道著、205頁
　～208頁）
　　牧港補給地区には、第3海兵遠征軍の三本柱の一つ、第3軍役務支援軍のほとんどの部隊、約
　2000人が駐留している。すなわち、役務大隊、第3整備大隊、第3補給大隊、第3歯科大隊の
　4つの司令部と大部分の部隊がおかれている。海兵隊の補給、整備、医療などの中心部隊である。
　それらは、1978年からキャンプ瑞慶覧から移駐してきたものである。
　　また、牧港補給地区には、陸軍試験・測定・診療装置（ＴＭＤＥ）地域支援沖縄分遣隊など陸
　軍部隊、国防エクスチェンジ・カミサリ空軍関係者がいるほか、国防省国防兵站局に属する国防
　軍再利用売却沖縄事務所（ＤＲＭＯ）があり、すべての米軍財産の再利用や廃棄物の処理を管轄
　している。
　３　施設等
　　本基地は、陸側半分と海側半分に縦割りに機能が分かれており、陸側には倉庫・工場群が、海
　側には単身兵舎・単身士官用宿舎・家族住宅などが建ち並んでいるほか、学校・体育館・運動場・
　劇場・ボーリング場・クラブなどの施設もある。
　４　使用認定及び使用裁決の対象土地
　　甲Ｈ1号証地図（基地全体図）上に番号で示されている部分が契約を拒否し、使用認定の対象
　とされた22筆の土地である。このうちの五筆が認定取り消しを求めて争っている。以下、「認定
　取消訴訟添付第9物件目録記載の物件」について、同記載の物件番号１の物件を「物件１」のよ
　うに略する。
　　なお、右のうち物件３は強制使用の申請が却下されたが、他の四筆は強制使用裁決されたので
　裁決取消訴訟の対象である。
二　駐留部隊から見た違法性（必要性の要件の不存在）
　牧港補給地区は、安保条約の範囲を超えて活動している海兵隊が駐留しているものであり、安保
条約にもとづき同施設を提供する必要性はない。
　この第3軍役務支援群という部隊は、海兵隊の戦闘員に分類されており、前線における戦闘支援を
本来の任務としている。海兵隊は、すでに指摘したように安保条約の枠を無視して活動しており、
その駐留事態が違憲・違法な海兵隊のための部隊であるから、この牧港補給地区の部隊も、駐留の
法的根拠はないと言わなければならない。したがって、駐留目的の範囲を超える使用のために、牧
港補給地区用地の強制使用は、必要性が認められない。
三　基地形成の歴史から見た違法性（適正かつ合理的要件の不存在その１）
　牧港補給地区も、沖縄戦の後に上陸してきた米軍が占拠し、地主らが収容所に入れられている間
に、基地として囲い込まれていった。基地以外の土地を居住地と指定され、そこで生活するように
なった。それでも、基地内に囲い込まれた畑は、1947年ころから1950年ころまでは、耕作が続けら
れ、農作物が作られていた。
　しかし、その後、基地内で施設の建設が始まり、畑は、ブルドーザーで地ならしされて住民・地
主は、そこからも追い出されたのである。その際、原告内間清子が先祖から守ってきた墓（物件２）
も、つぶされ、なくなってしまった（甲Ｈ2号証）。
　本件各土地は、このようにして米軍により違法に占拠され、復帰後もその違法な占拠を続けている。
本件で強制使用を許すことは、これらの違法を容認することとなる。このような強制使用手続以前の
違法状態を是正せぬままになされる使用認定は、「適正かつ合理的」要件を欠いて違法である。
四　街づくりや経済振興への障害（適正かつ合理的要件の不存在２）
　基地の広さは、275万平方メートルであり、市の面積が1892万平方メートルであるから、基地は市の
面積の約7分の1を占める。人口の急増地域であり、72年の復帰時で5万人の人口であったが、現在は倍
の10万人と急増し、那覇市、沖縄市に次ぐ第3位となっている。那覇への通勤住宅地域が基地により圧
迫されている。
　また、基地は、浦添市の海側にあり、南は那覇市、北は宜野湾市である。国道58号の西、反対側は
浦添市の商業中心地区で商業など産業発展の障害となっている。基地の存在が国道58号線の慢性的な
渋滞の原因ともなっている。
　浦添市も、基地の返還を求めており、市としても、返還後の利用計画を具体的に策定している（甲Ｈ
3号証）。
　市では、1979年（昭和54年）度に「浦添市軍用地跡地利用計画書」を策定し、平成四年からの調査に
もとづき、「牧港補給地区跡地理由基本計画」をつくっている。アジア交流都市の形成に向けて公園、
住宅地区、商業地区などを整備する計画である（甲Ｈ3号証）。
　95年（平成7年）に実施した市の調査でも、多くが街づくりの障害となっていることを指摘し、基地の
返還をのぞんでいる。92年（平成4年）、3年前の調査よりその声が強まっている。
　基地の用地の90パーセント以上が民有地であるが、その地主の半数48・6パーセントが街づくりの障害
となっていると答え（障害となっているがやむをえないと答えた27・5パーセントを含めると合計で76パ
ーセント）、返還を望む声が77・3パーセントと8割近い（計画後に返還が42・8パーセント、早期返還が
28パーセント、段階的返還が6・5パーセント）。
　一般市民の間では、障害であるが67・7パーセント、障害があるがやむを得ないとする17・1パーセント
を加えると約85パーセントとなる。そして、早期返還が52・8パーセント、計画策定後返還が26・6パーセ
ント、段階的返還が15・7パーセント、合計で95パーセント以上が返還をのぞんでいる（甲Ｈ4号証）。
　基地のために都市機能にとって重大な障害がもたらされていることは明らかである。
五　付近住民への権利侵害（適正かつ合理的要件の不存在３）
　牧港補給地区では、基地内の修理工場等から廃油類が海に排出され、沿岸一体が著しく汚染され続けて
きた。
　過去に1973年2月20日には、錆洗浄用のクリーニングコンパウンド剤の原粉が風で飛散し、日本人従業員
らに被害を与えた。1975年8月12日にも、薬物が流出し、付近の海岸一帯を汚染する事故が発生した。この
事故では、水質汚濁防止法の排出基準の2000倍という高濃度の六価クロム（基準0・5に対して1120ＰＰＭ）、
鉛（基準1に対して2825ＰＰＭ）、1000倍のカドミウム（基準0・1に対して100ＰＰＭ）、同じく10数倍の
水銀（基準0・005に対して0・084ＰＰＭ）、4倍の砒素（基準0・5に対して2ＰＰＭ）が検出された。この
ような有毒物質は基地内に充満しており、基地内で働く労働者も、喘息、皮膚のただれ、内臓疾患、肺結
核などにおかされていた。このような有毒物質が海浜に流出し、近隣の漁民、住民に多大な被害を与えて
きたのである。1975年1月14日には、同地区の海岸で多量の死魚が浮くなどの事態も発生している（甲Ｈ5
号証・同時代社「基地と環境破壊」福地曠昭著、91頁～96頁）。
　また、基地内には、国防再利用売却事務所の沖縄事務所があり、すべの米軍財産の再利用や廃棄物の処
理を管轄している。嘉手納基地で発生したＰＣＢ汚染でも有害廃棄物の回収窓口となっている。米軍は、
核・生物・化学戦争（ＮＢＣ戦争）に遭遇したときに備えており、これに対応する様々な危険物質を扱っ
ていると考えられる（甲Ｈ10号証・高文研「情報公開法でとらえた沖縄の米軍」梅林宏道著、77頁～83頁）。
　現に、97年11月13日、基地内で発生した火災事故では、人体に有害な塩素ガスを発生する次亜塩素酸カ
ルシウムという化学物質が焼けたものである。静かな住宅街の近くで発生したこの火災のため、国道にモ
ウモウとあがる煙とともに、ゴムが焼けたような臭いが一面に漂い、住民が緊急に避難した。しかも、米
海兵隊は、当初有害物質が燃えたことを隠していたが、後に訂正された。酸素ボンベとガスマスクをつけ
た関係者が基地内で対応している写真がその火災事故の危険性を示している（甲Ｈ6号証の1～5、97年11月
14日付琉球新報、同沖縄タイムス記事）。
　このような基地の有害物質は、住民の健康被害、環境悪化の原因となっているばかりか、住民を事故な
どの危険にさらしている。周辺住民の精神的不安ははかりしれない。
六　使用方法及び具体的必要性－広範な遊休地などの存在（適正かつ合理的な要件その４）
　使用認定に関して、牧港補給地区の使用の方法は、米軍の「資材置場敷地、機械修理工場敷地、電気通
信工場敷地、道路敷、倉庫用地、給油施設用地、家族住宅敷地、家族住宅用地、排水路敷、倉庫用地、駐
車場敷地及び野積場として使用する」とされている。しかし、強制使用の対象となっている土地には遊休
地などがあり、「提供土地の非代替性」は満たしていない。
　例えば、原告宮城健一の所有地については、物件調書のうえで同原告の10筆の所有地のうちわずか2筆に
ついてだけ給油施設及び水銀灯があるとし、それ以外の土地には、何ら地上に物件がない。本件で対象と
している物件５の土地も、何らの物件も存在しない（甲Ｈ9号証の2の図面上のの土地）。さらに、原告宮
城健一所有の浦添市港川崎原677、同704の各土地は、何ら地上に物件が存在しないばかりか、いずれも草
地で使用されていない遊休地であることが写真などからも明らかである（甲Ｈ7号証写真①、②、甲Ｈ九号
証の一の図面上の①、②の土地）。
　また、原告津波のの2筆の所有地のうち、物件調書上では物件４の土地上に排水路があるとされているだ
けであり、物件３の土地は海岸近くの遊休地に他ならない（甲Ｈ9号証の1の図面上の土地）。さらに、原
告内間清子の所有地には、レーダー整備工場及び駐車場、水銀灯、マンホールがあるというけれども、実
態は不明である（物件１、２）。
　いずれもアメリカ合衆国軍隊が使用するという指摘が記載されているだけで、現実に何のために使用さ
れているかは一切説明されていない。このように、アメリカ合衆国軍隊が、その機能を維持するための必
要性が高いとはとてもいいえない土地が強制使用されることは許されない。また、地上の物件が存在して
も、前述のような水銀灯やマンホールなどのために使用されるという程度の必要性のために、強制使用が
認められてよいはずがない。
七　返還を求める地主の意思（適正かつ合理的要件の不存在その５）
　原告らは、いずれも、牧港補給地区に存在する各所有地を米軍に提供することに強く反対し、その返還
を求め続けている。
　例えば、原告津波善英は、沖縄戦のさなか、壕に住んでいて、祖父が目の前で米軍に撃たれたり、喜屋
武岬あたりで実兄を戦死させたなどの体験をしている。大量殺人である戦争につながる目的のために、自
分の土地を貸したくないという思いは、悲惨な沖縄戦の体験にもとづく自然の気持ちであって、何人もこ
れを踏みにじることはできない。
　また、原告内間清子は、牧港補給基地資料統計局でキーパンチャーとして働いていたが、激しい労働強
化のもとで職業病となった。米軍による様々な妨害をはねのけてたたかい労災の認定を得たが、米陸軍病
院の受診を拒否したことを理由に不当に解雇された（甲Ｈ8号証・1973年8月30日、沖縄タイムス記事）。
しかし、不当解雇反対でたたかい、解雇を撤回させた。他方、前述のように米軍の不法占拠によって、墓
地すらも奪われてしまった。このような米軍に土地を使わせたくないという原告内間清子の要求は人間と
して当然の要求である。
　このような土地所有者の思想良心・信条の自由を著しく害する使用認定は、適正かつ合理的の要件を欠
く。
八　地籍不明地（使用認定対象地の不特定）
　原告津波善英が所有の浦添市字城間嵩下1112の土地368平方メートル（物件３）、同じく原告宮城健一所
有の浦添市字城間嵩下1268の土地1、047平方メートルは、地籍不明地である。これらの土地は、いずれも、
特定できない土地であるから、強制使用の対象とできない。しかも、いずれの土地調書についても、それぞ
れの所有者は、署名を拒否している。施設局からは積極的にこれらを特定する立証がなされていないのであ
るから、なおさら強制使用されるべきでない。
　しかも、原告津波善英所有の物件３の土地は、施設局の提出図面では、海岸からすぐ側になっている（甲
Ｈ9号証の図面上の⑫の土地）。けれども、海から100メートルから150メートル離れていたのが、実際の所有
地である。土地調書の図面は、間違った土地を示しているのである。このような土地についてすら、施設局
は、地主の立ち入りを拒否し、自ら特定する手続きを拒否しているのである。
　収用委員会裁決でも、棄却されているとおり、このような土地について、そもそも強制使用の対象となら
ないのであって、使用認定すること自体、対象地の特定性を欠き、違法であって許されるべきでない。
九　小まとめ
　以上明らかにしたように、牧港補給地区にある原告らの所有地についても、海兵隊の兵站部隊が駐留して
おり、日米安保条約で規定されている米軍の駐留目的を逸脱するものであって必要性が認められない。のみ
ならず、基地が違法に形成されてきたものであって、今日に至るまで浦添市の市街地としての機能を阻害し
つづけており、有毒物質など住民にも様々な被害を発生させている一方で、遊休土地も存在することからも
明らかなように具体的に強い必要性が認められるほどの地上物件が存在しているものでもない。強制使用に
強く反対している原告らの意思を無視してまで、認定、使用裁決しなければならない必要性、合理性はいず
れも認められない。適正かつ合理的な強制使用とは到底いえない。なお、特定性を欠く地籍不明地の使用認
定が許されないのはいうまでもない。

第九　那覇港湾施設

一　基地の概要
　１　所在地等
　　本施設は、沖縄県都である那覇市垣花町、住吉町に所在し、本県の空の玄関である那覇空港と
　隣接し、かつ海路の重要な要衝である那覇港の一角に位置している。施設全体の面積は、約57
　ヘクタールにも及ぶ。
　　本施設には、国道58号と国道332号が隣接し、県道七号線の起点ともなっており、その地理
　的重要性は、ますます大きくなってきている。それに加えて、県都である那覇市の都心部にも近
　いという好立地条件も備えている。このことは、周辺における観光産業を含めての経済、住宅等
　への土地利用転換に呼応するとともに、港湾機能の強化など新たな展開が十分に可能な地域であ
　る。それゆえ、本施設の早期全面返還が求められている。
　２　駐留部隊等
　　本施設（那覇軍港）は、第1315中型港司令部が管理している。同部隊は、陸軍のみならず、
　全ての米軍の陸上輸送を管理する部隊であり、本施設内に所在している。本施設には、約150　メ
　ートルの長さの8つの埠頭がある。
　３　本件土地
　　本件土地は、本施設内の土地であり、地目はいずれも宅地であるが、国側は、いずれも野積場
　敷地として使用すると主張している。本件土地は、1953年に米軍により銃剣とブルドーザーによ
　り強奪された土地である。本件土地所有者は、任意での賃貸借契約を拒否し、本件強制使用の対
　象となっている。
二　本件土地強制使用は「適正且つ合理的」でない
　１　土地提供の必要性がない
　　本施設自体が完全に遊休化しており、本件土地も現に使用されておらず、かつ本施設自体が返
　還対象施設となっている。
（一）前回の1992年の強制使用裁決以降の米軍艦船の利用数は、92年が16隻、93年も16隻、
　　94年が18隻、95年が23隻、96年が18隻、97年が30隻、98年が24隻である。年間24
　　隻とは、月にして2隻にすぎない。本施設は完全に遊休化しており、県都那覇市内にこれだ
　　けの広大な面積を米軍のために今後も占有使用させ続ける必要性は全くない。本件土地も、
　　いずれも全く米軍は使用していない。
（二）本施設を現状のまま維持し続ける必要性はないことは、米軍も認め、1974年1月の第15
　　回日米安全保障協議委員会では、条件付きではあるが、返還合意をしているのである。合意
　　後26年余もの間、返還を怠っていること自体が不合理であり、施設提供の必要性がない本
　　施設内の本件土地は速やかに所有者に返還されるべきである。
　２　施設提供により得られる「公共の利益」の不存在
　　　１で述べたとおり、そもそも、本施設のために本件土地を提供しなければならない必要性は
　　ない。むしろ、施設提供を継続することによる本件土地所有者をはじめとする地権者や沖縄県、
　　那覇市などの不利益、広く社会経済的不利益は甚大きわまりない。
　　（一）本件土地所有者の不利益は甚大である
　　　　本件土地が所在する住吉町などがもともと那覇での主要な住民居住地域であり、本件土地
　　　も宅地であった。その土地を長期にわたり、利用できないこと自体、本件土地所有者にとっ
　　　て、重大な不利益である。沖縄では、土地への愛着は先祖への崇拝と相まってことさらに強
　　　く、公共のために提供する合理的必要性がないのに、土地利用が長期にわたって阻害されて
　　　いること自体、土地所有者にとって重大な不利益である。
　　　　さらに、不利益性の判断にあたっては、土地使用が奪われた経緯を無視すべきでない。土
　　　地の強制使用が当初から適正な法に基づきなされたのであれば、強制使用手続により奪われ
　　　る土地所有者の不利益を検討すれば足りるが、本件土地の強制使用が継続される発端は、日
　　　本国憲法にも国際法にも違反することが明白な米軍による強奪にあるのである。このような
　　　場合は、日本国憲法の理念、財産権保障の二九条などの趣旨からすれば、日本の法による強
　　　制使用手続による不利益性の判断にあたっても、そもそもの強奪による著しい不利益を看過
　　　することは許されない。土地強奪を合法化できるだけの理由がない限り、土地所有者への重
　　　大な不利益性が存在していることを前提にしなければならない。
　　（二）社会経済的不利益の重大性
　　　　本件土地を含む、本施設が返還されず、土地強制使用が継続されることには、以下のとお
　　　り、重大な社会経済上の不利益がある（甲Ｉ一号証）。
　　　　第一に、県民の願いであり、那覇市が進める「平和都市」づくりを阻害する。
　　　　那覇市は、那覇市基本構想の冒頭で「平和都市」を次のようにうたっている。「私たち市民
　　　は、なんとしても平和のうちに暮らさなければならない。私たちは人類の平和のために、戦
　　　争があってはならない、という痛切な体験をもっている。この当然の帰結として、私たちは
　　　軍事基地の跡地の平和利用をはかり、那覇市を基地のない都市として建設する」としている。
　　　軍事基地は、市民・県民の生命と財産の安全を根底から脅かす存在であり、軍事基地の存在
　　　の根拠となる強制使用は「平和都市」つくりをめざす市民・県民の権利を阻害する。
　　　　第二に、健全な都市経営を阻害する。
　　　　那覇市は、狭隘な地域に30万人の市民が生活しており、人口密度も全国で有数の過密地
　　　域となっている。この地域内に、米軍基地及び自衛隊施設が10・22パーセントをも占めて
　　　おり、そのため公園、文化福祉施設等の建設ができず、健全な市民生活を享有するための都
　　　市経営が阻害されている。
　　　　第三に、都市計画を阻害する。
　　　　那覇市は、第二次世界大戦末期の空襲、沖縄戦などで生活基盤に重大な打撃を受けたが、
　　　米軍統治下で都市の基盤整備が著しく立ち後れ、これを整備するため、軍用地の跡地利用は
　　　重要な課題であるが、特に広大な面積を占める那覇軍港の返還は一刻の猶予も許されない状
　　　況である。那覇軍港は、沖縄県の空の玄関である那覇空港と隣接し、かつ年々取扱貨物量が
　　　増大の一途をたどる那覇港の重要な一角であり、早期全面返還による跡地利用計画の策定が
　　　大きな課題となっている。那覇軍港内土地の強制使用が継続されることは、都市計画を著し
　　　く阻害する。
　　　　第四に、那覇港整備を阻害する。
　　　　沖縄県は、地理的特性から、国内外の空、海交通の要所となっている。那覇空港は、札幌
　　　から鹿児島、香港・グアム、県内諸島との交通の要所であり、那覇空港の年間の乗降客は860
　　　万人を超えている。海路においても同様であり、完全に遊休化している那覇軍港を早期に返
　　　還させ、港湾機能を整備拡大することは極めて重要である。強制使用の継続は、那覇港整備
　　　を著しく阻害する。
　　　　第五に、観光立県の地域振興を著しく阻害する。
　　　　沖縄県を訪れる観光客は年間300万人を超え、年間3500億円の観光産業の基盤となって
　　　いる。ところが、観光客が沖縄に降り立った際最初に目にするのが、那覇軍港のフェンスで
　　　あり、基地内の軍用車両、設備である。これは平和産業である観光産業に重大な阻害要因で
　　　ある。基地のゲートを通って市街地に入ってくる観光客のイメージは、「基地の中の沖縄」で
　　　ある。これを払拭していくことが沖縄県が今後経済的にも安定した基盤をつくる上で不可欠
　　　である。
　　　　本件強制使用の継続は、観光立県の県民の要求を著しく阻害するものである。
　３　以上、本件土地の強制使用には、何らの必要性がないばかりか、強制使用を継続することに
　　よる、本件土地所有者にとっての不利益はもちろん、沖縄の社会経済的発展をも大きく阻害す
　　る重大な不利益をもたらすものである。それは、ひいて、日本全体の国益をも阻害するもので
　　ある。
　　　本件使用認定及び裁決は、いずれも「適正且つ合理的」の要件を欠くことが明白な違法なも
　　のであり、直ちに取り消されるべきである。

第一〇　陸軍貯油施設

一　施設の概要
　　陸軍貯油施設は、金武湾の天願桟橋沖合の送油ポイントとホワイトビーチで陸揚げされた石油
　類を貯蔵するタンクから、この石油類を適宜配給するためのパイプラインと、送油された石油類
　を貯蔵する貯蔵タンク、油圧をあげるブースターからなっている。貯蔵タンク群は、金武第1、
　第2、第3タンクファーム、桑江第1、第2タンクファームで、ブースター基地は、天願ブース
　ターステーション、桑江ブースターステーションとなっている。その面積は136万7000平方メ
　ートルにもなる（1988年3月末現在）。
　　パイプラインはかって那覇港湾施設から嘉手納飛行場に至る北上ラインと天願桟橋から嘉手納
　飛行場及び普天間飛行場に至る南下ラインが存在していたが、北上ラインは85年から90年にか
　けて移設あるいは撤去され、南下ラインについても、かなりの部分が嘉手納飛行場や嘉手納弾薬
　庫地区に移設され、普天間飛行場と嘉手納弾薬庫地区に送油するラインが残っている。
　　このシステムの一部を構成しているのが、本件の北谷町砂辺から嘉手納町へかけてほぼ三角の
　形状をなしている本件のタンク集合区域である。
　　この砂辺の陸軍貯油施設は、国道58号線沿いのあたり、差久原と海岸線沿いの兼久原にまた
　がる土地にある。この土地は、別称「砂辺ヌ浜」という美しい砂浜で知られていたというが、そ
　の風光明媚の土地が基地として利用されている。
二　使用目的から見た違法性（必要性の要件の不存在その一）
　１　沖縄の陸軍貯油施設は太平洋軍の第九軍団、第10地域支援群の第505品質管理大隊が管理
　　している。第10地域支援群は沖縄のすべての陸軍部隊の日常的な後方支援に責任を負い、各
　　種物資の保管、補給、修理などの役割を果たしているとされる。有事には兵站基地機能を果た
　　し、司令部はトリイ通信施設内にあるという。しかし、陸軍貯油施設で扱われている石油類は、
　　陸軍のみの用に供されているのではなく、米四軍全部の用に供するものである。そうとすれば、
　　本件貯油施設は、陸海空3軍のみならず、海兵遠征隊のすべての航空機、軍艦にも燃料を供給
　　するものである。
　　　これは、原告の2000年3月14日付準備書面の第二、二で述べたとおり、米軍用地特措法第
　　3条の「駐留軍の用に供する」との要件を逸脱するものである。
　２　また、これまでの米軍の海外での戦闘行為に沖縄の米軍が出撃していることは周知　のとこ
　　ろである。したがって、陸軍貯油施設は、直接間接にこれに寄与してきた。
　　　こうした海外での作戦は、日本国憲法の禁ずる武力による威嚇であり、これを支援すること
　　は日本国憲法が許しているはずのないものである。また、こうした作戦が日本の自衛とさえ全
　　く関係がないものである。陸軍貯油施設のこのような使用は、紛れもなく違憲及び違法な使用
　　である。
　　　また、このような使用は、既に原告の前記準備書面第二の三で述べたように、日米安保条約
　　第6条、米軍用地特措法第1条の「駐留目的」を逸脱する違法なものであるから、同法第3条
　　の必要性の要件を備えていない。
三　違法な施設形成の継続（適正且つ合理的の要件の不存在その一）
　１　この基地は、1945年4月1日、米軍の進攻、上陸以来、米軍の占領下にあった。
　　　米軍上陸が迫った45年2月10日、疎開決定がなされた。北谷村の疎開指定地は羽地村（現
　　名護市内）であったが受け入れ態勢の不備等で、疎開は進捗せず、砂辺でも多数の村民が残る
　　なか、3月下旬から空襲、艦砲射撃が始まった。28日頃の夜9、10時ころ、軍から、米軍の上
　　陸必至とのことで避難命令がでた。実際、4月1日には、砂辺の海岸は猛攻のうえ米軍の96
　　連隊が上陸、村は、跡形もなく破壊された。多数の村民が北方の山原方面へ避難した。
　　一部の村民が軍とともにするほうが安全と考え、南へ避難した。南へ避難した者の運命につい
　　ては周知のとおりで誠に悲惨なことであった。
　　　北方へ避難したものも悲惨であった。4月4、5日頃から羽地村も戦火にまみれることとな
　　った。同村の北谷村役場分所も全く機能を停止し、村民は山原の山中へ逃げ込んだ。不潔不衛
　　生からくる病気、特にマラリア、食料不足による栄養失調など、これも周知のところである。
　　　原告與儀和雄一家は北に逃れた。それで一命はとりとめ、戦争は終ったが故郷の砂辺には容
　　易に帰ることが許されなかった。
　　　その間に、北谷村は現在陸軍貯油施設として使用されている土地を含めて、米軍の基地とさ
　　れた。
　　　終戦後の45年10月30日から避難民の帰村が開始されたが、北谷村はまだ米軍使用地とな
　　っていたため、第一陣の帰村には入らなかった。北谷村に移動許可がでたのは実に46年10月
　　22日のことである。但し、帰って居住できる指定地は、これまで人の住まなかった桃原の山中
　　など現沖縄市にも跨がる土地で、砂辺の住民は、砂辺へ帰ることはできなかった。原告與儀和
　　雄一家は、占領前、今の陸軍貯油施設の差久原の土地内で耕作をしており、村内原に住んでい
　　た。これまで住居のあった村内原も兵舎等の軍用地として利用されており、差久原もそのころ
　　から貯油施設となっていた。
　２　この砂辺の陸軍貯油施設の土地は、戦後の当初から違法に住民に有無をいわさぬ形で取り上
　　げられ、その意思にかかわらず今日まで占拠され続け、軍用地とされている。認定取消事件訴
　　状添付の本基地に関する目録記載の原告與儀和雄所有の差久原の土地（畑）がその一部である。
　　　そうした、既成事実としてなされた強制的な占拠のうえに、これまで土地の使用の契約等が
　　押しつけられてきたものである。
　　　同物件目録記載の土地のかかる違法な使用の開始は、違法状態が押しつけられたまま、一時
　　は形式的に「契約」の形がとられたが、それは、自由な意思形成のうえに立つものでないこと
　　は明らかであり、右違法状態を継続させたままの使用である。そして、その違法状態は解消さ
　　れる必要がある。したがって、原告の同目録記載の土地の使用については、前記原告準備書面
　　の第三の三の２の（同21頁以下）に記載したように、適正且つ合理的要件を欠くものである。
　　また、同３記載のようにクリーンハンドの原則の違反もあるというべきである。
四　米軍の使用の現状と街づくりの利益の侵害（適正且つ合理的の要件の不存在その二)
　　砂辺の住民に北谷町への帰還が許されたころから、この差久原、兼久原の土地は既に燃料タン
　クの集積地であった。当初は、盛土のような上に円筒形のタンクが設けられていたというが、今
　は、タンクが土で覆われている。
　　右のような土地の違法な取り上げによって、僻地であった山中へ北谷町の住民は追いやられて
　いた。然し、本来は海沿いの平地である本件陸軍貯油施設の方向へ市街地の形成がなされるのが
　自然であり、住民の利便にもかなっていた。しかるに、右施設によって適正な市街地形成が阻害
　され、嘉手納町とも分断されている。こうした町民の街づくりの権利の侵害は、前記原告準備書
　面第三の三の２の（同19頁以下）に記載したように、適正且つ合理的要件を欠く使用認定であ
　ることを裏付ける事由である。
五　環境汚染事故（適正且つ合理的の要件の不存在その三）
　　パイプラインからの環境汚染事故も、移設、撤去されたラインについてのものも含めると、浦
　添市、宜野湾市、那覇市、具志川市、北谷町等でその発生が多数報告されている。
　　砂辺の陸軍貯油施設でも、ガソリンの流出等が、懸念というだけでなく、実際に50年代の後
　半頃、パイプからガソリンが流出していたのを住民が目撃している。現在の砂辺の陸軍貯油施設
　の南側付近の海岸寄りのパイプからグリーン色のガソリンが流れ出ていた。グリーン色のガソリ
　ンは航空機燃料であるという。当時は占領下で、住民たちはどうすることもできなかった（別に、
　瑞慶覧などからとみられる油漏れも何回もあった）。土地の漁業協同組合では海岸などを始終見回
　っていたし、また見回っている。
　　このように住民の不安と環境への悪影響などをともなう使用は、前記原告準備書面の第三の三
　の２の（三）の「基地被害」の存在であり、本件使用認定は米軍用地特措法3条に定める土地の
　適正且つ合理的な使用とは言えない。
六　遺跡の存在（適正且つ合理的の要件の不存在その四）
　　80年、工事の際、砂辺サーク原貝塚が発見された。このあたりから嘉手納町へ至るあたりは、
　とりわけ遺跡の多い土地である。
　　また、施設の南側の共用道路に沿って街灯工事の予定でトレンチ堀の試掘がなされたところ、
　遺物が発見され、85年の調査でこれがグスク時代の砂辺サーク原遺跡とされている。こうした
　遺跡が多い土地の適正かつ合理的な使用が軍事基地としての使用とは到底言うことができない。
　同目録記載の土地の基地使用は、前記原告準備書面の第三の三の２の（二）の（１）（同20頁）
　で記載した文化的価値の侵害であり、このような使用認定は適正且つ合理的の要件を欠く。
七　土地使用の実態からみた違法性（必要性の要件の不存在その二、適正且つ合理的の要件の不存
　在その五）
　　陸軍貯油施設の前記物件目録記載の土地上にはいずれも貯油タンクそのものは存在しない。ま
　た、同目録１、２の土地は黙認耕作地ともなっている。被告の説明によればこれらの土地は貯油
　タンク用地として使用するということである。しかし、これらの土地に貯油タンクが存在せず、
　かえって、耕作地が存在するということは、同条の必要性の要件をも満たしていない違法な使用
　認定である。
　　ちなみに、本件貯油施設は、わが国の消防法上の地下タンク貯蔵所に該当すると考えられる。
　地下タンク貯蔵所は、その構造、設備について厳しい基準が設けられている反面、屋外タンク貯
　蔵所等と異なり、危険物の規制に関する政令第13条は、地下タンクと貯蔵所敷地境界の間に空
　地をおくべき定めを設けていない。右規定に照らせば貯蔵所の外に余分の空地の使用を認める理
　由はない。従って、右空間を必要とする特段の理由を明らかにしないまま、貯蔵所の外に余計な
　空地の使用を米軍に認めることを前提とする本件使用認定は、特措法第三条に規定する必要性の
　要件も、適正且つ合理的の要件も満たさない。
　　被告は、使用の必要性も、土地の適正かつ合理的な使用であることについてもこれまでまった
　く主張立証していない。そうした主張立証のない本件のような場合には特措法第3条の要件を満
　たさないものとして、取り消されるべきである。

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仲田博康
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