Date: Sat, 27 May 2000 18:36:46 +0900
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Subject: [keystone 2723] 最も愚劣な首相
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           新憲法制定以来、最も愚劣な首相について
                                                  井上 澄夫

  さる4月15日、都内のホテルで開かれた神道政治連盟国会議員懇談会の結成
三〇周年記念祝賀会で、森喜朗首相が行なった挨拶は、「新憲法制定以来の歴代
首相の中で、最も愚劣な人物」であることを、自ら実証した。
  森首相の誕生が、小渕前首相の脳梗塞による突然の退場の結果であることは周
知のことだが、あのドサクサまぎれの政権交代劇のせいだろうか、森とその取り
巻きには、首相への就任に伴い当然なされるべき配慮が欠けていた。

 かつて橋本龍太郎は、首相就任にあたり、日本遺族会の会長を辞した。これは
小手先の対応ではあったが、それなりに政治的に計算された選択だった。靖国神
社の国家護持にこだわる日本遺族会の主張を抱えたまま首相になることは、さす
がにはばかられたのである。
  神道本庁が組織した神道政治連盟の主張は、この国の政治において常に極右で
あった。その思考の基本は、国家神道が隆盛をきわめていた戦前のそれと少しも
変わらない。したがって、森が内閣総理大臣という公務員のトップの座に就くに
あたって、最低限なされるべきは、公務員の憲法尊重擁護義務を定めた憲法第9
9条に配慮し、神道政治連盟との関係を絶つことであっただろう。

 ところが森は、国家神道を基調にした政治(まつりごと)になんの違和感も持
たない天皇主義者であるから、先述の配慮などまったく念頭になかった。記念祝
賀会では、まるで久々にふるさとに帰ったかのような感覚で、おのれの感性を
じゅうぶん解放し、あの「日本の国は、まさに天皇を中心とする神の国であるぞ
ということを、国民の皆さんにしっかりと承知していただく」という思いを開陳
したのだろう。
 

  森の挨拶の内容は緻密な検討に値するが、ここでは問題点のすべてに触れるこ
とはできないので、なにより森が、現憲法が保障する「信教の自由」という普遍
的価値(原理)を、まるで理解していないことに触れたい。

 森は「信教の自由だからどの信ずる神も仏も大事にしようということを、学校
でも社会でも家庭でも言うことが、日本の国の精神論から言えば一番大事なこ
と」と言う。しかしそもそも「信教の自由」には、特定の信仰を選択する自由、
選択しない自由、信仰を替える自由が含まれる。だから「無神論」の立場に立つ
ことも、当然「信教の自由」によって保障される。「神様・仏様」にかかわらな
いことも、特定の信仰を持つことと同等に尊重されねばならないのである。森は
「宗教というのは自分の心に宿る文化」と言うが、無宗教の心のありようも「人
の心に宿る文化」である。この点は、森に限らず、多くの人が誤解しているので
はないだろうか。特定の信仰を選択することだけが「信教の自由」ではない。

  この「信教の自由」は、ほんらい国境と関係なく人類が共有すべき普遍的な価
値であり、「日本の国の精神論」(?)などという、手前勝手な主張によって、
いささかも制約されるものではない。また決してそうあってはならない。

 森が「人の命は神様からいただいたもの」と考えるのは彼の自由であるが、そ
れは彼自身の一種の信仰告白であり、そう思う人(森であれ、誰であれ)は、そ
う思わない人、そういう考えに疑問を抱く人の考えと立場を、無条件に尊重し擁
護すべきである。そして、それが万人に「信教の自由」が保障されるということ
なのである。
 「神様・仏様を大事にせよ」と公教育の場で強制することは、「信教の自由」
の明白な侵犯である。森は、こんなあたりまえのことさえ理解していない。彼は
憲法第20条と第89条を読んだことがないか、読んだとしても理解しなかった
のであろう。
 

  憲法第20条第3項は「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教活動
もしてはならない」と規定している。ところが森は、「神の国」発言に先立つ5
月8日、国家神道の教典たる教育勅語には「とてもいいところがあった」とあえ
て強調している。つまり、もともと先の憲法の規定を無視してきたのである。だ
からこそ「日本は天皇を中心とする神の国」という強い信念を〈おおらかに〉披
瀝したのだろう。
  憲法により成立している政府の最高責任者の座に、憲法を理解しない人物が居
座ることは許されない。辞めてもらうしかない。
(2000・5・18)
 
(「やさしいまちづくりをめざす 吹田わいわいフォーラム」の機関誌『With
You』2000年5月号への寄稿)



 
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