高橋亨です。
「ガス室」論争でご縁のできたベルリン在住のジャーナリスト、梶村太一郎
さんから、氏がドイツで発行されている日本語週刊紙『ドイツニュースダイ
ジェスト』に発表された石原暴言批判記事を送って頂きました。日本での論
調とは一味違う、和製「ゲッベルス」批判になっています。
出来るだけたくさんの方に読んで頂きたい、とのことでしたので投稿します。
転載歓迎です。
なお、同じものを私のホームページにも掲載してあります。
http://village.infoweb.ne.jp/~fwjh7128/genron/ishihara/kajimura000429.htm
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「ゲッベルス」的なるその暴言
石原東京都知事は辞任すべきだ
国際的な波紋広げたシュピーゲル誌での発言
梶村太一郎(ジャーナリスト・ベルリン在住)
四月九日の日曜日は、気温は低いが久しぶりの晴天だった。散歩がてらティ
アガルテンのベルヴュー宮殿の裏手にある染井吉野を見に行くと、やっとつ
ぼみがふくらみかけたところだ。ベルリンの春は遅い。そばの陽だまりのベ
ンチに腰を下ろして十日付けの『シュピーゲル』誌を広げた。
東京特派員が、急病で倒れた小渕氏の後を継いだ森新首相も、硬直した日本
の政治経済を克服するのは難しいであろうと、同誌独特の辛辣な語調で報告
している。昨年の一月、小渕首相夫妻が、大統領府であるこの宮殿にヘルツォー
ク大統領夫妻を表敬訪問したときの情景を想い出す。首相はゲストブックに
毛筆で「東成西就」と記帳し、夫人も署名した。ところが、担当の日本の役
人が姿を消してしまい、そこにいた大勢のドイツ人記者達は私に意味を問う
のだ。「東洋も西洋も共に栄えましょうということでしょう」と、あたりさ
わりない解説役をするはめになり面くらったものだ。
あれも過去の事になったと考えながらページを繰ると、同じ特派員による石
原慎太郎東京都知事とのインタヴューがある。目を通しながら、今は桜が満
開の日本列島が、世界地図から剥離して、はてしなく過去へと遠ざかって行
くような思いにとらわれた。
*石原「中国は小国に分裂した方がいい」 シュピーゲル誌*
この記事で、石原知事は、日本の外交は東京ではなくワシントンと北京で
決められているありさまだから、憲法第九条を廃棄して正規軍備を整えるべ
きだと主張。続いて、同特派員の「中国が日本の最大の脅威だとするあなた
の考えは、日中間の直接の軍事的対立を招くのではないのか」との旨の質問
に対して、「だから巨大帝国の中国が多くの小国に分裂すればもちろん良い。
私はそれは大いにあり得ると見ている。日本はそうした展開を全力で促すべ
きだ。」と答えている。さらに、アメリカの最大の債権国である日本は、ア
ジアをドル支配から解放するために、所有する米国債を売却した資金力で円
ブロック「大東亜共“円”圏」を創るべきだとの自説を主張。また、「いわ
ゆる南京大虐殺は東京裁判でアメリカがでっちあげた冗談だ」などと史実を
否定する発言をしている。
これらの発言は日本国内の三流雑誌では人気政治家の床屋談義として喜ばれ
るようだ、だが、国際的有力誌での発言となるとそうはいかない。これを週
明けに日本の通信社が報じると、中国から打てば響くように反応があった。
『人民日報』によれば、外交部(外務省)スポークスマンは「この発言は、
日本軍国主義が当時企んでいた中国を分裂させ飲み込もうとする思惑と一脈
相伝であり、再び軍国主義の残りかすの醜悪な顔が露出したものだ」、「暴
言は、白痴が夢物語を語っているにすぎず、その夢は永遠にかなえられない」
と「強烈な憤りを表示」した。さらに、同紙は論評で「大戦中の侵華日本軍
による非人道的行為は、中国人だけでなく、多くの正義感ある日本人にとっ
ても口にし難いものだ」と述べ、「次のことをはっきりと石原氏に勧告して
おきたい。中国人民は弱い国は叩かれるという教訓を永遠に忘れない。・・・
発言は中日両国の友誼を引き裂き、友好関係を破壊させるものであり、両国
人民は当然このような発言を認めることはない」と説いている。
他国の政府筋から公式に「白痴」とまでいわれ、説教されて反論も出来ない
知事も前代未聞だろう。もし政府閣僚であれば、大きな外交問題となるとこ
ろだ。それもそのはず石原氏は、この日曜日(九日)に別の暴言によって在
日外国人を恐怖に陥れたため、足下に火がつき反論どころではなくなったか
らだ。この日の陸上自衛隊の記念式典で、彼は九月三日に予定されている地
震防災演習に関連し「今日の東京をみますと、不法入国した多くの三国人、
外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している。・・・こういう状況で大きな
災害が起きたときには大きな騒擾事件すら想定される。・・・そういう時に
皆さんに出動願って、災害の救急だけでなしに、やはり治安の維持もひとつ
皆さんの大きな目的として遂行していただきたい」と発言したのだ。
*「三国人」発言・ドイツなら刑事犯扱い*
「三国人」とは敗戦によって日本国籍を失った朝鮮、台湾などの旧植民地
の人々に示して使用された言葉で、戦後しばらくは日本人の根強い差別意識
から蔑称としても使われた言葉だ。すなわち今日の在日韓国・朝鮮・中国人
とその祖先への差別用語である。石原氏はこの死語を甦らせ、正当な根拠も
なく「外国人が騒擾事件を起こすから軍隊は治安出動すべきだ」と古い偏見
を煽ったのだ。かつて関東大震災で、根拠の無い流言飛語によって数千人も
の朝鮮人虐殺があった東京都の知事の発言とはとても思えない。在日外国人
が恐ろしさに震え上がり、一斉に抗議の声をあげるのは当然のことだ。
もし石原氏が東京と姉妹都市であるベルリンの首長としてこの発言をしたと
すればどうであろうか。彼は直ちに政治生命を失うだけではない。今頃は刑
事責任を問われており、おそらく懲役刑に科せられることになる。
ドイツ刑法第百三十条(民衆扇動罪)には「公の平穏を害するに適した方法
で、1.住民の一部に対して、憎悪を挑発し、あるいは暴力的もしくは恣意
的措置を要請した者は、または、2.住民の一部を中傷し、悪意で侮蔑し、
もしくは誹謗することにより、彼らの人間的尊厳を侵害した者は、三ヶ月以
上五年以下の自由刑(禁固刑)に処す。」とある。在住外国人が「住民の一
部」であることはいうまでもない。この国では石原発言は典型的な言論刑事
犯例となるのだ。
そういえばベルリンにも昔、よく似た首長がいたことがある。千九百三十八
年十一月九日の夜、シナゴーグとユダヤ人商店が焼き打ちされた。この「帝
国ポグロムの夜」を背後で扇動したのは、当時、ベルリン大管区長(ナチ時
代の行政区域の長)であった宣伝相ヨーセフ・ゲッベルスであった。日本で
も彼の再来を防ぐためにつくられた人権擁護立法が必要な時代になっている
ようだ。まずは「東京のゲッベルス」石原知事は辞任すべきだ。もちろん日
本の国益でもあるからだ。
『ドイツニュースダイジェスト』2000年4月29日号
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