keystoneML2000/03

From: "NAKADA Hiroyasu" <nakada_h@jca.apc.org>
To: "keystone" <keystone@jca.apc.org>
Subject: [keystone 2505] 新嘉手納基地爆音訴訟・訴状
Date: Wed, 29 Mar 2000 00:25:59 +0900
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仲田です。
新嘉手納基地爆音訴訟の訴状全文です。原告代理人および原告名は省略。
日本政府宛と米国政府宛がありますが、今回は日本政府宛。

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－

訴　　　　　状

当事者の表示　　　　　別紙当事者目録記載のとおり
代理人の表示　　　　　別紙代理人目録記載のとおり
　　　　　別紙のとおり
　　　　　別紙のとおり
嘉手納基地爆音差止等請求事件
　2000年（平成12年）3月27日
　　　　　　　　　　　上記原告ら訴訟代理人
　　　　　　　　　　　　　　　弁護士　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊

那覇地方裁判所沖縄支部民事部　御中

請　求　の　趣　旨
　　　　　
１　被告は、別紙原告目録記載の全ての原告らのために
　　　アメリカ合衆国をして、
　　　　嘉手納飛行場において、毎日午後７時から翌日午前７時までの間、一切の航空機
　　　を離発着させてはならず、かつ、原告らの居住地において５５ホンを超える騒音と
　　　なるエンジンテスト音、航空機騒音等を発する行為をさせてはならない。
　　　　嘉手納飛行場の使用により、毎日午前７時から同日午後７時までの間、原告らの
　　　居住地内に６５ホンを超える一切の航空機騒音を到達させてはならない。
　　　（予備的に）日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第６条に
　　基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第１８条５
　　項の処理として、アメリカ合衆国に対する前項記載の請求を実現するために、同協定
　　第２５条１項に基づき設置された合同委員会において、アメリカ合衆国と外交交渉を
　　する義務があることを確認する。
２　被告は、
　　　別紙原告目録の旧原告欄に１を付した各原告に対して、金８０万５０００円及びこ
　　れに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払
え。
　　　別紙原告目録の旧原告欄に０を付した各原告に対して、金１１５万円及びこれに対
　　する本訴状送達の翌日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。
３　被告は、各原告に対して、本訴状送達の日の属する月から請求の趣旨１項�腟Ⅵ椶粒�
　　行為がなくなるまでの間、当該月末限り１ヶ月あたり金３万４５００円及びこれに対
　　する当該月の翌月１日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。
４　訴訟費用は被告の負担とする。
　　との判決ならびに１項�茲鮟釮⑱昭更埓觚世魑瓩瓩襦�

　　　　　
第１　原告らの置かれている状況及び本件訴訟の意義
　１　沖縄県は、琉球列島と呼ばれる鎖状の列島で構成された日本最南端の県であり、沖
　　縄、宮古、八重山の３つの諸島に分類される７２の島からなっている。
　　　沖縄県の総陸地面積は約2265平方キロメートルで、日本の総陸地面積の約0.6％に
　　すぎない。
　　　原告らの居住する沖縄本島は沖縄列島に属し、その陸地面積は約1180平方キロメー
　　トル、日本の総陸地面積の約0.3％にすぎない小さな島である。
　２　沖縄は、第二次世界大戦前にはほとんど軍備らしい軍備もなく、平和な島であった
　　が、旧日本軍は、「本土防衛」の名の下に、沖縄に軍事基地を建設していった。
　　　そして第二次世界大戦では、この小さな島である沖縄において、日本史上唯一のか
　　つ最も悲惨な地上戦が繰り広げられた。アメリカ合衆国の軍隊は、その艦隊で沖縄の
　　海を埋め尽くし、「鉄の暴風」と呼ばれるすさまじい艦砲射撃・空襲を行ない、上陸
　　作戦を展開した。この戦闘は、沖縄の住民らをも巻き込み、住民の犠牲者は16万人に
　　も及んだとされている。
　　　アメリカ合衆国軍隊は、沖縄に上陸した後、旧日本軍が建設した軍事基地を次々と
　　占領した。さらにアメリカ合衆国軍隊は、住民らを、次々とキャンプと呼ばれた収容
　　所に収容した状態で、占領した旧日本軍基地を中心に、沖縄住民らの生活の基盤であ
　　った宅地、農地等の土地を次々と占領して、軍の基地を建設、拡張していった。そし
　　て、その基地建設や拡張は、住民らが収容所から一旦開放された後も続けられ、「銃
　　剣とブルドーザー」による暴力的な土地接収により、住民をその居住する土地から追
　　い出し、彼らの土地を収奪していった。以降、平和であった沖縄は、住民の犠牲のも
　　と「基地の島」へと変貌させられた。
　　　このような状況は、1972（昭和47）年、沖縄の施政権がアメリカ合衆国から日本へ
　　返還された後も全く変化はなく、現在も米軍専用施設に限ってみれば、在日米軍基地
　　の約75％が、国土面積のわずか0.6％にすぎない沖縄県に集中している。
　３　嘉手納基地（嘉手納飛行場）も、アメリカ合衆国が、沖縄における地上戦において
　　占領した旧日本軍基地の「中飛行場」を拠点に、さらに周辺住民の土地を接収して建
　　設した極東最大の空軍基地である。嘉手納基地の敷地は、沖縄本島中心部に位置する
　　肥沃かつ平坦な土地であったことから、第二次世界大戦前までは、住民らが宅地や農
　　地等として所有しかつ使用してきた場所であった。
　　　もともと土地が狭く、平野部の少ない沖縄において、アメリカ合衆国が平野部に巨
　　大な基地を建設したため、土地を奪われた住民らは、第二次世界大戦後、嘉手納基地
　　の周辺にしか住宅地を求めることができなかった。この結果、嘉手納基地の周辺に住
　　宅地がへばりつくように密集することとなった。
　　　嘉手納基地は、まさに住宅密集地の中心に建設された基地である。このように、住
　　宅密集地の中心に、巨大かつ危険極まりない外国軍の基地が存在している地域は、世
　　界中のどこを探しても沖縄以外にはない。
　４　嘉手納基地が、沖縄本島中部の中心地域の住宅密集地に存在するため、嘉手納基地
　　を離発着する米軍機の飛行コース下の住宅では120ホンを超える凄まじい航空機騒音
　　が発生しており、このような米軍機の騒音は、嘉手納基周辺に居住する住民らの平穏
　　な生活のみならず健康までも破壊している。嘉手納基地周辺に居住する住民は、米軍
　　機の騒音がまさに住民の命をも奪いかねない殺人的轟音であるとして、「爆音」と呼
　　んでいる。このような状況は、被告国が、日米安全保障条約、地位協定等に基づき、
　　基地の敷地をアメリカ合衆国に提供していることに起因する。
　５　1982（昭和57）年から1983（昭和58）年にかけて、嘉手納町、北谷町、沖縄市、具
　　志川市、石川市及び読谷村に居住する米軍機の「爆音」による被害を受けている住民
　　906名は、早朝夜間等の爆音差止めと爆音による過去及び将来にわたる被害に対する
　　損害賠償を求めて、被告国に対し訴訟（以下、第１次訴訟という）を提起した。
　　　1998（平成10）年、福岡高等裁判所那覇支部は、この第１次訴訟において、爆音の
　　違法性を認め、住民らの過去の損害賠償請求を認容した。しかし、差止め請求につい
　　ては、「被告国には米軍機の活動を規制・制約する権限はない」として棄却する判決
　　を下した。この判決は、差止請求や将来の損害賠償請求を認めない等不当なものであ
　　るが、少なくとも、過去の損害賠償請求を認め、嘉手納基地を離発着する米軍機の爆
　　音が違法であることを認めたものである。直接の差止を命じられていないものの、裁
　　判所によって違法状態であると認定された以上、被告国は、この違法状態を解消すべ
　　くあらゆる措置を講じるべきである。ところが、被告国は、その責務を何ら果たそう
　　としていない。そのため、嘉手納基地を離発着する米軍機の爆音の状況は全く改善さ
　　れず、むしろ嘉手納基地の軍事機能強化に伴ない、一層、爆音被害は深刻化してい
る。
　６　原告らは、爆音地域（ＷＥＣＰＮＬ75以上の地域）に居住する者であるが、静謐で
　　平和な人間らしい生活を取り戻すために、日米安保条約等に基づき嘉手納基地を米軍
　　に提供して米軍に軍用機を運航させている被告国に対し、飛行制限等をするようアメ
　　リカ合衆国に求める（予備的に外交交渉を行うべき義務あることの確認）とともに、
　　過去及び将来の被害に対する損害の賠償請求を求めるものである。
　　
第２　嘉手納基地の概要
　　　嘉手納基地（嘉手納飛行場）の概要は、以下の通りである。
　１　嘉手納基地の状況
　　　嘉手納基地は、沖縄本島中部の沖縄市、嘉手納町、北谷町の３市町にまたがる広大
　　な米軍基地である。基地の北側部分には、２つの滑走路とこれに付帯する誘導路、駐
　　機場、エンジン調整場、格納庫、整備施設等が存在し、南側部分には、司令部、兵
舎、
　　通信施設、住宅、学校、診療所等の施設が存在する。
　２　嘉手納基地の設置、管理の経緯
　　　嘉手納基地は、旧日本陸軍が、土地を接収する等して、1944（昭和19）年9月に中
　　飛行場として開設したものであるが、1945（昭和20年）年4月に沖縄本島に上陸した
　　米軍がこれを占領した。そして、民有地を囲い込んで基地建設を進めた。
　　　戦後、沖縄県はアメリカ合衆国の施政権下に置かれ、嘉手納基地もアメリカ合衆国
　　が管理することになったが、アメリカ合衆国は、軍事力によって土地を囲い込み、基
　　地機能をさらに強化・拡大した。
　　　1972（昭和47）年5月15日、沖縄県はようやく日本の施政権下に復帰した。これに
　　伴い、アメリカ合衆国が強制的に接収した土地の使用権原が消滅するはずであった。
　　しかし、被告国は、任意の土地使用契約の締結ができないために、使用権原のなくな
　　る土地について、「沖縄における公用地等の暫定的使用に関する法律」（昭和46年法
　　律第123号）の制定を強行した。そして、被告国は、これにより嘉手納基地の使用権
　　原を取得したとして、嘉手納基地を、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及
　　び安全保障条約」（昭和35年条約第6号。以下、「日米安保条約」という）及び「日
　　本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区
　　域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」（昭和35年条約第7号。以
　　下、「地位協定」という）２条１項ａに規定される「施設及び区域」としてアメリカ
　　合衆国に提供し、アメリカ合衆国が、地位協定３条に基づき、運営、管理し、航空機
　　の運航等に使用するようになった。
　　　その後、被告国は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約
　　第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の
　　実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」（昭和27年法律第140号）に基づく
　　強制使用の認定を受けて土地の使用権原を取得したとして、嘉手納基地をアメリカ合
　　衆国に提供し続けている。
　３　嘉手納基地の基地機能の変遷
　　　嘉手納基地は、1945（昭和20）年4月の米軍占領後、その周辺の広大な民有地の接
　　収等により、建設・拡大ならびに機能強化された。1950（昭和25）年6月の朝鮮戦争
　　勃発に伴い、同戦争のための爆撃部隊の基地として使用された。1967（昭和42）年5
　　月ころには2本の滑走路が完成し、ベトナム戦争当時は、出撃、補給中継基地として
　　重要な役割を果たした。1968（昭和43）年から1970（昭和45）年にかけてＢ52戦略爆
　　撃機が常駐していた。1991（平成3）年には、フィリピンのクラーク基地閉鎖に伴
い、
　　第353特殊作戦航空団と航空機Ｃ130及び輸送空軍と航空機Ｃ12が、嘉手納基地に移駐
　　するに至った。
　　　現在は、横田基地にある第5空軍指揮下の第18航空団が管理し、Ｆ15イーグル戦闘
　　機、ＫＣ135空中給油機、Ｅ3Ａ空中早期警戒管制機、Ｐ3Ｃ対潜哨戒機、ＨＣ130救難
　　輸送機及びＨＨ3救難ヘリコプター等、実に数多くの航空機が常駐し、戦闘支援、空
　　中給油、偵察、航空管制、通信、救難、物資及び兵員の輸送等を主な任務として、空
　　軍を中心に海軍及び海兵隊等が共同使用する米軍のアジア地域における重要基地とな
　　っている。

第３　嘉手納基地周辺における航空機の爆音等による侵害行為の概略
　　　米軍の軍用機等による住民らに対する侵害行為の概要は、以下の通りである。
　１　航空機の爆音による侵害
　　　原告らは、嘉手納基地を離発着する際の航空機の爆音に日夜さらされてきた。爆音
　　は、航空機が離発着する際に発生するものだけでなく、タッチアンドゴー演習やフラ
　　イト・パス演習の際に発生するものもある。
　　　また、昼夜を問わず駐機場等で行なわれる航空機のエンジンテストによって発生す
　　る騒音や、航空機の移動や飛行前のエンジン調整に伴って発生する騒音等の地上音も
　　ある。
　　　例えば、北谷町砂辺や嘉手納町屋良といった嘉手納基地に近接する地域では60ホン
　　を超える爆音が日に数時間も持続し、90ホンを超える爆音も日に数十回以上発生し、
　　時には120ホン以上にも達するといった激しい爆音にさらされている。
　　　さらに、日中のみならず夜間や早朝の騒音発生回数も異常に多く、原告らの快適な
　　安眠等が妨げられている。
　２　航空機の墜落等の危険
　　　嘉手納基地に配備された航空機の墜落事故や飛行中の航空機からの落下物による事
　　故が多発している。
　　　沖縄の本土復帰前には、1959（昭和34）年に石川市の宮森小学校へジェット戦闘機
　　が墜落し、授業中の児童11名を含む住民17名が死亡し、多数の児童や住民が負傷した
　　事故、1961（昭和36）年に具志川村の住宅にジェット戦闘機が墜落し死者２名、重傷
　　者４名の犠牲者を出した事故、1965（昭和40）年にパラシュート投下演習中にトレー
　　ラーが落下し少女が圧死した事故、1968（昭和43）年に嘉手納基地におけるＢ52戦略
　　爆撃機の爆発炎上事故等、住民を巻き込んだ事故が多発している。
　　　さらに、1972（昭和47）年5月の本土復帰後1998（平成10）年12月末までの間にお
　　いても、実に131件もの墜落等の航空機事故が報告されている。
　　　これらの墜落等の事故は、原告らを含む沖縄県民の記憶に今もなお消えることのな
　　い恐怖感を植え付けている。
　　　原告ら周辺住民は、このような墜落事故や落下物事故等の危険に昼夜を問わずさら
　　されており、そのことが、航空機の爆音に対する不安感や嫌悪感を増幅させる一因と
　　なっている。
　３　排気ガス、振動等の侵害
　　　航空機の飛行やエンジン調整等の際には大量の排気ガスが撒き散らされる。また、
　　航空機の飛行は、原告ら居住家屋に強い振動を与えている。
　４　基地汚染等
　　　その他、嘉手納基地使用に伴うＰＣＢ汚染、山火事、ガス漏れ、石油流出、し尿等
　　による汚染等実にさまざまな基地公害が生じている。また、米軍人による犯罪が多発
　　して周辺住民に不安を与えている。
　　
第４　原告らの被害の概要
　　　前述した侵害行為によって原告ら住民が被っている被害の概要は、次の通りであ
る。
　１　はじめに
　　　原告らの居住する嘉手納基地周辺には、嘉手納基地をはじめとする広大な米軍基地
　　が存在し、原告ら住民は、残された狭隘な土地にひしめきあうように居住している。
　　　また、基地が存在するために地域開発も阻害され、そのことだけでも劣悪な住環境
　　下での生活を余儀なくされている。そのうえ、嘉手納基地を離発着する航空機による
　　爆音や航空機の墜落の危険等によって一層劣悪な環境のもとでの生活を強いられてい
　　る。これらのことによって、原告ら住民は、甚大な身体的、精神的被害あるいは日常
　　生活全般にわたる生活妨害など、深刻かつ多様な被害を被っており、快適な環境で人
　　間として平和にかつ文化的な生活を営む権利（人格権、環境権、平和的生存権）を著
　　しく侵害されている。
　２　沖縄県健康影響調査結果
　　　この嘉手納基地周辺住民の健康被害等についてはいくつかの調査がなされている
が、
　　その最大かつ詳細なものが沖縄県健康影響調査である。
　　　沖縄県は財団法人沖縄県公衆衛生協会に委託して、1995（平成７年）度から1998
　　（平成10）度の４ケ年にわたり、基地周辺の航空機騒音が住民に与える身体的、精神
　　的影響の調査を実施した。沖縄県から上記調査の委託を受けた沖縄県公衆衛生協会
は、
　　山本剛夫京都大学名誉教授を会長とする「航空機騒音健康影響調査研究委員会」を設
　　置し、ＴＨＩ（東大式自記健康影響調査）等のアンケート調査、聴力影響調査、低出
　　生体重児調査、睡眠影響調査、健康特性調査、航空機騒音曝露実態調査等の調査を実
　　施した。
　　　この調査の結果、航空機騒音による聴力損失者12名が検出される等、嘉手納基地周
　　辺の住民は、航空機騒音よる健康被害をはじめとした各種の被害を被り、日常生活上
　　の妨害を受けていることが科学的に明らかにされた。
　３　身体的被害
　　　嘉手納基地周辺住民は、次のような身体的被害を被っている。
　　　　難聴及び耳鳴り
　　　　航空機の異常な爆音等により、原告らは、一時的聴力損失の被害を被り、これが
　　　繰り返されることにより回復不可能な騒音性難聴になる等の被害を受けている。沖
　　　縄県健康影響調査の結果、北谷町砂辺で10名、嘉手納町屋良で2名の合計12名の航
　　　空機騒音による聴力損失者が確認されたが、その疑いのある者、あるいはそのよう
　　　な聴力損失に至る可能性がある者は多数存在する。
　　　　低出生体重児
　　　　航空機の爆音が妊婦に影響を与え、低出生体重児の出生率が有意に高くなってい
　　　る。
　　　　幼児問題行動
　　　　航空機の爆音が幼児の身体や精神に影響を与え、他の地域に比較して問題とされ
　　　る行動が目立つ結果となっている。
　　　　爆音の健康に対するその他の被害
　　　　その他、航空機の爆音によって、頭痛・肩こり・目まい等の症状、高血圧・心臓
　　　の動悸等、胃腸障害等の被害を被っている。
　４　睡眠妨害
　　　航空機が深夜早朝にも飛行するため、原告らの安らかな睡眠が妨害されている。こ
　　の睡眠妨害の結果、原告らの精神や身体に様々な悪影響を与えている。
　５　日常生活の妨害
　　　航空機の爆音によって、実に様々な日常生活上の妨害が生じている。これらは枚挙
　　に暇ないが、一例を挙げれば次の通りとなる。
　　　　　会話や電話妨害
　　　　　航空機の爆音により、家庭、職場及び学校等での会話や電話の通話等が妨害さ
　　　　れている。
　　　　　テレビ・ラジオ等の聴取妨害
　　　　　テレビやラジオが現代社会にとって必要不可欠な情報獲得手段であることは言
　　　　うまでもないが、航空機の爆音によってこれらが妨害されている。
　　　　　趣味生活の妨害
　　　　　航空機の爆音によって、原告らの音楽観賞、楽器演奏、無線通信等の趣味を行
　　　　なうことが妨害されている。
　　　　　家庭生活の破壊
　　　　　航空機の爆音によって、家庭生活の会話が中断され、親子や夫婦間の緊張が生
　　　　じ、不和の原因となっている。
　　　　　交通事故の危険性
　　　　　航空機の爆音によって、車のクラクションが聞こえないとか運転者や歩行者の
　　　　注意力が妨げられ、交通事故の危険にさらされている。
　　　　　学習、思考妨害
　　　　　航空機の爆音によって、学習や読書等の思考力を要する作業が妨害され、重大
　　　　な被害を被っている。
　　　　　職業生活の妨害
　　　　　航空機の爆音によって、職場での意思伝達が妨害され、精神集中が妨げられる
　　　　等職業生活が妨害されている。
　６　精神的被害
　　　航空機の爆音、墜落や落下物の危険等によって原告らが日夜受けているいらいら、
　　不快感、恐怖感等の精神的・情緒的被害は、まさに原告らの健康で平和的かつ文化的
　　な生活を脅かす深刻かつ重大な被害である。そして、この被害が、精神的ストレスと
　　なって、ノイローゼ、神経衰弱等の身体的影響を惹起し、それらが精神的被害を増幅
　　している。
　７　その他の被害
　　　原告らは、航空機の爆音をはじめとする基地公害によって、上記以外にも様々な被
　　害を被っている。
　　　　　落下物等による被害
　　　　　航空機の機上からの落下物によって人身事故を含めて多数の被害が生じてい
る。
　　　　　振動による家屋、家財の損傷、排気ガスによる洗濯物の汚染
　　　　　航空機の爆音や排気によって、家屋が震動して家屋が損傷されている。また、
　　　　家屋内の家財が損傷されている。さらに、排気ガスによって洗濯物が汚染されて
　　　　いる。
　　　　　地価の低下、家屋賃貸の困難
　　　　　航空機の爆音等によって原告らが所有する土地の価格が下落し、賃貸が困難に
　　　　なる等の被害が生じている。
　　　　　療養生活の妨害
　　　　　航空機の爆音によって不眠や疲労が生じ、療養中の者に対して安静を奪うとい
　　　　う被害を与えている。
　　　　　教育環境の破壊
　　　　　航空機の爆音によって児童や生徒の教育環境が破壊されている。
　　　　　地域自治あるいは経済的、社会的環境の破壊
　　　　　嘉手納基地が沖縄本島の中部地域のほぼ中央部に広大な面積を占め、このこと
　　　　によって、周辺自治体の都市形成、産業の振興、交通、土地利用の大きな障害と
　　　　なり、中部地域の有機的かつ統一的な地域開発が阻害されている。

第５　被告国の責任の法的根拠
　　　本件訴訟は、嘉手納基地の航空機の爆音等の侵害行為によって被害を被っている原
　　告らが、嘉手納基地を日米安保条約等に基づきアメリカ合衆国に提供している被告国
　　に対して、
　　(1)　アメリカ合衆国軍隊をして、夜間早朝の飛行を制限し、日中の爆音を制限させ
　　　るようにすること
　　(2)　（予備的に）前項記載の請求を実現するために、被告国がアメリカ合衆国と外
　　　交交渉を行う義務があることの確認
　　(3)　過去及び将来の損害を賠償すること
　　を求める裁判であるが、被告国がこれらの請求に応ずべき根拠は次のとおりである。
　１　差止請求について
　　　原告らは、憲法前文、９条、１３条及び２５条に基づき、人間個人の生命、身体、
　　精神及び生活の利益のような人間としての生存に基本的不可欠な利益の総体としての
　　人格権、国民が健康で快適な生活を維持しうる外的条件であるところの良好な環境を
　　享受し支配しうる権利としての環境権及び平和的手段によって平和状態を維持し、そ
　　の下で快適な生活をする権利としての平和的生存権を保有している。
　　　他方、被告国は、国民の生命、自由及び幸福追求に対する権利（憲法１３条）並び
　　に国民が健康で文化的な生活を営む権利（同２５条）を積極的に保障する義務があ
り、
　　さらに、国民の健康を保護し、より良き生活環境を保全するために公害の防止に関す
　　る基本的かつ総合的施策を策定し、これを実施する責任を有する（公害対策基本法４
　　条）。しかも、被告国は、嘉手納基地の施設提供者として、航空機の離発着等に伴う
　　被害の防止に必要な施設の整備その他必要な措置を実施し、航空機の爆音による被害
　　防止等に努めなければならない責任と義務がある。
　　　ところが、被告国は、米軍により、嘉手納基地周辺の原告ら住民を長期にわたり激
　　甚な爆音にさらし、その健康を害し、生活環境を破壊させてきた。これは、原告らの
　　居住地域における健康で快適な生活を維持し、かつ静穏な環境のもとで幸福を追求す
　　る権利（人格権、環境権ないしは平和的生存権）を著しく侵害するものである。そし
　　て、前述のとおり、このような嘉手納基地の爆音等が違法であると判断した判決が既
　　に確定しているにもかかわらず、これを改善する動きは一切見られない。即ち、被告
　　国は、裁判所の判決によって嘉手納基地の爆音が違法状態であることが明確にされた
　　にもかかわらず、これを放置したままなのである。このような状況では、今後も違法
　　状態が継続されることは明らかである。しかも、前述したとおり、沖縄県健康影響調
　　査の結果身体的被害が生じていることが明白になっている。このような重大な被害が
　　生じている状況において、その違法状態をそのまま放置する被告国の姿勢は到底許さ
　　れない。
　　　このように、人格権、環境権ないしは平和的生存権が侵害され、または侵害される
　　危険が差し迫った場合には、上記権利に基づき直ちにその違法行為の差止めを求める
　　ことができるというべきであるが、ことに上記で述べたように、身体的被害が発生し
　　ていることが明らかにされ、嘉手納基地の爆音が違法であると判断されたにもかかわ
　　らずその違法状態が放置されている場合には、裁判所が差止を認める以外に救済の道
　　がなく、その必要性は非常に高い。
　２　外交交渉義務について
　　　ところで、被告国に対して米軍の行為の制限を求めることは、その支配の及ばない
　　第３者の行為の差止めを求めるものであって、これらをなしうる条約や法令が存在し
　　ないから認められる余地がないとしても、被告国は、このような違法状態の解消を求
　　めるべくアメリカ合衆国と外交交渉すべきである。この点、地位協定１８条５項の請
　　求権について、被告国が義務を負うべき「処理」の１つの方法として、地位協定２５
　　条に基づき設置された合同委員会（日米合同委員会）におけるアメリカ合衆国との外
　　交交渉がある。そして、被告国は、この外交交渉を通じて、米軍の夜間早朝の飛行制
　　限等を求めることができるから、その外交交渉を行う義務があることの確認を予備的
　　に求める。
　３　過去の損害賠償請求について
　　　原告らは、嘉手納基地を離発着する航空機の爆音等によって様々な被害を被ってい
　　るが、その被害による慰謝料として、被告国に対して、民事特別法１条若しくは２条
　　又は国家賠償法１条若しくは２条に基づき、本訴状送達の日の属する月の前月末日ま
　　でに生じた損害の賠償として、次の金額の支払を求める。
　　　　共通損害
　　　　原告らが被っている損害は広範かつ複雑であるので、総体としての被害のうち全
　　　ての原告らに共通して認められる損害として、旧原告（第１次訴訟で原告となって
　　　いた者―別紙原告目録の原告欄に１を付した者）と新原告（第１次訴訟で原告とな
　　　っていなかった者―別紙原告目録の原告欄に０を付した者）に分けて次のとおりの
　　　金額と各金額に対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払
　　　を求める。
　　　　旧原告
　　　　第１次訴訟によって支払を受けた最終月（1997―平成9年12月）の翌月１日から
　　　本訴状送達の日の属する月の前月末日までの間に生じた損害賠償金の内金として７
　　　０万円（弁護士費用を含めて８０万５０００円）
　　　　新原告
　　　　沖縄の本土復帰の日である1972（昭和47）年5月15日から本訴状送達の日の属す
　　　る月の前月末日までの間に生じた損害賠償金の内金として合計１００万円（弁護士
　　　費用を含めて１１５万円）
　　　　弁護士費用
　　　　原告らが本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人弁護士らに委任したが、本件不法行
　　　為と因果関係ある損害額は、共通損害額の１５パーセントである。
　４　将来の損害賠償請求について
　　　原告らが被っている被害は、第１次訴訟による違法状態の確認後も継続しているこ
　　と等の事情から、残念ながら、今後も継続することは必至である。そこで、その将来
　　の損害賠償金としては、原告１人につき、本訴状送達の日の属する月から１ケ月当り
　　金３万４５００円（共通損害として金３万円と弁護士費用４５００円）及びこれに対
　　する各月の翌月１日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める。
　　　
第６　まとめ
　　　よって、原告らは、請求の趣旨記載のとおりの早朝夜間の飛行差止と昼間の爆音の
　　制限という最低限のことを求めるとともに、過去及び将来の被害に対する損害の賠償
　　を求めるために、本件訴訟の提起に及んだものである。

　　　　　　　　　　　　　　　　　添　　付　　資　　料
　１　委　任　状　　　　　各　１　通

　　　　　　　　　　　　　　　　　証　　拠　　方　　法
　第１回口頭弁論において提出する。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以　上

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仲田博康
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2000年　　　　　1月、2月、3月、4月、5月、6月、7月、8月、9月、10月、11月、12月

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