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国連が「反人種差別モデル国内法」の活用呼びかけ


・ 2001年の反人種主義・差別撤廃世界会議に向け、国連ではさまざまな準備が進められているが、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が「反人種差別モデル国内立法」(model national legistration against racial discrimination)を公表。各国に活用を呼びかけている。この反人種差別モデル国内立法は、「国連・人種主義と闘う第2期10年のための行動計画」の一環として準備されたもので、各国で反人種差別法を立法する際の基礎・ガイドラインを各国に提示するためのもの。包括的な差別禁止法のない日本では、今後の人権立法の柱として大いに参考にすべきです。
・ 去る2月19日に開かれた人権フォーラム21規制・救済部会で山崎公士・新潟大学教授(人権フォーラム21事務局長)が研究報告をされたので、以下に、その概要を紹介する。


反人種差別モデル国内立法
(国連・反人種差別モデル法要網)
2000.2.19
仮訳:山崎公士
はじめに
・   反人種差別モデル国内立法(以下、「モデル法」)= 人種差別と闘う行動計画第2期10年のための活動計画の一環として準備された。
・   モデル法の目的= 反人種差別法を立法するさいの基礎・ガイドラインを諸国に提示する。
・   このため、諸国の立法を収集した。

作業方法
◎ モデル法準備のため、以下の諸国の国内法を参照し、反人種差別規定を分析した。
アルジェリア、オーストラリア、オーストリア、ブラジル、ブルガリア、カナダ、チリ、コロンビア、キューバ、キプロス、旧ユーゴ、ドミニカ、エクアドル、エルサルバドル、フィンランド、フランス、ドイヅ、ガーナ、グアテマラ、ハンガリー、インド、イラン、メキシコ、モロッコ、ナミビア、オランダ、ニュニジーランド、ニカラグア、パキスタン、パナマ、フィリピン、ポルトガル、セネガル、スペイン、スウェーデン、トリニダ一ド・トバゴ、トルコ、旧ソ連、アラプ首長国連邦、連合王国、アメリカ合衆国。
◎ これら諸国の国内法の分析においては、まず以下の要素を確認した。
(a) 人権享受における平等と非差別
(b) 人種間寛容・調和の促進機関
(C) 申立て手続
(d) 救済
(e) 刑罰
◎ 第二段階で、国際法上の国家の義務、ならびに反人種差別規定を制定する計画上の国家への要請を考慮し、国内法規定を以下のように総合した。
(a) 原則に関する規定
(b) 予防的規定
(c) 抑止的規定

◎ モデル法の起草にあたり、事務総長は、実体国際法を指針として、人種差別と闘う国家がとる予防的および抑止的行為を考慮に入れた。しかし、特定の国家ではこの両者は相対的なので、モデル法で両者を別の章で提示するのは疑問である(たとえば、犯罪の定義はすなわち予防的機能をもつが、他方で、人種間寛容と調和を促進する機関の設置は、個々の申立てを扱う場合、準抑止的役割を果たしうる)。
◎ 被害者が適切な救済を確保できるよう、事務局は下記の概要に従い、間題点を整理する。
(a) 第1部 定義
(b) 第2部 モデル法上の原則と措置
(c) 第3部 犯罪と刑罰
◎ 人種差別撤廃委員会によるコメントを考慮した事務局改訂のモデル法は、下記の通り。


反人種差別モデル法
<注記>
(1)  ←〔 〕は、人種差別撤廃条約の対応条文等を示す。
(2) 下線部は、モデル法と人種差別撤廃条約の相違点を、またナカヌキ部は、政府公定訳の意図的意訳〔あるいは誤訳〕箇所とこれに対応する正しい翻訳を示す。).


1. この法律の目的は、市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的諸分野、とくに雇用、教育、住居ならびに商品、便宜およびサービスの提供における、個人、集団、公的当局、公的・私的な国家的・地域的機関・組織による人種差別を禁止し、またこれを終了させることである。

第I部 定義
2. この法律において、人種差別とは、人種、皮膚の色、門地又は国籍若しくはエスニック的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限、優先又は不作為であって、国際法上認められた人権及び基本的自由を承認し、平等にこれを享受し又は行使することを、直接又は間接に、妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。
In this Act, racial discrimination shal1 mean any distinction, exc1usion, restriction, preference or omission based on race, co1our, descent, nationality or ethnic origin which has the purpose or effect of nu1lifying or impairing, directly or indirectly, the recognition, equal enjoyment or exercise of human rights and fundamental freedoms recognized in international law.
← 〔人種差別傲廃条約第1条1項(「人種差別」の定義)〕
第1条
1 この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び墓本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。
Article 1
1. In this Convention, the term "racial discrimination shall mean any distinction, exclusion, restriction or preference based on race, co1our, descent, or national or ethnic origin which has the purpose or effect of nullifying or impairing the , recognition, enjoyment or exercise, on equal footing, of human rights and fundamental freedoms in the political, economic, social, cultural or any other field of public life.

3. 国際法上認められた人権と基本的自由の享受と行使に関して、特定の人種、皮膚の色、門地、国籍またはエスニック的出身の個人または集団の適切な進歩を確保する目的の特別措置で、その緒果異なる人種の集団に対して別個の権利を維持することとならず、かつその目的が達成された後は継続されないものは、人種差別には含まれない。
←〔人種差別撤廃条約第1条4項〕
第1条の4 人権及び基本的自由の平等な享有又は行使を確保するため、保護を必要としている特定の人種若しくは種族の集団又は個人の適切な進歩を確保することのみを目的として、必要に応じてとられる特別措置は、人種差別とみなさない。ただし、この特別措置は、その結果として、異なる人種の集団に対して別個の権利を維持することとなってはならず、また、その目的が達成された後は継続してはならない。
Artic1e 4
4. Special measures taken for the so1e purpose of securing adequate advancement of certain racial or ethnic groups or individuals requiring such protection as may be necessary in order to ensure such groups or individuals equal enjoyment or exercise of human rights and fundamental freedoms shall not be deemed racial discrimination, provided, however, that such measures do not, as a consequence, 1ead to the maintenance of separate rights for different racial groups and that they shall not be continued after the objectives for which they were taken have been achieved、

第II部 一般原則と措置

A 一般原則

4. 上に定義した人種差別はこの法律上犯罪である。 ←〔人種差別撤廃条約第4条(a)・(b)〕
5. すべての人間は、人種差別に対して法律による平等の保護を受ける権利を有する。
←〔人種差別撤廃条約前文第4段落〕。 これには、人種差別に対する効果的な救済への権利、ならびに人種差別の結果として被ったあらゆる損害に対する公正かつ適正な賠償その他の満足〔公定訳では、救済〕を求める権利が含まれる。
←〔人種差別撤廃条約第6条〕
6. 国家は人種差別に反対する政府(注;連邦国家
を念頭に置いていると思われる)、全国および地方の政策とプログラムを促進する措置(定義の3)頁に記した特別措置を含む)をとるものとする。
←〔人種差別撤廃条約第2条1項〕
7. 国家は、市民的、政治的、経済的、社会的および文化的分野における人種差別、とくに雇用、教育、住居、ならびに商品、便宜およびサービスの提供、健康および栄養における、人種差別と闘う措置(公務員等によるあらゆる行政行為に関しては、第皿部D.に従って)をとるものとする。

B. 制裁(penalty)と補償(compensaition)

8. 第皿部A,B,C,D,E,FおよびGに列挙される犯罪(offences)は、訴追対象とされる。
9. 人種差別の犠牲者は、被ったすべての被害に
ついて、公正かつ適正な賠償(reparation)その他の満足(satisfaction)を受ける権利をもつ。
10. 犯罪は次の手段によって罰せられる。
(a) 禁固
(b) 罰金
(C) 公職に選出される権利の停止
(d) 異なる人種集団間の良好な関係を促進するための社会サービス
11. 人種差別の犠牲者に対し、弁償(restitution)および/または補償の手段によって、賠償がなされる。弁償や補償は、人種差別による危害や損失に対する支払い、出費の返済、サービス提供または権利の回復、ならびに、第皿部A,B,C,D,E,FおよびGに列挙される犯罪の犠牲者への不利な影響を除去・軽減するため一定期間とられる措置、の形でなされる。被害者は、加害者(offender)の費用による発行部数の多い機関での司法的決定の公表や同様の手段による被害者の回答権の保証のような、その他のあらゆる満足手段を利用する権利も有する。
12. 被害者は賠償の追求に関し自らの権利につき正しく情報提供されるものとする。

C .申立て手続

13. 個人や集団は、この法律にもとづき、人種差別の苦情を申立てることができる。人種差別行為以前に存在した法人で、人種差別と闘う目的を持つものも、この法律にもとづき、被害者または被害者であると申立てる者のため(またはその同意を得て)の申立てなどの、人種差別の苦情を申立てることができる。
14. 第皿部に定義する人種差別行為に関する苦情申立ては適切な司法機関に提起し、またはその他の国内的救済手続に付託される。司法機関は、公序を脅かす人種差別行為に関し、白動的管轄権を持つものとする。
15、 この法律は、人種差別の被害を申立てる者が、適切な地域的および国際的機関にその苦情を申立てる権利を害するものではない。ただし、これらの申立ては国際法にもとづく許容条件に従うものとする。
16. この法律にもとづく人種差別行為は、(同一性格のその勉の行為)に適用される訴訟規則に関する法律に従うものとする。

D. 反人種差別国内当局

17. 高いモラル基準と公平性を備えた専門家からなる独立した反人種差別の国内委員会(以下、「委員会」)を設置する。
18. 委員会の委員は、委員会の独立性と衡平な人種的・地理的代表を確保する方法で任命される。
19. 委員会は、人種差別に関するあらゆる事柄を検討し、決定する権限をもつものとする。
20. 委員会は以下の機能をもつものとする。
(a) この法律の実施を検討し、審査すること
(b) 私的・公的団体に勧告的意見を与え、またこれら団体によるこの法律の実施や人種差別撤廃のためのその他の措置を支援すること
(c) 特定分野におけるこの法律の実施に関する行動綱領を準備(または準備を支援)すること(かかる行動綱領は、権限ある立法機関によって採択されると、拘束力をもつようになる)
(d) この法律の改正や人種差別と闘うため必要なその他の借置を権限ある立法機関に提言すること
(e) 異なる人種集団間の良好な関係を促進し、奨励するため、情報と教育を提供すること
(f) 活動について(権限ある立法府に)年次報告すること
(g) 被害に対する苦情申立てを受理すること
(g) 申立て者のためまたは自ら、調査を実施すること
(h) 申立て者のためまたは自ら、伸介者として行動すること
(j) 申立て者のためまたは自ら、訴訟を提起すること
(k) この法律にもとづき裁判所に訴訟を提起した申立て者に法律扶助と法的支援を提供すること
21. 委員会は全国に管轄権をもつものとする。委員会は各国の国内行政組織に従い、地方、国内地域、全国レベルで代表される。委員会はさまざまな活動分野に関し可能な限り専門的な知識と経験をもつものとする。


第III部 刑罰と制裁

A. 言論・表現の自由の行使として犯され人種差別犯罪

22. この法律にもとづき、かつ国際法に従い、表現および言論の自由ならびに平和的集会および結社の自由は、以下の制限に従うものとする。
23. 人種差別または僧悪を生じさせ、あるいは生じさせる企てと合理的に解釈される言葉または行動によって、個人や集団を脅かし、侮辱し、あざけるなどの侵害行為、または個人や集団に対するこういた行為の煽動は、犯罪とされる。
24. この項に列挙される行為が人種差別という緒果をもたらす場合には、人種差別行為を煽動し、または僧悪を生じさせる企てと合理的に解釈される言葉または行動によって、個人や集団を脅かし、侮辱し、あざけるなどの侵害行為をした者は、人種差別行為を生じさせた者の共犯者とみなされる。
25. 第I部に列挙した人種的理由の一つにもとづく個人または集団の名誉毅損は、犯罪である。
26. 人種差別を煽動する目的の考えや理論を表明または含意するものを、出版、放送、展示その他の社会的意思伝達手段で広報し、または結果として広報することは、犯罪である。
27. この部の23-25項に列挙される行為は、公の場または私的な場でなされたかを間わず、犯罪を構成するとみなされる。

28.私的な住層・内で起きた行為で、その場にいた証人が一人または数人の場合には、犯罪を構成しない。

B. 暴力行為と人種暴力の煽動(incitement)

29. この法律上、人種を理由とする個人もしくは集団に対する暴カ、または他者へのかかる暴力行為の煽動は、犯罪である。

C. 人種主義団体と活動

30. 個人または集団に対し人種差別を促し、煽動し、宣伝しまたは組織する団体は、違法と宣言し、禁止されるものとする。
31. 個人または集団に対し人種差別を促す目的または効果をもつ活動を組織することは、犯罪である。
32. この部の30項に関し、人種差別行為時に当該組織で代表もしくは事務局長その他類似の立場にあった者、またはかかる資格で行動しもしくは行動したとされる者は、当該組織が法人格を有するか否かに拘わらず、この法律上の犯罪を犯し.たものとみなされる。
33. 32項にもとづく犯罪を犯した者は有罪とみなされる。ただし、当該行為者が知識または同意なく人種差別行為を犯し、かつ人種差別行為を防ぐため利用可能なあらゆる手段を相当の注意をもってとったことを立証できる場合は、この限りでない。
34. この部の30項にいう禁止された団体の活動に故意に参加することは、犯罪である。
35. 人種差別行為を犯す個人、集団または団体を、金銭その他の手段で故意に支援することは、犯罪である。

D. 公務員が犯す人種差別行為

36、 公務員その他国家のため働く者、および公的事業所、国営企業もしくは公的当局から財政援助を受ける法人の従業負が、人種を理由として、個人または集団が権利、特権または便宜を享受するのを否定するのは、犯罪である。

E. 場面別人種差別行為

<1. 雇用における人種差別行為>

37. 人種を理由とする以下の行為は、犯罪である。
(a) 空席の職への適正がある個人もしくは集団の雇用を拒否し、または雇用を控えること。
(b) 個人または集団に、同一環境かつ同一資格で他の個人または集団が利用できた、同一の雇用・労働および訓練機会、ならびに昇進を提僕もしくは用意するのを拒否し、または避けること。
(C) 同じ仕事で雇用されている他の被雇用者が解雇されない環境で、個人を解雇すること。
38. この部の規定は、雇用者によって契約上他の個人や事業にその労働力が提供される個人や集団にも適用される。

<2. 教育における人種差別行為>

39. 人種を理由とする以下の行為は、犯罪である。
(a) 個人または集団が、あらゆる形式のあらゆるレベノレの教育を受けるのを否定し、または制限すること。
(b) 個人や集団が質の劣る教育を受けるのを許すこと。
(C) 個人または集団に分離教育を提供すること
(d) 個人または集団のため分離教育制度や機関を設置し、またはこれを維持すること。

<3. 住居に関する人種差別行為>

40. 人種を理由とする以下の行為は、犯罪である。
(a) 個人または集団が、財産の提供条件でこれを賃貸借し、購入し、売買その他の方法で所有権を取得もしくは処分し、または財産を利用する機会を否定もしくは制限すること。かかる財産を求める個人または集団の待遇につき上記の否定または制限をする行為も同様である。
(b) 財産の管理に関し、在住者に便宜や施設を与え、かかる便宜や利用を否定し、またはこれに関連する故意の不作為をし、かかる財産の利用条件について在住者を追い立てるなど、その在住者を区別すること。

<4. 商品、施設およびサービスの提供における人種差別行為>

41. 人種を理由として、個人または集団に商品、施設またはサービスを提供するのを拒否し、または故意に控えるのは、犯罪である。同じ理由で、個人または集団に、同じ質または同一条件で商品、施設またはサービスを提僕しないことも、犯罪である。
42. この節の規定は、次の施設およびサービスに適用される。
(a) 公衆が立ち入り、利用できる場所
(b) ホテルなどの宿泊施設
(C) 銀行および保険会杜、ならびに融資、補助(grant)、信用保証または資金供与などのサ一ビス
(d) 娯楽、余暇または気分転換のための施設および場所

F. その他の人種差別行為

43. 第I部に定める人種差別行為で、第皿部で特定の刑罰が規定されていないものも、この法律上犯罪とみなされる。

G. 被害者の保護と司法の妨害

44、 人種差別の被害者または被害を受けたと申立てる者を脅迫し、その者が現行の救済手続に従いこの法律にもとづく手続を通じて救済を得ようとする努力を.妨害するのは、犯罪である。


以上


 

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