300L0043

人種および民族的事由を問わない平等待遇原則適用に関する2000年6月29日の理事会命令 2000/43/EC


 欧州首脳理事会は
 欧州共同体設立条約そして特にその13条
 委員会提案
 欧州議会意見
 経済・社会委員会意見
 地域委員会意見
               に基づき、

(1) 欧州連合条約は欧州連合市民間におけるより密な連合創造プロセスの新しい段階をつくりだしている。
(2) 欧州連合条約第6条に従って、欧州連合は自由、民主主義、人権と基本的自由の尊重、法の支配、加盟国に共通な原則に基づき成立し、欧州人権条約で保障され、加盟国に共通する憲法的伝統より生じ、また共同体法の一般原則である基本権を尊重せねばならない。
(3) 法の下の平等およびあらゆる人を差別から守る権利は加盟国全てが署名しているところの世界人権宣言、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、市民的および政治的権利に関する国際規約と経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約で認められた普遍的権利を構成する。
(4) 結社の自由を含め、これらの基本的権利と自由を尊重することは重要である。またモノとサービスへのアクセスとそれらの提供という文脈からしても、モノとサービスより生じるところの労働業務と個人や家族生活の保護尊重も重要である。
(5) 欧州議会は欧州連合内における反人種主義に関する数多くの決議を採択してきた。
(6) 欧州連合は人種区分の存在を決定するような考え方は否定する。この命令で用いる“人種的事由”という言葉はそのような考え方の許容を意味するものではない。
(7) 1999年10月15,16日のテンペレ会合で欧州首脳理事会は委員会に人種主義・外国人排斥に対する闘いに関する欧州共同体条約13条適用提案を出来るだけ迅速に進めるよう依頼した。
(8) 1999年12月10,11日のヘルシンキ会合で欧州首脳理事会が同意した雇用ガイドライン2000は、民族的マイノリティといった集団に対する差別撲滅を目的とした一連の包括的政策を形成することにより、労働市場も含めた社会状況整備の必要性を強調している。
(9) 人種、民族的事由に基づく差別は、特に高水準雇用獲得や社会保護、生活水準とその質の向上、経済および社会的結合・連帯といった欧州共同体条約の目的を阻むものである。
(10) 委員会は1995年10月、人種主義・外国人排斥・反ユダヤ主義についての話し合いを開始した。
(11) 閣僚理事会は人種主義者や外国人排斥的な行為からの防御に関する効果的な     司法協力確定のため加盟国によってとられた人種主義・外国人排斥撲滅に関する1996年7月15日のジョイント・アクション(96/443/JHA)を採択した。
(12) 人種、民族的事由を問わない、全ての人の参画を認める民主および寛容社会 の発展のため人種・民族的起源による差別分野における特別行動が被雇用者・自営業者の活動へのアクセスのみならず、教育や社会保障、健康管理、社会給付といった社会保護とモノとサービスへのアクセス、供給といった領域にも効果を及ぼす。
(13) 結果として、この命令の効力がおよぶ領域に関する人種・民族的事由によるいかなる直接的・間接的差別も共同体内では徹底的に禁止される。この差別禁止は第三国国民にも適用されるが、国籍に基づく待遇差異や偏見のない第三国国民の入国、居住条項や雇用、就職へのアクセス条項については効果を及ぼさない。
(14) 人種、民族的事由を問わない平等待遇原則を適用するにあたり、共同体は共同体条約第3条2項に従って不平等を撤廃し、特に女性はしばしば多様な差別の犠牲者となることから、男女間の平等を促進することを目的とする必要がある。
(15) 直接的、間接的差別といわれてきたものが国内法規則やその実施により国内司法もしくは他の国内担当機関の管轄問題とされてきたであろうという推測がはたらく。このような国内規定は特に間接的差別を、統計的根拠に基づくものも含め何立証することにも役立つと思われる。
(16) 人種的、民族的事由に基づく差別から全ての自然人を保護することは重要である。そしてまた、各加盟国はその国内的伝統と実施に従った適用措置が可能なところでは人種的、民族的事由により苦痛を受けている構成員のいる法人の保護も与えるべきである。
(17) 差別禁止は特に人種的、民族的集団の帰属ゆえに被害を受ける不利益を防止もしくは補償することを目的とした手段の維持と採用を偏見無く実行することにつながり、そのような手段は人種的、民族的集団に属する人々の特別な欲求促進を主要目的とした組織体編成も許容しうる。
(18) 非常に制限された状況内での、待遇差異はその人種的、民族的事由に関する特質性が真正なものであり、かつその職業的必要条件決定に際して、その条件と目的が釣り合い、かつ合法的である場合は正当化されうる。そのような状況については各加盟国より委員会に報告がなされなければならない。
(19) 人種的、民族的事由に基づく差別を受けた者には十分な法的保護が与えられねばならない。保護、組織あるいは法実在をより効果的な水準で提供できるように、各加盟国が行っているように補償に関する国内手続き規定や裁判所手続きにおいて偏見なく犠牲者の利益やサポートに取り組めるようにしなくてはならない。
(20) 平等原則の効果的適用は犠牲者への十分な司法的保護を要求する。
(21) 立証責任諸規定は明らかな差別事件であり、平等待遇原則が効果的に適用される場合に用いられるべきで、立証責任は当該差別の証拠がもたらされた際に被告側に課されるべきである。
(22) 加盟国は裁判所やその他の担当機関が事件の事実内容調査をするときの手続きの中にも立証責任規定を置く必要はない。このような手続きにおいては原告側に事実証明責任が課されることはなく、裁判所や他の担当機関が調べることになる。
(23) 加盟国は様々な形態の差別に取組み、それらを撲滅するため社会参画者間での対話や非政府組織との対話を促進させねばならない。
(24) 人種的、民族的事由に基づく差別からの保護それ自体は可能な解決策探求そして犠牲者への具体的な援助を提供するためにこういった問題を分析することのできる、各加盟国内にある諸機関の存在によって強化されることができる。
(25) 当命令は最低限の要求しか置かず、各加盟国により適切な条項の導入や支持といった追加事項を委ねる。当命令の適用はすでに各加盟国によって到達されている状態の退行を正当化するものではない
(26) 加盟国は当命令の義務違反があった場合、効果的で合目的的かつ抑止力のあるサンクションを与える必要がある。
(27) 各加盟国は雇用者側と労働者側の双方の要求に基づき、彼らに団体交渉の範囲内にある当命令の適用を委ねることができる。その場合加盟国は彼らが当命令から生じる結果の保障を常時確保できるよう、必要なすべての手段を講じなくてはならない。
(28) 欧州共同体条約5条にある補充性原則と比例性原則に従って当命令の目的、つまり全加盟国における差別からの保護の共通高水準確保は加盟国によっては十分に達成できず、ゆえに適用範囲や提案行動のインパクトからして共同体によってよりよく達成されることができる。当命令はその目的達成に必要な限度を超えてはならない。

以上のことに合意した

1章 一般条項

第1条
【目的】
当命令の目的は各加盟国に平等待遇原則を効果的に導入するという視点の下、人種、民族的事由に基づく差別の撲滅に対して枠組みを作成することである。

第2条
【差別概念】
1 当命令の目的にあたり、
  平等原則は人種的、民族的事由に基づく間接的、直接的差別がないことを意味するものである。
2 1項の目的にあたり
  (a)直接的差別とはある人が他の人より不当に取り扱いを受ける、または人種的、民族的事由に基づいて生じた相対的状況の中で取り扱いを受ける場合のことを指す。
  (b)間接的差別とは一見した所、中立的規定、中立的基準や中立的実行であっても人種的、民族的事由を有する人にある不利益をもたらすような場合を指す。ただし、それらの規定、基準や実行が正当な目的に基づき、かつその目的を達成するのに適切で必要性のある手段を用いる場合は客観的に正当化される。
3 ハラスメントは、人間の尊厳を傷つける、および脅迫、敵対、卑下、侮辱を与える、もしくは不快な環境を作り出す目的や効果をもって望ましくない行為を行ったとき、1項で意味するところの差別としてとらえられる。こうした文脈で、ハラスメント概念は各加盟国の国内法と法実施に従って定義される。

 第3条
 【範囲】
  1 共同体に与えられた権限の範囲内で、当命令は公的機関も含め、以下のような機会における公的および私的領域にいる全ての人に適用される。
   (a)昇進も含め、全ての活動部門と職業階級の全段階において、基準選択や条件要求といった、雇用、自営、就職へのアクセス条件
   (b)実務経験を含め、あらゆる形態・レベルでの職業指導、職業訓練、高等職業訓練、再訓練へのアクセス
   (c)免職や賃金も含めた雇用と労働条件
   (d)労働者組織や被雇用者組織やそのような組織により供される利益を含め、その組織構成員が特定業務を行う組織への加盟や参加
   (e)社会保障や健康管理を含む社会保護
   (f)社会上の利益
   (g)教育
   (h)住居など、大衆が享受できるモノとサービスへのアクセスと供給

  2 当命令は国籍に基づく待遇差異と加盟国領域にいる第三国国民や無国籍者の再入国や居住に関する偏見のない条項や条件、第三国国民や無国籍としての法的地位による待遇に対しては効力を及ぼさない。

 第4条
 【公正と職業的要請】
   2条1項、2項とは反対に、加盟国が人種、民族的事由によって生じる待遇差異を当該職業活動特有の性質、もしくはその待遇差異があってはじめて人種的、民族的特質に対して公正さと職業的要請を構成するという意味でその目的が正当化し、当該職業的要請との釣り合いを認めた場合は差別を構成しない。

 第5条
 【積極的措置】
   完全平等達成を実際に確保するため、平等待遇原則は加盟国が特有の措置を維持し受け入れることを妨げてはならず、人種的、民族的事由ゆえに不利益を受けた人への補償も妨げてはならない。

 第6条
 【最低限要請】
  1 加盟国は当命令に記されているものよりも平等待遇原則保護に適切だと思われる条項を導入し補足することができる
  
  2 当命令に関わる分野において加盟国によって既に取り組まれている反差別への保護水準を低下させる理由づけとして、当命令の適用が構成されることは、いかなる状況であっても許されない。



2章 救済と履行

第7条
 【防御権】
  1 加盟国は、その差別関係を推測されうる状態が既に終了している場合であっても、平等待遇原則が適用されなかったことにより苦痛を受けている全ての人に有益となる当命令下の義務を履行するため。調停手続きが適当な場合も含め、司法かつ(または)行政上の手続きを整備しなくてはならない。
  2 加盟国は、国内法にある基準に従い、当命令条項を確保するという正当な利益を満たす団体、組織、法的資格を有する者が、当命令下の義務を履行するために整備された全ての司法かつ(または)行政手続きにおいて個人の申立に際し、その人の便を図ったり訴訟の助けを与えることができるようにしなくてはならない。
  3 1項、2項は平等待遇原則に関する訴訟申立の有効期限を定めた国内規定にも偏見なく適用されなければならない。

 第8条
 【立証責任】
  1 加盟国は必要と認める限り、その国内法体系に基づいて平等待遇原則が適用されていないことにより苦痛を受けていると主張する人が裁判所やその他担当機関に、直接的または間接的差別があったことの事実を訴えた場合、被告側に平等責任原則違反がなかったことの立証を課すという手段をとる。
  2 1項は各加盟国がより原告側に有利と思われる証明方法の導入を何ら妨げるものではない。
  3 1項は刑事訴訟に適用されてはならない。
  4 加盟国は裁判所もしくはその他の担当機関がその事件事実を調査するときには1項を当該訴訟に適用させてはならない。

 第9条
 【犠牲】
   加盟国は訴訟申立や平等待遇原則に従うことを命じる訴訟の反応として原告に不利な取り扱いや不利な結果が生じないような方法を、国内法体系の中に、必要と認める限り導入する。



 第10条
 【情報の普及】
   加盟国は既に実施されている類似の条項と共に、当命令に従って採用された条項をその領土内にある人に適切な手段で知らしめるよう努めなければならない。
 

 第11条
 【社会対話】
  1 加盟国はその国内伝統や実行状況に従って、勤務場所の状況、団体協定、契約、経験や好ましい実例の調査、交換状況を監督するなどして、平等待遇原則を促進させる目的で経営者側と被雇用者の双方の社会対話を推進させる適切な措置を講じなくてはならない。
  2 国内伝統や実行状況が備わっていれば、加盟国は3条で言及されている分野での反差別規定を定めた協定が団体交渉の場で締結されるよう、偏見のない経営者と被雇用者の自治を推進させるよう努めねばならない。

 第12条
 【非政府組織との対話】
   加盟国は、国内法や法実施に従って、平等待遇原則を促進させる目的をもって人種、民族的事由による差別の反対に貢献する正当な利益を有している非政府組織との対話を推進しなくてはならない。

3章 平等待遇促進機構

 第13条
  1 加盟国は全ての人に人種、民族的事由による差別のない平等待遇原則を促進する機関を創設しなくてはならない。これらの機関は人権擁護もしくは個人の権利保護といった国内レベルで創設されたものの一部門として捉えることもできる。
  2 加盟国は当機関の以下に列挙する権能を確保しなくてはならない
    −偏見のない犠牲者の権利と、差別を訴える際の被害者への個人的助言を含め、7条2項で言及されている団体、組織、法的資格者の権利
    −差別に関して個別調査を実行すること
    −そのような差別に関わるあらゆる問題への個別報告を作成し、勧告を行うこと

4章 最終条項

 第14条
 【応諾】
   加盟国は以下のことを確保するために必要な措置を講じなくてはならない
(a) 平等待遇原則に反する法律、規定と行政文書の廃止
(b) 個別および団体協定や現行国内規定、利益団体、非利益団体に関する規定、職業別組合および労働組合、雇用主組合規定に含まれる平等待遇原則に違反する条項の無効宣言、もしくは不適用


第15条
 【制裁】
   加盟国は当命令に基づいて採択された国内条項違反へのサンクションを定めた規定を置かねばならず、そのサンクション適用確保に必要なあらゆる手段を講じなければならない。サンクションは、被害者への賠償金支払いも含め、効果的でかつ合目的および抑止力のあるものでなければならない。加盟国は遅くとも2003年6月19日までにこれらの規定を通知し、それに派生する修正条項も同様に遅滞なく通知されなければならない。

 第16条
 【適用】
   加盟国は2003年6月19日までに当命令を受け入れるために必要な法律、規則および行政文書を採択しなくてはならない。もしくは団体協定の範囲にある条項に関する当命令の適用については経営者、労働者の双方の要請に基づき彼らに委託することもできる。そのような場合、加盟国は2003年6月19日までに経営者、労働者双方の合意による必要措置導入を確定しなくてはならず、加盟国はそれらの措置が常時当命令により生じる結果を保障する状態になるよう必要措置を講じることが要求される。その措置も直ちに委員会に報告されなければならない。

 第17条
 【報告】
  1 各加盟国は2005年6月19日までに委員会に状況を報告し、その後5 年ごとに委員会が議会、閣僚理事会に当命令の適用について提出する報告書に必要な情報全てを提出しなくてはならない。
  2 委員会報告は社会参画者や非政府組織らの見解とともに、人種主義、外国人排斥に関するヨーロッパ監視センターの所見も参考にしなくてはならない。また、ジェンダー思想に従い、当報告もとりわけ男女間問題に採られた措置の影響評価も加えなければならない。与えられた情報の範囲内で、必要とあれば当命令の修正や更新を提案してもよい。

 第18条
 【施行日】
   当命令は欧州共同体広報の公表日をもって施行日とする。



 第19条
 【名宛人】
   当命令の名宛人は各加盟国である。

        2000.6.29 ルクセンブルク


 

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