第155回国会 法務委員会 第5号
平成十四年十一月十二日(火曜日)
午前十時開会
─────────────
出席者は左のとおり。
委員長 魚住裕一郎君
理 事
市川 一朗君
千葉 景子君
荒木 清寛君
井上 哲士君
委 員
岩井 國臣君
柏村 武昭君
佐々木知子君
陣内 孝雄君
中川 義雄君
野間 赳君
江田 五月君
鈴木 寛君
角田 義一君
浜四津敏子君
平野 貞夫君
福島 瑞穂君
本岡 昭次君
事務局側
常任委員会専門
員 加藤 一宇君
参考人
東亜大学通信制
大学院教授 塩野 宏君
日本民間放送連
盟報道問題研究
部会部会長
日本テレビ放送
網株式会社報道
局長 石井 修平君
弁護士
全国犯罪被害者
の会代表幹事 岡村 勲君
弁護士
日本弁護士連合
会国内人権機関
に関するワーキ
ンググループ座
長 藤原 精吾君
全国自由同和会
会長 茗荷 完二君
人権フォーラム
21事務局長
新潟大学法学部
教授 山崎 公士君
─────────────
本日の会議に付した案件
○人権擁護法案(第百五十四回国会内閣提出)(
継続案件)
─────────────
○委員長(魚住裕一郎君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
人権擁護法案を議題といたします。
本日は、本案の審査のため、お手元に配付の名簿のとおり、六名の参考人から御意見を伺います。
まず、午前中に御出席いただいております参考人は、東亜大学通信制大学院教授塩野宏君、日本民間放送連盟報道問題研究部会部会長・日本テレビ放送網株式会社報道局長石井修平君及び弁護士・全国犯罪被害者の会代表幹事岡村勲君でございます。
この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。
参考人の皆様方から忌憚のない御意見をお聞かせいただきまして、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
議事の進め方でございますが、まず塩野参考人、石井参考人、岡村参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただきまして、その後、各委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。
なお、念のため申し添えますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと存じます。
なお、参考人の方の意見陳述及び答弁とも、着席のままで結構でございます。
それでは、塩野参考人からお願いいたします。塩野参考人。
○参考人(塩野宏君) 塩野でございます。本委員会において審議中の人権擁護法案について意見を申し述べる機会を与えられ、大変光栄に存じております。お言葉に甘えまして、着席のまま発言させていただきます。
私は、人権擁護施策推進法に基づき設置されました人権擁護推進審議会の会長として、同審議会の進行を仰せ付かったものでありますが、人権擁護法案は、審議会の人権救済制度の在り方に関する答申を踏まえたものと理解しております。
そこで、本日は、審議会答申の取りまとめに当たった立場から、法案についての意見を申し上げることといたしますが、最初に、答申の基本的構想を御紹介いたします。
すなわち、答申は、公権力によるものであれ、私人間のものであれ、人権の侵害に対する救済は、日本国憲法の下においては裁判所によるのが原則であるが、それのみによっては必ずしも効果的な救済が期待できない場合があるということから、裁判所による救済を補完するため、簡易、迅速、柔軟な行政上の救済が必要であるという基本認識に立っております。
ただ、人権侵害は多様性に富むことから、すべての侵害事案に同じ手法によるのではなく、相談、あっせん等による簡易な救済と、調停から訴訟援助にまで及ぶ積極的救済の二つに区分し、後者の対象となるのは、自らの人権を自ら守ることが困難な状況に置かれている被害者としたものであります。さらに、私人間における人権侵害については、人権相互の関係に十分配慮すべきものであるということも答申の根底に横たわっている認識であります。
答申は、このような積極的救済を担う行政機関として、通常の行政から独立し、職権行使の独立性が確保された委員会組織が必要であり、これに加えて、委員会の事務を補佐する事務局体制を整備し、これに専門性を加えた職員等を全国的に適切に配置することができるようにするということが肝要であるとしております。
さらに、人権擁護委員については、この委員会を中心とする人権擁護制度の重要な一部を成すものであると位置付け、新たな適任者確保の方策等につき提言いたしました。審議会の立場からいたしますと、今回の法案は、基本的にこの審議会答申の趣旨に従って立案されたものと評価しております。
この点をもう少し具体的に、若干の主要論点に絞って述べたいと存じます。
まず第一に、簡易な救済と積極的救済の区別及びそれぞれの区分に対応した救済手法を用意するという救済の基本的構想については、法案は、二つの区分に立った上で、救済の手法と調査の手法を答申の趣旨に即して定めたものと認識しております。
第二に、積極的救済の具体的対象であります。すなわち、さきに述べました自らの人権を自ら守ることが困難な状況に置かれているという場合のその状況とは具体的にどのようなものであるかであります。これについては、審議会の審議の過程において、公権力によるものであれ、私人間のものであれ、差別、虐待の被害者がそれに当たるという点については意見の一致を見ていたところであります。その上に立って、法案は、四十二条一項一号から第三号までに、答申に即して更により厳密に対象を明らかにしたものというふうに考えます。
なお、差別について審議会で種々議論の対象となりましたのは、差別表現に関するものでありまして、これが特定個人に対する侮辱、名誉毀損に当たる場合は積極的救済の対象となるわけでありますが、外国人入店お断りの看板、今日の新聞でその問題の地裁の判決を私も見ましたけれども、こういったものであるとか、さらに、部落地名総鑑のように社会的身分に係る多数の者の属性に関する情報を公然と摘示するような行為については、調停等の個別具体的な被害者に焦点を当てた手法、これでは有効に対処することができません。
他方、この問題は表現の自由に関係してくるところがあります。そこで審議会では、このような差別表現について何らかの方策を立てる必要があるということまでは意見の一致を見ましたが、具体的、法技術的提案にまで至らず、答申としては表現の自由の保障に配慮した具体的手法を考慮すべきものとして、政府の検討にゆだねたところであります。
法案では、四十三条で必要な措置を講ずる必要のある行為を明らかにするとともに、六十四条、六十五条で具体的な手法を用意しておりますが、そのうち、特に六十五条に定める人権委員会による差別助長行為の差止請求訴訟、これは表現の自由に配慮しつつ人権擁護をするための新たな手法として評価に値するものと考えます。なお、いわゆる集団誹謗的表現については、答申では表現の自由に配慮して救済手続の対象としなかったこと、法案もこれについては定めていないことを付け加えておきます。
人種差別撤廃条約は、人種差別を扇動するような言動については刑罰をもって対処すべきことを条約締結国に求めており、現にそのような罰則を伴った差別表現禁止条項を有する国は先進諸国の中にも見られますが、表現の自由との関係から、これについては留保を加えている我が国の従来の対応にもかんがみ、この点に十分配慮した結果、集団誹謗的表現に対する特別の制度の創設をすることをいたしませんでした。法案もこのような考えに立っていると解されます。
マスメディアによる人権侵害については、まずメディア側の自主規制による対応に期待するという点では、当初から審議会委員の意見の一致していたところであります。しかし、犯罪被害者とその家族、少年の被疑者等に対するプライバシー侵害や過剰な取材活動については、これらの人々が自らの人権を自ら守っていくことが困難な状況に照らし、自主規制の取組にも配意しながら積極的救済の対象とすべきことを提言しております。
これは、表現の自由、報道の自由の保障の観点に立った上で、審議会の審議の途中にも生じた幾つかの深刻な具体的事例、メディア側の自主規制の当時の状況に照らして導かれた審議会としては、当時においてはぎりぎりの選択でありました。なお、審議会として議論を重ねた結果、この問題については人権機関の強制的調査権限の対象から外したことも付け加えておきます。
なお、付言いたしますと、私人間の人権侵害に係る場合には、一方の側の人権に配慮する必要があることは審議会の基本的認識に属することであります。この点について、法案は八十二条で法律の運用に当たっての人権相互の配慮義務を定めており、これは適切な処置であると存じます。
この点に関して、法案では、四十二条第一項第四号で報道機関等のする人権侵害の要件を細かく定めるとともに、第二項で自主規制の尊重を定め、かつ四十四条で特別調査除外規定を定めております。こういった規定は答申の趣旨をわきまえて立案されたものと考えるわけであります。
第三の点は人権救済機関の組織体制であります。
答申は、冒頭に述べましたように、独立性を有する委員会の設置と地方における組織体制をも有する事務局の整備を提案しております。明言はしておりませんけれども、答申に述べられているところは、講学上、学問を講ずる、講学上の行政委員会、つまり行政組織法第三条に定める委員会に対応するもの、そのものではありません、対応するものを示唆しております。
この点について法案は、第五条以下において、新たに設置されるべき人権委員会を国家行政組織法第三条第二項の委員会とした上で、職権行使の独立性や身分保障の定めを置くなど、答申の趣旨に沿ったものとなっております。また、地方事務所等を有する事務局の設置も定めております。
なお、この事務局の職員の任免権は人権委員会に属するというのが審議会答申に含まれたものであり、法案の定め方もそれに沿っていると解されます。
行政委員会制度が議院内閣制を取る日本国憲法の下において果たして認められるものかどうか、仮に認められるとしても、合議体による意思決定に伴う問題点はないかといったことが戦後の早い時期から議論の対象となっておりました。しかし、憲法学及び行政法学等の学問分野においては、その合憲性及び合目的性については現在では多数意見の支持するところとなっております。
そして、この点は、平成九年十二月の行政改革会議最終報告でも確認されたところでありまして、同報告書によりますと、行政委員会については、従来、事務の性質上、その処理に当たって、公正中立や専門技術性等を必要とするため、内閣から独立した地位にある機関に行わせる必要がある場合に設置されてきたが、今後とも、このような趣旨から、行政委員会を活用することとされております。今般提案を見ている人権救済事務は、正に内閣から独立した行政委員会をもって当てることに最もふさわしいものであると考えられ、その実現が是非とも望まれるところであります。
行政簡素化を旨とする行政改革の流れの中で、地方の事務局まで有する独立の行政委員会の設置が実現するのかどうか、実は私、危ぶんでいたところがございましたけれども、関係者の努力の結果、このような形で実現を見ることに大きな意義があると考えております。
もっとも、審議会としては、委員の数、地方事務所の設置場所まで具体的な提案をしているわけではありません。この点について、委員が全部で五人、委員長を含む二名が常勤で残りが非常勤という構成につきましては、審議会で議論したとしてもいろいろの意見があったところと推察されます。
また、十六条第三項から見ますと、現在、法務局が置かれているところには組織的にも委員会の直属の地方事務所が置かれることとなりますが、地方法務局レベルでは、委員会直属の組織ではなく、地方法務局長への事務の委任として処理されております。この点については、地方法務局の改組まで言及していた答申の趣旨はそのままでは生かされておりません。審議会の立場からいたしますと、地方組織の充実強化について、政府全体の、立法当局も含めて政府全体の理解を今後より深めていただきたいと存ずる次第であります。
以上が第三の点であります。
申し上げるべき第四の点は人権擁護委員制度であります。
人権擁護組織体制としては、人権擁護委員制度をどのように改善するかが重要な論点の一つでありました。その際、現在の人権擁護委員制度が不活発ではないかという批判にも十分配慮いたしました。そこで、この際、改めて人権擁護委員制度の存在意義にさかのぼって検討したところであります。
現在の人権擁護委員制度は、日本国憲法施行後間もない昭和二十四年に制定された人権擁護委員法の下で、基本的人権の擁護、自由人権思想の普及高揚という高い目的を掲げて発足したものであります。当時の文献を読んでみますと、そういった趣旨がひしひしと胸に伝わってくるものがございます。
審議会は、この制度発足の基本的な理念を再認識するとともに、人権問題が複雑化し、新たな人権課題が生起している今日に適合するよう現行法を改めて、人権擁護委員に外国人を選任することができるようにすることなど、適任者確保の方策、災害補償について国家公務員と同等にすることなどの人権擁護委員の待遇改善方策を提言いたしました。
この点について法案は、第三章におきまして、人権擁護委員は人権委員会に置くということを定めるとともに、答申の趣旨に沿って所要の規定を置いていると認識しております。
最後に、第五点として、人権委員会が所掌すべき人権啓発活動、政府への助言活動を取り上げております。
審議会一貫して、人権啓発と人権救済は車の両輪であるということを基本としてまいりました。そこで、新たに設置される人権委員会においても人権啓発をその所掌事務とすること、さらに、人権委員会が救済、啓発に係る活動の過程で得た経験、成果を政府への助言活動を通じて政策に反映させていくことの重要性を指摘した次第であります。
この点につきまして、法案は、第六条で人権委員会の所掌事務として救済と並んで啓発を列挙するとともに、第二十条で内閣総理大臣を始めとする関係行政機関の長、更には国会に対する意見提出権を定めております。
以上のように、本法案において審議会意見に沿った制度的枠組みは整ったと存じますが、要は、現実的にも国民の信頼に十分こたえ得る今後の運用にあるわけで、審議会に参画した者といたしましては、できるであろう人権委員会のこの面における活動に注目してまいりたいと存じます。
以上でございます。御清聴ありがとうございました。
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
次に、石井参考人にお願いいたします。石井参考人。
○参考人(石井修平君) 本日は、意見表明の機会をいただきまして、魚住委員長始め当委員会の委員の皆様に御礼を申し上げます。
報道被害につきましてはいろいろ厳しい御批判、御指摘を受けておりますけれども、その重みを十分受け止めつつ意見の陳述を行いたいと存じます。
では、座って失礼をさせていただきます。
私は、本日、民放連の報道問題研究部会の部会長という立場で意見を述べさせていただいております。この報道問題研究部会といいますのは、表現の自由、報道の自由にかかわる様々な問題について機動的に対応するために民放連の報道委員会に設置されているものでございます。在京テレビ局五局の報道局次長クラスをメンバーといたしております。
本日は、人権擁護法案の中の報道にかかわる部分について意見を申し述べます。この法案のほかの問題点、名古屋刑務所におきます事件を引き合いに出すまでもなく、人権委員会の独立性や実効性等についての議論があることはよく承知しておりますけれども、本日は、民放連を代表する立場で報道にかかわる部分について意見を申し上げます。
まず第一は、人権救済システムの必要性は理解をしておるということでございます。我々は、この人権擁護法案と、もう一つ個人情報保護法案については、知る権利を抑圧するという観点、おそれから異議を申し立てているわけでございますが、この法案の趣旨については十分理解をしております。
日本には、人権を侵され、虐げられている人がまだ大勢いることは事実でございます。先住民族のアイヌ、在日韓国・朝鮮人、被差別部落出身者、あるいはHIV感染者、あるいは体が不自由であるということだけで差別を受けているといったような実態があることも十分承知をしております。また、児童養護施設、刑務所、入管施設の中での虐待の問題も明らかになっております。
しかしながら、こういった問題が迅速かつ簡便に救済されるという仕組みが現在の日本にないことも事実でございます。したがって、時間や費用などの点で難しい面のある司法による救済に加え、こうした人々の迅速な救済を図るための新たなシステムができるのであれば、これは歓迎すべきことであるということでございます。
次に、取材、報道による人権侵害と報道機関の自主的な取組についてでございます。
今申し上げたことを基本にこの法案について考える前に、まず我々が日々行っている報道活動が結果として個人の名誉、プライバシーを侵害、また取材活動の過程で取材対象者の平穏な生活を乱すというケースがあることは事実でございます。本日御出席の岡村先生を始め、報道被害に遭われた方からの御批判は謙虚に受け止めたいというふうに痛切に感じております。
しかしながら、これらの問題については、報道機関は自ら襟を正し、問題の発生を予防し、また起きてしまった場合には自主的に解決をすると。そして、やむを得ない場合には裁判を通して問題の解決を図るということが原則と考えております。
自主的取組に関しましては、民放連とNHKは、BRO、放送と人権等権利に関する委員会機構を一九九七年に設置をいたしました。そして、放送による権利侵害の救済を行っており、集団的過熱取材、いわゆるメディアスクラムにつきましても去年の十二月に対応策を打ち出して、新聞界とも手を携えまして問題の発生を予防し、発生してしまった場合には速やかに解決するという取組を行っております。
BROにつきましては、お手元に年次報告書や今年度上半期における活動状況を紹介する資料を配付させていただきました。十八ページだと思います。その資料をごらんに是非なっていただきたいんですけれども、お手元の資料、八ページにもありますように、新聞協会と民放連は昨年十二月に相次いで見解を発表し、今年一月から本格的にメディアスクラムについての対応も行っております。
民放連が調査したところでは、今年一月から六月にかけて六つの対応事例がございました。資料の十三ページに例示してございます。取材対象者からの要請を受けたり、現場に集まった記者の判断の中で代表取材を行ったり、慎重な取材を申し合わせたりしております。これまで特に問題の多かった通夜や葬儀の際の取材につきましても、例えば三島市の女子短大生殺人事件におきましては葬儀の場の取材を代表取材として混乱を回避いたしました。
また、最近では、北朝鮮拉致被害者の帰国に際しまして、無用の混乱を避けるために、北朝鮮による拉致被害者家族連絡会と北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会からの要請を受けまして、民放連と新聞協会で節度ある取材を行うことを申し合わせております。これは資料の十五、十六ページに記載されております。これを受けまして、東京では例えば在京社会部長会、新潟と福井ではそれぞれの報道責任者会議が中心となって、被害者の自宅周辺の取材を代表取材にする、あるいは自宅から離れたところに取材ポイントを置くということで、被害者の方の日常生活をできる限り乱さないようにしながら取材に当たっております。
被害者や家族の方の気持ちや意見を知り、その上で政府の姿勢や方針を考えるという、国民の関心にこたえることと被害者の方の平穏な生活をできるだけ乱さないという双方の課題にこたえる取材が、あるいは報道ができていると考えております。
こうした取組のほかにも様々な取組を行っております。各社における報道ガイドラインの整備充実、民放連における記者研修会の開催、この場では報道被害者の方、本日お見えの岡村先生にも二回にわたり報道被害に遭われた経験を語っていただいておりますし、桶川ストーカー事件の被害者の猪野さんにも出席をしていただいております。こういった研修会を開催して記者の意識を高める教育を行っております。
以上のことを前提に、人権擁護法案の全体的な問題点を是非考えていただきたいと思います。
人権擁護法案についてですけれども、まず申し上げたいことは、差別、虐待と並んで、報道による人権侵害が特別救済の対象となっている異様さについてでございます。先週の法務委員会における法務省の答弁では、この法案は同和問題の解決という国内的な流れを受けたもので、国連規約人権委員会の見解を直接に受けたものではないが、この勧告を踏まえた内容になっているとのことでした。
そこで、国連の規約人権委員会の見解の内容を確認してみました。日本の問題点として挙げられているのは次のようなものです。例えば、在日韓国・朝鮮人に対する差別、アイヌに対する差別、同和問題、出入国管理手続中に収容されている者に対する暴力、セクシュアルハラスメント、起訴前勾留の長期化、弁護士の接見交通権の制限、代用監獄制度、自白の強要に対する懸念、刑務所内での不当な取扱い等でございます。その多くが公権力、つまり公の権力による人権侵害の事例であります。もちろん、報道による人権侵害に関する記述は一言もございません。
ところが、人権擁護法案を見ますと、国又は地方公共団体職員による虐待が特別救済の対象となっているだけで、国連から指摘をされた広範囲な人権侵害の救済については私人間の問題と同列に扱われています。逆に、報道については特別に条項が設けられております。極めてバランスを欠いており、正直に、率直に申し上げて怒りを感ぜざるを得ません。
次に、法案の具体的な問題点についてでございます。
法務省のホームページには人権擁護法案におけるQアンドAというのが掲載されております。この中で、我々報道機関の懸念について、ほぼ網羅的に法務省側が反論されておりますので、その幾つかに再反論を試みたいと思います。
法務省は、報道被害に関する救済の対象を、特に弱い立場にあり、泣き寝入りせざるを得ないことの多い犯罪被害者等に対する報道による著しいプライバシー侵害と過剰で生活の平穏を著しく害する取材の二つに限定したと主張されています。確かに、法案の上では、文言の上では、「私生活に関する事実をみだりに報道し、その者の名誉又は生活の平穏を著しく害する」とか、電話やファクスを「継続的に又は反復して行い、その者の生活の平穏を著しく害すること」などと、様々な形容詞を付け、対象となる行為が限定されているようにも見えますが、著しい、あるいは過剰、みだりといった極めてあいまいな概念でこの問題を取り扱うことの不当性を我々は是非指摘したいと思います。
森山法務大臣は、四月二十四日の参議院本会議で、その後も法務省側の答弁はこの基調で行われているわけですけれども、民主党の福山議員の質問に答え、電話やファクシミリをどの程度繰り返せば過剰な取材になるのかと、個別事案の判断となるのかという質問したことに関して、森山法務大臣は、個別事案の判断となるということで、結局のところ人権委員会の判断による部分がかなり多いことを認めております。
また、少年被疑者や性犯罪の被害者の実名を挙げる、それを露骨に表現するといった、基本的にはごく普通のメディアであればあり得ない事例、極めて極端な事例を挙げて報道被害の実例としていることについても納得いきません。
その人権委員会も、委員が中央に五人しかおらず、事務局の裁量によるところが大きくなることは十分予想されます。
また、法務省は、政治家や官僚の疑惑に関する取材が制限されるのではないかという批判に対し、犯罪の疑惑を追及されている政治家や官僚に対する報道取材が特別救済の対象になることはないと。一方、政治家や官僚の家族に対する報道取材は特別救済の対象となるが、家族を事件関係者として取材する場合は対象とはならないという説明をされていますが、これは机上の空論と言わざるを得ません。
疑惑の政治家の取材は容易なものではありません。その家族が事件に関係しているのかしていないのか、そのことがあらかじめ分かっているのではなく、丹念な取材を通して関与が明らかになるというケースもございます。事件関係者としての取材なのか、単なる家族への取材なのか、そういう区別をあらかじめ付けることはできません。取材の実態を全く理解していないと言わざるを得ません。人権委員会の事務局の職員が取材の可否の判断に深くかかわる結果にもなりかねません。これは全く容認できないことであります。
外務省と鈴木宗男被告の関係を挙げるまでもなく、官僚の方は政治家からの圧力に弱いところがございます。圧力が加わらないという保証はございません。我々報道機関というのは、これまで人権擁護については極めて重要なテーマとして取り組んでおります。この姿勢を、これまでずっと取り組んでいながらこのような法律の対象にされることについては全く納得がいきません。
以上申し述べましたように、非常に多くの問題があり、報道に携わるあらゆる人間が反対をしております。
最後に、是非、皆様におかれましては、私の意見でメディアの意見を聞いたということではなくて、更に幅広い報道機関の声を聞いていただきたいというふうに思います。民放連は、原点に戻って一から出直すべきだと、それは公権力が表現の自由、報道の自由を侵す危険性を取り除くことから始まると声明を出しております。この点を是非受け止めていただきたいと思います。
最後に、報道被害で御迷惑を掛けた方々に改めておわびを申し上げるとともに、その防止につきましては、新聞協会とも協力し、全力を挙げる所存、決意でございます。
もう後戻りはあり得ません。どうか我々の主張にも御理解をいただきたいと存じます。
本日は意見陳述の機会を与えていただき、ありがとうございました。
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
次に、岡村参考人にお願いいたします。岡村参考人。
○参考人(岡村勲君) 岡村でございます。本日はわざわざお呼びいただきまして、誠にありがとうございました。
それでは、着席したまま発言させていただきます。
犯罪被害者は様々な被害を受けるのでありますけれども、その中でも報道被害というのは実に立ち上がれないような痛みを与えるものでございます。
私の例で申しますと、私は、仕事の上で私を逆恨みした男によって私の身代わりに家内が殺害されたのでありますけれども、私が夜中に帰ってみますと、玄関のところに家内が倒れて、もう冷たくなっておりました。それで、すぐ一一〇番をしたわけでありますけれども、警察が来るのが早いのかマスコミが来るのが早いのか、あっという間に私は取り囲まれてしまいました。警察が玄関の前には綱を張ってくれたので、その中におればまだ安全でしたけれども、もうパチパチパチパチ、フラッシュの音ばかりすると。まるでイナゴが天から降ってきたような感じがいたしました。そして、買物にも行けません。家族の者が、あるいは親戚の者が買物に行こうとすると、マスコミが付いてきていろいろと取材をする、フラッシュをたく。そういうことで、食べ物はセブン―イレブンから運んでもらって生活をしたりいたしておりました。また、お通夜のときも、本来なら表を開けて通夜をすれば短時間で片付くのですけれども、マスコミの方々がカメラを持ってやぐらを組んだように待ち構えているものですから、表の雨戸を全部閉めて、勝手口から入って勝手口からお帰りいただきました。三日間ほとんど寝ていない上にそういうお通夜をしたものですから、もう心身ともに疲れ果ててしまったわけでございます。
また、先ほどお話が出ました桶川の猪野さんのケースはもっとひどいものでした。ストーカーということで、報道機関に取り囲まれ、お葬式に行くにも、その前を黒塗りの車で待ち構えられて、遠回りして斎場に行ったために決まった時間から随分遅れたということでございます。そしてまた、斎場には親戚の人が来るための駐車場を用意していたんですけれども、これも報道機関が全部占領して、親戚の方々、知人の方々ははるか遠い路上に止めて、歩いて参加したということでした。そして、それから帰ってこられると、だびに付して帰ってこられると、もう報道機関に取り囲まれて、なかなか家にも入れないような状況だったということでございます。そして、しばらくたって、学校へも子供が行かなければいけないということで学校へ行こうとすると、玄関口でぱっとフラッシュをたかれる、おびえてお子さんも学校へも行けなくなってしまったということであります。そして、ワイドショーで実名入り、地名入り、写真入りで半年くらいも報道されたものですから、家の前は観光地のようになってしまったということで、大変な深い痛手を負われております。
また、池袋の通り魔事件でお嬢さんを失った御家族の方、この方も、報道機関に取り囲まれて家に入ることもできず、登山のときに使う殺虫用のスプレーを持って歩かれた、これ以上近づくとスプレーを掛けるぞと言って家の前を歩いたということでございました。そしてまた、斎場から帰った夜は、あるテレビ局からルポライターかディレクターが見えて、犯人を捕まえた、犯人が捕まったから、その捕まえてくれた人と対談をしろということを強要されました。いつまでたっても帰らないものですから、帰ってくれと押し出そうとすると、暴行罪だと言われる。それで一一〇番を呼んで警察へ電話をしたというようなことであります。それをテレビ局に抗議をしても取り合ってもらえない。たまりかねて乗り込んでみると、責任者は会わないし、報道しない取材についての問題は取り上げないと言って断られたと、こういうようなこともございました。
私どもの会は、平成十二年一月に発足いたしましたが、発足以来、事あるごとに私どもはその報道機関による人権侵害について是正を訴えてまいりました。どうか報道機関の方々は、自分の家族が被害に遭ったならばどこまで取材を許容しますか、そこを基準に判断をして取材をしてください、こういうことを何回も何回もお願いをしたわけですけれども、なかなか良くなってまいりません。報道機関の方々もいろいろ工夫はされているようですけれども、いまだ十分な手当てはできていないようであります。
また、内容については、護国寺の幼稚園の殺害事件については、お受験という誤った形で報道され、被害者は著しく名誉を毀損されました。後で訂正されても、最初にそういう報道がされますと視聴者にはその報道がインプットされてしまって、後で訂正してもらってもなかなか名誉を回復することは難しいのであります。
BRO、BRAというのもありますけれども、しかし、これは報道された内容についてだけであって、しかも、まずテレビ局と話し合って、それで話が付かない場合に来なさいということであります。内容についてしか審議しませんし、日本でも一か所しかない。地方にある人たちがその機関へ申し出るということはおよそ不可能なことであります。また、そのBROやBRAの存在すら皆知ってはおりません。
このような中で、更に私が大変驚いたことがあります。それは、今年の九月二十三日に、北朝鮮で拉致をされた疑いがあるということを言われた甲府の女性の御家族のところに報道機関が殺到したということであります。夜も昼も報道機関が押し掛ける。たまりかねて地元の報道機関に訴えたところ、地元の報道機関は協議をして、地元の者にはそういうふうな者はいないけれども県外の報道機関がそういうふうなことをしているということで、民間放送連盟、新聞協会その他に警告をしてくださったということでありますが、その申入れの内容は、通常時には深夜、早朝の取材はしないことと、勝手に自宅に侵入取材はしないことと、こういう申入れをしたということで私は大変驚いたんです。
深夜、早朝の取材はしない、これは当たり前のことであって取り立てて言うべきことではありません。常識の問題です。深夜、早朝でなければ幾ら押し掛けてもいいのかということであります。また、勝手に自宅に侵入して取材してはならないとは何事でしょう。これも当たり前。この当たり前のことをわざわざ放送連盟や新聞協会に地元の新聞社が、報道機関が申し入れた。これは九月二十三日のことであって、私は十月の新聞でそれを知りました。今、この人権擁護法案が問題になっているこの時期にまだこの程度の申入れ、申合せしか行われていないということに私は驚愕した次第でございます。
それやこれや考えますと、私は、人権擁護法案四十二条一項四号に掲げられていること、これは是非とも法律化していただきたいと思うのであります。生活に関する事実をみだりに報道し、その者の名誉又は生活の平穏を著しく害すること、それから、取材を拒んでいるにもかかわらず、継続、反復して生活の平穏を害すること、こういう行為は、これは普通の人間であってもやられては困ることであって、立ち上がれないような痛手を受けている弱者である被害者に対してはなおさらのこと、これは慎んでもらわなければならないことであります。先ほど著しいとか過剰なとかいうあいまいな言葉があると言いましたけれども、これは、こういう表現はどの法律にも書かれておって、この法案だけではございません。至る所の法律にある用語でございます。
また、私は、裁判をすればいいと、裁判所でそういうような被害、報道被害は訴えればよいとか言われますけれども、裁判所に行くということは大変なエネルギーが要るのです。私自身が民事の損害賠償の裁判は起こせませんでした。この勝手なことを言う加害者を相手にまた民事で付き合うのかというと私は気力がなくて、時効中断の内容証明までは出しましたけれども、ようやらなかったと。一般の人は裁判をするということはなかなかやれるものではない。遺族の中でも裁判を起こす方はかなり時間がたってからやっとの思いで起こしているのであります。そういう面で、簡易に我々の被害を調査して、行き過ぎがあれば勧告、公表するというこういう制度は是非作っていただきたいと思います。
私は、報道機関の役割は高く評価しております。報道機関によって悪が摘発され人権が守られたというケースも数多くあります。報道機関はそういう使命を持っておられます。この法律が成立した後も、報道機関に従事する方々が、自分が被害者になったならば、どこまで取材や報道内容を許すのかという見地に立って、立派なルールをどうか作っていただきたい。そうなればこの法律が発動されなくて済むことにもなるでしょう。私はそういう良識を報道機関の方に期待をいたしております。
表現の自由とか報道の自由といいますけれども、弱い者をいじめる自由はないはずです。何よりも、理不尽な犯罪に遭って嘆き苦しんでいる被害者に対して、どうか襲い掛かることはおやめいただきたいのです。
そして、被害者も訴えたいことがあります。私は事件犯罪の、必要性を疑いません、これはやはり、なぜこの犯罪が起こり、その背景は何か、それを除去するにはどうすればいいかということで、犯罪の報道の必要性を思いますけれども、これはしばらくたって被害者が元気になったときにどうぞ聞いてください。被害者だって訴えたいことは山ほどあります。しかし、その訴える気力を持つためにはある程度の時間が必要なんです。それを是非報道機関の方も御理解をいただきたいと私は思います。
そういう面で、この法律は是非とも成立させていただきたいということをお願い申し上げます。
どうもありがとうございました。
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
以上で参考人の意見陳述は終わりました。
これより参考人に対する質疑を行います。
質疑のある方は順次御発言願います。
○佐々木知子君 おはようございます。自民党の佐々木知子でございます。
今日は三人の参考人の先生方、お忙しいところ、どうもありがとうございました。
マスコミで本法案の問題とされている論点、大まかに言って三点になろうかと思います。一点は、人権委員会の独立性に関して、その置き場所、具体的には法務省に置くか内閣府に置くか。二点目は地方組織の在り方。三点目は報道被害の取扱いについてということです。ここでは三点目について専らお尋ねしたいと思います。
まず、塩野参考人にお伺いしたいんですけれども、本法案が一定の報道被害を特別救済の対象としていることにつきまして、一部報道では、自民党と政府が結託して犯罪被害者保護を名目にして、その実メディア規制をたくらんでいるかのように言われております。確かに、自民党におきましては過熱取材による犯罪被害者等の人権が著しく侵害されている状況を重く見て、何らかの対処措置が必要との認識の下、政務調査会の下に報道と人権等のあり方に関する検討会を設置し、平成十一年三月以降十回にわたって検討を重ねました。私もそのメンバーでありまして、同年八月に出した報告書の作成にもかかわっております。
ですが、人権擁護推進審議会の中間取りまとめや答申につきましては何らかのかかわりも持っておりませんし、検討段階におきまして同審議会の審議を念頭に置いたこともなく、いかなる働き掛けもしていないということを強くここで言っておきたいですし、そこの点について是非確認をしておきたいと思います。
同審議会が報道被害の問題を取り上げた経緯と、そしてその際に自民党や政府から働き掛けがあったのか否か、お答え願いたいと思います。
○参考人(塩野宏君) まず、経緯について申します。
審議会が発足しましたのは平成九年五月でございました。審議会としては、当初、我が国の人権状況について把握しなければいけないということで、各種人権課題に対する関係団体からのヒアリングをしておりました。ところが、その間におきまして、いわゆる東電OL事件であるとか、それから神戸連続児童殺傷事件であるとか、あるいは、ここで申し上げるのはいささか申し訳ないんですけれども、弁護士夫人殺害事件などの刑事事件が発生いたしました。これらをめぐる報道あるいは報道体制が著しい人権侵害に当たるのではないかという強い印象を審議会委員が持たれたというふうに思います。それが事の発端ではないかと記憶しております。
ただ、当時は、平成九年、最初の二年間は教育啓発についての諮問が先行しておりましたので、それを中心に検討しておりましたので、救済の在り方については後に改めて取り上げることといたした次第でございます。
そして、平成十一年以降、救済制度の検討に入った段階で、本日この席にも来ておられます岡村さんを犯罪被害者会の代表ということでお招きし、報道被害の実情をお聞きするなどして、メディアによる人権侵害の問題を検討した次第でございます。これが委員会における審議の経緯でございます。
なお、私、審議会の会長として、審議をするときに一番常に注意しておりますのは、審議会で表明された記録、あるいは事実に基づいて審議を重ね、それに基づいて最終的な結論に至るというのを、年寄りなものですから、会長あるいは司会役を仰せ付かることがたまたまございますけれども、それを旨としております。
そして今、委員からのお尋ねにつきまして申しますと、その過程において自民党又は政府からの働き掛けは、審議会に対してはもとより、私、会長あるいは塩野個人に対して一切ございませんでした。
○佐々木知子君 ありがとうございました。
本法案をメディア規制法だとして批判する人たちの中には、そもそもこのような救済を図るだけの立法事実、つまり報道被害の実情がないということを言われる方もおられます。しかし、岡村参考人がるる述べられておりますように、すさまじい報道被害の実情ございますし、石井参考人もその事実自体は認めておられるようでございます。ですから、自主的に取り組むべきだという意見表明をなされたというふうに理解されています。もちろん、私も報道機関が自主的に規制できればそれにこしたことはないのでありまして、何もこのような法律を作る必要はないというふうに考えております。
ただ、残念ながら、そういうふうな自主的規制を待っていたのでは過熱取材を止められないということで、こういう法律を作るということになったのだというふうに理解しておるわけですが、今、岡村参考人が述べられましたように、このたび甲府市の拉致の疑いが報道されると自宅周辺に約四十人の取材陣が殺到して苦情が来たと。このため、地元の新聞やテレビ、通信など十三社の責任者で作る山梨編集者会は、まず一点が通常時に深夜、早朝の取材はしない、二点目が勝手に自宅に侵入する取材はしないとする県外のメディアに求める対策内容をまとめたということは、これ毎日新聞十月五日付けの朝刊で報道されております。
こういうような実態なのですが、これでも自主的規制が可能であるというふうに石井参考人はお考えでしょうか。お答え願いたいと思います。
○参考人(石井修平君) 私は、それこそが正に自主的な対応というふうに考えております。
もちろん、北朝鮮に拉致されたという問題について、極めて重要な問題について、拉致されたと疑われるケースがあるという状況が起きたときに、逆にお尋ねしますが、メディアが一体その事実について取材しないということがあり得るでしょうか。これはございません。
ただし、深夜、早朝の取材、あるいは勝手に人のうちに上がり込む、これは許されないことは事実でございます。私どもは、その辺との微妙なバランス、ぎりぎりの調整をしながら取材活動に当たる、ただし、問題が生じたときはこれに対する対応を自主的に行うということが基本だというふうに考えております。
私たちは、この問題について当然だと言うつもりは全くございません。結果として生じてしまったことについてはきちっと対応するということも一つの自主的な対応の表れだというふうに考えておりますし、これからもそれをやりたいというふうに思っております。
○佐々木知子君 甚だしく認識が異なっているというふうに考えざるを得ないわけですが、犯罪被害者はもちろん、たとえ犯罪者であれ取材に応じなければいけないという義務はないわけです。そこの点を私はメディアの方々は履き違えておられるのではないかというふうに思うわけですが、この点、岡村参考人、いかがお考えでしょうか。
○参考人(岡村勲君) 私も同様でございます。
何ら答える義務はないわけであります。公的な問題ではないし、プライベートな問題について朝から晩まで責め立てられる義務は全くないと私は思っております。
なお、付言させていただきたいんですが、この法案では、私は保護対象が不十分だと思っております。近隣の人も、被害者の近隣の人も是非保護対象に加えていただきたい。私の例で言いますと、近所の人たちも、ピンポン、ピンポンやられ、もう一週間どうしようもなかった、上がり込んでこられたと、こういう話を聞いたために、私は一軒一軒おわびして回りました。何も私がおわびする必要はないのですけれども、しかし、岡村のためにひどい目に遭ったというようなうわさを聞きますので、人間関係を円滑にするためにおわびして回ったと。同様に、お菓子を持って回ったという被害者もおられます。そういうように義務の、ちょっと脱線いたしましたけれども、追加して言わせていただきました。
○佐々木知子君 ありがとうございます。一般の方々はそのように私は考えておられると思います。
メディア規制法だと批判される理由は他にもいろいろございます。これもまた塩野参考人にお伺いしたいんですけれども、一つは、メディアが萎縮してしまうおそれと言われております。一つには、人権委員会が恣意的に過剰取材だと判断するおそれも言われております。また一つには、公人に対する報道が阻害されるおそれ、また一つには、他国にはこのような法的制度がないというようなことでございますが、これらの批判についてはどのようにお考えでしょうか。
○参考人(塩野宏君) まず、萎縮効果ということの意味ですが、なかなか厳密に考えると難しいことですが、私なりに理解をいたしますと、制度ができたときに、その運用の結果、その制度の相手方の活動を不当に抑制させるあるいは不当に抑止するという、そういうものと理解をいたします。
この場合のメディアに対する関係でございますけれども、これは四十二条の四号に掲げられているものでございまして、そのうちの四十二条四号のイは、これは言わば事後の、報道された事後のことに関するものでございまして、そうしますと、ここで萎縮するというのは、報道について何事かが勧告があり、更には裁判で審理されるということになると、同種の事案についてはこれを差し控えるというようなことになったときに効果があるという、そういうふうな話になります。それから、ロの方は、当該活動自体についてそれをやめなさいというような勧告がありますというようなことでありますが、この事案が重なりますと、同種の事案のようなことについては一種差し控えると、あるいは遠慮するというように、それこそ自粛するというような意味での効果はあります。
ただ、それらがいずれも今申し上げたような萎縮効果、不当に本来自由な活動を抑止するということになるかどうかと申しますと、委員御案内のように、不法行為、当然これは不法行為の対象となります。私の知識でも、いわゆるプライバシーの侵害と、そして損害賠償責任の対象となるものはこれよりももっともっと広いものでございますけれども、特別救済の対象ということで、これだけ絞り込んだということでございまして、当然、不法行為の対象となるというものでございます。そして、今申し上げたことと関連いたしますが、被害の対象者が限定されているということでございます。
それから、要件が絞られているということでございます。この要件の縛り方につきましては、この答申の段階では過剰な取材、プライバシー侵害や過剰な取材というようなことを言っていたわけですけれども、これについてはいろいろ考えた末、こういった規定ぶりにしたということで、この規定の文言等についてはいろいろな見解があろうかとも思いますけれども、私の理解では審議会答申を更に絞り込んだという、それはもちろん報道の自由についての配慮あるいは取材の自由活動についての配慮ということに由来するものであろうというふうに思います。
それからまた、勧告にとどまるということにおいて、どうもこれが萎縮効果を招くということにはならないのではないかというふうに思うわけでございます。
ただ、制度には常に濫用というものがあります。これは、科学技術について安全性がもう完全に一〇〇%安全なものであるということが言い切れないと同様に、恐らくすべての制度についてこれは絶対濫用が起こり得ませんなどということは言えないものでございます。しかし、これはかなり要件が絞られているということと同時に、後に裁判が控えているということと、常に裁判的な批判の対象にさらされるということがございます。
それからもう一つは、独立の行政委員会がこれを所管するということでございまして、先ほど官僚は政治家の圧力に弱いという御発言もございましたけれども、行政委員会を独立の、職権行使の独立性を保障されているものでありまして、これを通常の官僚も政治に弱いというのはまたもう少し別の問題があろうかと思いますけれども、圧力に弱いという批判は当たらないと。そして、私も現に国地方係争処理委員会の会長職を仰せ付かっており横浜市の事件等もいろいろ担当したことがございますけれども、そういったことについて、あるいは元政治家の介入なんということはあり得ないとは思いますけれども、私どもはプロフェッショナルとして職権行使の独立性を堅持しております。それが揺らいだらば、日本における独立行政委員会の存在、あるいは係争処理委員会のようなものは存在意義を失います。そういう意味において、これは私は制度に対してある意味での冒涜ではないかというふうに考える次第であります。
○参考人(石井修平君) 委員長。
○佐々木知子君 聞いていない。
○委員長(魚住裕一郎君) 指名で発言を許しますので。
○参考人(石井修平君) そうですか。是非、指名をしていただきたいと思います。
○佐々木知子君 ごめんなさい、時間が限られておりますので。もう一点、私ございますので。
これは、法学セミナー二〇〇二年の五月号に広島市立大学国際学部助教授の井上泰浩さんという方が書いておられることですけれども、「人権侵害の境界線を越える取材」というタイトルでございます。副題が「ジャーナリスト教育の欠如とマスコミ体質」ということで、アメリカにはスクール・オブ・ジャーナリズム、ジャーナリズム学部というものがございまして、記者の多くは養成の過程でマスコミュニケーション法や倫理、人権と取材について教育を受けている、そしてまた、被害者、関係者を取材するときの配慮ということで、法と人権問題ばかりではなく精神医学面の理解も得ていると、こういうことが書かれております。そしてまた、記者自身の人権もございまして、記者自身もやはりこういう取材はできたらしたくないと考えている記者も多いことかと思いますけれども、ただそれが拒めない、それが企業体質だから。こういうことをやはり見直さなければ根源的な解決にはならないのではないかということを提言されておられまして、私もそのとおりではないかというふうに思います。
その件に関しまして、石井参考人、どうぞお答えくださいませ。
○参考人(石井修平君) どのポイントでお答えしたらいいかちょっと迷いますけれども、私は、マスコミ倫理、取材する人間としてやはり取材される側の気持ちを十分考えながら取材するということについての基本的な教育が是非必要であるし、私はそういう教育について、我が社だけではなくて我々メディア業界全体がやっぱり心すべきだろうと、更に強化し更に発展させていく必要があるというふうに考えております。
正に、報道被害を受けた方からの、何度も申し上げておりますけれども、厳しい御指摘については、やはりこれは痛切に受け止めるし、その点については一つ一つの事例、数が多いからとか、件数が多い少ないではございません、たとえ一件でもやっぱりそれは重く受け止めるということと、取材をする私たちの責務、これとの常にぎりぎりの調整を考えながら知る権利にこたえるという態度でやっぱり今後とも進めていきたいというふうに思っております。
更に付け加えますと、やはりこの人権擁護法案の関心が、例えば公権力による虐待という、例えば名古屋刑務所の事件等よりは、やはりこうしてメディアの在り方についての御関心がどうもやっぱりあるようだということで、この人権擁護法案についての関心の在り方についても非常に勉強になりました。今後とも、一生懸命考えていきたいと思います。
○佐々木知子君 ちょうど時間が参りましたので、私は終わります。
○千葉景子君 民主党・新緑風会の千葉景子でございます。
今日は、お三人の参考人の皆様、本当にありがとうございます。先ほど、冒頭それぞれから貴重な意見表明をいただきまして、私も大変参考にさせていただきました。そんな冒頭の御発言を踏まえながら、何点か御質問をさせていただきたいというふうに思います。
実は民主党は、この人権擁護機関、独立性の高い人権擁護機関の必要性をいち早く感じておりまして、自ら、どのような機関が必要なのか、それについての論議を進めてまいりました。今日も出席をいたしております江田五月議員を座長にいたしまして、独立性のある人権擁護機関ということで民主党の取りまとめたものは、大きく言えば、独立性を確保するという意味では、法務省というより、全体を網羅することのできる、そして強制拘禁機関などを持たない内閣府に人権委員会の事務方を置いたらどうだろうかと。また、実効性を担保するという意味では、やはり人権侵害というのは国の真ん中で起きるというよりは毎日の日常の生活の中で様々生じている問題でございますので、それを救済をするということになりますと、地方にもしっかりした人権委員会を設置をすることが必要なのではないかと。
また、メディア規制については、やはり表現の自由ということとの整合性を考えたときに、私も決して一〇〇%メディアの側が自主的な抑制的な報道の態度をこれまで持ってきたかというといささか疑問なところはございますけれども、やはり自主的な規制、取組、こういうものを基本にして、それをより一層進めていただくと、こういう方向にすべきではないか、決して公権力で規制をするという態度は取るべきではないと、こういう考え方を取らせていただきました。
また、今日は岡村先生にもおいでをいただいております。犯罪被害者の皆さんの置かれている立場というのは、私もその痛みが本当に言葉で言い表せないものを感じております。民主党では、犯罪被害者の皆さんの救済に向けてもできる限りの法整備をしていくべきだと、こんなことも指摘をさせていただきまして、救済に向けての幾つかの法案も提起をさせていただいてきたと、こんな経過もございました。今日は、そんな本当にお話も伺いまして、ありがとうございます。
さて、私どもの基本的な考え方はこういうところにあるということを御理解をいただいた上で、まず、塩野先生にお尋ねをさせていただきたいというふうに思っております。
最初の御発言の中でもございました、そして塩野先生が会長の談話として、推進審議会での取りまとめをなさったときに出された談話の中でも、やはり人権のこれからの総合的な施策ということになりますと、国、地方公共団体、そしてさらに民間の関係諸機関、諸団体との密接な連携協力体制によって総合的な救済を図る必要があるのだと、こういう御指摘をなさっておられます。私もそのとおりだというふうに思っております。そういう意味で、先ほど、今回は地方事務所も置かれているけれども、地方組織の充実強化というのも今後の更なる必要性があるという御指摘もございました。
そういう意味で、一つはこの地方の組織の在り方、それから、例えば地方公共団体の責任、それから、やはり民間の関係諸機関の人権問題に対するかかわり方、そういう民間が公的な部分とともにやっぱり人権の総合的な推進にかかわると、こういうことが大切だというふうに思いますけれども、そういう意味で、地方組織の在り方、今後の更なる発展の先の展望でもよろしゅうございますし、それから民間がやっぱり十分な担い手となる、こういう点についていかがお考えでいらっしゃるか、お聞かせいただきたいと思います。
○参考人(塩野宏君) 私がこの人権救済のために四か国に、そう多くはございませんけれども、幾つかの国に回ってまいりましたときに、やはり人権侵害というのは地方に起こるのだから地方において情報をいかに集めるかということが大変重要であるということを聞いてきたことがございます。また、日本でも正にそのとおりという状況でございまして、今申しましたように、人権侵害は各地域において生ずることでございますから、人権救済機関の地方における組織の充実強化という点は大変重要なことと理解をしております。
審議会でもその点についていろいろ議論を重ねまして、地方にも合議制の救済機関を設けるべきであるという意見もございました。そして、ただ、地方における合議制機関を、委員会なるものを国の機関とするのか、地方公共団体の機関とするのか、その点についていろいろな御意見があったわけでございますが、審議会としては、種々議論の結果、まず国の人権救済の充実を図るということで、独立の行政委員会と国の地方組織の充実を図ることといたした次第でございます。
ただ、この法案のできる過程におきまして、いろいろな各省庁、特に予算の関係もございましょうし定員の関係もあるのでしょうか、地方の組織については、審議会の委員の恐らく多くの方、そして私もそうなのですけれども、これで十分とはなかなか言えないだろう、立ち上がりはやむを得ないとしても今後はもっと地方組織を充実する必要があるのではないかということを実感をしておりまして、これは冒頭のときにも申し上げたとおりでございます。
なお、今のお尋ねの中に、地方の公共団体に人権委員会的なものを、あるいは人権委員会そのものを作ってはどうかという御提案も含まれているというふうに思います。この場合に、なかなかこれはいろいろなバリエーションがありまして難しいものでございますけれども、人権委員会が全く、言わば民と民との人権侵害も取り扱うというようなこともございますし、更に訴訟援助、訴訟提起にまで至りますと、これは我が国で最初の試みでありますので、まずどういう形でこれを動かしていくかということにつきましては、つまり慎重かつ全国統一性を持ってスタートしなければいけないということがございます。
それからさらに、今後の発展の過程を見ましても、こういった人権の扱いが各地方団体であるいは地方の委員会でばらばらでいいのかどうかという点は私疑問がございまして、ここは全国統一で国の責任を、人権の特別救済あるいは一般救済、後から申しますが、特別救済については国が全責任を持って取り扱う、そしてそれのために地方組織を充実するということが重要ではないかというふうに思います。
地方人権委員会をダブルに置くということは、労働委員会の例もございましたけれども、必ずしも迅速な救済に役立たないということもございます。
さらに、それでは地方とそれから国とを全く管轄を分けたらどうかというと、今申しましたようなことが起こると同時に、これは必置規制になります。いわゆる必置機関でございますね。各都道府県なり政令市なりあるいは中核都市ぐらいに人権委員会をすべて置くということになりますと、これは今分権のところで問題とされております必置規制になりますので、これは分権の時代においていささか問題があるのではないかというふうにも思っているわけでございます。
なお、それでは、じゃ地方団体は何もしなくていいかというと、それはそうではございません。それはそれぞれに工夫をなさることも可能だと思います。法律論として申しますと、今回の法案によって、人権救済事務というのが全体として国の法律が先占するということにはならないと思います。分権の時代でございますので、これがすべて国の事務で先取りしたと、地方団体は一切入ってはならないということにはならないというふうにも思いますが、ただ、訴訟参加とかあるいは差止め請求といったようなものは、これは司法の領域と密接に結び付いておりますので、これは法律マターかなというふうに思っております。
それからさらに、今後の具体的な人権委員会の在り方としては、私は事務局が非常に重要な意味を占めると思います。ここにどういう専門的な方あるいは人権感覚に優れた方をどういうふうにして取り組んでいくかということが重要な課題となりますが、ちょうど今、公務員制度の改革の動きが進んでおりまして、従来のような固い公務員システムではなくて、より柔軟に、任期付きといいますか、そういった、あるいは専門的な方を、かなり出入りが柔軟になるように仕組みができ上がるということを私聞いております。そうなりますと、例えば民間の団体の方についてこういったところの職員としてお入りになること、あるいは地方公務員の方々で非常にこういった人権救済に経験と識見のおありの方はお入りいただくというようなことも可能となるように思います。これは今後の工夫あるいは知恵の出しどころではないかというふうに私は思っております。
以上でございますが。
○千葉景子君 ありがとうございます。
それでは、石井参考人にお話を伺わせていただきます。
先ほどBRO等の取組について概略をお聞かせをいただきました。もう少しその自主的な取組の状況、それから、これは審議会の中で議論が若干あったという塩野参考人のお話が先ほどありましたけれども、差別表現等に関するやはり取組状況等、先ほどの御発言にプラスして少しお話しをいただければというふうに思います。
○参考人(石井修平君) BRO、放送と人権等権利に関する委員会機構についてでございますけれども、これは御承知のとおり、多分パンフと年次報告の資料がお配りしてあると思います。これは、NHKと民放が共同して設立した機構でございます。審理結果はもとより、放送局との、視聴者の方、何らかの人権侵害を受けたとされる視聴者の方との話合いの仲介、あっせんも含めて、私どもは有効に機能をしているというふうに判断しております。
本年度上半期の苦情件数は千五百八十四件ございました。人権侵害に関連する対応は五十五件でございます。二〇〇〇年度までは、放送局と話合いになっていないか、あるいは話合い中のものは受理しないと。局との話合いが相入れず、委員会で審理することになった案件について受理していたわけですけれども、二〇〇一年度から、BROで受けた苦情のうち、人権に関する問題であって申立てがあったものは受理するということにいたしております。この結果、二〇〇一年度の受理件数は三十三件ということで、このうち委員会決定まで至ったのは二件でございますけれども、十六件が仲介、あっせんで解決をしております。
この仲介、あっせんの機能は大変有効に働いていると同時に、BROの存在自体が逆に放送局に対する抑止力として働くということで、数字に表れない抑止効果、自主的な抑止効果、ちょっと言葉があれですが、自主的な対応を促す一つの大きな存在になっているというふうに考えております。
もう一つ、BRCの委員は、外部の有識者で構成する評議会が選任しておりますけれども、非常に第三者性が高くて、当初、放送局寄りではないかという批判も承りましたけれども、むしろ放送局に厳しい決定が続くなど、実績を重ねてきております。
BROの存在の認知度の問題、いつも御指摘いただきますので、これについてはBRO年次報告の百五ページにありますように、昨年度は一年間に十万回のPRスポットを行って、またあるいは十二月の人権週間に合わせて新聞広告の掲載も予定をしているという状況になっております。
それから、時間もあれなんですけれども、差別表現につきましては、もちろん我々はあらゆる差別表現について放送禁止という措置を取るだけではなくて、新人教育、あるいは時に問題が過去生じたケースもございますので、その際には当該の例えば当事者の方をお呼びしての研修等で、まず差別そのものの本質的な問題を学ぶと。言葉を使わなければいいんだという事なかれ主義ではなくて、差別そのものの持つ歴史的、社会的構造をちゃんと学んだ上で、まず内なる差別感をもちろん解消した上で差別禁止用語を考えるという教育をいたしております。
○千葉景子君 ありがとうございます。
今、BROのお話などで、かなり報道の自らの対応、正していくというお取組が成熟しつつあるというふうに思いますけれども、国際的なメディア機関等でのこういう取組というのはやはり日本のメディアも参考にされているものというふうに思いますけれども、そういう国際的な取組と日本とを比較いたしまして何か感ずるところがございますか。違いとか、あるいはほぼ共通に国際社会もなっているという状況でしょうか。
その辺、石井参考人でお分かりのところがございましたら、お話しください。
○参考人(石井修平君) 我々が一番身近に接するのはアメリカのメディアでございます。これは日常的に友好関係もございまして、それぞれのメディアとの関係の中において個別のやはり放送倫理マニュアルがございます。これについては、厳しい面もある一方で、アメリカは特に憲法修正一条という存在もございまして、基本的に報道、表現の自由が認められている状況の中では、我が国の方が自主的な対応も含めて適切に対応しているという面もございます。あるいは、メディア先進国のイギリス等については、BBCが中心となった個別的な報道倫理のマニュアルもございます。かなり分厚いものでございます。
これらについては非常に参考になるというふうに考えておりますが、このBRO、BRCのような放送メディアを民間放送、公共放送通じて統一的に報道倫理の問題に対応する組織というのは、やはり現状では我が国のこのBRO、BRCが最も進んでいるんではないかと私自身は判断をしております。さらに、この面で機能の強化を図ることが我々の将来的な責務かなというふうにも併せて考えております。
○千葉景子君 ありがとうございます。
まだお尋ねをしたいこともございますし、岡村先生にお話を伺う時間がなくて大変恐縮をいたしておりますが、ちょっと時間になりましたので、以上で終わらせていただきます。ありがとうございます。
○浜四津敏子君 公明党の浜四津敏子でございます。
本日は参考人の皆様、御多忙の中いらしていただきまして大変ありがとうございます。
本法案の大きな議論の対象となっている点は主に二つございます。一つは人権委員会の独立性について、また二つ目は報道機関についての規定でございます。ちょっと順序を変えまして、まず報道機関についての規定について、石井参考人にお伺いいたします。
報道機関の自主的規制の取組の現状について今御答弁がございましたけれども、今年三月七日に報道関係機関が人権擁護法案に対する共同声明を発表されました。その共同声明で、人権擁護の様々な取組を自主的に実行してきたと。また、日本新聞協会、日本民間放送連盟、日本放送協会の三者は、現在、連携して、事件や事故の際に見られる集団的過熱取材の弊害を防ぐための協議を進めているとあります。ただいま岡村参考人の方から、報道機関には弱い者いじめをする自由はないはずだという御発言がございました。報道機関は立派なルールを作ってほしい、良識を期待しているという御発言がございましたが、こうした取組で具体的な進展、成果が上がっているのかどうか、そしてまた、岡村参考人が今述べられたこうした御要望に十分にこたえられるものになっているのかどうかをお伺いいたします。
また、石井参考人は、救済システムの必要性そのものは理解しているという御発言でしたが、更にこれからどのように取り組んでいかれるのか、何かお考えがありましたらお答えいただきたいと思います。
○参考人(石井修平君) 現在、自主的な対応につきましては、今御説明申し上げましたBRO、BRCと併せて、特にメディアスクラムと言われます集団的過熱取材、つまり何か事件が起きたときにある取材対象のところにあらゆるメディアが集中的に殺到するような状況が起きたときの対応を新聞協会と協力いたしまして、日本民間放送連盟でも解決するための協議機関を発足させております。これにつきましては、正に私が部会長をしております報道問題研究部会と新聞協会の同種の組織、これが問題が発生したときには協議をするということになっております。ただし、まずそれぞれの問題が発生した現場においてテレビ中心に解決を図って、そこで解決ができない場合は中央に上げるという仕組みになっております。
九月十三日現在でございますけれども、一定の取材ルールを決めてこのメディアスクラムに自主的に対応した事例が六件ございました。さらに、一番直近では、正に北朝鮮からの帰国者の取材については過熱取材を避けるための事前のメディア間の話合いが行われたということはよく御承知のとおりでございます。
そういう形で、現在、新聞、テレビ、さらに、時には雑誌協会にも呼び掛ける形での自主規制の機能が着実に進展しているということは私は申し上げていいのではないかというふうに思います。
以上でございます。
○浜四津敏子君 それでは岡村参考人、そして石井参考人御両人にお伺いいたします。
報道機関による人権侵害につきましては、その救済につきましては本来は報道機関の自主的規制にゆだねるべきだという意見が多いかと思います。私も本来はそうあるべきと考えておりまして、その取組が本当に十分なのかどうかというところに異論がいろいろあるんだろうと思います。
ただ、今、石井参考人の方からもお話がありましたように、現在、そういう自主的な規制の取組、動きが進みつつあるというふうにも思われますが、それを一層促す意味からもしばらく報道機関の自主的取組の努力を見守るべきではないかというふうに考えておりますが、こうした報道機関に関する規定の部分の凍結論について両参考人はどうお考えか、御意見を伺わせていただきたいと思います。
○参考人(石井修平君) 当法務委員会で、法務省の吉戒人権擁護局長がそういう趣旨の発言をされたということは承知をしております。いわゆる凍結論についてでございますけれども、民放連を始めとする我々報道機関の側がかねて主張してまいりました知る権利を守るためのやはりこの場合に対する危惧、そういう指摘、批判の非常に広範囲な声を受け止めざるを得なかった一定の反映であるというふうには考えております。しかしながら、我々が指摘してきた問題点、疑問点を完全に解消し、表現の自由、報道の自由、知る権利の侵害につながるという危惧を完全にぬぐい去るものではないというふうに考えております。
名古屋刑務所における暴行事件は、この法案自体の持つ、やっぱり本来の目的を外れたとも言える、これからやっぱり改善していかなきゃいけない点を指摘したのかなと、表したのではないかというふうに考えております。
改めて、七月三十一日付けの会長談話にあるように、公の権力が表現、報道の自由に介入する危険性を除去をするという点から、この法案に対する態度を改めて、これ考えるという態度については全く変えるという段階ではございません。これまでの基本姿勢を貫くということになると思います。
○参考人(岡村勲君) 本当に報道機関が実質的な規制ができるものであるならば、私はこの法律を成立させた後で、例えば三年間の期限を切って様子を見ると。そのときに、この法案と同じような内容の実質的な規制ができるかどうか。できれば、そこで更にまた延長してみるというような方法はあるかとは思います。
本当はすぐ実施してもらいたいんですが、一生懸命努力すると言われるんなら、期限を切って、法律は成立させる。これは、やはり追い込まれないとなかなか人間動かないんですね。ただ凍結というふうにいいますと、なかなか動きが鈍くなる。そこで、三年なら三年なり、この法律が成立して、そして三年の間にこれと同じような規制が自らできるのかどうかという様子を見て、その結果によって更に延長するとかいう方法はあるかなとは思います。だけれども、成立は必要だと思います。
○浜四津敏子君 ありがとうございます。
それでは、人権委員会の独立性について、塩野参考人にお伺いいたします。
塩野参考人は人権擁護推進審議会会長をしてこられまして、昨年五月には人権救済制度の在り方について法務大臣に答申をされておられます。その際の談話では、現実に繰り返されている様々な人権侵害から被害者に対する実効ある救済を図ることが緊急の課題と指摘されておられまして、そのため、人権委員会という独立の機関を中心とした新たな人権救済制度の整備を提言されておられます。
ところで、今回の法案では、人権委員会を三条委員会として法務省の外局に設置することとなっております。それでは矯正や入管当局における人権侵害に適切に対処することができないという危惧がありまして、内閣府に設置すべきだという批判が強くなされております。また、平成十年十一月に国連の規約人権委員会は、我が国に対しまして、警察や出入国管理当局による不適正な処遇に対する申立てを行うことのできる独立した機関の設置をと勧告いたしました。
今回の法案の人権委員会の在り方については、この勧告に十分こたえるものになっているのかどうか、人権委員会の独立性と設置場所の関係についてお伺いしたいと思います。人権委員会は内閣府に置くべきだという意見についての塩野参考人の御意見をお伺いしたいと思います。
○参考人(塩野宏君) 審議会では、人権委員会の設置場所について審議をして、これに一つに絞るということはしておりません。審議会としては、政府からの独立性を有する行政委員会、この方式を提言したわけでございます。そういったことでございますので、このたびの法案が人権委員会を法務大臣の所轄、統括ではなくて所轄に置くということについては、直ちに審議会答申の趣旨に反するものではないというふうに理解をしております。審議会答申の中に入っているというふうには思っております。
そこで、以下は、せっかくのお尋ねがありましたので、行政組織法を多少勉強している者として私のこの問題、これは、ですから審議会の意見ではございませんで、私の意見として申し上げてよろしゅうございますでしょうか。
○浜四津敏子君 はい。
○参考人(塩野宏君) それでは、私の意見を申します。
行政委員会は統括に属するのではなくて所轄に属するもの、これはもう前提でございますけれども、この所轄をどこにするかというのは行政組織法論、一般論から一義的な回答を出すのはなかなか困難でございます。一つの回答というのはどうもないというのが私の認識であります。考えられるそれぞれの選択肢に利点あるいは弱点があります。それは、今問題となっている人権委員会にも当てはまるところというふうに考えております。
まず、今御提案、御示唆がございましたように、人権委員会を内閣府に置くという、そういった御提案も聞いております。その際、どこに置かれるかが、そこがよく分からないんですけれども、内閣府の外局としての委員会というふうな位置付けが前提とされているようでございます。
その理由は、今、委員おっしゃいましたように、公権力による侵害、特に法務省管轄の入国管理局や刑務所による人権侵害を救済できないということとか、組織の当事者に中立公正な仲立ちを望めないとか、そういったような消極的な理由があるわけでございますが、しかし内閣府の外局として見ますと、そこには国家公安委員会もございます。この国家公安委員会の管理の下に警察庁があるという点をどう見るかということも見逃してはいけないと思います。そのほか、防衛庁、防衛施設庁等の正に公権力の中枢機関がそこに配置、内閣府に配置されているということがございます。
内閣から独立した存在ということを私、冒頭のときにも繰り返し申しました。それが行政委員会の一番力点でございますが、内閣から独立した存在という行政委員会の性格付けからも、内閣府に置くことがベストの選択にはならないというふうに私は考えております。文字どおりの権力的活動からできるだけ離したところに置くべきだということになりますと、また所掌事務との関係からすると、今の行政改革以後の体制からいきますと、どうも総務省ということになります。
要するに、行政委員会を設けますのは、そもそも内閣を含む、内閣を含むですよ、内閣を含む通常の政府機関から独立させ、職権行使の独立性、これを確保するためにあるわけですから、これをある省の所轄に属せしめると独立性、中立性が実質的に害されるという議論、これは先ほどちょっと強い言葉で申しましたけれども、行政委員会という方式、独立行政委員会という方式、これは戦後日本がやっとここまで築き上げたものでございますけれども、これを否定することになります。あるいはそれを、行政委員会方式を取るということと矛盾してまいります。
それから、内閣府に置くことの積極的な論拠として私が読んだ文献等を見ますと、内閣府は総合調整的な機能を有するということが挙げられますけれども、人権委員会の個別の救済機能はこれは内閣の総合調整機能を必要といたしません。人権擁護法に基づいて、人権救済に誠実に当たることでございます。むしろ、個別の人権救済のために内閣の総合調整機能を発動を求める、場合によっては総理大臣にお出ましを願うなんというふうなことがありますと、それは正に政府から独立して、内閣から独立して人権救済に当たるという、人権救済法たる人権擁護法の精神にもどうもマッチしないものがあるのではないかというのが私の率直な感想でございます。
啓発機能については、またもう一つ議論がありますけれども、それをやっていますと時間が掛かりますので、救済機能について申し上げました。
以上、申しましたように、人権委員会を内閣府の外局にするのがどうもベストであるということにはなりません。
それから、内閣そのものに置くという案もあります、人権委員会を。ただ、この場合も、選択肢もこれは全くないわけではありませんけれども、人権委員会を内閣官房、内閣法制局と同じ内閣補助部局としていいのかどうかとなると、これはどうも違和感を持つ方も多いし、御提案もございません。
形式上は内閣補助部局ですけれども、人事院方式があります。ただ、人事院も現在は内閣補助部局であるというのがどうも通説なのですね、行政組織法から見ますと。私はそれはおかしいと思うのですけれども、どうも人事院を置いた趣旨は、内閣の補助部局であって、しかも政治的には中立性ということで置きましたので、一つの選択肢としては残り得るかもしれませんけれども、これを直ちにベストの選択、人事院をベストの選択ということにはならないというふうに思うわけでございまして、人権委員会の組織論上の問題点というのは、繰り返しますけれども、その所轄をどこに置くかではなくて、人権救済事務を遂行するために必要な専門性を有する充実した事務局を早急のうちに立ち上げまして、かつ職員を養成していくことができるようにするということを含めたいろいろな観点を考慮して決められるというものでございまして、このような角度から国会において御審議賜れば幸いに存じます。
○浜四津敏子君 塩野参考人にもう一点、お伺いさせていただきます。
今回の法案の中で地方法務局に事務委任を予定している部分がございます。委任というのはちょっと筋が違うのではないかというふうに考えておりますが、人権救済を実効的に行うためには、本来、固有の地方組織を全国的に整備すべきだと考えております。
この組織の在り方については先ほど御答弁がございましたので、今少し触れられました職員について、職員の質と量、事務局の職員の質と量というのも大変重要な問題であると思われますが、この点についての塩野参考人の御見解をお伺いしたいと思います。
○参考人(塩野宏君) 一般論として申しますと、日本の場合には、行政委員会を作っておきながら、それに対する人員、予算の配置が一般的に非常に少のうございます。これはアメリカの、行政委員会の一番発達した国であるというアメリカと比較すればもう一目瞭然のところでございまして、公正取引委員会の例を挙げるまでもございません。今度の場合、例を取りましても、先ほどちょっと申しましたように、委員の数、職員の数、あるいは配置の場所、これでいいかどうかというのは非常に問題でございます。
ただ、これは行政委員会そのものに対する政府の考え方の一つの欠点というふうに、それが人権委員会にも表れているというふうに思いますが、人権委員会について非常にある意味では一生懸命やってきた者からいたしますと、人権委員会だけを特別に扱ってくれということを申し上げたいと思います。
○浜四津敏子君 ありがとうございました。終わります。
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
今日は、三人の参考人の皆さん、ありがとうございます。
まず、塩野参考人にお伺いをいたします。
この答申につきましては、国際的な潮流に、動向に留意しつつ、答申をしたということが談話でも出されております。ところが、法案が出ましてから、国連の人権高等弁務官から、パリ原則から見て独立性に疑義があるという書簡が小泉総理にも出されております。また、最近、私、韓国の人権委員会のスタッフの方のお話を聞く機会がございましたけれども、やはり独立性の問題で大変疑義がある、アジアの人権のフォーラムなどにも入れないではないかと、こういう指摘もされております。そういう国際的な様々な懸念についてはどのようにお考えでしょうか。
○参考人(塩野宏君) まず、審議会の議論の過程におきまして、パリ原則は当然前提になりましたし、また規約人権委員会のことも承知をして、その上で、しかしパリ原則を見ますと、それぞれの国についてやはりそれぞれの工夫をしてしかるべきだというふうに私は読み取っているわけでございます。ああいったおよそグローバルな宣言につきましては各国の実情を踏まえたものでなければならないということは当然のことでありまして、そういった点からしますと、私は、パリ原則の一つ一つについて、ここは違っているとか、ここはどうだとかという議論はいろいろあろうかと思いますけれども、基本的な線はパリ原則の中に入っているというふうに思っております。
それから、先ほどの高等弁務官のお話でございますけれども、それはどういう文脈でどういうことを、つまり本当に批判されたのかどうか、そこは私よくわきまえないところがございます。
それから、韓国のお話も出ましたけれども、それはそれぞれのお国、高等弁務官の話はちょっと別といたしまして、韓国と日本の場合には、議院内閣制、つまりウエストミンスター系の国と、それから韓国のような大統領制の国とはおのずから人権委員会の在り方も違ってしかるべきだというふうに思います。ウエストミンスター系の議院、例えばカナダであるとかオーストラリア辺りは、これはやはり司法省の管轄に属しているというふうに私は聞いております。だけれども、私は何も、だから司法省、法務省に置くのが唯一の選択肢であるなどということは言ってはおりません。ただ、それが国際的な潮流で、全く日本が違う道を歩んでいる、独立性が害されているものを審議会が答申し、あるいはそれを法務省が逆にもう少しゆがめたというふうには私は思っておりません。
○井上哲士君 個々の国の裁量の以前の土台のところでの批判が私はなされていると思っております。
それで、その独立性の問題が名古屋の刑務所の事件によってもいよいよ重大な問題になってきているわけであります。
三条委員会ということでありますけれども、法務省の外局、しかも、再三先生が繰り返されておりますように、一番重要な事務局が本当に職権行使の独立性ができるのかどうかが先日の委員会でも議論になりました。
先ほど先生の陳述の中で、専門性のある人をどんどん入れるべきだと、そういう工夫などが必要だということがございました。ところが、先日の質疑の中では、事務局については現行の人権擁護局がそのまままず横滑りをするということ、それから将来にわたっても法務省との人事交流をずっと行うということ、そして独自のスタッフなどを拡充をどんどんしていくのかどうかということについては、全く答弁はないということでありまして、先ほど先生が言われていたような大変行政委員会そのものに対する軽視というようなことが正に起こっているわけでありまして、そういう事務局構成の実態という上でこの委員会の独立性という問題について改めてお考えを聞きたいと思います。
○参考人(塩野宏君) まず、スタッフ、財政等の拡充は、これはむしろ私がここでお願いしたいことでございます。是非これを、スタッフと予算について十分に手当てをし、人権委員会の活動が実質的に充実することをお願いしたいと思います。
それから、人権委員会の事務局の点でございますけれども、発足当時これをどういうふうに処理していくかという点は、これはいろいろな考えのあるところで、それじゃどこから人を選ぶかということになりますと、これまたかえっていろんな問題が生ずることもあります。ここは、ですから私はかなり政治的あるいは行政的な判断の問題があろうかというふうに思っております。
ただ、もう一つ申し上げたいのは、先ほどの関係がありますけれども、人権委員会というのは独立の行政委員会として独立して職権を行使する、そういうものとして事務局ができるということですから、これは官僚システムをどう評価するかなんですけれども、私は、官僚というのはやっぱり職務の忠実性というもの、職務に専念するということが前提でございますので、それが前に擁護局にいたからこの人はもう駄目なんだという烙印を押すのはいかがなものなのでしょうか。そうすると、過去をずっとさかのぼっていって洗い出していったときに一体どういう陣容のものが作り上げられるのかどうか、ここが私はよく分からないところがございます。
それからもう一つは、その上に人権委員会がありまして、ここはいろんな、これこそ国会承認人事でございますので、それこそ十分に審議をし、そういった事務局についてもすべからく目を利かせることのできるような委員をお選びになる、これは私はむしろ国会の職責ではないかというふうに思います。
○井上哲士君 私ども野党も、法務省出身の人が事務局に入るのがけしからぬと、こう言っているわけじゃないんですね。
先ほど官僚の在り方ということをおっしゃいましたけれども、将来再び法務省に戻るという人たちが、果たしてその法務省の管轄である刑務所とか入管施設での人権侵害を十分に調査をできるんだろうかと。今、調査したけれども、将来はまた法務省へ戻るんだと。これでは独立性欠けるのではないかというのが多くの批判でありますけれども、その点はどうお考えでしょうか。
○参考人(塩野宏君) 将来のキャリアの点のこととの関係でのお話というふうにも思いました。
まず一つは、既に扱った事件についてまた扱うことはできない、これはもう当然の事理で、委員もその点は前提となさっているものだろうと思います。
恐らく、私の推測するところでは、その人権委員会に委嘱をして、余り刑務所とか入管施設、収容施設等について厳しいことをすると将来の出世の妨げになるというようなことを考えて緩めるのではないかという、そういうようなお話かとも思いますけれども、そこは現実問題として、そういうことは一切もうあり得ないとか、またそういうこともありそうだなどということを、私はどうも言える立場にもございません。かつてこういうことだからこの人は駄目だというのは、私はそれは人を扱うのには適していない在り方ではないかというふうに思います。
私も大学教授ですから、おまえは大学教授だったんだから、もうほかの、大学教授以外のことは駄目だよと言われれば、私は私なりに生まれ変わりたいと。職務を与えられたらば、その職務に忠実に励みたいというのは、これは私は人間でありまして、それが私は人権感覚として重要なことではないかというふうに思います。
○井上哲士君 先日の委員会でも、公正らしさ、国民から見た信頼感ということが議論になりました。やはり国民は、将来法務省に戻る人がちゃんとできるんだろうかという不信感を持っていたときに、この機関自身のやはり信頼感が問われるんではないかということを私は思っております。
続いて、メディアの関係で石井参考人と塩野参考人にお聞きをいたします。
先ほど、メディアの側の自主的努力についてのお話もございました。公権力によるメディア規制は私ども絶対に許してはならないと思います。メディアの独自の取組もまだ言わば緒に就いたばかりでありまして、しかも、やはり外圧によって取組がやっと進んだというのが率直なところだと思います。岡村参考人の厳しい御意見もありましたけれども、より真摯に急いで取り組むことが必要かと思います。
先ほどの質問の中で、着実に進んでいるんだというお答えでしたので、その上でさらに課題としてはどういうことをお考えなのかということをお聞きをいたします。
それから、塩野参考人は、先ほど最初の陳述で、メディアの取組、メディアの自主規制の問題について、当時はこれでは駄目だということを、当時という言葉を二回ほどお使いになったかと思います。この答申以降、正に外圧ということもありまして、かなりの進行があるのが先ほどあったわけですが、現状についてはどのように評価をされているのか、お聞きをいたします。
○参考人(石井修平君) 今の御質問でございますけれども、私は、例えばBRO、BRCというのはNHKとの共同の機構でございますので、これが組織としての基本方針ということではございませんが、やはりBRO、BRCの機能強化は私は必要な対応であると。私は、それを基本に報道被害に対するきちっとした機能を強化していくということがまず一つ重要だと思っております。
もう一つは、これも個人的な考えでございますけれども、先ほどのメディアスクラムの対応で、日本民間放送連盟と新聞協会、これの連携、協議が全国の都道府県をベースにかなり頻繁に行われ、かなり実効性のある対応が取れるようになっているということでございます。メディア横断的な、雑誌も含めました、その辺の連携、協議、そして問題解決の機能、この辺をどう発展させていくか、この二点が私は非常に重要なことだというふうに考えております。
○参考人(塩野宏君) 審議会答申が、先ほど申し上げたことでございますけれども、審議会の審議過程において認識した立法事実、これを基礎にしております。
これに対して、その後、今日もいろいろ参考人の方からのお話もございましたように、メディアの側において自主的対応の方策が講じられているということ、これも私も新聞報道等を通じて承知しております。
審議会においても、メディア側の自主規制を第一義のものと考えているということ、これも先ほど申し上げたとおりでございます。
そこで、現時点においてこの自主規制の新たな進展をどのように評価するか、これを立法事実としてどう評価するかという問題だと思います。評価いかんによっては、先ほどからのお話のように、凍結案というのも一つの選択肢というふうに、あり得ると考えております。
それで、おまえはどうかというふうにお聞きになったのかと思いますけれども、それに対する適切な情報は残念ながら持っておりません。新聞報道、そしてこういったBROから送っていただいているのを見ますと、大変努力をしているということは私もよく感じております
ただ、私が審議会で記者さん方とお話をしておりましたときに、じゃ、自主規制自主規制というと、どの辺が理想的なのかなということを聞かれたことがございます。そのときにお答えしたのは、私はやはり、プレスの段階ではイギリスの方式、つまり横断的な方式かなというふうに申しました。
なお、先ほど、佐々木委員からの御質問に、私一つ漏れたことがございますけれども、メディアに対しては一切こういった形はないというような御意見も聞かれますけれども、放送は別でございます。これは、韓国におきましても放送法制において、それからフランス、イギリス、それぞれ放送法制の中で、こういったメディアによるプライバシー侵害等については取り扱うと。その意味では、日本よりも公権力の監視というものが放送については厳しいのですね。これは、放送というものについての、特にヨーロッパ系ですけれども、ヨーロッパ系諸国における歴史的伝統もあり、あるいは韓国の歴史的ないろいろな御事情もあろうかと思います。
私は、それが現段階で望ましいとは思っておりません。BRO、BRCが充実していただければというふうに思っておりますが、先ほどのようなメディア横断的なものが最終的な到達点になるのではないか。それに至る過程の現在の問題をどう評価するかというのは、どうも自信を持ってこうですというところまで私は言い切れません。
○井上哲士君 報道側の努力についてはお認めになったということだと思います。
岡村参考人にやはりお聞きをいたします。
先ほども、メディアそのものの役割は高く評価をしているんだという御発言がございました。被害に遭われた当事者としての御発言も大変胸に迫るものがございました。
その上で、やはりメディアが、権力犯罪や政治家だけではなくて、犯罪被害者の人権を守るという点でも役割を果たしてきたという側面があると思うんです。
先ほど来出ております、例えばあの桶川のストーカー事件なども、結局、繰り返し警察に訴えていたのにそれを無視をしていたという警察の側の捜査ミスというのは、やはりこれはメディアの側の粘り強い取材の中で出てまいりました。ですから、被害者の父親は、警察によってマスコミと隔離された状況を打ち破って、警察のうそを暴いてくれたのはマスコミです、私たちを助けてくれたのは警察ではなくてマスコミなんです、そのマスコミを国家が規制するのは絶対におかしいということを新聞でも言われておりますし、松本サリン事件の河野さんも、やはり当初、入院したときに、警察の警官がメディアの取材攻勢から守るためという名目で私の病院に張り付いたけれども、実は、容疑者である、メディアと自分、接触を妨げるためだったと。その結果、いろんな、犯人だという情報が垂れ流しにされてきたということを言われておりまして、報道被害もあったけれども、メディアを利用して真実を明らかにしたんだということを言われた上で、今回の法案について言えば公権力がメディアを規制するものだと、こういう御批判をされております。
結果として、やはりこうした犯罪被害者の人権を守るというメディアの機能を、規制をすることによってそぐことになるおそれがあるんではないかと私たちは思うんですが、その点は岡村さんはいかがお考えでしょうか。
○参考人(岡村勲君) 私はそのようには考えません。規制といっても、取材に嫌がる者に余りまとわり付いたりするなと言っているんですよね。取材に応ずる者には何ら取材を行っても構わないわけです。
桶川の事件、鳥越さんのやられたのは、手紙を出されただけなんですね。手紙を出されて接触された。これは、電話やファクスですと、がたがたがたがたファクスの音がしたり夜中に電話で起こされたりすると、もう寝れなくなっちゃうんですよ。だから、そういうようなことはやめてくれということで、手紙なんかは何も構わない、そうなっているわけなんです。そして、先ほど言いましたように、猪野さんの場合だって言いたいことは一杯あったと思います。だけれども、ある時期が来るまでは何しろ自分の立ち直りのためにもう精一杯、その時期が来るまで追い掛けられるとこれはたまらないんですね。だから、私は、鳥越さんがあの一年のうちにいらっしゃった、あるいはそれよりももっと遅れるかもしれないけれども、猪野さんとしてはマスコミに自ら働き掛けられたんじゃないかというふうに私は思います。
困っているときに押し掛けてきてくれるなと、そういうことを私は言っているんです。
○井上哲士君 時間ですので、終わります。
○平野貞夫君 最初に、塩野参考人に、誠に恐縮でございますが、ちょっと確認をしておきたいんですが。
先ほどの佐々木委員の御質疑の中で、官僚の在り方といいますか、官僚が政治家から影響を受ける、そしてそういったことを前提に考え、発言するということは国家に対する冒涜であるという趣旨のお話があったんですが、ちょっと、正確に私、つながりがあれなものですから。
○参考人(塩野宏君) 私は、国会に対するではなくて、独立行政委員会という制度そのものに対する、まあ冒涜という言葉がいいかどうか分かりませんけれども、それはひどいではないかと。独立行政委員会というのは通常の官僚システムから独立した、内閣から独立した存在として作るものについて、それが政治家の圧力に弱いと言われたのでは、それは独立行政委員会にとって余りにもひどいではないかと、そういうふうに申し上げたことでございます。その趣旨から申しますと、内閣府に置こうがどこに置こうが同じことなんですね、政治家に弱いということは。
○平野貞夫君 それじゃ基本的なことをお尋ねしたいと思いますが、人権擁護制度を作るという大前提として、現憲法にいわゆる規定といいますか生かされている基本的人権といいますか、この人権というものをどう認識するかと。この認識にずれがあると人権擁護制度がいいものが作れないというふうに思うんですが、お三人の参考人の方に、現憲法下で基本的人権あるいは人権というのはどう認識すべきだということについて御意見いただきたいんですが。
○参考人(塩野宏君) 日本国憲法の下での人権について厳密にここで話をしろというのはなかなか難しいお話だと思いますけれども、端的に申しませば、この答申にも書いてございますように、人間の尊厳ということでございます。
この人間の尊厳というのは、近代憲法では正に公権力に対するものとして理解をしてまいりました。私が学生のころも宮沢先生からそういうものとして教えを受けてまいりました。しかし、この人間の尊厳というものについては、公権力の行使による侵害が一番気を付けなければいけないものである、それに対しては防波堤を作らなければいけないものであるという認識があると同時に、他方、私人間における人権侵害というものもあるではないかと。
これは国によっていろいろでございまして、アメリカ人、アメリカの人はそれを人権というよりもむしろシチズンズライトという形でやはり処理をしていると思いますけれども、例えばヨーロッパで申しますと、ドイツ辺りでは国の人権保護義務、私人間についても、人権侵害がある場合は国はそれを保護しなければいけないという人権保護義務、国の人権保護義務という考え方がかなり強くなってまいりました。これは日本国憲法学では余り評判良くない。つまり、日本国憲法学では私人間の問題は、これは私的自治の問題であるということで間接適用論を論じていたところから余り評判良くないのですけれども、それでもしかし、私人間における人権侵害というものについては国家としては何らかの手だてを尽くすべきであるということは一致しております。
その意味では、日本国憲法にそのままの形では表れておりませんけれども、公権力による侵害に対する防御、それから私人間のものであっても特にこの擁護法案及びその前提となる人権擁護推進審議会の答申に見られるような特別救済を必要とする方については国家として救いの手を、何らかの救いの手を差し伸べるべきではないかというのが私の考え方でございます。
○参考人(石井修平君) これについては様々な見解があるとは存じますけれども、私個人は、人の命は、生命は地球より重いということが基本であるというふうに思っております。それを具体的に憲法の条文に表したのが私は日本国憲法の二十一条であり、十三条でありというふうに考えております。
私はそれを基本に、その観点から、世の中のあらゆる事象について自由に物が言えて、自由に議論が行われるという世界を守ることこそが私は憲法の理念だというふうに考えております。
○参考人(岡村勲君) 私は、人間にとって一番大事なことは生きていくことだと思います。死んでしまえば国家も社会も何もなくなってしまいます。平穏に生きていくこと、これが一番重要な私は人間の権利だと思っております。
その意味で、犯罪被害者が生きていけないくらい追い詰められる、そういうようなことがあってはいけないと、こういうふうに考えている次第です。
○平野貞夫君 三人の参考人の先生方から大変大事なことを教えていただきまして、そんなに認識において差はなかったというふうに考えますが、私は憲法を作られた金森徳次郎先生の「憲法遺言」の中にある言葉に非常に感激しておるんですが、人権というのは国家よりももっと根本にある人間が決めた原理だと。それから、法律をもって人権を制約はできないと。ですから、基本的人権にかかわることについては多数が人権を制限するようなことがあってはならぬということで、国会も司法も政府も私は基本的人権を守るために存在しているんだという金森博士の遺言を参考にして活動しておるんですが。
そこで、人権擁護法案、人権擁護制度を作るという場合に参考人の先生方がおっしゃった基本原理、これに基づくべきだと思います。そこで、塩野先生は、この人権委員会というものについて、法務省の外局でもあるいは内閣府に置くということについても必ずしもベストの選択ではないという、よく分かります。私は、本来は人権委員会というのは、会計検査院というとちょっとなにですが、全くそういう三権に独立した憲法機関であるべきだという、今はまあ憲法改正ということは言いませんが、実質憲法機関にすべきだという意見でございます。塩野先生、それについてどのような。
○参考人(塩野宏君) 憲法改正をしなければならないということを前提ですと、私はそれまで待てないと思います。今すぐでも立ち上げていただきたいと。そこで、現憲法下でどこに置くかということで、それは先ほどるる申し上げたとおりでございまして、憲法改正の際におきましては、今のような御提案もそれなりの一つの見識であるというふうに思っております。
○平野貞夫君 塩野先生、会長になられて、人権擁護推進審議会で大変きめ細かな答申を出されて、その答申が土台になって現在の法案が出されておるわけでございますが、それは大変な御労苦であったと思って評価するものでございますが、私、先ほど来申し上げました人権というものの本質からいって、この審議会を作るまでの政治過程といいますか、立法過程に極めて問題があったということを指摘したいわけなんです。
私、国会議員になって今年で十年になるんですが、ちょうど十年ぐらい前から同和対策関係の法律が期限切れになって、私も生まれが高知県なものですから、いわゆる同和対策をきちっとしたことをやるべきだという意見で、本来なら同和対策基本法、同和ということに限定せずに人権基本法というような構想の下に、準憲法機関である機関が作られて、そこで完璧なものがやっぱり、理想的なものが作られるべきだという前提でこの制度なり法案は作られるべきだったと思いますが、そのころから特定の政治勢力とのいろいろのかかわりによって、私は残念ながら憲法の精神である本当の人権擁立というものが曲げられて、今日の法案の提出になって、そしてその法案の中に人権委員会を法務省の外局とするということと、それからメディア規制に突然異常なものが出てきたと、こういう言わばこの人権擁護法案の立案過程の不幸といいますか、これを非常に私現実の政治として考えているわけなんです、心配しているわけなんです。ちょうど名古屋の刑務所で起こった事件が象徴しております。
私は、やっぱり大事なことは、新しくできる機関が国民の皆さんから信頼されるという、これが基本だと思いますが、どうもこういう状況になると、もう一回基本、理想というものを完成できないと思いますが、民主党の案もできていまして、私どもは政府案より、より優れているというふうに思っておるんですが、もう根っこからもう一回この制度の構築について、審議会の答申も参考にしながら構築し直すという考え方を今持っておるんですが、塩野先生の御意見をお伺いしたい。
○参考人(塩野宏君) なかなか直接のお答えはしにくいと思うのですけれども、今のような御指摘、私は非常に同感するところございます。
私は、先ほど言い足りないところがございましたのでこの際補足させていただきますけれども、この人権委員会を法務省に置くという、の所轄にすると、置くというのではなくて所轄とするということについては、人権委員会が今後そのような偏った運営をするということではなくて、それはもういろいろな形で私説明いたしました。
国民から見た信頼感あるいは公正さの問題である、ここが非常に大きなポイントであるというふうに解されます。私もその点こそ大変重要なことであるというふうに思いますし、またいわゆるデュープロセス等々のいろいろな問題も、国民から見た、らしさという点、情報公開もそうでございますが、透明性そのものと、それから透明性である、公正らしいというそのらしさを確保することが非常に重要であるということを私もよく認識しているところでございます。
そこで、人権、それでここは私の持論になってしまうのでまたかと言われると困るんですけれども、そこで私の理論といたしましては、考え方といたしましては、人権委員会がどこに置かれようと、その委員の人選に際して公正さ、透明性を確保すること、それから職員の任免権を実質的にも委員会が確保する、これが非常に大事だと思います。肝要であるとともに、それからもう一つ、これは是非国民の皆様にも御理解いただきたいんですけれども、行政委員会の特別の性格について国民の理解が得られるようにしていくという、これが格段の努力が必要だと思います。
それがどこに置かれても、行政委員会というのは今私が今日るる申し上げたようなものの性格であるということをまず国民の皆様に理解していただくことが必要であります。会計検査院だからといって、それじゃもう安心感あるかというと、それはそうではない。それは、やっぱり会計検査に対する信頼の問題、制度に対する信頼の問題、独立行政委員会への信頼の、制度への信頼感というものを是非国民の皆様にも持っていただくと。そのためには、私は人権委員会がその実績を上げるということだと思います。これだけ国民の皆様からの注視の、見られているところでの立ち上がった人権委員会としては、私は大変な責任を持つと同時に、大変な努力をしていただけるのではないかというふうに考えております。
以上でございます。
○平野貞夫君 ありがとうございます。
塩野先生の最初のお話の中で、人権委員会の運用というのが非常に大事だという御指摘があったんですが、そのとおりだと思いますが、やっぱり法案、法律と制度として成立させるためには、運用も大事ですけれども、やっぱり変な運用にならない制度を作るということが我々としての責任だと思うんです。
したがって、よほど私、これ与党の先生方にもお願いしたいのは、私どもも立派な人権擁護制度を作らなきゃだめだという意見でございますので、是非十分な議論、そして多少時間を掛けても立派な制度を作っていただくようにお願いして終わります。
○福島瑞穂君 社民党の福島瑞穂です。
私も人権救済機関は絶対に必要であるというふうに思っております。ただ、独立性の点とそれからメディア規制の点で、今の法律には根本的に、済みません、塩野先生、根本的に欠陥があるというふうに考えております。
内閣府は、ベストではないが、法務省マターである拘禁施設の中の人権救済を取り上げることを考えれば法務省の外局ではやはり制度的に欠陥があるのではないか、そういう意味では社民党もほぼ民主党案と同じ内閣府の外局に作るべきだという案を作っておりまして、人権救済機関は必要、しかしこの法案はやはりやり直せというふうに考えております。
今日は、報道被害の点から岡村先生も来ていただき、またメディアの現場で頑張っていらっしゃる石井さんからも、さんとか先生とかごめんなさい、石井さんも来ていただいております。
先ほど桶川の事件について井上委員の方から指摘がありました。あるシンポジウムでやはり桶川のケースが例に取られ、初め、これはフリージャーナリストの人が遺族と接触をして、その過程の中で警察の対応が問題になったと。遺族の方たちは、やはり初めはメディアは嫌なわけですよね。つまり、真実を追求していく、事実の究明をしていくときに、取材が、遺族に接触をすることがやはり困難になる条文になっておりますので、その真実究明、つまり、もしかすると、この法律ができると警察の発表が大本営発表となって、メディアが事実は何かということを確認したいと思うときのバリアになってしまうのではないかというふうに思うのですが、この点はいかがでしょうか。石井参考人、お願いします。
○参考人(石井修平君) 私どもの危惧は正にその点にございます。
ただ、岡村参考人からは、報道被害の実態についていろいろ痛切な御意見を伺いました。その点について一つ一つが身にしみておりますけれども、取材のタイミングということについての問題提起もございました。そういった意味では、今の取材の在り方がすべて正しいと言うつもりは全くございませんが、人権委員会の先ほど運用の問題ということもございましたけれども、非常にどのタイミングでどういう取材をするかは難しい点が実際にはございます。たくさんの報道機関がございますし、たくさんの記者がいるという中で、事実をどのように取材するかということは非常に難しい点がございます。
したがいまして、今のような形の、法律をもって一律に取材対象を限定しているとはいえ、取材対象について取材が極めて困難な状況が予想される、想定されるような法律については、やはりかなりのバリアになるということで、正に我々はそれは問題があるという指摘をしております。
ただ、先ほどから出ておりますけれども、取材の在り方、タイミングも含めた、これについてはいろいろ今工夫は実はしております。その辺については過去の報道被害の実態を踏まえた上で努力はしていきたいと存じますが、正に人権委員会の運用によっては知る権利を阻害するおそれがあるということで、我々はこの問題についていろいろ物を言っているということでございます。
○福島瑞穂君 いわゆる真実が報道されないということは、それは国民にとっても物すごい被害が起きてしまうわけで、私もその点は大変危惧を持っています。勧告をするだけで果たして萎縮的効果が起きるかという議論もありますが、勧告することが萎縮的効果を生むだろうというふうに思っております。
例えば、私は議員になって、記者クラブが各役所にありますが、例えば、ある役所は例えばどこの社とどこの社を出入り禁止にしたと、二か月なんという話を聞くわけですね。法務省も例えばある社とある社をどれだけの期間出入り禁止にしたと。そうしますと、役所とマスコミの関係が、記者クラブ制度をどう見るかという議論はちょっと置いておいて、役所が排除をすることでメディアに対して制裁を加えるということもあると。それが物すごい被害ではなくてもそういうことがあるわけで、そうしますと、役所がメディアをコントロールするようになってしまうのではないかという点も思うのですが、例えばその点について、石井参考人、いかがでしょうか。
○参考人(石井修平君) 個々具体的なメディアと取材対象との緊張関係の例というのは過去たくさんございます。その都度、我々も対処をしてきたし、考え直すところは考え直した場合もございますし、突っ張ったときもございます。
私どもは、人権擁護法も含めた公の機関がメディアの取材の在り方、これに例えば一般救済に該当する場合は勧告ということがあるわけですけれども、あるいは任意の事情聴取ということもあるわけですね、調査ですね。こういうアクションが一つ一つ積み重なることによって、やはり萎縮効果という言葉に代表されますが、やはり一つの牽制と言いますか、取材行動を抑制する動きになることは間違いございません。
もちろん、我々は知る権利にこたえる堂々たる取材という確信があれば、それはそれで貫くわけでございますけれども、ただ、そのためにやっぱり取られる、エネルギーのロスということが真実追及の力をそぐということは、仮定の話でございますけれども、十分想定されると考えております。
○福島瑞穂君 疑惑追及やあるいは政官業の癒着のメスを入れる、あるいは情報公開がなかなかされない分野で頑張って取材をするというのは本当に大変だと思うのですが、具体的に例えばどういうことが被害として考え得るかということを、石井参考人、ちょっと教えてください。
○参考人(石井修平君) これも報道被害という点からどのように調整するかという課題は我々はあるんですけれども、例えば人権擁護法の具体的な四十二条の規定にございますけれども、例えば公人への粘り強い取材が特別人権侵害に指定されるという、著しいあるいは過剰なという言葉も法案の中にあるわけですけれども、これらが、粘り強い取材が著しいあるいは過剰であると人権委員会に認定される、取材対象によっては危険性があるわけです。こういう問題について、我々は基本的にあらゆる報道の自由、表現の自由に対する危惧をやはり取り除いていただきたいということで現在の対応をしているわけです。
○福島瑞穂君 今の公人というのは四項の、例えば犯罪行為により被害を受けた者、犯罪行為により被害を受けた者、犯罪行為を行った者の配偶者、直系若しくは同居の親族又は兄弟姉妹ということでよろしいですね。
○参考人(石井修平君) 特別救済の対象、取材対象は限定されておるわけです、おっしゃるとおり。ただ、先ほども申し上げたとおり、ある事象を取材する場合に、初期の段階では本当の当事者がどこにあるのかということについては分からないケースもございます。したがいまして、例えばたまたま今政治家とか役人とかという例が出てくるわけですけれども、そうではない一般的な犯罪、疑惑、非常に大きな疑惑も含めて、取材対象が不幸にして当事者だけにとどまらず家族に及ぶというケースも過去たくさんございます。そういうケースについては、非常に取材上のバリアとしては働くということは言えると思います。
○福島瑞穂君 もし、可能であれば、石井参考人、教えてください。政治や政治家からメディアに対して圧力が掛かるということはあるのでしょうか。もし、答えることが可能であれば、答えてください。
○参考人(石井修平君) 恐らくここであると答えると、非常にこちらにとって有利な話になると思うんですけれども、私自身は幸いにしてそういった形でこれは圧力だというふうに意識したことはございませんが、ただ、ある、当時、疑惑を持たれていた国会議員の方から直接代表電話で御意見を承ったことはございます。その方は、現在、被告になっておりますけれども、そのケースにつきましては、しかし私どもは事前取材の一環として当事者の主張を聞くというのが基本だと私は思っております。それは圧力ということではなくて、当事者の証言を直接聞くチャンスだというふうには私は受け止めましたので、その方の言い分は十分聞かせていただきました。そのことをもって、何か圧力があったとか、取材を牽制されたりというふうには認識しておりません。
したがいまして、特定の政治家からの取材上の圧力があったという経験は今のところございません。
○福島瑞穂君 メディアの規制の部分についての凍結論、それも一つの考え方で、今よりはいいかもしれませんが、その凍結論について、石井参考人、どうお考えでしょうか。
○参考人(石井修平君) 先ほども浜四津さんの質問に答えましたけれども、凍結ということが具体的な国会での本格的な審議に入った直後に出てきたということは、やはり我々も含めた広範なメディアからの声の一定の反映だというふうには考えております。
しかし、その他の問題について、例えば独立性の問題というのが、私は名古屋刑務所の事件をきっかけに、やはり最初に申し上げたとおり、我々は報道問題研究部会の立場で報道の自由にかかわる部分についてずっと一貫して物を言ってきております。あらゆる共同声明もそうですし、民放連の見解もそのようになっております。私も今日その立場で来ております。したがいまして、幾つも問題を抱えているという指摘については承知しておりますけれども、今回、改めて具体的な事例として、独立性の問題というものについて、この法案がやっぱりもう一歩踏み込んだ工夫をしないとなかなか全面的に受け入れるという世論にはならないんではないかという気は個人的にはしております。
○福島瑞穂君 凍結論が出てくるのは今よりもいいとは思うんですが、ただ、凍結は電子レンジでチンすれば解凍してしまいますので、やはり凍結は、将来の解凍を考える可能性もあるわけですので、それであれば、削除あるいは見直した方がいいんではないかと個人的には考えております。
今日、塩野参考人からいろいろお話をしていただいたのですが、私自身はちょっと意を強くいたしましたのは、法務省の外局である必然性はないと。どこかの外局ではある必要、外局というか、憲法改正をするのは置いておけば、どこかの独立行政法人、独立機関、外局として、どこかの外局として作るということで、法務省の外局であるということの必然性はないというふうに承ったんですが、その点についていかがでしょうか。
○参考人(塩野宏君) 唯一の選択肢ではないというふうに申しました。
これは、それぞれ問題点を突き出すといろいろあるんですね。内閣府ということで、先ほど大統領制の国とそれからウエストミンスター系の国との違いを申しましたけれども、内閣は、私の感じでは政治の、日本の内閣は行政権におけるその執行権の中枢なんですね。それは、見方によりますと、私が学生のころから見ますと、内閣なんというのは正に悪の根源でございます。権力の中枢で、そして、更に私が勉強している間に警察がそこに入りました。これについては、当時、学界でも大変問題が起きました。それから、その当時、私のころにはまだいわゆる防衛関係のものはなかったので、それがどんどんつながってきております。
先ほどのようなお話で、刑務所の問題について、私も、基本的人権尊重主義に立つ日本国憲法の下で、法治国家をもって任ずる日本国憲法の下であってはならないことであると大変遺憾に思っております。
しかし、だからといって、じゃ、もう法務省では駄目ということになるかというと、私は、それはそうではなくて、また別の言い方をしますと、それでは内閣府で何か、防衛庁なり警察なりなんかで起きたらば、じゃ、内閣府から引っ越すかということになります。転々としなければならない。
私は、そういった判断よりは、先ほど来繰り返しておりますように、独立の行政委員会というものの制度、この信頼度をいかに高めていくかということが一番重要な事柄であって、あそこに付けると駄目だとか、ここに付けると駄目だとかという議論、私は多少青っぽい、まだ若いつもりですのであれですけれども、あるいは老人過ぎてそういうことを言うのかもしれませんけれども、それは生産的ではないというふうに思っております。
○福島瑞穂君 私の質問時間は三十七分までで、私はやはりメディア規制ということでは大変危惧を持っておりますので、三十七分までの間、石井参考人、言いたいことがあれば付け加えておっしゃってください。
○参考人(石井修平君) 先ほど来申し上げておりますとおり、報道被害の声については本当に重く受け止めております。個人的に申し上げれば、私は、あの松本サリン事件、河野義行さんのお宅に家宅捜索が入ったときの報道のVTRを常に引き出しの中に入れております。若い記者に話をするたびに、その直前には必ずそれを見て、私は当時の我々の報道の責任について思いを致すという努力はしているつもりでございます。
岡村さんの御指摘についても一つ一つの言葉が身に染みますし、また、猪野詩織さんの御両親のお話を研修という形で伺っても、やはり我々が犯してしまった報道被害の実態については、これは言い訳のできないことだという認識を強く持っております。
しかし、そういう我々の思いも含めて、基本的にはもっと大きなやっぱり表現の、もっと大きなという意味は報道被害の実態に比べてという意味ではなくて、我々はそういう真摯な、非常に重い、痛切な声を受け止めるその基盤の一つとして、我々は報道の自由というものがあると思っております。あらゆること、国家に対する反発あるいは差別に対する怒り、それから国家権力の不当な暴力といったもの、それと一人一人の報道被害を受けた方の被害、これらも含めて我々はすべてを取材し、すべてをきちっと報道する責務があると考えております。是非、我々の自主的な努力に対する御理解をいただきたいというふうに思っております。
以上でございます。
○福島瑞穂君 終わります。
○委員長(魚住裕一郎君) 以上で午前の参考人に対する質疑は終了いたしました。
参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、大変お忙しいところ貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。当委員会を代表して厚く御礼申し上げます。(拍手)
午前の審査はこの程度にとどめ、午後二時まで休憩いたします。
午後零時三十六分休憩
─────・─────
午後二時一分開会
○委員長(魚住裕一郎君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
休憩前に引き続き、人権擁護法案を議題とし、参考人から御意見を伺います。
午後に御出席いただいております参考人は、弁護士・日本弁護士連合会国内人権機関に関するワーキンググループ座長藤原精吾君、全国自由同和会会長茗荷完二君及び人権フォーラム21事務局長・新潟大学法学部教授山崎公士君でございます。
この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。
参考人の皆様方から忌憚のない御意見をお聞かせいただきまして、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
議事の進め方でございますが、まず藤原参考人、茗荷参考人、山崎参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただきまして、その後、各委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。
なお、念のため申し添えますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと存じます。
なお、参考人の方の意見陳述及び答弁とも、着席のままで結構でございます。
それでは、藤原参考人からお願いいたします。藤原参考人。
○参考人(藤原精吾君) 弁護士の藤原でございます。
基本的人権の擁護をその職業的使命とする弁護士、弁護士会が人権擁護法案に反対するというパラドックスが生じております。なぜでしょうか。そのことをともに考えていただきたいと思います。
私は、これまで約三十五年にわたる弁護士としての経歴を主として人権擁護活動に費やしてまいりました。九八年度には、日本弁護士連合会人権擁護委員長として国連自由権規約委員会の日本政府報告書の審査に立ち会い、今回の法案に深いかかわりのある国内人権機関についての審議と勧告をこの耳で聞いてまいりました。昨年、二〇〇一年には、日弁連副会長として国連の社会権規約委員会の条約実施状況審査に立ち会い、ここでも国内人権機関の設置について勧告が出されております。
このたび人権擁護法案の審議が開始されるに当たり、待っていたかのように名古屋刑務所での事件が発覚しました。この事件は、単に看守が受刑者に革手錠をはめて暴行した、死に至らしめたというだけの事件ではありません。お手元の資料1、2をごらんになったらお分かりのように、受刑者が弁護士会に人権救済の申立てをし、それに対して、刑務官がその取下げを迫って断られたことが暴行の動機になっておるわけであります。すなわち、刑務所においては人権救済の申立てをすること自体が許されない、更なる抑圧の対象となるということを示しているわけであります。そして、最近五年九か月間に三十二名の刑務官が収容者への暴行を理由にして懲戒処分を受けたということが明らかになっております。このような事件は五年間隠ぺいされていたわけであります。
こういった収容者である受刑者がSOSを発するのに困難があるだけではありません。弁護士会が人権擁護の申立てを受けてその調査を開始しても、刑務所側では関係者である看守に直接弁護士に会わせることはいたしません。また、申立人と弁護士が面会をしたいという申入れをしましても、時間の制限あるいは聞き取りの際に必ず看守が立ち会うなどの妨害をするわけであります。また、参考人から事情聴取すべく刑務所長に申し入れても拒絶しますので、広島弁護士会では国を相手に国家賠償訴訟を提起して、係属しておるところであります。
事ほどさように、刑務所そしてこれを所管する法務省という役所は、人権擁護活動には消極的というのを通り越して、更に敵対的な態度を従来取ってまいっているわけであります。
話は変わりまして、今年の一月でありますけれども、日弁連は、日本ペンクラブ外三十七団体の申立てを受けて、公安調査庁に対して人権侵害行為の中止を求める警告を発することにしました。資料の3でありますけれども、この事件は、ペンクラブだけでなく、情報公開を求める各地の市民オンブズマン、果ては阪神・淡路大震災の被災者救援活動に従事している関係者まで、公安調査庁の調査官がスパイをし、情報収集をしていたという事件であります。このような活動が憲法、公安調査庁設置法あるいは破防法に違反する違法な職務執行行為であることは明白であります。
ところが、我々日弁連が警告書を、この資料3の警告書を発すべく法務合同庁舎にあります公安調査庁に赴いたところ、同庁では、警告を受ける違法行為はしていない、警告書を受け取ることも会うこともしないというふうに、我々を受付から一歩も入れず、門前払いをしたわけであります。
今回の法案で言う人権委員会は国家行政組織法三条の行政委員会であり、独立して権限を行使し、法務大臣の監督を受けることはないとこの法案の作成者である法務省人権擁護局長が説明をされております。しかし、この公安調査庁こそ法務大臣の所轄する国家行政組織法三条の外局であります。
そこで、法務省とはどのような組織でありましょうか。民事局、刑事局、矯正局、入管局、人権擁護局、その他、外局とされる公安調査庁などにより構成されておりますけれども、法務次官、官房長も含め、局長、課長など主要ポストはすべて検事又は裁判所との人事交流による判事が独占しておるのが実情であります。今回の法案に関係されております人権擁護局長あるいは矯正局長、入管局長などの局長、課長も検事さんでありまして、外局である公安調査庁の長官も検事などの人事であります。
このように、一般職の法務官僚キャリアの上に検事がキャリア中のキャリアとして人事交流を行っているわけでありまして、法務省の人事は検察庁人事の一環とも言えるわけであります。人権擁護局長は矯正・入管職員との交流はしないとおっしゃいましたけれども、それはキャリアを除くというただし書が付くものと考えられます。
人権擁護法案十五条を見ますと、「弁護士となる資格を有する者を加えなければならない。」ということが職員の要件にありますが、弁護士ではなく資格を有する者というのは、これは検事、検察官をこれに充てると読むことができるんではないでしょうか。
再び九八年の国連規約人権委員会の勧告に戻りますと、このうち具体的なあて先のあります二十四項目のうち十五項目が法務省にあてたものであります。国際人権規約に違反あるいはそれに違反すると考えられる事項の六三%が法務省によって占められておるわけでありまして、これこそ人権侵害のデパートということが言えるんではありませんでしょうか。
国民にとって人権救済機関とはどのようなものであってほしいか。人権侵害を受けたときに駆け込める、信頼できる組織でないといけないと思います。人権委員会は拘束力のある決定をできないわけでありますから、一層国民からの信頼が必要であります。
資料5にあります総理府の世論調査でも、法務局に人権侵害の相談をした人は一・九%、これが実情であります。これを、法務省の人権委員会を法務省の外局にしたからといってそれが大きく改善できるとは考えられません。
問題は、キャリアの人事交流だけではなくて、地方法務局において現在、人権擁護行政に従事している職員も、昨日は供託、明日は登記というふうにローテーションをされております。人権擁護に情熱を持ち、これに専念できる職員は現在もなおほとんど育っておりませんし、またこの人権委員会ができたら、さらにそれは本務ではなくなるわけでありますから期待できないわけであります。
さて、問題は、名古屋刑務所のように国が責任を問われる事態が発生して国家賠償訴訟が起こったとき、それを国の代理人として担当する人はやはり地方法務局の職員である訟務部の職員ということになります。そして、その人が将来、人権委員会の職務に携わらないという保障は全くありません。
国民の信頼をかち取るためには、内容が公正であるばかりでなく、外形的にも公正である必要があります。
人権擁護局の局長は、法務省内での人事交流が現実的であるというふうに答弁をされております。しかし、現実的であるということが優先するんではなくて、独立性こそ人権機関の生命線であるというふうに考えます。
九八年の規約人権委員会の勧告は、名指しで、法務省の監督下にはない独立した人権機関の設置を求めているわけであります。韓国の国家人権委員会の幹部も、独立性のない機関を作るぐらいならば、いっそない方がよいというふうに発言されております。それが資料の6に要約されております。このような教訓に、韓国の教訓に学ぶべきであります。
ところで、人権擁護局長は、韓国の委員会が大統領に直属というふうに説明をされたようですけれども、そうではありません。四名が大統領、四名が国会、そして三名が大法院長の指名で選任され、三権それぞれに足場を持った、言わば第四権ともいうべき存在になっております。
そこで、人権委員会を法務省の外局にしないとすればどこに設置すべきか、そういったモデルは我が国にもあると思います。公正取引委員会は言うまでもなく、原子力安全委員会、食品安全委員会など、行政の見張り番になるものはその担当省庁から離れた内閣府に設置されております。
職員は法務省との人事交流は絶対に認めることは許されないと考えます。現在の法務省の職員を委員会が採用するのは構わないと思いますが、採用された以後は委員会の業務のみに従事し、法務省に戻らない。NGOなど在野からも人材を募集するべきであります。
来年の十月、再びこの日本政府報告書の審査があります。そのとき果たされていなかったら、国内人権機関についてどのような指摘を受けるのでありましょうか。明日十三日、ニューデリーでアジア太平洋地域の国内人権機関のフォーラムが開かれます。国際社会において人権を尊重する国であるという、そういう評価を我が国が獲得するためにも、アリバイ作りで有害無益な組織を拙速に作るのではなく、国民の信頼に値する、政府から真に独立した人権機関を作るべきであるというのが私どもの考えであります。
ほかに、人権委員会の担うべき人権教育あるいは政策提言機能など、述べたいことがありますけれども、それは資料集、青い方の資料集の百十三ページ以下に日弁連の意見として掲載されておりますのでそれに譲りまして、私の意見を終わらせていただきたいと思います。
どうもありがとうございました。
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
次に、茗荷参考人にお願いいたします。茗荷参考人。
○参考人(茗荷完二君) 私、全国自由同和会の茗荷でございます。
本日は、このようにこの法案を審議する場にお呼びをいただきまして、意見を述べる機会をいただきましたことにまずもって感謝を申し上げたいと、このように思います。
懸案のこの本法案、人権擁護法案でございますけれども、私ども全国自由同和会を代表いたしまして、人権擁護法案に賛成の立場から意見を述べさせていただきたいと思います。
私ども全国自由同和会は昭和六十一年に結成、十七年前でございます。同和問題の解決というのは、国民に非常に関連の深い人権という視点、こうした普遍性のある枠組みの中でこそ本当の同和問題の解消があると、そういう信念の下に今日まで人権基本法の制定を提唱し続けてまいったわけでございます。
その内容でございますけれども、それは一つは住環境の整備であります。これは長い間の差別によりまして非常に住環境が悪かった。それをまず直していくということ、住環境の整備であります。その次には差別意識でございますよ。したがいまして、そうした差別意識を解消するための人権教育・啓発の推進を図る、そうしたことであります。それから第三点は、人権教育・啓発というのはこれは予防的措置でございますよね。そうした教育、啓発にもかかわらず人権侵害が起こった場合には、そうした人権侵害に対する被害者の救済、これを、三点が中心でございます。
その今日の問題でございます人権侵害に対する被害者の救済につきましては、私どもは、まずは簡便であること、そして迅速な処理が必要である。それから第二には、より実効性の高い調査手続や救済手法を備えた人権救済制度の確立でございます。それから第三点は、それを実施するためには国家行政組織法第三条、非常に大事でございますよね。これは公正取引委員会以来長らくこういう国家行政組織法による委員会は作られなかったわけでございます。久しぶりでございますよね。そうしたいわゆる人権委員会を設置するべきとして、関係要路に要請をしてまいったわけでございます。
その結果、人権救済制度につきましては、平成五年に当時の総務庁が実施しました同和地区実態把握等調査の生活実態調査や意識調査の結果から見まして、現制度は不備だということ。これは御承知のとおり、法務省には人権侵犯事件調査処理規程というのがございますよね。そしてまた、人権擁護委員制度がございますけれども、そのいずれも、これはいわゆる調査権を持ってはいないわけでございます。そうした実効性のない不備な制度でございます。
その明細につきましては、お手元に差し上げております資料に詳細は述べておるわけでございますが、そうしたことから、国民からの支持を得ていない、また被害者からの信頼も得ていないことが明確になりまして、新たな制度の導入を検討するために、御承知の平成八年十二月には人権擁護施策推進法ができております。それに基づいて平成九年五月に人権擁護推進審議会が設置されまして、先ほど申し上げました人権教育・啓発並びに人権救済についての審議が慎重に行われたところでございます。
その第一号諮問の人権教育・啓発の推進につきましては、その答申がございました後に、八十三名の議員立法でございますね、両院議員八十三名の議員の御賛成をいただきまして、議員立法として、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律は既に平成十二年十二月より施行されておるところでございます。
今般の人権擁護法案は、第二号諮問事項の人権救済についての審議会の答申を受けたものでありまして、答申に至る経緯として、関係団体からのヒアリング、これございました。私どもの団体も意見を述べてございます。そしてまた、全国の四会場での公聴会が開催されております。そしてまた、国民からのパブリックコメントの募集を経て作成されたものであり、正規の手続を踏まえたものでございます。
私どもが関係いたしております同和問題に対する本法案の寄与につきまして申し上げますと、本法案は、人権委員会を新たに設置して、差別、虐待の被害者など、自らの人権を自ら守ることが困難な弱い立場にある人々の効果的な救済を図るものでありまして、これは差別、虐待をこれからの社会になくするためには絶対必要不可欠な法律でございます。
私は、これを憲法第十四条に比較してみますと、御存じの憲法第十四条は、すべての国民は法の下に平等であり、そして人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的、社会的関係において差別されないとございますよね。差別されない、つまり努力規定でございますよね。しかしながら、本法案は、更にそれに疾病と身障と、更には性的指向、セクシュアルハラスメント、これを加えまして、しかも第三条におきましては、差別、虐待その他の人権侵害をしてはならないです。いわゆる禁止規定でございますよね、禁止規定であります。
私どもから見まして高く評価できる内容を数多く含んだものであり、本法案と同和問題との関連につきまして申し述べますと、まず従来、個人間における不当な差別的取扱いを禁止する法律はありませんでした。なかった。例えば、同和地区出身者であることを理由に就職差別を受ける、果たしてこれが違法かどうかということが法律上必ずしも明確ではないという問題がございました。
そこで、私どもは、個人間においてもこのような不当な差別取扱いを禁止する差別禁止規定を含む人権基本法の制定を求める運動を今日まで展開してきたわけでございますが、本法案は、その点につきまして、部落差別を含む不当な差別的取扱いを、個人間のものも含め、社会生活全般にわたって明確に禁止をいたしております。私たちの長年にわたる運動の成果がようやく実を結んだものであり、法案を高く評価するゆえんでございます。
もう一点、いわゆる部落地名総鑑、この頒布のような部落差別につながるおそれの極めて高いいわゆる差別助長行為、これを明確に禁止している点でも画期的であります。申すまでもなく、部落地名総鑑はかつての被差別部落の所在地を一覧にした図書であり、昭和五十年にその存在が発覚いたしまして大きな社会問題となりましたが、今日においても、インターネット上での同種情報のはんらんや興信所による身元調査の問題に見るごとく、同様の問題が存在しておるわけでございます。
不当な差別的取扱いはその大部分が水面下で行われ、その疑いがあっても被害者がこれを証明することはほとんど不可能に近いのが実情でございますので、不当な差別的取扱いにつながるおそれの高いこのような差別助長行為を禁止し、差別を予防することが是非とも必要であると考えております。
次に、本法案は、部落差別を含む不当な差別的取扱い、部落地名総鑑の頒布等の行為に関し、これまでの取組に比べ、調査権限や救済措置の点で格段に実効性の高い特別救済という手続を準備いたしております。
これまで法務省の人権擁護機関が行ってきた部落差別事件の救済に関する取組は、決して高い信頼を得ていたとは言い難い。それが、平成五年に総務庁が実施した同和地区実態調査におきまして、人権侵害を受けた同和関係者のうち、法務局やあるいは人権擁護委員に相談したのはわずかに〇・六、一%以下でございますよ、という結果に表れているものと思います。
真に国民の信頼をかち得るためには、専門性と意欲を、先ほども申し上げられておられましたようですね、専門性と意欲を兼ね備えた職員の確保など、人権委員会の組織体制の整備が絶対不可欠であり、救済手続の整備は、あるべき人権救済制度の確立に向けた第一歩として極めて重要なものと考えております。
次に、人権委員会の独立性。非常に大事なことでございますよね。
ところが、これが独立性がないとの御批判がございます。先ほどもございましたよね。しかしながら、本法案の人権委員会は、先ほども申し上げましたように、国家行政組織法第三条第二項に基づくものでございまして、その仕組みは、公権力による人権侵害や報道機関による人権侵害につきましても、委員長、委員の選任の手続、それから身分を保障しております。職権行使の独立等を通して、救済の対象として取り上げることに十分配慮したものでございまして、高度の独立性が確保されていると考えております。
本法案は、今度は、先ほどもお話ございましたが、法務省に置くとしているところを、法務省ではなく内閣府に置くべきであるとの御意見もございます。しかしながら、委員会の独立性はそれをどこに置くかということに左右されるものではなくて、どのように独立性が保障されるのか、あるいは実際にどのような人が委員長、委員に選ばれるのかが重要であると考えておりまして、人権委員会には本法案により高い独立性が与えられておりますので、委員長、委員の人選など、その運用面で独立性を確保していくことが今後の課題だと考えております。
最後に、今度は報道機関による人権侵害でございますが、この人権侵害のうち一定のものを特別救済の対象として取り上げていることに対しましてメディア側から反対の声が上がっておりますけれども、しかし犯罪報道に関連して、犯罪被害者やその家族等のプライバシーを侵害する報道、あるいは集団的過熱取材、メディアスクラムでございますか、などと呼ばれる過剰な取材がこれは社会的問題となっておるわけでございまして、私どもは報道機関によるそうした人権侵害を特別救済手続の対象とすべきであると、このように考えております。
表現の自由、あるいは報道の自由は憲法上保障されております。これらを十分に尊重すべきことや自主的な解決を基本とすべきであるということには何の異論もございません。しかしながら、この点につきまして本法案は、御承知の第四十二条第一項第四号にもございますように、非常に二点に限定されておりますよね。そしてまた、専ら任意の調査により過料の制裁を伴った調査の対象から除外をいたしており、これは第七章の罰則、第八十七条、第八十四条に含まれていないわけでございますよね。それから、第三点には、報道機関による自主取組を尊重しなければならないとする義務規定も第四十二条第一項第五号に規定されておるところでございます。
実際、最近になりまして報道機関が自主的な取組を整備しようとする様々な動きがあることは私どもも十分承知いたしておるところでございますけれども、しかしながら報道機関による人権侵害の解決をすべてそれにゆだねるに足りる十分な体制が整っておるかといいますと、残念ながら必ずしもそうではないと。そういう現状にはありませんし、また近い将来、十分に整備されると期待するのも楽観的に過ぎるのではないかと考えております。
なお、本法案をめぐる報道におきましては、全く趣旨、目的、立案経緯の異なる個人情報保護法案でございますね、これとセットにいたしましてメディア規制法案などと称して、少なくとも最近まで、本法案の内容であります私らのこの差別あるいは虐待につきましてはほとんど触れておらない、本法案に賛成する声を伝えることも極めて少ないなど、取り上げ方が一方的であるということを大変残念に思っておるところでございます。
いずれにいたしましても、同和問題を始めとする人権侵害は日々後を絶っておりません。このように法案を検討している間にも人権侵害が惹起しているのが現状でございまして、既に平成十二年十一月には児童虐待の防止等に関する法律、これもできております。また、昨年の十月にはいわゆるDV法、ドメスティック・バイオレンス防止法も施行されておるところでございまして、国民は更に人権救済が推進される本法案の成立を待ち望んでおりますので、一刻も早く成立されますようにお願いを申し上げ、全国自由同和会を代表しての意見陳述を終わりにいたします。
ありがとうございました。
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
次に、山崎参考人にお願いいたします。山崎参考人。
○参考人(山崎公士君) 人権フォーラム21事務局長をしております山崎と申します。新潟大学法学部で国際法と国際人権法を担当しております。
私自身の専門の立場、それから過去五年間、人権政策提言NGOとして活動してきた視点、この二つを踏まえて、人権擁護法案をめぐってお話をさせていただきたいと存じます。
まず最初に、お二方の参考人から国内の立法事実についてお話がございましたので、私の方からは冒頭に国際的潮流のことを少し触れさせていただきたいと思います。
特に、一九九〇年代前半に、冷戦構造が崩れて以降、国際社会、特に国連の場などを通じて、それぞれの主権国家の中での公権力による人権侵害あるいは私人間の人権侵害、こうしたものを単に国内問題としてだけでなしに国際的な問題として取り上げていくというような風潮が出てまいりました。
こうした風潮と相前後して、途上国も、そして先進国も、それぞれの国が抱えている大規模人権侵害に立ち向かうためにまずもってやったことは、法律でもって人権侵害、差別行為というものが社会的な悪であり法の規制の対象にされるべきであると、こうした法を形成されたわけでございます。
こうした規範ができることは重要なわけですが、それを具体的に実施する機関として、従来の行政機関、そして司法機関だけでは事足りない、つまり市民の立場から救済を得るという点で必ずしも使い勝手が良くなかったわけですから、政府から独立した新たな第三の機関、すなわち国内人権機関、具体的にはオンブズパーソン制度でございますとかあるいは人権委員会制度、こうしたものを九〇年代前半から後半に掛けて逐次整備されたのであります。
今日、日本において人権擁護法案が審議されておりますが、正にこの審議のプロセスというのも大きくとらえれば今申し述べた国際社会での潮流の一こまに位置付けられるというふうに思っております。そうした視点から申せば、この人権擁護法案が予定されております人権委員会が真に政府から独立した存在になるとすれば、これは国際的な潮流から見て正に大変結構なことでございます。問題は、そうなっているかどうかという点であろうと思います。
順次、具体的に、私がお配りさせていただいておりますレジュメに沿って個別の問題点に触れさせていただきたいと存じます。なお、その際、資料が四種類添付されておりますので、順次御参照願えれば幸いでございます。
まず第一点でございます。公権力による人権侵害というものが果たしてこの法案の中で独立した侵害類型になっているかどうかという点でございます。率直に申し上げますと、なっておりません。資料1を御参照願えればと思います。人権侵害類型、左手に〔1〕差別、〔2〕虐待、〔3〕メディアによる人権侵害、こういうふうに書いてございます。多くは、〔1〕と〔2〕は第三条の人権侵害禁止規定に係るものでございます。そして、〔3〕のメディア人権侵害の類型は、主には第四十二条に係るものでございます。
さて、注意深くごらんいただきたいのは、公権力等による差別的取扱いあるいは虐待です。これは確かに公権力がその侵害主体になるということは織り込まれております。しかし、よくごらんいただきたいのは、独立した類型にはなっていないわけでございます。
是非思い起こしていただきたいのは、人権擁護施策推進法が衆議院、参議院の法務委員会で採択された折に附帯決議が付いていたと思います。その中の何項目めかに、この審議会の答申を十分に踏まえるということが書かれていたと思います。果たして踏まえていると言えるでしょうか。
人権救済答申、昨年五月二十五日に出されたわけですが、ここでは人権侵害類型は御案内のとおり四類型提示されました。すなわち、差別、虐待、公権力による人権侵害、そしてメディアによる人権侵害です。確かに埋め込まれてはおりますが、今申し述べたように独立した類型になっていない。
これは実は、この点はなぜ先に強調させていただいておりますかといいますと、この点がメディア人権侵害との絡みで、公権力人権侵害についてより薄まった規定ぶりになっている。その反面、メディア人権侵害が非常に突出した特別救済対象となっている。このアンバランスがそもそもこの法案の中に埋め込まれているということを強調させていただきたいからでございます。
第二点を申します。人権委員会の独立性に係るものでございます。資料の3と4を順次ごらんいただきたいと思います。
資料の3は、先ほど来お話がございます一九九三年の国連パリ原則という、国内人権機関、人権委員会作りの言わばガイドライン、指針を示す国連文書でございますが、これに照らして今般の法案がどういう問題性を秘めているか、左手にパリ原則の文言そのもの、右手に私どものNGOの視点から見た問題点を列挙させていただいたものでございます。順次御参照いただければと思いますが。
あるいは資料4は、今回の臨時国会が開会された日に、私どもが従来触れております提言に若干付け加えたものを「人権擁護法案の抜本的修正に関する提言」という形で表現させていただいたものでございます。一言で申せば、公権力による人権侵害と構造的な私人間の人権侵害、これは日本社会には満ち満ちているわけでございます。これが言わば今般の人権擁護法案が必要とされる私は背景を成している立法事実と言えると思います。こうしたものをやはり過不足なく扱えるような政府から独立した人権委員会が是非とも日本社会に必要でございます。
それと同時に、人権委員会が本当に実効性を担保でき、かつ市民から信頼されるような組織になるべく、その手続、規則を緻密に制度設計していく、これがやはり国会に要望される二つのポイントであろうというふうに思っております。
さて、先ほども藤原参考人の方からお話がございましたとおり、やはり端的に申しますれば、公権力による拘置所、入管、刑務所というような場所での密室的な人権侵害、これは具体的には最近、若干表面化しているようでございますが、これは言わば氷山の一角であると私は思っております。こうしたものはやはり構造的に起きるものですから、こうした被害を受けがちな、あるいは受けた方が率直に相談、救済が受けられる仕組みというのをやはり日本社会としては用意しておくべきであるというふうに私は強く思うところであります。
先ほど、茗荷参考人の方から実質的な独立性が大事であるというお話がございました。私も全く賛成でございます。と同時に、その大前提としては、やはり形式的な独立性も大事であるという点でございます。市民から、訴えをする方から、あそこに行ったら何とかしてもらえるだろうという信頼を得られるためにも、最低限、形式的な整合性は整える必要があろうかと思います。
そういう意味では、法務省に置くのは得策ではなく、私は、端的に申せば人事院並みに内閣に置くのが一番理想的であろうと思いますが、現実性がやや乏しゅうございますから、やはり食品安全委員会、あるいは来年度予定されております総務省から内閣府に移管されると言われる公正取引委員会と同様の位置付け、すなわち人権委員会は是非とも内閣府に置くのが今の時点では形式的な整合性、独立性を担保するゆえんであるというふうに思っております。
そうしませんと、パリ原則にのっとった独立性は確保されませんし、先ほども藤原参考人の方からお話がありました、今日、明日から始まるデリーにおけるアジア太平洋地域の国内人権機関フォーラム、これもいずれ人権委員会が立ち上がれば参加することになろうと思いますが、その際の参加の手続において、果たして日本の委員会が独立性が担保されていると認めていただけるかどうか、私は非常に微妙な点に差し掛かると思います。そういう点では、形式的な独立性も非常に重大な問題であるというふうに思っております。
次に参ります。
今回の制度設計では、中央にのみ人権委員会を置き、地方には置かない、法務省の人権擁護局の仕事を担当されている法務局、そして地方法務局に地方事務所を置くという形で扱うということが予定されております。
しかしながら、御案内のとおり、全国津々浦々で日々起きております公権力による人権侵害あるいは私人間の差別事象というものは、それぞれの現場、ローカルで起きているものでございます。これをすべて霞が関の方から把握するというのは正直言って無理であろうと思います。きめ細かな、これまでその地域地域、独自のやり方でうまく解決してきたノウハウというものを活用するという視点に立てば、是非、制度設計で非常に苦しいところがあるということは私はよく存じ上げておりますが、そこを一工夫、二工夫なさった上で、是非是非、地方人権委員会を設置という方向をお出しいただきたく思っております。
さて、人権委員会の実効性に移らせていただきたいと思います。これも先ほど来申し述べております独立性と裏腹の関係にございます。
まず、確かに、第三条で振り返りますと、人権侵害というのはどういうものであるかということが人権侵害を禁止する類型とともに提示されました。この点は日本法においては画期的なことで、私は評価したいと思います。しかし、まだまだ十分なところではございません。
まず第一点は、何が人権なのか。確かに、それは日本国憲法第三章に書いてあるといえばそれきりでございますが、やはりこれを具体的に法律でもって定める、例えば韓国の国家人権委員会設置法のように、韓国の憲法及び韓国が批准又は加入した人権条約に定義されている人権はすべて人権委員会が活動する際の人権である、このような例えば明快な人権の定義を下しておく必要があろうと思います。
不当な差別というものも、特にメディア人権侵害等にかかわる問題としては、人権委員会にフリーハンドを与え過ぎるおそれがございますので、人権、人権侵害、そして不当な差別等の定義は、よりできる限り具体的な明快な定義を法案に盛り込むということが私は肝要であるというふうに存じております。
同時に、実効性を担保するためには、まずそのユーザーとして想定されます市民から信頼を得なければいけません。ジェンダーバランスを保つことは盛り込まれているようでございますが、さらに様々のマイノリティーを含む多元性、社会の多元性を踏まえた委員構成そして職員構成を是非御努力いただきたいというふうに思っております。
救済手続について申し述べます。
公権力による人権侵害に係る救済手続に関しては、先ほども独立した人権侵害類型になっていないという批判を申しました。これは是非新しい章、せめて節を設けて、私人間の人権侵害に係る救済手続とは明らかに異なる、例えば今回の刑務所のケースでいえば、無条件立入調査権限等も積極果敢に人権委員会に付与するなどの御工夫も是非お願いしたいところでございます。
その裏側としては、メディアによる人権侵害については、この際、凍結等の小手先の操作ではなしに、これはばっさりと今回の特別救済手続からは外すというのが、そしてメディア関係者の自主的な規制に任せるというのが諸外国の例でございます。
さて、最後の二点でございますが、人権委員会による特定職業従事者、特に法執行官に対する人権教育機能、これは是非、人権委員会に強い権限をお与えいただきたいと思います。この点も多言を要しないと思いますが、今回の名古屋刑務所の一連の出来事をごらんいただけば、いかに法執行官、もちろん代用監獄も含めて警察官についても同じでございますが、特に法執行職員に対する人権教育がいかに大切かというのが身にしみるところであろうと思います。
最後でございますが、人権委員会による政策提言機能の重要性について若干触れさせていただきたいと思います。
確かに、法案第二十条では、意見を述べることができる、内閣とか国会に対して、というふうに書いてございます。しかし、パリ原則によれば、人権委員会に期待される三つの役割というのは、第一は人権救済機能、第二は人権教育機能、そして第三は人権提言機能でございます。
特に、先般の旧ハンセン病患者に対する一連の構造的な、九十年以上にわたる長年の構造的人権侵害、これがやっと昨年段階で解消の方向に、完全に解消したとは思いませんが、解消の方向に一歩踏み出したわけですが、仮に五年前、十年前に政府から独立した人権委員会が日本社会にあって、その委員会が果敢に国会あるいは内閣に対して、ああした法律は即刻撤廃し、そして救済等の行政措置を立法も含めてやるべきであるという提言がもしあれば、九十数年の構造的な人権侵害状況はもう少し短くて済んだやもしれません。
さらに、終わった問題だけではなしに、ヒトゲノムの解析等々、あるいはインターネットによる差別扇動等、新たな技術革新に伴う新たな人権侵害状況、今後様々想定されますから、そうしたことも考えますと、日本社会としては人権委員会に強い人権政策提言機能を期待したいところでございます。
以上でございます。
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
以上で参考人の意見陳述は終わりました。
これより参考人に対する質疑を行います。
質疑のある方は順次御発言願います。
○佐々木知子君 自由民主党の佐々木知子でございます。
今日は三人の参考人の先生方、お忙しいところわざわざお越しいただき貴重な御意見を賜り、ありがとうございました。
本法案につきましては、人権委員会の置き場所というのが大きな論点の一つとして挙がっております。これにつきましては、藤原参考人も山崎参考人も、法務省に置いたのでは独立性は確保し難いので内閣府に設置すべきだという御意見であったろうと思います。
規約人権委員会を見てみますと、平成十年十一月の最終見解でございますけれども、特に警察と出入国管理当局の人権侵害について、独立した救済機関の設置を勧告しているものでございます。確かに、法務省から離せば入国管理当局との距離は取れましょう。そして、最近問題になっております刑務所との間についてもそうでございましょう。ですが、他方で、内閣府に置いたのでは警察との距離が近くなってしまうということはこれまた明らかなことでございます。午前中の塩野参考人もそのような危惧を述べておられました。
そしてまた、予算や人事も、内閣府に置くことによって法務省に置いた場合と異なるという取扱いになるわけではございません。さらに、これは釈迦に説法でございましょうけれども、内閣府というのは内閣のリーダーシップを強化するために作られたものでございまして、むしろその影響を排さなければならない独立行政委員会をそこに置くのはどうか、おかしいのではないかといった問題もあろうかというふうに思います。
そこで、内閣府に置けば、いま一度、どのような利点があるのか、藤原参考人及び山崎参考人にお伺いしたいと思います。
○参考人(藤原精吾君) 内閣府に置くということは、法務省からの直接の人事あるいは予算の影響を可能な限り受けないということであります。もちろん、内閣府に置けば行政から完全に切り離されているというわけではありませんけれども、特定の行政庁の行う行政と別に、切り離してもっと総合的な立場で職務が行えるということであります。すなわち、それは可能な限り行政のコントロールから外すという意味においてそのような提案をしているわけであります。
そして、比較の対象として挙げられました警察についてどうかといいますと、警察は御案内のとおり国家公安委員会が所轄、監督をしているわけで、もちろん国家公安委員長は総務省自治大臣が主宰をしているわけでありますけれども、しかしながら、可能な限り警察の行政というものが政治的な影響力を排除するというような趣旨で警察法が制定されたというふうに理解をしておるわけで、そのような意味で、決して警察との距離が近くなるというふうには私は考えておりません。
○参考人(山崎公士君) お答えさせていただきます。簡潔に二点だけ申し上げたいと思います。
私も、今の藤原参考人とほとんど同じ意見でございます。内閣府に持っていけば警察庁あるいは警察の職務と人権委員会が近くなるという立論はいささか私は腑に落ちないのでございます。なぜかと申しますと、法務省に置く場合には、これまで入管局、矯正局と同じ省内に人権擁護局があり、それが人権委員会事務局に変わるということでございまして、従来非常に長年にわたって同じ省内にあったものをそこに置くことが、同じ省内に置くことが問題なのでございます。
先ほども私が若干触れましたとおり、理論的には恐らく一番いいのは、憲法改正をしなければ、一番いいのは人事院並みの内閣に置くということであろうと思います。私は、それが個人的には一番いいと思っております。しかし、これはなかなか難しい問題が多々あろうと思いまして、やや現実性に乏しいというふうに思っております。
そこで、次善の策として、どこかの省庁に国家行政組織法第三条二項に基づく独立行政委員会を置かなきゃいけないわけですから、より適切な、あるいはより適切でないところから外すという視点で、法務省でなく内閣府という一つの在り方が出てきているという点でございます。
第二点でございます。同じことの言い換えにわたるかもしれませんが、食品安全委員会は確かに八条委員会というふうには理解しておりますが、内閣府に置かれるということでございます。私が拝見しました食品安全委員会を置くことについての閣議決定の文書の中に、その新しく置く委員会の独立性という観点から、独立性という観点から内閣府に置くという文言がございました。これが第二点目の一つです。
もう一つは、今、総務省に置かれております公正取引委員会、これは三条委員会でございますね、これを内閣府に置くと。これは、総務省に置くことがより適切でないから、先ほど来申し上げている人権委員会を法務省に置くことがより適切でないから、より妥当な内閣府に移す、こういう発想というふうに私は理解しております。正に、人権委員会を法務省でなしに内閣府に置くのがより妥当であるというのは、ちょうど公正取引委員会を総務省から内閣府に移管するという理屈と同じであるというふうに理解しております。
以上でございます。
○佐々木知子君 再度、山崎参考人にお伺いしたいんですけれども、地方にも委員会組織を置かなければ人権救済制度の実効性は確保できないとおっしゃったと思われます。ADRとしての人権救済制度というのは、簡易迅速等を旨としておりますので、裁判のように直接主義の要請は働かず、職員による調査の結果に基づいて事実認定や必要な措置等を判断すれば足りるものでございます。
そのような意思決定機関としての委員会は各都道府県になければならないものではなく、諸外国の例を見ても、中央に一個で十分機能するのではないかと思うわけです。連邦制の国を除き、地方にも委員会を設けている例はないと存じております。この点についていかがお考えか、お伺いいたします。
○参考人(山崎公士君) お答えさせていただきます。
私どももNMP研究会というところで国内人権システムの国際比較研究をこの四年間ほどさせていただいておりまして、若干の成果も刊行させていただいております。
私どもが国際比較研究をする場合、絶えず念頭に置いておりますのは、ただ単に形を比べればいいという問題ではないということでございます。つまり、それぞれの国、もちろん連邦制と中央集権国家は違いますし、同じ中央集権国家でもそれぞれの歴史、社会構成、文化等々、あるいは国民と国家との関係、緊張関係などなど、様々な色彩が違うわけでございます。したがいまして、諸外国の例を見れば地方人権委員会は余り見当たらないと。場合によってはそうかもしれません。しかし、そのことが直ちに国際比較研究の成果として日本の制度設計の妥当性を説明し得るものになるとは私は必ずしも思っておりません。第一点はそのことでございます。
第二点は実質的なことでございますが、度々申し上げているとおり、地域地域で部落差別にしろ外国人差別にしろ雇用問題にしろDVにしろ、様々な人権侵害が日々生起しておるところでございます。これについては、従来、日本の人権擁護行政の中で、人権擁護委員さんというボランティアの方々、一万四千人弱、全国に展開されているわけですが、この方々の助力でもって地域の人権問題を把握して、そして非常に大きな問題があると、それを中央に持っていって勧告なりするという仕組みになっていたかと思います。
先ほども藤原参考人の方から、平成九年七月の総理府人権擁護に関する世論調査の、だれに相談したか、人権侵害を受けたときだれに相談したかというところで、法務局が一・九%、人権擁護委員が一・一%というのがございます。こうしたデータなどをごらんいただけば、本来、地域地域に根差した一万四千人もいるような人権擁護委員さんがうまく機能していれば、もう少しこの十倍ぐらいのデータは上がってくるはずでございます。しかし、それがなかなかできていない。このことは実は先ほどの御議論とかかわるわけでございまして、中央の人権委員会の事務局、あるいはどこの省庁に位置付けるかともかかわってまいります。場合によっては、法務省から外れるというのであればいささか私どもの意見も違ってくるかもしれません。
しかし、仮に内閣府に置くとしても、やはり地域地域のこれまで自治体職員などが非常に、必ずしも権限がないにもかかわらず御努力なさって、相談を受け、そして救済をされてきた、この能力の総体というものを日本の新しい救済制度設計に生かす。これがやはり、まあ制度作りは非常に難しいとは思いますが、日本の現状、これまでの日本国憲法下の約五十数年の人権救済の在り方を総合的に考えますと、やはりこの際、地方にも、具体的に申しますと都道府県、私どもは、及び政令市に設置するということを考えておりますが、地方レベルで救済のための人権委員会を置き、きめ細かな相談を受けられるシステムを作っておくということが肝要かと思います。
○佐々木知子君 茗荷参考人にお伺いしたいのですけれども、御存じのように、他の運動団体、例えば部落解放同盟などは本法案をかなり批判しております。本法案には、包括的な差別的取扱いの禁止や部落地名総鑑等の頒布の禁止等、長年運動団体が主張してきたことを実現する内容が含まれておりますけれども、他の運動団体の本法案に対する批判についてどう思われますか。
○参考人(茗荷完二君) 私は、本法案は一種の差別禁止法だと、このようにも考えておりまして、まず報道の自由等についてマスメディアが大変御反対はされていらっしゃいますが、私どもの立場からすれば、差別の問題、それからそれを含めて虐待の問題もそうでございますが、この差別、虐待を防止するためには本法案は必要不可欠でございます。したがいまして、まずはこの法案を通しまして、そしてその他いろいろ、物事には完全というのはございませんので、そうしたことがあれば、これをいわゆる見守っていって、そうしてある一定期間後においてそれを見直していくということが可能であろうと、このように考えております。
そうした観点から、やはりまず本法案を通す、成立していただきまして、あるべからざる同和問題、こんな不条理なことはこの日本社会に許されない問題だと私は考えております。したがいまして、その一番いわゆる様々な人権問題が集約されましたものが同和問題であろうと考えております。したがいまして、同和問題の解消なくして人権問題の解消というのはあり得ないと、そうした観点から私は少々の欠点については目をつぶっても本法案を通していただきたい、このように考えておるところでございます。
○佐々木知子君 藤原参考人にお伺いしたいんですけれども、従来、日弁連では私の知る限り同和問題に対して目立った取組がなかったように感じているのですが、それについてはなぜでしょうか。
○参考人(藤原精吾君) 同和問題について、特に取組ということではありませんが、日弁連は、人権侵害があるということで申立てがあれば直ちにその調査をし、必要な措置を講ずるようにしております。
日弁連で同和問題にかかわる事件を取り扱いましたのは、八鹿高校事件において、暴力事件があったにもかかわらず適切な対処がされなかったということについての勧告があります。これは今日、手元にその資料を持ってきておりませんけれども、そのような取組があったということだけ申し上げて、また後日、資料を提供させていただきたいというふうに考えております。
○佐々木知子君 これも藤原参考人にお伺いしたいんですけれども、日弁連は今年の三月十五日に「人権擁護法案に対する理事会決議」を出しております。御存じだと思います。
そこを見ますと、日本政府は、平成十年十一月、国際人権規約委員会から、警察や入管職員による虐待を調査し、救済のため活動できる法務省などから独立した機関を遅滞なく設置するよう勧告されたとしております。
ですが、人権規約委員会の勧告を見てみますと、この勧告は、ボランティアとして全国に約一万四千名が置かれている人権擁護委員について、法務大臣の指揮監督下にあるから独立した機関とは言えないということを言っているだけであって、独立行政委員会をどこに置くかについては何も言及していないのではないかと思われますが、これについてお答えになりますか。
○参考人(藤原精吾君) お答えいたします。
ただいまの御質問については、私のお配りしました資料4、これが今言及のありました国連の規約人権委員会の九八年十一月の最終見解の一部であります。
これの第九項を見ていただきますと、確かに、個人の人権を守るための仕組みとして現在の法務省の人権擁護委員の制度はそれに当たらないということを書いているわけでありますけれども、同時に、この新たに設置すべき国内人権機関をどこに置けとは書いておりませんけれども、法務省の監督下にはない機関として設置すべきであるということをまた言っているわけであります。
そのように考えて、私どもは、法務省については特に、これは人権機関を所轄するにはふさわしくないということがこの委員会から指摘をされたというふうに理解をしています。
以上です。
○佐々木知子君 時間が参りましたので、終わります。
ありがとうございました。
○角田義一君 民主党・新緑風会の角田義一でございます。
今日は、参考人の先生方、国会へお越しいただきまして貴重な御意見をいただきまして、本当にありがとうございます。
私は、参議院というのは、ちょっと衆議院と違いまして、あくまでも国民の合意形成を求めるということが非常に大きな任務の一つだというふうな信念を持っておりますので、今回の人権擁護法案につきましても、いろいろ今まで審議をしてまいりまして問題点は多々あるわけであります。そういう問題について、国会として、立法機関としてどういうふうに対応していったらいいのかということについては大変悩んでおる一人でもございます。
先ほど、まず、茗荷先生はもうお立場、基本的なお立場はよく分かりました。承りましたのでよく分かったんですけれども、藤原先生はかなりきついいろいろなことを言われて我々もはっとしているんですが、この今の審議されております法案は、人権擁護法案というのは、これは先生のちょっとお言葉をそのまま使わせていただくと、これはぴったりではございませんけれども、有害無益なんでしょうかね。このまま通すぐらいであればない方がいいというふうにぴしゃっとおっしゃるのか、どうなのかと。これはやっぱり私、ちょっとどうしても聞いておきたいと思っておるのですが、いかがでございますか。
○参考人(藤原精吾君) お答えしたいと思います。
今おっしゃったとおり、このままならば通さない方がいいというふうに考えております。
といいますのは、これができたとしても本当に人権救済に役に立たないというふうに考えられますし、また山崎参考人がおっしゃったようなその他の人権についての救済機能が果たせない、あるいは政策提言機能が果たせない、人権教育機能が果たせない。
こういったものが中途半端にできてしまうと、それを正すのに大変な努力が必要であるというふうになってくると思います。それならば、まだ現在の法務省の人権擁護行政の方がましであると、単なるアリバイ作りでは駄目であるというふうに考えております。
○角田義一君 同じ質問をして恐縮ですけれども、山崎先生は根本的な修正案の御提起もされておりますのですが、これは修正が果たしてできるかできないか、これは与野党でこれから談判が始まるのかどうか分かりませんけれども、仮に談判があっても、なかなか難しい談判になるなと私は個人的には思っておりますが、もしこの原案のままの法律、今のこの法案であれば、藤原先生同様にむしろない方がよろしいというお考えでございましょうか。
○参考人(山崎公士君) お答えさせていただきます。
非常に悩ましいところでございます、率直に申し上げますと。
と申しますのは、先ほどの冒頭にお話しさしあげたとおり、やはり日本の縦軸で考えて、これまで様々な人権侵害、差別にあえいできた人たちの救済を図る、これはもう焦眉の急でございますから、そのためには一刻も早く新たな政府から独立した人権委員会が必要なわけでございます。これは国際的潮流でもありますし、こうしたものを日本社会に作るということが、もしそれがきちんと政府から独立したものであれば、地域の近隣のアジア太平洋諸国に対しても非常に大きな貢献になろうかと思っております。これが一点です。
しかしながら、先ほど来、私ども人権フォーラム21が申し述べているとおり、組織体制の問題、権限の問題、実効性の問題、様々な視点から見て、非常に重大な欠陥を秘めている法案であることは間違いございません。
ここから先は個人的な見解ということでお聞きいただきたいんですが、私もこの時点、今後どういうような国会情勢が転変するかさっぱり分かりませんので、このままで推移して、ほぼ今般の法案のまま国会を通過するという事態になるとすれば、私はこの際、もう少し時間を掛けて国民合意を形成して、国際社会にも胸が張ることができる、本当に政府から独立した法案を我々が獲得できるまで、しばらく時間を置いた方がいいのではないかというふうに思っております。
以上です。
○角田義一君 藤原先生にお尋ねいたしますが、名古屋刑務所の事案というのは、これはもう許すことのできない私は事案だというふうに思っております。恐らく、この法務委員会でもしかるべき時期にこの問題についての集中審議なり、真相を究めるというのは国会としての任務でしょうから、当然、理事会で御議論があって、委員会としても対応するんじゃないかと思いますけれども。
一つお尋ねしたいのは、法務省がこれらの問題について、従前、非常に敵対的な対応をしてきたという御指摘がございました。先ほどの公安調査庁の対応なんというのは私は絶対許されない対応だと思っていますが、主権者は国民ですから、会いに行ったものを門前払いを受けるなんて無礼な話はないわけで、私だったらそこへ座り込んじゃって、もう会うまで絶対帰ってこないというぐらいのことをやったと思うんですけれども。
これは論外だと思うんですが、いずれにしても敵対的な行動に出るというか関係になるというのはどこに原因があるというふうに先生はお考えですか、そしてどうしたらそれは解消できるというふうにお考えですか、是非御存念を承りたい。
○参考人(藤原精吾君) これは私の個人的な見解ということにはなるでしょうけれども、どこの組織であってもやはり身内の不祥事というものをできるだけ出したくないという防衛的な態度が出てくるんだろうというふうに思います。
そして、私どもは、法務省のこういった問題の担当者と直接懇談をする機会を持ち得ていないんですけれども、逆に警察庁の刑事局とは毎年定期的に人権擁護委員会と懇談を進めております。
そして、警察においても、やはりこういった代用監獄における暴行事件等について、私どもが警告を発し、向こうがそれを拒否するということがやり取りされているわけです。そのときに刑事局長から言われることは、やはりその調査に応じてしまうと、更にその調査の結果が被害者側の責任追及の材料にされてしまう、ひいては国家賠償を提起されて訴訟で不利になってしまうと。だから、その入口のところで調査に応じたくない、あるいは、警告を受けて、それを受け取ってしまえば認めたというふうに取られてしまうと。
そういった防御的な姿勢、身内の不祥事隠しという、昨今どこの省庁でも見られるようなそういうものが警察あるいは法務省でもあるんではなかろうかと。それを、まだ外務省、農水省のような事件になっていなかったために温存されてきた、そして警察が最近ようやく変化しつつあると、法務省もやはり変わっていただきたいというふうに考えている次第です。
○角田義一君 それともう一つ、これは非常に私は大事な問題、深刻な問題だと思うんですけれども、密室で起こっていますよね、事件というのは。密室で起こっているものを外に出すということですね。これを、仮に人権委員会を作ったとしても、密室で起こったものをどう察知するか、どう密室で起こったひどい暴行とかこれをきちっと受け止めるシステム、これができませんといけないんじゃないかというふうに私は思うんです。
これは非常に大きな問題だと思いますが、日弁連辺りではそこまで、システムとしてどういうシステムがいいというところまで突っ込んでお考えでございますか。もしあれば、是非、私は参考にお聞きさせていただきたいと思うんですね。
○参考人(藤原精吾君) お答えします。
日弁連でもそのようなシステムを具体的に考えるべきであるということで検討はしておりますが、まだ機関的に、組織的にこれでいこうというふうな案を得るには至っておりません。しかしながら、アウトラインは、やはりこういった収容施設内において人権侵害を受けた者がそれの申告をする権利があるということを明記し、そしてその権利の行使を妨害してはならない、妨害した者はそれによる、それに対する処罰を受けるということを明記するのが当然であろうというふうに考えております。
そして、弁護士会はそういう申立てがあったとしても調査の壁にぶち当たって切歯扼腕しておるわけでありますけれども、そこで、権限を持った、調査権限を持った人権委員会の存在があるのとないのとで大きな違いであると。現に韓国では、この二月ごろからようやく実動が始まったわけでありますけれども、監獄での人権侵害の申立てを受けて、既に相当の調査を展開しているということを聞いております。この点についての資料もまた後日お届けできると思います。
○角田義一君 これは山崎参考人にお尋ねいたしますが、先生の御指摘の、抜本的なというか基本的な法案修正の御提言があるんですけれども、たくさんありまして、これは全部取り上げるというのはなかなか難しいんじゃないかと、現実問題として。そうすると、現行出ているものではとてもじゃないからうんとは言えないと。最低ですな、変な話ですけれども、最低こことこことここを、急所だと、これが。これぐらい認められれば何とか私たちも、今の原案に反対はしているけれども、しゃあないんじゃないかと、ちょっと言葉は荒っぽいですけれども、というような点がございましたらはっきり言ってもらっていいんです、こういうところは。どうぞ言ってください。
○参考人(山崎公士君) お答え申し上げます。
なかなか言いにくいところもありますが、率直に申し述べます。
一つだけとおっしゃられれば……
○角田義一君 いや、そうじゃなくて、幾つでもいいですから。今、これ、たくさんあり過ぎちゃってね。
○参考人(山崎公士君) 一番の本丸から申しますと、やはり本丸は組織体制でございます。つまり、法務省から外れるのであれば、取りあえずはゴーサインを出してもいいかなというふうには思っております。
地方人権委員会ももちろん重要だとは思いますが、これはいろいろ御議論があろうかと思いますが、仮に法務省から外れるのであれば、地方人権委員会については数年後の見直しという形で運用しても、望ましくはございませんが、可能であるというふうに思っています。
もう一つ大事な点は、やはり具体的に委員さんが何人になるかまだ未確定のようでございますが、五人にせよ七人にせよ、実質的に市民社会の多元性が体現できるような、反映されるような委員構成、これは選び方って非常に難しいと思うんですが、最終的には内閣総理大臣が指名して国会の承認を得るということになろうかと思いますので、最終的には政治マターになろうかと思いますが、いずれにしても、どういうプロセスを経ても、国民から、様々な人権団体、人権侵害を受けている人たちから見ても、ああ、あそこだったら自分たちのことを当事者の立場に寄り添って考えてくれるなというような人権委員さん、そしてそれをまた具体的に実施、執行できるような事務局体制、それが担保できるのであれば、これは結局、法務省では駄目ということの言い換えになるわけですが、取りあえずは、これは全く個人的な見解で恐縮ですが、取りあえずはゴーサインを出してもいいのではないかというふうに思っております。
○角田義一君 法務省というのは、今日はだれもいないかな。こういうときに聞いていなきゃいけないんだよな、本当は。あっ、おるかい。
法務省というのは割かし頑迷固陋のところもあるんだけれども、一面、場合によれば柔軟な姿勢も私は今日持ってきているなという気もしないではないんだが。率直に言って、法務省から内閣府へ移すというのは、役所のメンツがあるのか分かりませんけれども、えらい抵抗していますよな、率直に言って。
そうすると、もう仮にスタートさせるとして、百歩ですよ、私はそのことをいいって言っているんじゃないですよ、ちょっと誤解しないでほしいんだけれども、誤解されると困るんだけれども、仮にそこは駄目だと、駄目だというのは、法務省のところから外れないよといったときに、じゃ、あと幾つというかな、これとこれとこれが、じゃ、しようがない、ならいいか、我慢するかというようなところはないですか。
あなたがその修正案を出しているから聞いているんです。
○参考人(山崎公士君) ここから先は人権フォーラム21の事務局長の発言ではなしに、一研究者の発言という形で御了解いただければと思います。
○角田義一君 どうぞ、どうぞ。いいですよ、いいですよ。
○参考人(山崎公士君) なかなかそういうバーゲニング的な話というのは余り積極的にはしたくないところですが、せっかくの御質問でございますから答えさせていただきます。
仮に、将来的に法務省から外す、しかし経過措置が必要だという御事情も場合によってはあるかもしれません。このことは個人的には余り認めたくないんですが、もしそういった形で法案が進むということであれば、それを実質的に担保するということは非常に難しいんですが、例えば検察官等が一切、弁護士資格を持っている者をこれに充てればいいというところは、本当に検察官を充てるということでなしに、民間で人権活動をやっていた実質的な弁護士さんを充てるとか、そういうことが考え得ると思います。
しかしながら、やはりこれ、話していながらだんだん私もそれはまずいというふうに思ってきておりまして、せっかくの委員の御質問ですからお答えしたわけですが、やっぱり原則に戻って、やはりそうした妥協的と申しますか、経過的な成り行きは余りよろしくないというふうに個人的には思っております。
以上です。済みません、いろいろ申しまして。
○角田義一君 最後にもう一つ、ちょっと聞きたいんですが、これはやっぱり山崎先生は専門家だと思うんでお尋ねしますが、よく世間様で糾弾権というようなことを言いますな、糾弾権とかね。
この糾弾権の行使は、この新しい法律の結果、どういう影響を受けるのか。これは私、非常に大事な問題だというか、非常に関心のある私、問題、テーマなんですけれども、これはどういうふうに先生、お考えになっておりますか。
○参考人(山崎公士君) お答えさせていただきます。
人権委員会で人権侵害、差別等について相談を受け、そして法に触れる等、人権委員会の権限にわたる中身であれば、それを一般救済ないし特別救済として取り上げていくと、これが制度設計の趣旨であろうと思います。
さて、その場合、本来、一般救済のところでは非公開のあっせん調停というものが非常に重要視されて今回の制度設計でもいると思います。これはもう国際的な比較的うまくいっている人権救済機関は実は皆そうでございまして、やはり裁判モデルと違うADRモデル、裁判外紛争解決手続ですから、そのやっぱり一番いいところというのは、世間の目に触れずに、自分の負った侵害、被侵害あるいは被差別というものを公的サービスの中で解決していただけるということですから、やはり当事者同士の話合いが一番私は根本だと思います、特に私人間の場合はですね。
公権力が片方の当事者である場合には、なかなか実力のバランスが余りにも違い過ぎますから、これはまた違うわけですが、今の糾弾等の話は基本的には私人間の話でございますから、これは、従来もそうでございましょうし、今後もこの委員会の制度が立ち上がった以降も、その私人間の当事者の緩やかなあっせん調停、これを委員会に来る前に当事者同士で解決できるのであれば、これは一番望ましいわけです。そこでうまくいかないので人権委員会という場で仲立ちをしていただくということに今後もなろうかと思います。
ですから、結論から申せば、この人権委員会の制度が立ち上がった以降も従来どおりの当事者間の話合いというものには何ら影響がないというふうに思っております。
○角田義一君 これでやめておきます。
○浜四津敏子君 公明党の浜四津敏子でございます。
本日は、参考人の皆様、貴重な御意見を伺いまして、ありがとうございます。
まず、藤原参考人と山崎参考人のお二人にお伺いいたします。
藤原参考人は長年、弁護士として人権擁護活動に従事されてこられたと伺っております。人権の専門家でいらっしゃいます。また、そういうお立場から先ほど大変厳しい御意見を伺わせていただきました。韓国の国家人権委員会についても御説明をいただきました。諸外国の人権救済機関についても大変造詣が深くていらっしゃると理解しております。また、従来より、今回の法案につきましては国際社会が求めている内容と似て非なるものと、こういう厳しい御指摘をされてきたと伺っております。
また、山崎参考人は、「国内人権機関の国際比較」や「国際人権 知る・調べる・考える」などの著書も著されておられて、特に国際的な視点から鋭い分析もされておられます。
そこで、お二人に主に国際的な見地から見た今回の法案の評価、課題などについて伺いたいと思います。
現在、世界各国において、人権状況が違う、あるいは文化が違う、国家と国民との関係が違うと、いろんな違いがある中で、またその救済制度の実情も様々だというふうに言われております。本来、人権というのは普遍的なものですから、どの国でも結果的には同じような救済が受けられなくてはいけないと思いますけれども、そうした国の状況が違う中で、それぞれの国が様々な救済制度を取っているかと思います。
本日の朝日新聞に載った記事でございますが、これも弁護士の海渡雄一さんのお話の中で、「アジアには、韓国のように三権から独立した人権委員会が設立された国もある。フィリピンやネパールでも、主な監視対象は公権力の権限乱用だ。ヨーロッパ拷問防止委員会は、情報を得たら、ただちに査察官を派遣し、拘禁施設に立ち入り、書類を調べ、職員の立ち会いなしに被害者や目撃者の話を聞くという優れた活動をしている。」、こんな紹介がございます。
そうした中で、日本が参考にできる制度を取っている国としてはどういう国があるのか、お教えいただければと思います。
まず、藤原参考人からお願いいたします。
○参考人(藤原精吾君) 私は、今言っていただいたような法制度の専門家ではありません。単なる一実務家でありますので、その点はまず申し上げておきたいと思います。
そして、私ども日弁連が承知しておりますのは、もちろん文献によって、山崎先生などの著書などによって、世界各国の制度については勉強しておりますけれども、日弁連として直接現地に赴いて調査をいたしましたのはオーストラリア及び韓国であります。そして、そのいずれも日本にとっては参考に値する組織であるというふうに考えております。
とりわけ、韓国の国家人権委員会は、その成立の由来、そして現に活動が開始されておる、しかもお隣の非常に親しい国であるというふうなことから見て、参考に値するものであるというふうに考えております。
以上です。
○浜四津敏子君 ありがとうございます。
山崎参考人、お願いいたします。
○参考人(山崎公士君) お答えさせていただきます。
冒頭にも申し上げましたが、私どもの研究組織が、国内人権機関あるいは国内人権システムの国際比較研究、約十数か国を対象としてここ四年ほど展開してまいりました。
参考にできる国はどこかというお話でございますが、私も実は藤原参考人とほぼ同意見でございまして、やっぱりお隣の韓国が、正に当初、法務部設置の組織として政府から法案が出たものが通らずに、幾つかの与野党案入り乱れて、一票差、数票差という形で昨年成立したという経緯については御案内のところであろうと思います。
つまり、あの国は軍事政権が長かったということもございまして、公権力による人権侵害、あるいはまた行方不明になった方々を、相変わらず事実を究明しなきゃいけないという大きな課題が残っているところです。ですから、軍隊、かつての準軍隊あるいは警察等の公権力による特に密室人権侵害に果敢に立ち向かえるような人権救済制度が必要である、それを求めて法案を作ったと。しかし、金大中大統領が大統領選で公約されて、その線で法案が出されたわけですが、お話があるように法務部主導ということで、いったんそれが葬り去られてしまった。独立した人権委員会が必要だという世論が形成され、しかしそれにとても対応できないような法案ができて、出てきているという点の状況は、幸か不幸か、残念ながらですが、日本と極めて酷似しているというふうに思います。
特に、先々週、日弁連さんと私どもなどの団体が、お二方、両方とも女性でございましたが、韓国国家人権委員会の委員さん、そして事務局員さんをお招きして様々な集会、シンポジウムをやっていただきましたが、そこでも口々に意見交換した挙げ句に出てきた共通認識というのは、実に日韓両国の状況と法の審議のプロセスというのが似通っている。したがって、韓国のこれまでの成り行きというものは是非参照していただきたいということと、日本で今後何がしかの人権委員会ができた以降は非常に緊密に協力させていただきたいというお話があったところでございます。ですから、まず第一は韓国であると思います。
同時に、私は藤原参考人がおっしゃったとおり、確かに連邦制を取っているという点ではかなり国の成り行きが違うわけでございますが、言わばパリ原則の中身というのを制度面でもあるいは実態面でもかなり正確に体現できているという点では、カナダの連邦人権委員会とオーストラリア連邦の連邦レベルの人権及び機会均等委員会、あるいはお隣のニュージーランドの委員会は中央集権国家という点では日本が参照し得るものかもしれません。こうした英米法系の制度でございますから、余り法系が違う日本、あるいは一部は連邦制を取っているということで、右から左に置き換えるということは厳に慎むべきだと思いますが、そこの委員会が体現されている精神、エッセンス、この点は十分に学び取ることができるというふうに思っております。
○浜四津敏子君 韓国の国家人権委員会につきましては、その設立の経緯として、我が国のかつての治安維持法に相当する国家保安法というのがまだあるという現状があると伺っております。また、国家人権委員会の組織としては、地方事務所がないという点が指摘されております。また、国家人権委員会の救済措置としては、勧告が最終的な救済措置と言われていると理解しておりますが、そうした状況を踏まえても、やはり韓国からは学ぶべきものが多いという御意見でしょうか。再度お答え願えればと思います。山崎参考人。
○参考人(山崎公士君) 基本的に、今、浜四津委員がおっしゃったとおりの理解でおります。
一言付け加えれば、今ここで議論されているのは国内での人権救済制度を作ろうということでございます。いろいろな国では、御案内のとおり、様々な人権条約が個人通報制度というものを備えているものもございます。これは、国内での行政・司法救済が尽きてしまってもなおかつ満足されない人権侵害の受けた者が、ジュネーブのそれぞれの条約の実施機関に申立てをして、その国家の決めたことが適切かどうかを国際人権法の視点から再度ふるいに掛けるという制度でございます。
現在の国際社会を拝見していますと、やはり国内での人権救済制度と機関と同時に、国際的な人権救済制度と機関、これが相互補完的に両方並行して走っているというのが特に先進国の成り行きであるというふうに私は思っております。特にヨーロッパ方面はそうでございます。
そういう点では、韓国の場合には自由権規約の選択議定書を批准されておりますし、その点はやっぱり若干日本と違う。ですから、日本の課題としては、自由権規約の選択議定書を一刻も早く批准すること。
もう一言だけ追加的に申し述べれば、非常に最近でございますが、拷問等禁止条約の選択議定書作りが国連で進行中でございます。非常に残念なニュースでございますが、日本政府はこれに対して極めて否定的な方向で動いていると。財政的なことと、インスペクションと申しますか、具体的な刑務所の査察等の制度を余り制度化したくないということで、非常に否定的な動きをされているというふうに一昨日来、国連筋から情報が参っております。
こういったことも踏まえて、やはり日本における人権擁護法案の審議に当たっては、国内での人権救済制度をよりきちんとしたものを作ると同時に、他方で、今日の話題からあるいはずれるかもしれませんが、国際的な救済制度、すなわち個人通報制度の制度化というものも併せて本当は、本来は議論していただきたいところであると思っております。
○浜四津敏子君 ありがとうございます。
これもまた藤原参考人と山崎参考人にお伺いいたします。
何度も言われていますように、本法案の人権委員会につきましては、パリ原則に適合していないという批判が非常に強いわけでございます。どういう点が具体的に適合していないかにつきましては、本日、資料をいただきましたので、詳細につきましては後ほど勉強させていただきますけれども、お二人からごらんになって、本法案の人権委員会については、主としてどのような点がパリ原則に決定的に適合していないとお考えなのか、また、この点が直ればパリ原則に適合することになるんだというふうにお考えなのか、お教えいただければと思います。
○参考人(藤原精吾君) ごく簡単に私の考えを申し上げたいと思います。
一つは、やはり委員会の位置付けであります。それは、形式上独立しているかどうかということと併せて、やはり人事、予算の権限を独自に有しているかどうかということであります。その点、今の法案では全く、例えになりますけれども、法務省人権擁護局の看板を塗り替えるだけに終わるというふうに考えているわけであります。
そうして、日弁連が、それではどのような人事、組織にすべきであるかと考えているかといいますと、先ほどのこの青い資料集の百十三ページ以下に添付、掲載されております資料を御参照いただければいいと思いますけれども、委員の任命、人選あるいは予算の措置の方法等についてのやはり独立性を担保するような制度が必要であるというふうに考えております。
それから、山崎参考人のおっしゃったような、他の機能、人権教育あるいは取り扱うべき基本的人権の範囲の問題等について、やはり今のままでいいのかという問題はありますけれども、その独立性、組織としての独自の性格というものが保障されていないという点が最大の問題であるというふうに考えています。
○参考人(山崎公士君) お答えさせていただきます。
私も端的に申しますと、二点、三点に絞って申しますが、やはり人権委員会の組織的な位置付けと申しますか、独立性の点が一番大きいというふうに思っております。
私どもの付けている資料3をごらんいただければ具体的なことは書いてございますが、要するに、公権力事案について、やっぱり法務省に置くのであれば、内外から見て、当事者から見ても、あるいは客観的に見てもきちんとした人権救済が保障されるという蓋然性が非常に乏しいものになるというのがその最大の理由でございます。もちろん、パリ原則の場合には、組織の財政的な独立性という点も非常に心を配っておるところでございます。
この点からいえば、私も冒頭に触れたとおり、内閣府でなしに内閣、人事院のような形であれば、予算の中身について国会で審議可能になるわけです。これは、法務省であれ内閣府であれ、それぞれの担当大臣が予算編成をして財務当局に対して予算を要求するということですから、そこの折衝の中で場合によって削減されたものについてはなかなか国会で審議しにくいといううらみは残るわけですが、そこは国会でのウオッチ活動というものに期待すれば、そこそこの財政的な独立性は保障できるというふうに思っております。
もう一つ非常に大事なことは、実はパリ原則が非常に重点的に触れているのは政策提言機能なのでございます。この点でいえば、やはり法案の表現ぶり、特に第二十条の意見を言えるというような表現ぶりは非常に弱々しくて、やはり独立した組織として立法、司法、行政からは均等に力が保たれていて、違いが保たれていた中で、毅然として独自の意見を言えるという提言機能が法案の中に盛り込まれて必ずしもいないという点は、やはりパリ原則から見ると非常にもとる点であるというふうに思っております。
○浜四津敏子君 次に、これも藤原参考人、山崎参考人にお伺いいたしますが、報道機関に関する規定についてでございます。
私は、報道被害の救済については、本来、報道機関の自主的な取組が整備されるべき、自主的取組によるべきであると考えておりますが、現在そういう動きが進みつつあると理解しております。また、それを一層促す意味からも、一定期間、この報道機関に関する規定についてはしばらく様子を見る、いわゆる凍結論という見解がございますけれども。
午前中の参考人の方の中で、御自分が報道被害に遭った方からの意見陳述がございました。報道被害で立ち上がれないほどの被害を受けたと、被害者に襲い掛かることはやめてほしいというような表現で言われておりました。報道機関の方々は自分の家族が被害に遭ったらどこまで許容するのか、それを基準にしてほしい、いまだ十分な手当てはできていないと思うというような内容の発言でございました。
そこで、メディアによる自主規制につきまして現在進みつつありますけれども、それは現状でこういう被害者の方々の要望や声を十分に満たす予防あるいは救済手段となっていると、現状どう評価しておられるかをまず一点お伺いいたします。
二点目に、このいわゆる凍結論についてはどのようにお考えか、御意見を伺わせていただければと思います。
○委員長(魚住裕一郎君) 簡潔にお願いします。
○参考人(藤原精吾君) お答えしたいと思います。
まず、現状でいいますと、自主規制についてはなお不十分であるというふうに考えております。それは、やはり報道によるプライバシー侵害などがなお生起しておりますし、それに対応する自主的な機関というものが公平公正な第三者の支持を得るような組織体制にはまだなり切っていないというふうに考えるからであります。しかしながら、今回、私どもこの議論を通じまして、やはりこういった委員会による規制というものは最後の最後に取っておくべきものであるというふうに考え、やはり自主的な規制機関の更なる発展を強く望みたいというふうに思っております。
ただ、凍結論につきましては、それは凍結されておっても、そのような条項が存置されていること自体が非常なメディアに対する圧迫になり、ひいては報道の自由といいますか、私どもは国民の知る権利だと思いますけれども、それに不当な影響を及ぼす可能性は十分にあるというふうに考えておりますので。詳細については、やはり先ほど言いましたこの資料集の中の日弁連の意見、これの百三十二ページでありますけれども、それをお読みいただくことにしまして、凍結論には私どもは賛成いたしかねるというふうに考えていることを述べておきます。
○参考人(山崎公士君) 二点、簡潔にお答えさせていただきます。
現状認識ですが、私は全く改まっていないというふうに思っております。相変わらず非常に厳しい過剰取材があるわけですし、その結果、メディアスクラム等によってプライバシー侵害の被害を受けている方はたくさんいると。確かにおっしゃるとおり、報道各社、新聞、雑誌等のメディアがそれぞれ自主的な動きを始めつつありますが、業界団体自体でまとまった各社横断的なものは、特に新聞業界においてはまだできておりません。そういう点ではまだまだ現状も不十分、ひどい状況にとどまっておりますし、自主規制の状況も不十分であるというふうに思っております。
しかし、今度は凍結論でございますが、だからといって凍結しておいて、法律の規定ぶりをもって自主規制を促すというやり方は、私は率直に申し上げるとボタンの掛け違えであるというふうに思っております。つまり、諸外国の例を見ましても、メディアによる人権侵害があるのはどこの国でもあるわけですが、それを、国の法律によって国が政府から独立して作る人権救済機関にそうしたものまでゆだねるという例はほとんどございません。それが二つ目の理由でございます。
三つ目の理由は、報道被害も含めて、非常に過激な、苛烈な人権侵害、差別を受けた方は何とかして救済を受けたいと思うのは私は人情だと思います。そういう心根を十分に満たすような日本のこれまでの公の制度がなかったというのも実態でございます。しかし、そこで十分にお考えいただきたいのは、だからといってこれから作る人権委員会にオールマイティー的に何でもかんでも期待を過剰に寄せるのは、これはまた本来、筋が違うのではないかというふうに考えております。
そういう様々な、三つほど申しましたが、理由を総合しまして、凍結論には賛成しかねるということでございます。
○浜四津敏子君 ありがとうございました。
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
今日は参考人の皆さん、本当にありがとうございます。
まず、藤原参考人にお伺いをいたします。
陳述の中で、これまで拘禁施設における人権侵害の救済の取組も御紹介をしていただきました。その中で様々な法務省による人権擁護活動への敵対とおっしゃいましたけれども、そういう御苦労も聞かせていただきました。今回の名古屋の事例でも、名古屋の矯正管区では徹底した内部調査が行われていなかったとされております。少し御紹介もあったわけですが、そういう拘禁施設の人権救済の取組を行ってきた経験から、この独立した人権救済の機関の必要性ということをもう少し具体例を挙げて御紹介をいただけたらと思います。
○参考人(藤原精吾君) お答えします。
今、私が挙げました法務省が刑務所内での人権侵害に協力的でないという実例は私ども日常に経験しておりまして、もう珍しくも何も、何ともないぐらいたくさんあるわけであります。これは全国各地の五十二の弁護士会に申立てのある人権侵害事案、そして日弁連に申立てのある人権侵害事案のほぼ三割ぐらいが拘禁施設の収容者から提起される問題であります。そして、その中で相当のパーセンテージでやはり事態が認められるということもあります。
しかしながら、先ほど言いましたように、拘置所、刑務所内での問題でありますから、その調査に多大の困難を感じるわけであります。それは警察における代用監獄の問題あるいは入管施設における問題も同様でありまして、このような、人権委員会が真に独立したものであるならば、調査権限を持って収容施設内での人権侵害について調査をし、適切な救済を講じることができる、これを是非とも実現したいという気持ちで日弁連としては取り組んできているわけであります。
○井上哲士君 その上で、そういう拘禁施設等での人権侵害を救済する上で、独立した機関がどういう権限を持つべきなのかということがあります。
最近、菊田幸一先生の「日本の刑務所」という本を読む機会があったんですが、例えば受刑者の方が弁護士への手紙に暴行を受けた事実を書いたら検閲で抹消されたと、刑務官とのトラブルがあってそれを家族に書いたら抹消されたと。弁護士会などへの救済を求める告訴、告発の書類、訴訟に関する上申書等の発信は特に検閲から無条件に外すべきものであるが、今は同じように検閲の対象になっているということが指摘をされております。
例えば、独立した人権委員会ができますと、そこへの告発文書などは私は外すべきではないかなと思うんですが、そういうことも含めまして、どういう権限、条件が付与されるべきなのか、今の法案でいいのかどうか。これ、山崎参考人と藤原参考人にそれぞれお伺いをしたいと思います。
○参考人(山崎公士君) お答えさせていただきます。
今日、私が資料で付けました第四の資料の五ページ目に具体的に書いてございます。
一、二紹介させていただきたいと思いますが、私どもは、現在の法案に次のような条項を付け加えるべきであろうと思っております。
第一に、行政機関が人権委員会から一般調査に対して協力要請があった場合には、正当な理由がない限り、協力に応じなければいけないという規定を盛り込むことですね。これはかなりさりげない規定ですが、非常に大きなポイントになろうかと思います。
同じ系列でございますが、公権力人権侵害について調停申請の対象となった場合には、公権力、行政機関の方は、正当な理由がない限り、これに応じなければいけないというような規定を盛り込むこととか、人権委員会が職権で調停に付すことを決めたときは、当事者である行政機関などは、これまた正当な理由がない限り、調停に応じなければいけないということにするとか、あとは時間の関係で割愛させていただきますが、このような非常にきめ細かな、言ってみれば私人間の場合にこういうのを付けますと非常に大きな別の人権侵害を起こすおそれがありますので、これは非常に慎むべきことなのですが、公権力の場合には、こちらは非常に権限というか、パワフルな存在でございますから、それと被害者というのを言わば対等な立場でADRに付すというためには、行政機関の方に一定の協力義務的な規定を盛り込むというのが一つの手であるというふうに思っております。
○参考人(藤原精吾君) 参考になると思いますのが、韓国の国家人権委員会の調査に関する規定であると思われます。その三十一条には施設収容者の陳情権の保障という項目があります。施設収容者が委員会に陳情しようとする場合には、その職員の面前で陳情することを望む場合、その施設の公務員はすぐにその意思を委員会に通報しなければならないという規定があります。もちろん、委員会が調査するときには、その陳情人に直接面会をしてその意見を聴取することができるわけであります。
弁護士会などでそのようなことが今できないということについて非常に問題を感じておりますけれども、日弁連としてあるべき調査権限については、やはり先ほどの資料集の百二十六ページに掲載しておりますけれども、この調査をする権限を明記するということ、そうしてその調査に対する公務員の非協力は懲戒事由とするべきであるというふうに考えております。
現状では、弁護人は、被疑者と、被疑者、被告人とは接見交通によって面談は秘密にできますけれども、文書はすべて拘置所、刑務所の検閲があります。捜査関係の書類を差し入れたり、あるいは宅下げをしたりする場合ですらそのような検閲が必要だというふうに法務省ではお考えで、問題は、その書類が一定の分量を超すとそれすら、それ以上は入れないというふうなことすら行われております。そのようにして、やはりこの委員会、人権委員会が調査をする権限というものの明記、そしてそれを妨げてはならないということの明記が必要であろうというふうに考えています。
○井上哲士君 韓国の例を出されましたけれども、韓国の人権委員会法では捜査機関についても、侮辱や暴行などの過酷な行為と並んで、捜査の遅延、それから私生活の侵害、こういうものも人権侵害として類型として挙げられているわけで、大変この辺なども私どもは重要だなということを思っております。
次に、再び藤原参考人にお伺いをいたします。
法案の中では、人権委員会が差別助長行為等の差止め請求訴訟ができることになっております。それから、いわゆる差別的取扱いのみならず、いわゆる差別的言動ということもその対象とされております。
ただ、何が差別的言葉なのか、また何が助長し誘発する行為か、大変定義はあいまいでありまして、実際の運用で広く市民生活における様々な表現の自由、言論の自由に行政が介入をしてくるというようなおそれが大変私は強いと思っておるんですが、その点いかがお考えでしょうか。
○参考人(藤原精吾君) 私の考えも井上議員のお考えとほぼ似通っているかと思います。
やはり、言論に対する公権力の侵害というものは可能な限り謙抑的でなければならないと思いますし、またその構成要件というものが明確でなければならないというふうに考えています。
○井上哲士君 もう一点、藤原参考人にお伺いいたしますが、諸外国、とりわけ先進国では雇用における差別的取扱いにつきましては独立した救済機関が担っている例が多いかと思うんですが、法案でいいますと、引き続き雇用関係すべてを厚生労働省、国土交通省任せにするということになっております。
こういう国際的な流れとも比較をして、また様々な職場の雇用における人権侵害などに日弁連として取り組んでこられたと思うんですが、その点で、この雇用関係が除かれているという点について御意見をお願いをいたします。
○参考人(藤原精吾君) お答えしたいと思います。
日弁連としてかねて批判をしておりますのは、雇用関係、労働分野における人権侵害について厚生労働大臣に全部包括的にゆだねてしまうということでは、人権委員会の機能が、半分以下とは申しませんけれども、大きな機能が損なわれていると言わざるを得ないと考えています。というのは、現状でこの労働分野における差別あるいは人権侵害が必ずしも効果的に救済されていないということがあるからであります。これは、職場における女性差別の問題あるいはセクハラなどの問題がその例であります。
しかも、雇用関係においては、大企業による個々の労働者の差別、賃金あるいは思想、信条などによる差別が著しいものがあり、それが訴訟などでようやく十年以上掛かって解決をするということがあります。これは、全国幾つかの電力会社その他の大企業で判決が出た顕著な事件があります。
そのような事案に今の厚生労働省の職員あるいは大臣が対処できていないという現状を見るならば、やはり今回、作る以上はそういったものも含めて救済機能が果たせるような委員会を作ってもらいたいものであるというふうに考えています。
○井上哲士君 次に、山崎参考人にお伺いをいたします。
先ほど、いわゆる公権力における人権侵害などに対する、どういう権限が必要かというお話を伺ったんですが、この人権フォーラムの修正案でも、私人間の人権侵害と公権力による人権侵害を同列に扱っているということを批判をされて、相対的に公権力の人権侵害軽視ではないかという御指摘をされております。
じゃ、その救済手続をどう区別するかということなわけですが、政府案は、特別救済手続は原則的に差別、虐待ということを対象にし、あとはいわゆるバスケットクローズでやるんだということになっております。先日、私も防衛庁のリスト問題でのプライバシー侵害の問題で、これが特別救済の対象にならないのではないかと言いますと、それはバスケットクローズでやれる可能性もあるというお話でありました。
一方、メディアなどは大変細かく規定をしているわけですが、こういう法案の仕組みということについてどうお考えか、またどうただすべきかと。お願いします。
○参考人(山崎公士君) お答えさせていただきます。
私も基本的に今、井上委員がおっしゃった点と同感でございます。
私ども、かねてから、やはり冒頭にも申し上げたとおり、昨年の五月二十五日の人権救済答申で差別、虐待、公権力、メディア人権侵害という四類型が提示されたわけですから、メディア人権侵害をこの法案に入れるというのは非常に問題外だと思いますが、公権力人権侵害というものが答申の中で非常に浮き彫りになっていたにもかかわらず、委員も御指摘のとおり、私人間の人権侵害と全く同列の規定ぶりしかしていないと。やっぱりこれは根本的な私はボタンの掛け違いであると思います。
日本社会における人権侵害の現状を率直に見ますと、やっぱり公権力人権侵害と私人間の人権侵害というのが、量的にどうこうということじゃございませんが、二つ、非常に日本社会として勇気を持って一歩踏み出して解決のシステムを作るべき大きな課題であるということは、もうどなたが見てもそのとおりだと思うんですね。
そういう視点に立てば、やはり公権力事案について、委員の御指摘のようなバスケット方式という規定ぶりではなしに、結果的に一般救済、特別救済という、それぞれの手法を私人間の、それも公権力人権侵害も使うことになろうかと思いますが、個々の点では。
しかし、それはそれとして、章立てを別にして、国民、非常に言い方は悪いかもしれませんが、新しい人権委員会ができた場合、これを使うという、ユーザーといいますか、具体的に侵害を受けた者あるいは潜在的な侵害を受けそうな方々がこの法律を見て、これは私たちが使えるものだと読み取れるような章立てといいますか、今後二十一世紀の法案作りの一つのポイントは、私は、大きな話で恐縮ですが、やっぱり市民から見て分かりやすい法律、本当に訓詁の学で私どもが教科書を書いて、やっと市民が分かるというようなものではいけないと一般的に思っておりますが、今回の法案はそういった視点に立てば非常に分かりづらくなっていますので、これはひとつやっぱり明快に章立てを区別して、公権力人権侵害事案もこの法案で解決できるんだということがビジュアルに見えるような形が望ましい、またそうでなければいけないというふうに思っております。
○井上哲士君 ありがとうございました。
名古屋刑務所における問題などでずっと御意見を伺ったわけですが、最近、刑務官を二十七年間勤めた方が「刑務所の中」という本を書かれておりまして、大変リアルに刑務所における受刑者への暴行の実態を書かれておりますし、刑務官がいかにそういう暴行の証拠隠滅とか診断書の書換えをやっているかということも大変リアルに書かれておりますし、そういうことが起こる温床というものが大変今日の参考人のお話で私は理解が深まりました。
やはり、こういうことを解決をできないような人権救済機関というのは本当に国民の期待にこたえるものになりませんので、今日の参考人の御意見を伺いまして、一層、本当の意味での人権機関が出直しで作られますように私どもも努力をしていきたいと思っております。
今日はどうもありがとうございました。
○福島瑞穂君 社民党の福島瑞穂です。
今日はわざわざ来ていただいて貴重な御意見をお寄せいただきまして、本当にありがとうございます。
私も、人権救済機関は絶対に必要であると。裁判だけでは、あるいは刑事告訴、告発、捜査だけでは解決できない問題が必ずあると。有効な調査などができて、例えば刑務所や警察の中に直接入ることができて、すぐさま証拠保全ができれば救済できるというふうには思っています。
今日、革手錠と手錠を持ってきました。(資料を示す)今、名古屋刑務所でも──ちょっとほかの先生方も見てください。実は、かなりごついもので、これはレプリカなんですが、実物大です。これでおなかをぎゅっと締めて腹膜炎になるというのは、ぎゅっとこれで、穴の一つの幅が大分広いですから、これをぎゅぎゅぎゅっと締めるとおなかが圧迫されて、だから腹膜炎で病院に運ばれたというのも、非常にきつく締めるとやはり内臓が圧迫すると。
で、ここにあるのはかせで、こういうふうに手を入れて、そして後ろでベルトをぎゅぎゅぎゅっとこう締めるわけですが、これが両手前という場合と両手後ろという場合と、それから前に一つ、それから片手前片手後ろと三通りあります。両手前も厳しいのですが、両手後ろにこうなりますと、何というか、後ろに手を回さなくちゃいけない状態になりますので非常に厳しくなると。ちょっとこれ本当にごっついもので済みませんが、で、これが片手前片手後ろですと、うつ伏せになるのも苦しいし、あおむけに寝るのも厳しいと。
で、食事やトイレができませんから、また割れズボンをはかせて、トイレに行くときはだからまた割れズボンで処理をすると。食事をするときは、それでこれがちょっとごっついものですから、私などはこうすぽすぽと抜けるんですが、そうすると金属手錠をかませて、要するに手が動かないようにすると。ですから、拘束具みたいにおなかと肩が全部固定されて、しかも、例えば両手前ですと、ここに手錠をかませますから手が自由に動かないわけですね。そうしますと、トイレには行けないのでまた割れズボンになり、かつ食事をするときも犬食いになってしまうと。要するに、こういうふうに金属手錠が入っていますから食事が取れませんから、これをこうはめて、金属手錠をこうかませられてしまうので食事が取れないので犬食いになってしまうと。そうしますと、すごく苦しいし、非人道的であると。
これについては、先ほど藤原先生がおっしゃった規約人権委員会も勧告を出しております。規約人権委員会の勧告で二十七パラグラフ、例えば残酷で非人間的な取扱いと考えられる革手錠のような保護手段の多用はやめるべきではないかと。同じパラグラフで、やはり刑務所の中については、刑務官による報復行為に対し申立てを行った受刑者に対する保護が不十分であること。受刑者による申立てについて調査するための信頼できるシステムの欠如などが言われております。
で、藤原参考人、このように刑務所の中の人権侵害があると。私自身は、名古屋で今年、名古屋というか、四年間の間で刑務所の中で五人死亡、保護房、革手錠、ごめんなさい、保護房の中で五人やはり死んでいると。名古屋だけだと、今年一人死亡し、一人、病院に運び込まれて刑務官が逮捕されたと。去年も一人、保護房、革手錠で亡くなっていると。そういうことにショックを受けているというかですね、だから、その中の人権侵害がたまたま今回出てきたけれども、過去調べるとやっぱり亡くなっているわけですよね。
やはり、それはちょっとびっくりしているんですが、やはり人権救済機関ということであれば、弁護士を頼める人は少ないわけですし、刑務所に弁護士が会いに行っても多くは立会人がいて、接見時間は三十分で、しかも暴行があったということを言えば、それを刑務官が聞いてメモを取るわけですよね。さっきもあったように、手紙を出せば検閲は必ず受けるわけですから、非常に人権侵害が表に出にくいと。言えば言ったことがすぐ分かって証拠隠滅等もされるかもしれない。
そういう中での、密室の中での問題について人権救済機関をやるときに、やはり法務省の外局ではまずいのではないかと。その点について、改めてお願いいたします。
○参考人(藤原精吾君) お答えしたいと思いますが、今の誘導尋問のとおりでございますが、やはり私ども、名古屋刑務所のような非常に荒っぽい死に至るようなケースはもちろんのこと、日常にはささいなことで懲罰をすると、あるいは食事を減らす、あるいは入浴の時間を制限する、入浴をさせないとか、いろんな嫌がらせがあるわけであります。そして、そういうものについて一々弁護士なり、あるいは情願というふうに刑務所では言っておりますけれども、そういうものをしようと思ってもそれすら届かないという実態があります。私どもは、そういった密室に入ることのできる権限を持った委員会というものがどうしても必要であるというふうに考えています。
○福島瑞穂君 この革手錠は名古屋刑務所だけで今年、革手錠使用件数は一月から九月末までで百五十八件、そして保護房収容時の革手錠使用件数は百四十八件と、実は非常に多いものです。
ところで、法務省の外局ではまずいのではないかと私が思う理由の一つは、裁判、国家賠償請求訴訟をやったときの国の代理人は法務省です。ですから、HIVであれ、ハンセン病であれ、厚木基地訴訟であれ、何でも国の、国を訴えた国家賠償請求訴訟の場合に代理人を務めるのが法務省であると。そうしますと、いつもいつも国の代理人で国家賠償請求訴訟の被告をやっている立場で考えると、国に対する公権力の人権救済が問題になっているところをやるとすると、いや、これはでも国家賠償請求訴訟になると自分の、法務省内部の人間が被告になると。これは非常に立場として、別人であってもなかなか不適切ではないかと思うのですが、藤原参考人、いかがでしょうか。
○参考人(藤原精吾君) お答えしたいと思います。
今、福島委員のおっしゃったとおり、国が被告となった訴訟事件の代理人は地方法務局あるいは法務局の訟務部の検事あるいは職員が担当するわけでありまして、今御心配されたようなことが当然あるわけであります。これは私の最初の意見でも申し述べたとおりであります。
更に言えますことは、そのような訟務担当の検事をされておる方の中には、裁判所から人事交流で見えた方もおられる。そして、訟務担当しておった方が今度はまた裁判所でその事件の判決、その事件の判決ということではないでしょうけれども、似たような事件の裁判を担当されることすらあるというふうに、そういうことが言えると思います。
そういう点でも、大きな問題をこの法案では当初からはらんでいるというふうに考えています。
○福島瑞穂君 ですから、地方で人権侵害が起きたときに、地方法務局の人が代理人になると。
ところで、この人権擁護法案は、地方の人権委員会は地方法務局に委任することになっていると。正に立場が、地方法務局の人間があるときは人権救済の方で働き、ある人は代理人になるわけですね、被告として。それはもう立場上やっぱり無理だというふうに思うんですね。
ところで、地方の人権委員会について山崎参考人にお聞きをします。先ほどからも話していただいているんですが、やはり人権救済のポイントは、地方の人権委員会がきちっと機能するかどうかだと思うんですね。それについてちょっと、こういうふうにあるべきだというのを話していただけますか。
○参考人(山崎公士君) 一部繰り返しにわたるかもしれません。お答えします。
私どもが考えておりますのは、中央だけでなしに、全国的組織体制としては都道府県及び政令指定都市に地方人権委員会を置くと。そして、この事務局というのは、これはもう法務当局からはほぼ完全に切り離して基本的には地方自治体、自治体、あるいはNGOで活動した方々、そしてその地域の単位会に御所属で従来から人権救済に熱心に取り組んでいらした弁護士さん、こうした方々を委員あるいは事務局でもって働いていただくというものでございます。
そして、財政の在り方はもう非常に難しいところでございますが、基本的には国の法律で設置して、ですから、委員会の作り方としては公正取引委員会等が参考になるかもしれませんが、まあ財政が逼迫している折に非常にそういうものをたくさん作るというのは率直に言って難しいかもしれません。しかし、それはそれとして、これはやはり政治的な決断でもって必要なものはそこに予算を配分するというのが本来、政治だと思いますので、福島委員もおっしゃるとおり、やはり地域レベル、ローカルレベル、現場レベルで生起している人権侵害というのを、その地域地域のありように根差す形で、当事者の意向に沿う形できめ細かく相談を受け解決するというためには、地方一元的な中央人権委員会だけでなしに、是非是非、地方人権委員会の仕組みと、それを担う実質的な委員さんと事務局、これも多元性、ジェンダーバランスを保った上でということですね、そうした組織体制が是非必要であるというふうに思っています。
それからもう一つ、じゃ、中央人権委員会と地方人権委員会はどこがお仕事が違うのかということでございますが、私どものアイデアですと、基本的には地方人権委員会にかかります。そして、他府県にまたがるもの、公権力人権侵害事案のもの、そしてその他でも極めて重要性の高いものについてだけ地方人権委員会がこれを取り扱い、基本的には地方人権委員会が扱って、そこで解決しないものは裁判に行くということで、一部の御意見で、例えば中労委、地労委システムみたいになると何審制にもなって、その審級によって違ったものが出てきて非常に煩雑であるという御議論がございますが、そういったものは避けられるという制度を考えております。
以上でございます。
○福島瑞穂君 先ほど藤原参考人が情願の制度もおっしゃったんですが、実は刑務所から多く大臣情願も出ております。あるいは、今ちょっと件数を調べてもらっているんですが、名古屋刑務所でも告訴、告発がやはりかなりされていたやにも聞いて、今件数をちょっと法務省に頼んで出してもらっているところです。
そうしますと、この名古屋の刑務所の事案、他の刑務所もそうかもしれませんが、何を示しているかというと、情願をしても、例えば保護房、革手錠で取り上げてもらえない、あるいは暴行などについて告訴、告発をしても実は捜査は動かなかったのではないかという、その二つを現しているというふうに思っています。
だからこそ、人権救済システムが絶対に必要だというふうになるんですが、その点について改めていかがでしょうか。
○参考人(藤原精吾君) 私も全くそのように考えております。やはり、結局、人権救済というものは被害者がアクセスできるようなそういうシステムでなければならないと。それが今存在しないというふうに思います。
そういう意味で、是非、今、福島委員のお考えになったような問題点を乗り越えられるような組織にするべきであるというふうに考えています。
○福島瑞穂君 山崎参考人はいろいろ人権救済のシステムを研究していらっしゃいますが、私も御一緒にインドネシアの人権救済機関を見に行き、また南アフリカ共和国の人権委員会の委員長にお話を聞く機会がありました。南アフリカ共和国の人権委員会は、確かに、「遠い夜明け」みたいな映画もあるように、人権救済をやっぱりやらなくちゃいけないということで作られて、そして私が面白いというか、すばらしいと思ったのは、地方の人権委員会が充実している。
それから二つ目は、人権委員長、人権委員会のメンバー、それから事務局のスタッフも公募をしてきちっと独立しているという、あるいは拘置所や警察あるいは刑務所や、そういうところにもアポイントメントなしに直接調査ができると。これは、もし人権侵害があったことを聞いたときに直接行くことができれば、それはすごい、裁判の一千倍ぐらい本当に効力があるというふうに思うんですね。そのように、例えば職員や事務局のスタッフを公募をしてきちっと選ぶというのは非常に重要なことではないかと思うのですが、山崎参考人、いかがでしょうか。
○参考人(山崎公士君) お答えさせていただきます。
今回の法案の規定ぶりの中に具体的に事務局の職員をどういう形で採用するかという事細かなことまでは規定されていないと思います。いずれにしても、福島委員がおっしゃるように、やはりアクセスしやすいこと、そしてそこに行けば、人権侵害あるいは差別など、虐待もそうですが、受けた当事者が何とかしてもらえるというような温かみとともに期待感が抱けそうな雰囲気がなきゃいけないわけですね。ですから、制度をきちんと作る、建物が非常に立派である、それも大事かもしれませんが、しょせんはそれを運用する人の問題であろうと思います。
そういう視点に立てば、福島委員がおっしゃるとおり、NGOも含めて、これまでそういう経験をたくさん持っている方が積極的に入れるような仕組みを、ルートを作っておくというのは非常に大事なことであろうと思います。つまり、アクセスビリティーといいますか、あるいは当事者から信頼されるかどうか、これが強いて言えば実効性、独立性と裏腹の関係で、国内人権機関の場合非常に重大な問題として出てまいりますから、そういう意味では、一つのやり方として職員の集め方を公募でやるというやり方もあり得ると思います。
○福島瑞穂君 政府の方も、そして委員の多くの人たちも、国会議員の多くの人たちも、日本の中に何らかのきちっとした人権救済機関が必要であるというところでは全く一致すると思います。今日来ていただいた参考人の方たちも、きちっとした人権救済機関を作れという点では全く一致すると思います。ただ、私自身も皆さんと一緒で、変な、藤原参考人がおっしゃったのと近いんですが、変な人権救済機関を作るとすると、それは世界の恥、アジアの迷惑になってしまうんではないか。つまり、変なものを作ると、それは国連から日本はどうしてこんな変なものを作ったんだというふうに言われますし、アジアの中で今後絶対に様々な人権救済機関ができていくと思います。そのときに、法務省に作ったということがほかのアジアの国などにも例えば悪い先例としていくのではないか、第三者機関を作ろうとする国に対しても悪い影響を及ぼすのではないかと。ですから、とにかく頑張っていい人権救済機関を作りたいというふうには思っています。
今日は貴重な意見を聞かせていただいてどうもありがとうございました。
○委員長(魚住裕一郎君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、大変お忙しいところ貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。当委員会を代表して厚く御礼申し上げます。(拍手)
本日の審査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。
午後四時二十七分散会