第154回国会における小泉内閣総理大臣施政方針演説<抄訳>
-2002年2月4日-

(はじめに)
 私は、就任以来、我が国が持続的な経済成長を取り戻すためには、経済・財政、行政、社会の各分野における構造改革を直ちに断行すべきであるとの考えの下、国政に当たってまいりました。今年は、構造改革が本番を迎えます。どのように改革を進め、また、国際社会に対して、いかに責任を果たしていくのか、小泉内閣として国政に当たる基本方針を申し述べます。
 昨年12月1日、愛子内親王殿下の御誕生という、国民ひとしく待ち望んだ慶事を迎えました。国民と共に、改めて御誕生をお祝い申し上げ、愛子内親王殿下の健やかな御成長をお祈り申し上げます。
 21世紀こそ「平和の世紀」にしたいとの願いとともに明けた昨年、米国におけるテロの発生、我が国近海における武装不審船の出没など、平和の維持、危機管理への取組が、現実の課題として突き付けられました。我が国は、これに毅然として立ち向かうという決意を、具体的な形で明確に示しました。インド洋における活動に当たっている自衛隊員を始め、国際社会の平和維持、国民の安全確保という尊い任務に当たっている諸君に対して、敬意と感謝の意を表明します。安定した平和を実現するためには、国際協調主義に立って、主体的に対応することが何よりも大切です。今後、引き続き、緊張感を持って取り組んでまいります。
 今年は、ワールドカップ・サッカー大会が開催されます。大会期間中は、世界中の注目を集め、多くの人々が訪れます。日本に関心を持ち、日本について理解を深めてもらう、またとないチャンスです。我が国の文化伝統や豊かな観光資源を全世界に紹介し、海外からの旅行者の増大と、これを通じた地域の活性化を図ってまいります。この大会が、経済面への波及効果も含め、日本と日本人が元気を取り戻す機会となることを、強く期待しています。
 構造改革は、着実に動き出しています。特殊法人改革、規制改革など、様々な改革がスタートを切りました。必要な予算も編成しました。今年は、動き出した改革を一つひとつ軌道に乗せ、さらに大きな流れを作り出す、「改革本番の年」です。そして、「経済再生の基盤を築く年」としなければなりません。この正念場を乗り切って、平成15年度から、改革の成果を国民に示し、平成16年度以降は、民間需要主導の着実な経済成長が実現されることを目指します。
 昨年、内閣総理大臣に就任した当初、私が提案した様々な改革の実現は困難であろうと思われました。実際には、多くの分野で改革が進みました。今まで慣れ親しんできた制度や慣行と決別し、新しい時代の要請を柔軟に受け止めなければなりません。
 経済情勢が厳しさを増しつつあり、多くの方々が困難に直面している中にあって、小泉内閣の掲げる「改革なくして成長なし」との方針は多数の国民の支持を得ています。この国民の声をしっかりと受け止め、揺るぎない決意で改革に邁進します。


(経済財政運営の基本姿勢と金融安定化への取組)
  中略

(構造改革断行の基本姿勢)
  中略

(努力が報われ、再挑戦できる社会)
 私は、経済社会の主役である「人」が、能力と個性を発揮し、存分に活躍できる仕組みを備えた「努力が報われ、再挑戦できる社会」の実現を目指します。
 税制の在り方は、経済再生の確固たる基盤を築く鍵となります。平成14年度税制改正では、連結納税制度を創設するとともに、中小企業関係税制や金融・証券税制について、所要の措置を講ずることとしています。今後は、個人や企業の経済活動における自由な選択を最大限尊重し、努力が報われる社会を実現するために、税制を再構築していくことが必要です。そのためには、経済活性化をどのように支え、経済社会の構造変化にどう対応するのか、中立・簡素・公平な税制をどう実現するのか、適切な租税負担水準や地方分権にふさわしい地方税の在り方をどう考えるかなど、多岐にわたる課題を検討しなければなりません。経済財政諮問会議や政府税制調査会において、総合的に取り組みます。同時に、与党における検討を始め幅広い国民的な議論を期待します。6月ごろを目途に基本的な方針を示すとともに、当面対応すべき課題について年内に取りまとめ、平成15年度以降、実現してまいります。
 「努力が報われ、再挑戦できる社会」を実現して、日本の経済・産業を活性化するためには、国民と企業が自由に挑戦できる環境が必要です。様々な分野で、徹底的に規制改革を進めることにより、雇用と市場の拡大による元気な経済社会と、安くて質の高い多様な財・サービスを享受できる暮らしを、同時に実現してまいります。
 世界最高水準の「科学技術創造立国」の実現に向け、人の遺伝子情報の医療への応用、極めて微小なレベルでの新材料開発など、最先端の戦略的研究分野に重点的に取り組みます。併せて、産学官の連携の推進、地域における科学技術の振興を図ってまいります。
 我が国は、既に、特許権など世界有数の知的財産を有しています。研究活動や創造活動の成果を、知的財産として、戦略的に保護・活用し、我が国産業の国際競争力を強化することを国家の目標とします。このため、知的財産戦略会議を立ち上げ、必要な政策を強力に推進します。
 高速・超高速インターネットの加入者は、この1年間で、64万人から280万人へと、爆発的に増加しました。IT革命の進展を一層加速させるため、ネットワークインフラの整備、未利用光ファイバの利用促進などの規制改革、人材の育成、電子商取引に係るルールの整備、情報セキュリティ対策、個人情報保護の推進などに取り組みます。国民がITの利便性を身近に感じられる情報家電の普及促進にも努めます。これらの施策により、全ての国民がインターネットを通じて、自由かつ安全に、多様な情報と知識を交流できる「世界最先端のIT国家」を実現します。また、住民票やパスポートの交付申請などの行政手続を、原則としてオンラインで行うことが可能となる、電子政府・電子自治体の実現に取り組んでまいります。
 「努力が報われ、再挑戦できる社会」は、明確なルールと自己責任原則に貫かれた事後チェック・救済型社会です。この新しい社会にふさわしい司法制度を構築し、国民にとって身近なものとするため、早急に司法制度改革推進計画を策定し、改革を着実に進めます。裁判の一層の迅速化を図るための制度や、法科大学院を中核とする法曹養成制度を整備するとともに、弁護士などの法曹人口を増やし、国民が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与する新たな制度を導入します。
 国民一人ひとりの人権が尊重される社会を実現するため、独立性の高い人権委員会を設立し、弱い立場にある人権侵害の被害者を実効的に救済する、新たな人権救済制度の整備を目指す法律案を今国会に提出します。
 男女が共に個性と能力を十分に発揮できる社会の構築に向け、女性の新しい発想や多様な能力を活かせるよう、様々な分野へのチャレンジ支援策に関する検討を進めてまいります。


(民間と地方の知恵が、活力と豊かさを生み出す社会)
  中略

(人をいたわり、安全で安心に暮らせる社会)
  中略

(美しい環境に囲まれ、快適に過ごせる社会)
  中略

(子どもたちの夢と希望を育む社会)
  中略

(安全保障と危機管理の基本姿勢)
  中略

(外交の基本姿勢)
  中略

(むすび)
 昨年6月から始めたタウンミーティングは、47都道府県を一巡し、小泉内閣は、多くの国民と活発な対話を行うことができました。今後も、多様な形で、対話を継続します。
 いかなる政策も、政治に対する国民の信頼なくして実行できません。構造改革の実現のためには、まず、国会議員が率先して範を示し、国民と共に改革に立ち向かっていかなければなりません。
 政治に対する国民の信頼を裏切る行為が、相次いで生じていることは、極めて残念です。こうしたことが今後繰り返されないよう、政治倫理確立のための法整備について、国会において十分議論されることを期待します。また、公共工事をめぐる不正を防止するため、昨年4月に施行した入札契約適正化法の徹底を図ります。
 私は、初めての所信表明演説で、改革に立ち向かう決意を国民に問いかけました。先の臨時国会における演説では、変化を恐れない勇気を求めました。改革の痛みが現実のものとなりつつある今、これまで様々な苦境を乗り切って、新しい時代を切り拓いてきた日本と日本人を信じ、未来への希望を決して失わない強さを、改めて求めたいと思います。
 これまで不可能だと思われていた改革が、国民の幅広い支持によって、着実に実現の方向に向かっています。国家の発展のため不可欠のものは、自らを助ける精神と、自らを律する精神であり、改革の原動力は国民一人ひとりです。
 終わりに、一つの歌を御紹介したいと思います。昭和21年正月歌会始に詠まれた、昭和天皇の御製であります。
  ふりつもるみ雪にたへていろかへぬ松そをゝしき人もかくあれ

 終戦後、半年も経たない時に、皇居の松を眺めて詠まれたものと思われます。雪の降る、厳しい冬の寒さに耐えて、青々と成長する松のように、人々も雄々しくありたいとの願いを込められたものと思います。
 明治維新の激動の中から近代国家を築き上げ、第二次大戦の国土の荒廃に屈することなく祖国再建に立ち上がった、先人たちの献身的努力に思いを致しながら、我々も現下の難局に雄々しく立ち向かっていこうではありませんか。明日の発展のために。子どもたちの未来のために。
 国民並びに議員各位の御協力を心からお願い申し上げます。


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