*意見及び表現の自由に関する国連特別報告者、メディアの自由に関する欧州安全保障協力機構(OSCE)代表、ならびに表現の自由に関する米州機構(OAS)特別報告者から、人種主義とメディアについての共同声明が出された。 現在、日本国内においても法務省人権擁護推進審議会において新たな人権救済制度(国内人権委員会の設置)が検討されているところであり、また本年8月の南アフリカにおける反人種主義・差別撤廃世界会議に向けた取り組みにおいても、今回の共同声明は一定の意義を持つものである。 これについて報じた国連のプレス・リリース(2001年3月1日付)を訳出する。 人種主義とメディアに関する共同声明 私たちは、 反人種主義・差別撤廃世界会議の目的を支持し、かつ、その準備過程に貢献することを望み、 平等の促進、ならびに人種主義、差別、外国人排斥及び不寛容からの自由が、人権及び自由の実現にとって不可欠であることを再確認し、 すべての人の人格の発展、尊厳及び充実、平等及び民主主義の促進及び保護、人権及び自由の享受、ならびに社会の進歩及び福祉にとって、表現の自由への権利(メディアの自由を含む)が基本的な重要性を有することを強調し、 人種主義及び差別が流布し、多くの国と地域において不寛容の風潮があり、また、これらが人権及び自由の完全な享受と平等とにとって脅威であることに懸念をもって留意し、 表現の自由への権利を行使する際に、とりわけメディアが積極的な貢献を果たしていることを認め、かつ、情報の自由への権利を完全に尊重することが人種主義、差別、外国人排斥及び不寛容との闘いに資することを認め、 人種的憎悪、差別、暴力及び不寛容を煽動し、促す全ての表現形態を有害なものとして認め、こうした形態の表現がしばしば人道に対する罪に付随し、先行することに留意し、 人種主義、差別、外国人排斥及び不寛容と闘う努力と、表現の自由への権利の保護との間に均衡を確保する必要があることを認識し、 メディアの編集の独立性及び自律性を尊重する必要を繰り返し、 反人種主義・差別撤廃世界会議の準備に貢献することを望み、 次の共同声明を採択する。 人種主義、差別、外国人排斥及び不寛容との闘いにおいてメディアが果たす最善の役割を促進するには包括的なアプローチを要する。そうしたアプローチは、民法、刑法及び行政法といった適当な法的枠組みを含み、また、教育、自己制御(self-regulation)及び他の積極的措置を通じて寛容を促進する。 これらの努力は、全ての市民が自らの意見の形成と見解の吟味とに役立ち、かつ自らの意思決定を行うのに必要な情報にアクセスできるように、表現及び情報の自由を尊重することによって、なされなければならない。 民事的、刑事的及び行政的な立法措置 表現の自由と抵触する全ての民事的、刑事的及び行政的な立法措置は、法により定められ、国際法が定めるような正当な目的にかなうものとして、その目的を達成しなければならない。これが意味することは次のことである。すなわち、いかなる措置も明確かつ厳格に(clearly and narrowly)定義され、政治的、商業的または他の不正な影響力から独立した機関によって恣意的及び差別的な方法によらず適用され、かつ、侵害に対する十分なセーフガード(独立した裁判所にアクセスする権利を含む)が保障されることである。こうしたセーフガードが効力を有しない場合、人権及び民主主義の尊重が脆弱な場所において、そのような措置が侵害される可能性が極めて高くなりうるし、また、憎悪的言動を関する法(hate speech laws)が、そうした措置に反するように、かねてから用いられてきた。 国際的及び地域的な法に従って、憎悪的言動に関する法(hate speech laws)とは、少なくとも次のようなものを指す。 ――何人も、真実とされる発言により処罰されない。 ――何人も、差別、敵意又は暴力を煽動しない限り、憎悪的言動(hate speech)により処罰されない。 ――とりわけ人種主義及び不寛容について報道する場合、情報及び見解(ideas)ついて公衆に伝える最良の方法を決定するジャーナリストの権利は尊重される。 ――何人も、事前に検閲を受けることはない。 ――裁判所による可罰は、比例性の原則(principle of proportionality)に厳格に従うものとする。 これらの基準は、インターネットのような新たなコミュニケーション技術にも適用されるべきである。そうした新たなコミュニケーション技術は、とりわけ国境を越えるグローバルなレベルにおいて、表現の自由への権利ならびに情報及び見解の自由な流出を促進する際に甚大な価値がある。これらの新たなコミュニケーション技術に対するいかなる制限も、 ――表現の自由への権利によって保護されている、情報及び見解の自由な流出を制限してはならない。 ――公権力による人権擁護者への脅迫や、その作業への干渉を許してはならない。 名誉毀損に関する法(defamation laws)は、人種主義、差別、外国人排斥及び不寛容を自由(freely)に同定しかつそれに対して公然と闘う権利を制限するために用いられる場合がある。これを防止するために、名誉毀損に関する法(defamation laws)は、とりわけ2000年11月30日に表明した私たちの共同声明において示したような、表現の自由に関する国際基準と一致させるべきである。 情報の自由 情報及び見解(ideas)の自由な流出は、人種主義、差別、外国人排斥及び不寛容と闘う最も強力な方法の一つである。これらの問題と闘うのに役立ち、公的又は私的な機関によって掌握されている情報は、公共利益を保護するために必要なものとしてアクセスできないことが正当化されない限り、自由にアクセスされるべきである。加えて、必要な場合には、公的機関による情報の収集や普及を通じて、人種主義、差別、外国人排斥及び不寛容に関する信頼できる情報に公衆が十分にアクセスできるよう国家は確保すべきである 寛容の促進 メディア組織、メディア会社及びメディア従事者(とりわけ公共放送従事者)は、人種主義、差別、外国人排斥及び不寛容と闘うために積極的な貢献を果たす道徳的及び社会的な義務を負う。これらの機関や個人がそのような貢献を果たす場合、次のものを含む多くの方法がある。 ――人種主義及び差別に関する問題への深い理解を促進し、かつ、実際的な手段への知識と寛容とを促進するための道徳的及び社会的なメディアの義務を助長する、メディア訓練計画(media training programmes)を策定しかつ開始すること。 ――実効的な倫理的及び自己規律(self-regulation)的な行動規範が、人種主義的な用語の使用、偏見的又は軽蔑的なステレオタイプ、ならびに人種や宗教といった属性への不必要な言及を禁止するよう確保すること。 ――労働力が多様化され、かつ社会全体を合理的に代表するよう確保する措置をとること。 ――人種主義的又は差別的な活動について分別のある方法をもって、事実に基づいて報道するよう取り計らうこと。それと同時に、それが公衆の注意を引くよう確保すること。 ――特定の社会に関する報道は、差異(difference)に関するより良い理解を促進するものとなるよう確保すること。それと同時に、その報道がそうした社会の認識を反映し、かつ、それら社会の構成員の発言が報道される機会を確保すること。 ――寛容の文化、ならびに人種主義及び差別といった社会悪への一層の理解を促進すること。 *上記の邦訳の原文(英文)は以下から入手可能です。 http://www.unhchr.ch/huricane/huricane.nsf/view01/ A7D61155293A8200C1256A02003CD849?opendocument |
人権フォーラム21 | Copyright 2001 Human Rights Forum 21. All Rights Reserved. |