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ダーバン2001に向けたアジア地域準備会議/ニュース速報3(2001.2.21)


*2001年2月19日−21日、反人種主義・差別撤廃世界会議のアジア地域準備会議がテヘランで開催された。メアリー・ロビンソン人権高等弁務官は同会議に出席し冒頭演説を行った。以下、その内容について報じた2月19日付けプレス・リリースを訳出する。


国連人権高等弁務官メアリー・ロビンソンのスピーチ:テヘラン:2001年2月19日

 テヘランに来訪できたことを大変嬉しく思います。私が最後にテヘランに訪れたのは、アジア太平洋地域における人権の保護及び伸長のための地域的取決め第6回ワークショップが開催された1998年2月です。私は、テヘランで開催されたこの重要な会議に多くの国の代表者達が参加したことを大変喜ばしく思います。

 私はイラン政府がこの会議を開催して下さったことを感謝します。国連総会は今年を文明間対話の年(the Year of Dialogue among Civilizations)と宣言しました。アジア太平洋地域における様々な国家と文化は、不寛容及び多様性の尊重という普遍的な人間の価値を高めるのに大きな貢献を果たします。

 私は、この地域準備会議が、人種主義、人種差別、外国人排斥及び不寛容と闘うために必要とされることを明確化する際に実質的な貢献を果たすものと理解しています。また、この会議において、私たちがアジア太平洋地域のみならず全世界に蔓延る人種主義に取組むために、現実的かつ行動志向型の解決策を見出すことを望みます。

 このアジア太平洋地域準備会議は、南アフリカで開催される反人種主義・差別撤廃世界会議にむけた最後の地域準備会議となります。ご存知のとおり、この反人種主義世界会議はほんの数ヶ月先に開催されるものです。これまでに、昨年10月のストラスブルグ、昨年12月のサンティアゴ(チリ)、先月のダカールにおいて、それぞれ地域会議会議が開催されました。これらの地域準備会議は成功し、それぞれの地域に特有の多くの問題が取り上げられ、解決策が模索されました。このアジア太平洋地域準備会議は、これまでの三つの地域準備会議の議論ならびに種々の専門化セミナーの知見の上に成り立ってることは言うまでもありません。

 私は、先の三つの地域準備会議において、それぞれに特有な問題を明らかにしようとしました。私の目的は二つあります。一つは、人種主義、人種差別、外国人排斥及び不寛容との闘いにおいて改善の余地があるということを参加者に強く認識して頂きたいということです。もう一つは、こうした問題についての私たちの理解が、反人種主義・差別撤廃世界会議が開催されるまでに可能な限り徹底的なものとなるように、関連問題について包括的に描写することが必要であるということです。

 本日私が強調したいことは、人種主義と外国人排斥について曲解された見方を認識する必要があるということです。

 いかなる地域も、国家も、また地域社会も、人種主義からの自由(free)について正しく主張していません。人種主義、外国人排斥及び不寛容は、根強く残っている伝統的な形態をもって、また残念ながら新しい近代的な形態をもって、いたるところで行なわれています。私が強調したいのは、人種主義の根強さと広がりです。というのは、この問題に取組むための最初の一歩とは、そのスケールの大きさを認識することだからです。その認識こそが重要なのです。皆さんがご存知のように、この問題のスケールの大きさが過小評価されるのならば、それについて正しく取組むことは不可能です。そのため、本日の私の最初のメッセージは、(その問題のスケールを)否定するという危険性に注意するということです。人種主義と外国人排斥がその他の人々やその他の国と地域の問題であると考えてはなりません。人種主義は私たち皆に影響を与えるもののであり、全ての国と地域が人種主義と闘わなければならないときに来ているのです。

 私の二つ目のメッセージは、寛容、尊重及び多様性という精神がこれまでよりも一層必要とされることです。私たちは、全ての宣言や行動計画において用いられている文言において、また、具体的な提案がなされる際に、こうした精神が反映されるよう確保するために特別の注意を払わなければなりません。

自由権規約その他の人権条約の批准と、国内的実施の確保

 アジア太平洋地域の加盟国のほとんどは、人種差別撤廃条約を批准しています。それは励みになる兆候です。私は、批准していない全ての国家に対して、同条約をできるだけ速やかに批准するよう求めます。また、既に批准している国家に対しては、その留保を撤廃するよう求めます。

 加えて、私は人種差別撤廃条約第14条が規定する同委員会の権限をいまだに認めていない政府ができるだけ早くそれを承認するよう求めます。また、この点について、私は政府が国連人権高等弁務官事務所の技術支援計画とアドバイサリー・サービスを積極的に利用するよう奨励します。

 人種主義についての国際社会の中核的な価値は、多くの国際文書において示されています。例えば、人種差別撤廃条約、自由権規約、社会権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、ならびに、全ての移民労働者とその家族の権利保護と児童就労とに関するILO勧告です。国家はこれらの条約を批准し、国内的に実施しなければなりません。

 アジア太平洋地域における多くの国家の憲法が人種主義及びその他の形態の差別に対する規定を有しています。近い将来には、これらの総則的な規定がより具体的かつ執行可能な法的文書に編入され実行されるようにしなければなりません。反差別に関する規定を包括的に編入するという過程は、国内行動計画の作成を通じて実効的に行うことができます。その国内行動計画の実施は国連人権高等弁務官事務所の技術支援計画の優先事項です。

 私は、警官や裁判官の他に、社会的マイノリティーと頻繁に関わっている公務員の人権教育を強化するよう全ての政府に対して奨励します。さらに、社会的及び政治的なレベルにおける多様性の尊重を維持するという持続的な努力は、市民社会が全てのレベルに完全に含まれることによって最大限に実ることができるのです。地域準備会議や専門化セミナーの参加者の中で、モデル法、教育及び訓練文書、並びにメディアキャンペーンを含む、人種主義と闘うための最良の実行及びモデル(best practices and models)のためのマニュアルを開発するというアイディアが提案されており、この提案を現実化するために多くのことが行なわれています。

移民や人身売買の問題

 昨年9月にバンコクで開催された専門化セミナーにおいて、移民と国境を超える人々の移動が人種差別、外国人排斥及び不寛容と直接に関係しているということについて合意がありました。大変多くの場合に、迫害や貧困から自由になることによって人々は恩恵を受けます。人身売買についての問題は極めて深刻であり、女性と子どもの強制売春をなくさせるために地域的及び世界的な協力が必要とされています。

 傷つきやすい人々、特に複合的な差別を被っている人々に対して、特別な注意が払われなければならないことは明らかです。女性、子ども、高齢者及び障害者のようなマイノリティーは全て、その人種的かつエスニック的な背景と、ジェンダー、年齢または障害という背景という両方から、差別的な態度と行為の犠牲を被っています。

女性移民の特別な状況

 とりわけ女性は、家庭、地域社会及び国家制度において暴力的な行為の被害を受けることが多々あります。国連人権委員会の移民に関する特別報告者によれば、公用語を話すことができず、また、国籍を有しない女性移民は、しばしば公務員による尋問の際や移民収容所において被害を受けます。

 同様に、女性に対する暴力に関する特別報告者は、使用人として働く女性が極めて傷つきやすいという事実に注意を払っています。彼女達は、家族や地域社会から孤立し、暴力その他の被害を受け、通常はほとんど救済措置を受けられません。

 政府は、人身売買に携さわり、また移民の人権を侵害する全ての者に対する罰則を含めるよう法律を改正しなければなりません。またそれ以上に、暴力を受けた場合には医療やカウンセリングのサービスを受けられるようにしたり、また、移民に特有な問題に人々の意識を喚起するようにしたりして、政府は移民の傷つきやすさを軽減するための強制的かつ行政的な構造を作り上げなければならないのです。

 私は、最も傷つきやすい人々を苦しめている人種差別との闘いに市民社会が関与するよう奨励します。なぜなら、政府だけでは限界があるからです。NGOその他の市民社会のグループは、人種主義及び外国人排斥の実情を明らかにすることに役立つことができますし、また、人種主義という問題に取組むよう政府のアプローチを適正に調整したりするのに役立つような政策や実施において建設的な転換を擁護することができます。

予防と教育

 究極的に言えば、人種主義の根元は草の根のレベルで取組む必要があります。すなわち、反人種主義のメッセージを学校やコミュニティー・センターにおいて行き渡らせることによって、地域社会レベルにおける人種主義の蔓延を予防するように、政府は持続可能な戦略を確立するよう努力しなければなりません。

 私たちは皆、人種、皮膚の色、門地又は国籍若しくはエスニック的出身とは関係なく、一つのヒューマン・ファミリーであると覚えておくべきです。アジア太平洋地域の文化や地域社会は、それぞれの哲学や思想といった伝統の中で、多様性は世界における最も重要な強みの一つである、というメッセージを広めなければなりません。21世紀が平和の時代となるためには、私たちは、それぞれの人々の違いを尊重し、また、人間として基礎的な生活の質を共有するという認識を高めなければなりません。国家は、その人種的又はエスニック的な出身とは関係なく、全ての人々が平等かつ公正に取り扱われる権利を有するという原則を実現しなければならないのです。この原則は、市民社会の助力を得ながら、法や実行を包括的に改善することによってのみ実現できるのです。マイノリティー・グループや移民に対する不平等な取扱いが、国家にとって、人々の能力を完全に利用する際の足かせとなり、また、国内的な発展や意識を減じさせるに過ぎないことは明らかです。文明間の対話における倫理観に期待すると共に、多様性の中に、恐怖ではなく、社会の豊かさを見出しましょう。

*上記の原文(英文)は以下の国連ホームページから入手可能です。
http://www.unhchr.ch/huricane/huricane.nsf/view01
/211904E6F98294E3C12569F9002B4B5F?opendocument


 

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