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ストックホルム国際フォーラムでメアリー・ロビンソンが講演
(ストックホルム/2001.1.29)


*本年1月、「ストックホルム国際フォーラム:不寛容との闘い」がスウェーデン政府により開催された。この国際フォーラムにおいて、国連人権高等弁務官のメアリー・ロビンソンが、不寛容との闘いを中心にスピーチを行った。以下、その内容について報じたプレス・リリースの内容を紹介する。



ストックホルム国際フォーラム:メアリー・ロビンソンのスピーチ(抄訳)


 私は、このストックホルム国際フォーラムに招かれたことを光栄に思うと共に、スウェーデン政府に敬意を表します。スウェーデンが人権及び人道主義について指導的役割を国際的に担ってきたことを考えれば、同国が不寛容との闘いの先頭に立つことは全く不思議なことではありません。

 ホロコーストに関する昨年のストックホルム会議に続き、この国際フォーラムのテーマは極めて適切なものであります。また、このプログラムは、実質的にも、また進歩的アプローチの点でも強い印象を与えます。

 私は、あなた方のアプローチが実用的であること、また、あなた方が各作業部会の積極的なイニシアティブを求めようとしていることを喜ばしく思います。

 コフィー・アナン国連事務総長が強調したように、不寛容との闘いは国連の目的の中心をなすものであり、かつ、全ての国連機関と関わるものです。国連憲章の前文は、憲章の最優先事項の一つとして、「基本的人権、人間の尊厳及び価値、並びに男女の同権に関する信念を再確認すること、・・・またこのために、良き隣人としてお互い平和に生活し、かつ寛容であること」を挙げています。

 人類ははここ数世紀にわたって大きく進歩してきました。私たちが生きている時代には、科学、医療及び技術といった分野において革新的な発見が次々に行なわれ、一世代前には想像もできないような生活の質(quality of life)の改善が見られます。しかし、私たちは、人間の知恵により生み出された生活の改善を享受しつつも、この進歩的と思われている世界のいたるところで、あらゆる種類の人権侵害が行なわれているという現実を見ざるを得ないのです。また、私たちは次のことに気づいています。人類を存亡の危機に導く力とは、単に理論上ありうるというものではなく、ほんの60年前に現実に行使されたものであると。アイルランドの詩人であるSeamus Heaneyは、1995年にストックホルムにおいてノーベル文学賞を受賞したときに、次のようなスピーチを行いました。

 「リアリズムと美意識とを有することによって、私たちは、現実に生じている兆候に対して慎重となることができます・・・20世紀後半に得られた理解が崩壊寸前の状況にあるため、私たちの文化的遺産の多くは過酷な試練のときにきています。もはや愚か者と奪われし者のみが、文明という快適な生活が血と涙で裏付けられていることを知るにすぎないのです。・・・」


 不寛容は、生活を荒廃させ、かつ、人類による全ての進歩を脅かしうる破壊的な力です。私は、アウシュビッツ追悼式における次のようなEile Wieselの言葉を想起します。

 「私は、人類自らが全ての人々を絶滅させようとし、また、大変多くの人々を苦しめ、屈服させ、そして殺そうとしたことを目撃してきたユダヤ人として話します。私たちは暗闇と誹謗の世界におります。しかし、私たちは、国籍も持たず、顔も名前も分からない犠牲者達を畏れうやまい、かつ思い起こすことができるのです。」


 不寛容に直面している中にあって、とりわけ――ジェノサイドや人道に対する罪のように――不寛容が顕著に表出している状況にあって、私たちの第1の義務は、証人に耳を傾けることです。私は、ホロコーストに関する出版物がスウェーデンの各世帯に配布され始めたことを嬉しく思います。それは痛ましい本ではあります。しかし、こうした恐ろしい出来事が起こったときに生まれていなかった若者が、不寛容の行きつく先がどのようなものであるかを理解する上で、こうした出版物はきわめて重要です。ヨーロッパのシナゴーグが再び人種主義者の攻撃の的となっているため、このことについて深く考えることは極めて重要です。

 しかし、私たちは思い起こす以上のことをしなければならないのです。というのは、私たちは、不寛容に対して力の限り闘う厳粛な義務を負っているからです。この義務を果たす最良の機会として、今年の8月31日から9月7日までダーバンで反人種主義・差別撤廃世界会議が開催されます。

 反人種主義・差別撤廃世界会議の最初の課題は、21世紀に存在しているような、人種主義、人種差別、外国人排斥及び不寛容について徹底的に理解することにあります。昨年から、反人種主義・差別撤廃世界会議の準備会議や地域専門家セミナーが各地域において開催されており、反人種主義・差別撤廃世界会議が開催されるまでこうした会議やセミナーは継続されていきます。こうした会議では、多くの様々な問題が取り扱われ、地理的には、ダカールからテヘランまで、またサンティアゴからバンコクまで、広く開催されます。

 私は、こうした準備会議が人種主義及び外国人排斥の性格を私たちに一層知らしめることを望みます。本日、私は、人種主義の鍵となる要素として、不寛容を中心にこのフォーラムで話しています。不寛容、偏見及び人種主義は深く根付いており、複雑なものです。それらは多くの形態をとります。すなわち、それらは宗教、国籍、社会階級、ジェンダーの違いにも基づいているのです。確実に言えることが一つあります。それは人種の相違に基づく差別はとりわけ強固なものということです。「露骨であり、かつ、人目につかない人種主義に基づく差別は深く根付いている」、と最近の研究は結論づけています。

 私たちは、今日における不寛容と人種主義の全ての発現形態に立ち向かわなければならないのです。従来、国連会議は先住民、マイノリティーおよび移民に特有の問題を取り上げてきました。これらはいまだに深刻な問題です。ダーバンの反人種主義・差別撤廃世界会議において、私たちが取組む必要がある他の課題としては、ローマ社会(Roma community)――及び、実際はアイルランドのトラベラー社会(traveler community)――、民族紛争、ジェンダー、並びに、難民や亡命者に対する人種主義及び偏見が含まれます。

 同様に、グローバリゼーションが人種主義と不寛容に与える影響を検討する必要もあるでしょう。私たちの生活の大変多くの局面で、グローバリゼーションもまた人種主義と不寛容とに関わっているのです。その一つの例が、増大している人身売買のような国境を超えた犯罪です。他の例として、人口移動がしばしば外国人排斥を生じさせることも挙げられます。この点について、私にとって印象深いものとして、移民と外国人排斥に関するNGO作業部会(NGO Working Group on Migration and Xenophobia)による次のような最近の声明があります。

 「多くのNGOの経験では、外国人に対する敵意や外国人排斥は、人種主義や人種差別と重なり合う関係にありつつも、区別されるものである。人種その他の特徴によって外国人と国民とが区別されない場合でさえ、単に外国性(foreignness)ということに基づいて差別がなされる場合がある一方で、観念的な国内標準と異なった身体的特徴をもつ人が外国人であると想定されることによって、外国人排斥と人種主義とが関連する場合もある」。


 取組むべきさらなる課題としては、憎悪及び偏見についてのメッセージを流布するインターネットがあります。大きな技術進歩が人種主義という兵器となるのです。私たちは、そのようなメッセージの悪影響を警戒し、ハイテク産業――及びメディア――が人種主義との闘いに一層取組むようにしなければならないのです。

 私たちは反人種主義・差別撤廃世界会議から何を期待することができるのでしょうか。私は反人種主義・差別撤廃世界会議から具体的な結果を得ることを望みます。私の目標は、反人種主義、人種差別、外国人排斥及び不寛容についての宣言と、具体的活動及び予定に関する実質的な行動プランと、定められた期日までに行なわれた活動をレビューする過程とについて国際社会の同意を得ることです。私は、反人種主義・差別撤廃世界会議があらゆる形態の人種主義及び不寛容と闘うための新たな実効的な戦略を打ち出す際に、スウェーデン及び国連加盟国が建設的な役割を果たすことに注目しています。

 そのような困難な挑戦に取組む場合、国際的、地域的及び国内的レベルにおいて行動が要求されることは一般に合意が得られています。反人種主義・差別撤廃世界会議は、全ての国が遵守しかつ将来の指針となる規範及び基準を設定するでしょう。ヨーロッパにおいて、スウェーデンは、欧州連合評議会(presidency of the European Union)を通じて、大きな役割を果たすことができます。ヨーロッパは、人種主義と戦うために、より多くのことをすることができるのであり、またすべきです。昨年10月にストラスブルグで開催された反人種主義欧州会議において、私は、今日のヨーロッパにある人種主義と外国人排斥に目をつぶるべきではないと述べました。また私は、次のような側面について言及しました。

 外国人、亡命者及びマイノリティーに対する不寛容の増大
 法執行による、また移民局その他によるマイノリティーへの差別
 職場及びサービス部門における差別
 極右政党への支持
 以前はそれほど人種的な態度が見られなかった場所や、生計が脅かされることのない裕福な社会における人種的態度の現れ

 ヨーロッパの態度がパラドクスであるという印象を私は受けます。衡平の問題や、国際法の下での難民および亡命者に対する国家の義務はさておいても、自由主義的アプローチよりの経済論争が圧倒的です。ヨーロッパの出生率は急激に落ち込み、高齢者が着実に増加しています。ヨーロッパが自力的な経済持続力を保持するためには、多くの人々が必要なのです。

 残念なことに、ヨーロッパの多くの政治的リーダーはこの現実にしり込みしており、難民や亡命者に対して、いくら良くとも微温的、最悪の場合には敵意を示しています。私がストラスブルグで述べたことをここでも繰り返せば、この問題についてヨーロッパの政治的リーダーのリーダーシップが必要とされているのです。彼(女)らに向けた私のメッセージは、次のようなものです。すなわち、異文化共存のヨーロッパ(multicultural Europe)が避けられないということです。ヨーロッパは寛容および多様性に価値を見いだす他に道はないのです。さらに言えば、マイノリティー、先住民、移民、様々な肌の色を有する人々、人種あるいはエスニック背景を有する人々に対して十分に寛容――その目的は、私たちの社会における「他者」が生まれながらの尊厳並びに平等かつ不可譲の権利の完全な尊重を享受するということですが――であるとは言うことができないのです。

 おそらく、なされなければならないであろう最大の努力は国内レベルにあるでしょう。ここでもスウェーデンは先頭に立つことができるのです。この点、スウェーデンにおける多様性の推進力を明確化するために実施されているスウェーデン2000・インスティチュート(Sweden 2000 Institute)のアプローチに私は強い感銘を受けました。スウェーデン2000・インスティチュートは高齢者の人口と労働人口について調査しました。その調査によれば、労働人口はより異文化共存的となっており、多様なマネージメントを見据えるよう、スウェーデン企業は喚起されています。そして、そうしたマネージメントは、戦略的な問題として、企業内の諸過程と諸実行の全てにおいて統合される必要があるとされています。

 このスウェーデン国際フォーラムに参加した各国代表に対する私の呼びかけは、反人種主義・差別撤廃世界会議までの過程において、各国レベルにおいて多様性に対する積極的なアプローチが進められることに向けられています。将来にわたって経済的社会的な可能性を現実化する際に、各国に不可欠な目的に貢献するよう、他国から来る人々の貢献に対して一層の価値を認め、より透明性を高め、より誠実に対応する必要があるのです。

 もう一つ例を挙げると、オンブズマン事務所があります。国際社会はスウェーデンがオンブズマン事務所を発展させた方法を高く評価しています。国家に対する個人の権利を擁護する独立した審判者(arbitrator)の概念は、人権の強化にとって甚大な影響を与え、また、比較的短い期間に世界の多くの地域に広がりました。今日、スウェーデンはエスニック的差別、機会均等、性的志向、障害及び子どもに基づく差別に責任をもつオンブズマンを含む国内制度の構造を高度に発展させています。

 経験が示すところによれば、権利を保護するために洗練された法律や組織が存在する国においてでさえ、差別や不寛容の規模は大変大きいです。スウェーデンにしても他の国々にしても、人種主義や差別から自由であることはできません。それゆえ、反人種主義・差別撤廃世界会議は、人種主義と闘うためにも、また、既存の法律や取決めが新たな傾向に対処するのに十分であるかどうか、その実効性を含むこれまでの各国の歩みを振り返るためにも理想的な場です。

皆さん、反人種主義・差別撤廃世界会議のために準備され、かつ、世界中の70の政府によって署名された先見的な宣言は、私たち全てが一つのヒューマン・ファミリーを構成していることを承認するよう要請しています。宣言は述べます。「この真実は、私たち人間の魂の完全な実践に向けて、また、その創意、創造性および道徳的役割に向けて、私たちを奨励する。また、この真実は男女の共同参画によって高められる。人間のやりとりや人間の発展において、人種および文化の多様性を制限的な要素とするよりも、私たちは私たちの理解の重点を変えて、そのような多様性の中で、相互に豊かになる可能性を判断していかなければならない。そして、私たちは、伝統的な人間の魂のやり取りこそが、人間の魂それ自体の永続性にとって最良の展望をもたらすものとしなければならないのである」。



*上記のプレス・リリースの原文(英語)は以下の国連ホームページより入手可能です。
http://www.unhchr.ch/huricane/huricane.nsf/
view01/448C3BE0725AE34AC12569E5002F594A?opendocument


 

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