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女性差別撤廃条約選択議定書が効力発生!
(文:横浜国大修士課程 川島聡)


1.女性差別撤廃条約選択議定書の概要

(1)効力発生
 2000年9月22日に、イタリアは、女性差別撤廃条約選択議定書(Optional Protocol to the Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women)を批准した。
これは女性差別撤廃条約選択議定書(以下、議定書)の十番目となる批准であり、「この議定書は10番目の批准書または加入書が国連事務総長に寄託された日の3箇月後に効力を生ずる」(第16条1)という規定により、12月22日に議定書の効力が発生することになる。

(2)特徴(個人通報手続/調査手続)
 議定書の効力発生によって、女性差別撤廃条約(以下、条約)違反の被害者であると主張する個人または集団は、国内的救済措置(国内裁判手続き等)を尽くした後、女性差別撤廃委員会(以下、委員会)に対して、通報を提出することができるようになる(第2条)。
 また議定書は委員会の調査権限を認めており、委員会は、一定の要件を満たした場合に、条約違反の締約国領域内に調査委員を訪問させることができる(第8条及び第9条)。

(3)採択日/署名数/批准数
 この議定書は、1999年10月6日の国連総会第54会期において採択(A/RES/54/4)されたものであり、1999年10月10日の人権デー(Human Rights Day)に署名のために開放され、2000年9月29日現在、署名数は62、批准数は11となっている(注1)。


2.なぜ女性差別撤廃条約選択議定書は必要か?

 では、なぜ議定書が必要なのだろうか。それは議定書が発効することにより、以下のような利点があるためである(注2)。


(1)国連人権保障システムにおいて女性の人権を強化させる

 従来、女性のための主要な国連人権保障システムとしては、@委員会による政府報告の審査、A女性の地位委員会(CSW)による監視および通報手続(注3)、ならびにB女性に対する暴力に関する特別報告者(Special Rapporteur on Violence Against Women)による活動、の三つがある(注4)。
 また、この他にも、自由権規約第一選択議定書は個人通報手続を有しており、当該手続は自由権規約違反のケース(法律の前の平等:第26条)において度々活用された(注5)。なお、人種差別撤廃条約、拷問等禁止条約、および1503手続等は個人通報手続を有するが、これらはジェンダーの問題に直接的に向けられたものではない。
 このように女性のための国連人権保障システムは各種存在する。だが、それにもかかわらず、あらゆる社会において女性の人権侵害は拡大しており、また、女性の人権侵害を救済するための国際的手段はいまだに脆弱と言わざるを得ない。
 そこで、女性の人権保障をより一層強化するために、個人通報手続を定める議定書が要請されることになった。この議定書の定める個人通報手続により、条約侵害の被害者である個人又は集団は、委員会に通報を提出することができるようになった(第2条)。また、議定書は調査手続を定めており、委員会が指名した委員により人権侵害国の調査を行わせることができる(第8条、第9条)。さらに、議定書は暫定措置を定めており、委員会は被害者に生じている回復不能な損害を避けるために必要な暫定措置を求める要請を関係締約国に促すことができる(第5条)。


(2)女性差別撤廃条約上の締約国の義務を明確にする

 委員会は、通報手続を用いて個別ケースを審議することになる。このことは、女性の環境を改善するために国家がすべきことを明らかとし、女性の人権保障に関する締約国の義務の具体的内容を国家に理解させる助けとなる。
 また、個人通報に関する委員会の見解(views)は、いわゆる先例(jusriprudence)と呼ばれるものに等しい。ここで先例とは、特定の問題について判例法(case law)を形成する実体(body)として用いられる用語であり、法を解釈するための指針となる。この先例は、条約上の締約国の義務を明確にする。


(3)女性差別撤廃条約の実施について国家の行動を促す

 議定書は、人権被害者による申立て(complaints)を避けようとする締約国に対して、条約の実施を促す効果をもつ。申立ての生じる可能性は、国家が効果的な国内的救済(local remedies)を行う誘引をも引き出すであろう。


(4)差別法および差別慣行を撤廃するよう促す

 委員会は、議定書に基づいて、条約違反の犠牲者救済のための具体的措置をとるよう締約国に対して要請する(第7条3)。その要請には、法律の改正、差別慣行の停止、積極的差別是正措置(affirmative action measures)の実施等が含まれる。


(5)国連人権保障システムにおける実施メカニズムを向上させる

 議定書は、ジェンダーのための初の国際的な申立手続(first gender specific international complaints procedure)を定める。そして、この議定書は、他の人権条約の申立手続の下で発展してきた実行および手続を編入することによって、既存の人権保障メカニズムを向上させる。
 既に国際的な申立手続を有している人権条約としては、@自由権規約第一選択議定書、A人種差別撤廃条約(第14条)、およびB拷問等禁止条約(調査手続を含む)がある(なお、地域的人権条約も通報手続を有している)。


(6)女性差別に関する人権基準について国民の意識を向上させる

 議定書は、条約および議定書を広く周知させるよう、国家に対して要求する(第13条)。議定書の定める通報および調査が広く知れ渡ることによって、条約および議定書についての国民の意識は確実に向上するだろう。そして、条約および議定書に対する国民の意識の向上は、直接的・間接的に、それらの実効性を強化することにつながる。


3.女性差別撤廃条約選択議定書の内容

 女性差別撤廃条約選択議定書は、前文および本文(第1条―21条)からなる。以下、各条文の見出しを列挙する(注6)。


前文
第1条:委員会の権限
第2条:個人通報の提出
第3条:受理できない通報
第4条:受理可能性
第5条:暫定措置
第6条:締約国への照会
第7条:通報の検討
第8条:委員会の調査
第9条:調査に応えて締約国によりとられた措置の報告
第10条:第8条及び第9条に対する留保
第11条:通報者の保護
第12条:年次報告
第13条:広報
第14条:手続規則
第15条:署名、批准、加入、寄託
第16条:効力発生
第17条:留保
第18条:改正
第19条:廃棄
第20条:国連事務総長の通報
第21条:正文



(注1)署名ないし批准した国家については、次の国連ホームページを参照。
http://www.un.org/womenwatch/daw/cedaw/sigop.htm
(注2)ここでの本文の記述については、次の国連ホームページ(Women Watch)を参照。
http://www.un.org/womenwatch/
(注3)女性の地位委員会(CSW)については次の国連ホームページを参照。
http://www.un.org/womenwatch/daw/csw/44sess.htm
(注4)特別報告者については次の国連ホームページを参照。
http://www.un.org/womenwatch/daw/cedaw/protocol/specialr.htm
(注5)自由権規約第一選択議定書における女性差別を取り扱ったケースについては、次の国連ホームページを参照。
http://www.un.org/womenwatch/daw/cedaw/protocol/cases.htm
(注6)女性差別撤廃条約選択議定書の原文については次の国連ホームページを参照。なお、議定書の原文に条文見出しは含まれていない。
http://www.un.org/womenwatch/daw/cedaw/op.pdf

(注記)女性差別撤廃条約選択議定書の抄訳は、田畑茂二朗/高林秀雄編集代表『ベーシック条約集(第2版)』東信堂、2000年、pp.174-176を参照。また、本ホームページ上に、女性差別撤廃条約選択議定書の仮訳がある(この仮訳は日本語訳の下に英文を載せてあり、比較しやすいよう対訳の形となっている)。


 

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